株式会社チャイルドサポート 代表取締役 佐々木 裕介

養育費保証などのサービスにより、子どもの権利を守るための事業に取り組む株式会社チャイルドサポート。離婚を考える人たちに向けて「離婚の問診票」というツールを無料公開するなど、協議離婚についての情報提供や啓発活動にも尽力しています。今回は代表取締役の佐々木裕介氏に、同社の詳しい事業内容や、事業立ち上げの経緯についてお聞きしました。

 

テクノロジーも活用し、協議離婚の問題点にアプローチ

事業の内容をお聞かせください

弊社の柱となるのは、主に「養育費保証」と「離婚ADR」という2つの事業です。離婚後10年、20年と続く養育費の支払いについて、当事者間だけで取り決めたことを維持していくのは難しいというのが現状です。そこで、我々はまず養育費の保証会社としてスタートを切りました。

 

もう一つの事業であるADRとは、裁判外紛争解決手続きを表しています。裁判所を介さずに、第三者が当事者間の話し合いを支援して、トラブルを解決することを指します。

 

日本では、未成年の子どもがいる離婚の場合、協議離婚が8割を占めます。協議離婚は、離婚届を提出するだけで成立し、それ以外の手続的な要件がありません。

 

その一方で、離婚時の取り決めを公正証書などに残しておかないと、後々養育費が支払われないなどのトラブルも起きやすくなります。こういったトラブルを防ぐために、協議離婚の際に当事者のサポートに入るのが、離婚ADR事業です。

 

通常、離婚の支援というと法律事務所をイメージすると思いますが、株式会社としてADRに取り組んでいるのが、弊社の特徴です。

 

株式会社であれば外部から資金調達もできます。それによってテクノロジーの活用による自動化・効率化も進んでおり、法律事務所の弁護士に依頼した場合に比べると、利用しやすい価格帯で協議離婚支援のサービスを提供できています。

 

弊社のサービスの中でも特に特徴的なのが、離婚の問診票という無料で公開しているツールです。離婚条件についての質問に答えていくだけで、裁判所の基準に沿った離婚協議書の素案をユーザー側で出力できます。お金を払って相談することに心理的抵抗がある人も、スマホを操作するだけで気軽に利用できるのがポイントです。

 

離婚協議書作成などの手続的な要件がないため、子どもを守るための合意がなくても離婚が成立してしまうのが協議離婚です。そのため、協議離婚をする際に「法的手続きを知らない。」「弁護士費用を払えない。」といった人たちに、養育費などの取り決めについて少しでも実行力のある手続きをしてもらうことが、養育費の未払いという社会課題解決の鍵になります。

 

弊社では離婚の問診票の提供に加えて、各自治体との連携にも注力しています。離婚を考える人たちと最も接点がある自治体と連携することで、適切な手続きの重要性を周知していきたいと思います。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私が最初に養育費の問題に接したのは、弁護士になる前のフィリピンでのNGO活動でした。

 

当時、多くのフィリピン人女性がエンターテイナーとして日本に働きに来ていました。そして日本人男性との間に子どもが生まれるのですが、彼女たちが子どもを連れて一度母国に帰ると、日本人の父親からの支援が突然途絶えるということが多く発生していました。その子たちは父親からネグレクトされていましたが、NGOでは子どものために父親に対する認知請求や養育費請求の支援を行っていました。

 

私が弁護士になってから日本国内の母子家庭に目を向けると、ここでも7割以上の人が養育費を受け取れていないという実態がありました。

 

本来子どもが受け取るべきお金が消えてしまっているという現状を目の当たりにし、どうすればこの問題を解決できるのかと考えるようになりました。

 

2017年頃には、日本で初めて養育費保証という仕組みが出てきました。これを社会に実装したいと考えるようになったのが起業のきっかけだったと思います。

 

また、前職のフィンテック企業での経験も、株式会社という形式を選んだ背景の一つです。多様な専門家が集まって一つの事業を作り上げるということは、それまで働いていた弁護士事務所には無かったものです。法律事務所ではできないことも、株式会社ならできると思いました。

 

養育費の未払いは大きな社会課題として認識されていますが、そこに事業モデルを提示して成功した例はまだあるとは言い難いと思います。我々にどこまでのことができるかは分かりませんが、挑戦するだけの価値がある事業だと信じて、起業を決意しました。

 

 

法制度の歪みに対して、事業モデルで挑戦する

仕事におけるこだわりを教えてください。

日本が抱える法制度の問題に対し、事業モデルによって解決を図りたいという信念を持っています。

 

日本は特有の協議離婚の問題を抱えています。離婚届という紙切れ1枚だけで離婚できてしまう先進国は、日本だけです。子どものいる夫婦で、養育費に関する支払い合意もないのに、離婚届に夫婦のサインさえあれば受理される国など、他にはありません。

 

そこに加えて、制度上の制約によって、協議離婚への法的支援が行き届きにくい領域が生まれている問題もあります。すなわち、本来は専門家による支援が望ましいにもかかわらず、協議離婚の領域では弁護士による十分な支援が行き届いていないのが現状です。

 

国が子どもの養育費を保証してくれない法制度、そして協議離婚の際に法律の専門家に支援を求めにくいという現状に対して、効果的な事業モデルを示したいというのが、この会社を立ち上げたときからのこだわりです。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

実は、現在シミュレーションツールとして無料公開している離婚の問診票を、当初はサービス化したいと考えていました。

 

具体的には、夫婦間の条件調整のプロセスをチャットなどで自動化するというプロダクトを構想していました。人の手を介さないことで限界コストを下げることができ、それによって協議離婚を選択する人たちもアクセスしやすいはずだと考えていました。

 

しかし、半年に渡って検証を行った結果、このプロダクトはマーケットに適合させることが難しいという判断に至りました。そして、現在のように人力によって調整する方向へとピボットすることになりました。

 

そのため当初の構想は変えざるを得ませんでしたが、2026年4月に大きな法改正も控えており、今は当社の事業も変革を求められています。世間的には、単独親権から離婚後の選択的共同親権という制度になったことが大きな話題になっていますが、それと同時に養育費に関しても3つほど大きな改正が成されています。

 

特に公正証書がなくても、要件を満たした夫婦間の合意書があれば、強制執行の道が開かれる制度改正は大きな変化です。今後は養育費を受け取るために、この法改正の流れをどのように利用可能な形に広げていけるかが当社の新たな挑戦フィールドになります。

 

 

起業の道には日々新しい学びがある

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

当たり前かもしれませんが、新しい事業を創ることは楽しいと思います。目標設定をした上で事業を創ることの手触り感があり、個人の成長という観点でも日々新しいことを学べる環境があります。

 

何にモチベーションを感じるのかは人によると思いますが、私の場合、過去を振り返ると、新しい学びが希薄化するほど、人生が前に進んでいるという実感も失われるという経験をしてきました。

 

その意味で、起業という道には日々学びがあって、充実感があります。

 

ただ同時に、社会的な責任の重さも強く感じています。法規制の強い領域ですし、離婚後の両親やこどもの人生に大きな影響を与え得るタイミングでの接点になりますので、慎重に法制度、業界や顧客の声に寄り添いながら事業を進めていく必要性を感じています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

先ほどもお話ししたように、2026年4月の法改正は、共同親権の観点でも養育費の観点でも「こども中心」に離婚を考えるという法改正になっています。「こども中心」に離婚をする場合、離婚届の提出だけではなく、しっかりと法的手続きを取ることの重要性があがりますので、事業への長期的な追い風になると思います。

 

現在、日本では養育費を継続的に受け取れているシングルマザー世帯は約28%にとどまっています。当社は、養育費の支払率を現状の28%から1%でも上げることに貢献したいと考えています。

 

創業当初からその目的にどれだけ貢献できるかで自分たちの存在価値が決まると考えているので、これからもそこを見据えて事業に取り組んでいきたいと思います。これは単純に養育費を権利行使するという意味ではなく、「こども中心」の離婚を民間サービスとしてどのようにデザインできるのか、という課題だと考えています。

 

その答えを、事業として社会に提示していきたいと思っています。

 

 

起業できる環境を「幸運」と捉えて

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

今起業を考えている人がいるなら、まずはそのこと自体、一種の幸運と捉えてほしいと思います。

 

気持ちさえあれば起業できると言う人もいます。けれど実際には、何の事業にコミットしたいのか「目標」を見つけることは非常に難しいプロセスですし、「やりたい」と「やれる」は異なりますし、外部環境的にも子どもがいたり、貯金が無かったりする状況で、起業を考えるのは難しいのではないでしょうか。

 

起業したいという想いがあり、尚且つそれが可能な状況にあることは、とても幸運です。

 

自分はその幸運を掴んでいるのだと意識して前向きに挑戦できる人の前には、大きな可能性が開けることを祈っています。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ: 佐々木 裕介

埼玉県出身、ニューヨーク州立大学政治学部卒、慶應義塾法科大学院、弁護士法人中央総合法律事務所、Freshfields Bruckhaus Deringer法律事務所、株式会社Paidy(法務コンプライアンス部長としてPayPal Group参画を経験)、2023年にチャイルドサポート法律事務所及び株式会社チャイルドサポート創業、同社代表取締役。

 

企業情報

法人名

株式会社チャイルドサポート

HP

https://childsupport.co.jp/

設立

2023年3月

事業内容

  • 離婚ADR
  • 養育費回収サポート(養育費保証)
  • 無料診断アプリ「離婚の問診票」の開発・運用
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