【#632】「良い教育を次の世代へ」学習塾・予備校に特化した事業承継、教育業界に新たな選択肢を生み出す|代表取締役CEO 谷津 凜勇(株式会社トキツカゼ)

株式会社トキツカゼ 代表取締役CEO 谷津 凜勇
「良い教育者が報われる業界にしたい」という強い思いを胸に、学習塾・予備校の事業承継と教育関連企業向けコンサルティングを展開するのが、株式会社トキツカゼ代表取締役CEOの谷津 凜勇氏です。東京大学を経てUCバークレーへ進学・中退という異色の経歴を持ち、大学2年生の終わりに起業を決断。「日本社会の未来を創る人材を育てる」という壮大なビジョンのもと、教育業界の変革に挑む谷津凜勇氏に、事業への想いや今後の展望を詳しくお聞きしました。
後継者不在で消えゆく「良い塾」を、次の世代へつなぐ
事業の内容をお聞かせください
弊社の事業は大きく2つです。1つ目は、学習塾・予備校に特化した事業承継です。高齢化が進み後継者がいないオーナーさんの塾を譲り受け、運営していくというものです。小・中・高すべての学齢を対象とし、規模やエリアも幅広く対応しながら、現在は一都三県で複数の学習塾・予備校の運営を行っています。
日本全体で約5万校舎あるといわれる塾ですが、少子化による集客難や生成AIの台頭によるニーズの変化などに伴って、2024年から2年連続で倒産件数が過去最多を更新するなど、経営に苦戦する学習塾・予備校は増え続けています。そこで、良き教育者である塾オーナーの皆様が大切にしてきた想いを受け継ぎ、地域に根ざした学び舎を次世代に残し続けるために、中小塾の連続的な事業承継・M&Aに取り組んでいます。学習塾・予備校に特化した事業承継・M&Aは競合が少なく、この領域にしっかりコミットしているのが弊社の大きな強みです。
2つ目は、同業他社や教育系企業向けのコンサルティングです。こちらは教材開発やカリキュラム策定、集客支援、業務のDX化など、経営全般にわたるサポートを行っています。教育の現場に根ざした知見と、スタートアップで培ったマーケティングや新規事業開発の経験を組み合わせ、教育業界の時代に合わせた変革をお手伝いしています。
特に、生徒は小学生から高校生までの若い世代である一方、指導にあたる教師は年齢層が高いケースも少なくありません。そのため、世代間のギャップを埋める視点を取り入れ、若者の感覚や時代の変化を踏まえたサービス設計を意識して取り組んでいます。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?
高校時代から教育系の活動には積極的に関わってきました。子育て支援マガジンの制作や教育社会学の研究などに取り組み、大学は東京大学に入学しました。その後、UCバークレーに進学し、教育科学専攻で2年間在籍した後、中退して現在に至っています。
東大在学中には大手の教育NPOで働き、アメリカでは教育系・人材系のスタートアップでインターンやフリーランスとして経験を積みました。そうした中で、知人の教育系インフルエンサーから声をかけてもらい、一般社団法人52Hzを共同創業したのが1社目の起業経験です。オンラインで海外大学への進学を支援するこのNPOは、業界でトップクラスの認知度を誇るまで成長しました。
しかし活動を続ける中で、NPOという形態では社会へのインパクトのスピードや規模に限界があると感じるようになりました。「もっと本気で社会に価値を届けたいなら、ビジネスとして取り組む必要がある」という確信が生まれ、スタートアップとして起業することを決断しました。
事業として塾の世界を選んだのは、教育業界に長く関わる中で見えてきたある課題がきっかけです。教育者として非常に優れているにもかかわらず、ビジネス面のノウハウ不足や後継者不在によって、せっかく積み上げてきた塾が閉じてしまうケースが非常に多くあります。それは業界全体にとっての損失であり、何とかしなければいけないという思いが、この事業の出発点になっています。コンサルティングだけでは根本的な解決にならない場面も多く、「オーナーとなって一気通貫でやりきる」という事業承継の形を選びました。
生徒・保護者だけでなく現場で働くスタッフのモチベーションを大事にする
仕事におけるこだわりを教えてください。
生徒さんや保護者さんを第一に考えるのはもちろんのこと、もう一つ強く意識していることが「現場のスタッフたちがワクワクしながら働けているか」という点です。
塾を引き継ぐ際、教室長や講師、チューターとして働く大学生たちが、新体制になっても変わらずモチベーションを持って働ける環境をいかに作れるかが最大のポイントだと思っています。人事制度や職場環境といったハード面の整備はもちろん、対話を通じた信頼関係の構築というソフト面にも力を入れています。
具体的には、買収を正式に決定する前の段階から積極的に現場に足を運び、スタッフの方々とコミュニケーションを重ねています。ときには一緒に飲みに行くこともあります。「この人は信頼できる」と思ってもらえるような関係性をゼロから丁寧に築いていくのが弊社の事業承継スタイルの根幹です。前オーナーが大切にしてきた想いと、現場のスタッフが積み上げてきた経験、そして弊社のビジョンの三つが重なり合う場所を見つけ、納得感を持って一緒に進んでいけるかどうかを、何より大事にしています。
こうした積み重ねを通じて、会社としてのモメンタム(勢い・推進力)を生み続けることが、社長としての大切な務めだと考えています。

起業から今までの最大の壁を教えてください
一番苦労したのは、資金調達を模索する中でVCから断られ続けた経験です。教育事業はそもそもVCウケが良くないという現実もある中で、何度もお断りをいただきました。
ただ、そこで事業の方向性が揺らいだかというと、正直それほどではありませんでした。「やるべきことはこれだ」「勝ち筋はここにある」という確信が自分の中にあったからだと思います。断られた時は「相性の問題だ」と割り切って、もらったフィードバックを次に活かすことに集中しました。全体構想に共感してもらえないなら、そもそも一緒にやっていく必要はない、というくらいの気持ちで臨んでいました。
もう一つの壁は、1社目で携わったオンラインでの教育とは全く異なる「店舗ビジネス」の難しさです。事前に数字としては想定していたのですが、特に固定費の重さは想像以上に精神的にくるものがありました。入会へのコンバージョン率をどう上げるか、生徒をいかに継続させるかなど、改善できることは山ほどあると分かりながら、リソースが追いつかない歯がゆさを感じることもあります。それでも、メンバーと力を合わせながら一丸となって取り組んでいます。
「人生を賭ける事業だ」という覚悟が、どんな逆風にも揺れない原動力
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
一言でいえば、「人生を賭けて取り組むべき事業だ」という覚悟です。
この領域はスピードそのものが競争力になります。だからこそ、いまどれだけ先手を打てるかが重要だと考えています。モチベーションの有無ではなく、やるしかないという状態です。
この覚悟の根底には、アメリカ留学時代の原体験があります。スタートアップの聖地・シリコンバレーに隣接するUCバークレーは、革新的なエネルギーに満ちた場所である一方、格差の問題が非常に深刻な地域でもありました。奨学金を受けながら年間1500万円もの学費を払って学んでいる学生がいる一方で、大学の建物の地下にはホームレスがたむろしているのです。「これが良い未来ではない」とずっと感じていました。
放置すれば日本もいずれ同じ道をたどりかねないと感じた一方で、日本にはアメリカとは異なる形の社会のあり方を描けるポテンシャルがあると信じています。そのためには、日本社会の未来を創れる人材を育てることが不可欠であり、それが教育事業に本気で向き合う理由です。
こうした想いに共鳴して、COOは私と同時に大学を中退する覚悟を決めてくれましたし、大手塾出身のメンバーや経営再建に強いメンバーも集まってくれています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
まずは直近の目標として、コンサルティング事業を並走させながら、事業承継の件数を着実に増やしてシェアを拡大していきます。そして中長期的にはIPOを目指しています。
長期の目標としては、2040年までにトキツカゼグループで日本の高校生の半分を教え子にする、というビジョンを掲げています。「大きすぎる目標では」と思われるかもしれませんが、だからこそ今から最速で動き続けることに意味があります。

「ここだ」と思ったタイミングで、一気に全速力でアクセルを踏め
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
「気軽に起業したらいい」という声もよく聞きますが、私は起業には覚悟が必要だと思っています。外部の株主を入れること、大きめの不動産を借りること、正社員を雇うことなど、どれも軽い気持ちで行える意思決定ではありません。今すぐ法人を設立しなくても、まずできることから動き始めるというのも一つの正解だと思っています。
ただ一方で、人生のどこかのタイミングで必ず「今だ」と感じる瞬間が来ると思っています。そのタイミングを逃してほしくない。私の場合は大学2年生の終わりというかなり早い時期でしたが、だからこそ今この場所にいる。そのタイミングが来たと感じたら、覚悟を決めて一気に全力投球する。そこに躊躇は必要ありません。
常にアンテナを張って、「自分がフルコミットして取り組むべき対象は何か」を考え続けてください。そして「ここだ」と思えた瞬間に、全速力でアクセルを踏み込む。その判断力と推進力こそが、起業家にとって一番大切なものだと私は考えています。
採用を強化されているそうですね。どのような人材が理想でしょうか?
教育業界での経験や専門スキルを、必ずしも重視しているわけではありません。むしろ、さまざまな業界での経験を持つ方に、副業やインターンといった立場で関わっていただくことを想定しています。
社会的な意義と経済的な合理性の両立を模索しながら、構造的な課題解決のために戦略思考をしながらも泥臭く現場で手を動かせる人と、スタートアップとしての新時代の教育ビジネスのあり方を再定義することに挑戦したいと考えています。
ご興味を持ってくださった方は、ぜひ以下のリンクからお問い合わせをお待ちしております。
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本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:谷津 凜勇 氏
21歳。東大寺学園中高を卒業後、東京大学を経てカリフォルニア大学バークレー校で教育科学を学び、起業に専念するため中退。高校時代より、子育て支援の情報発信と研究開発に取り組む。東大在学中に、大手教育NPOで中高生の伴走メンタリングや教育プログラムの企画運営などに従事。渡米後はSchooなど教育・人材系スタートアップに複数参画し、新規事業立ち上げを牽引。UCバークレー在学中に(一社)52Hzを共同創業し、日本最大のオンライン海外大進学支援コミュニティに成長させ、探究支援プログラムの事業開発・収益化を主導。自社を黒字化に導いた一方で、同業他社が休廃業していく現実に直面し、民間教育業界のアップデートを志して2025年に(株)トキツカゼを起業。メディア掲載・講演・受賞歴など多数。
企業情報
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法人名 |
株式会社トキツカゼ |
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HP |
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設立 |
2025年10月24日 |
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事業内容 |
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