株式会社Mathmaji 大隅 文貴氏

「誰もがフラットに教育機会を得られる社会をつくる」というビジョンを掲げ、日本式算数教育を取り入れた、グローバル向け算数教育アプリ「Mathmaji(マスマジ)」を提供する株式会社Mathmaji。現在はアメリカでサービスを提供しています。

 

今回はそんな株式会社Mathmajiの取締役COO&CFOである大隅 文貴氏に、具体的な事業内容や起業した経緯、今後の展望について伺いました。

 

日本の算数教育のカリキュラムを詰め込みつつ、アメリカに適合させた算数教育アプリ「Mathmaji(マスマジ)」

さっそくですが、事業内容をお聞かせください。

当社は、日本式の算数教育を取り入れたグローバル向け算数学習アプリ「Mathmaji」を提供しております。日本式の算数教育は、学習指導要領がしっかり作りこまれているのが特徴です。

 

1つの単元を学ぶ前に「どのような単元を・どういう順番で・どの学年で学ぶのか」という点がしっかりと構成されています。実はアメリカでは日本ほどしっかりとカリキュラムが系統立てられて組まれていないため、そこを組み込んで開発した点に、当社のアプリの強みがあります。

 

また、日本式の算数教育はひとつひとつの授業という単位においても細かくどう教えるかが決められているのが特徴です。例えば、「授業の目的・教えるプロセス・発問」など、とても細かいところまで、授業の準備がしっかりしているのは日本の算数の凄さです。

 

さらに、日本の算数教育は1人で学べるだけでなく、学んだところをドリル学習で復習して知識を定着させる点にも特徴があります。これらを取り入れアプリを開発しているため、子どもが1人で新しい知識を習得し、定着させるまでの流れを再現できるようになっています。

アメリカの算数・数学の学力が低下していると聞きますが、それは日米のカリキュラムの違いが影響しているのでしょうか?

当社ではそのように考えています。カリキュラムの違いにより、コロナによる学習環境の変化からの影響を、特に大きく受けやすくなってしまっています。

話はそれますが、日本の公立学校に通っている子が親の都合でアメリカに引っ越した場合、現地の公立学校では算数・数学の成績がトップクラスに躍り出るというのは聞いたことがあり、それくらい日本の算数はすごいんですね。

「誰もが、フラットに教育機会を得られる社会をつくる」

現在の事業を始めた経緯を教えてください。

当社のビジョンは、「誰もがフラットに教育機会を得られる社会をつくる」ことです。そういった意味で教育格差をアプリによって改善できると考えています。

 

現在の事業に至った1つのきっかけは、新型コロナウイルスの流行です。現在のアメリカでは、中学3年生の時点で、基礎学力が基準のラインに達していない子が全体の7割います。そのうちの4割が富裕層で、実はアメリカの一部の世帯に限った話ではなくなってきているのです。

 

アメリカでは学習優先度で見た時、算数の重要性が増しており、現在は深刻な問題を抱えています。もともとアメリカの算数力は高くないのですが、コロナによって授業を受けられず、さらに落ち込んでしまいました。そういったなかでアメリカにおける算数ニーズが顕在化し、そこに着目をしたというのが現在の事業に至った経緯です。

 

アメリカでサービスを展開するきっかけも算数ニーズにつながりますか?

そうですね、日本が持っている素晴らしいアセットを海外に展開していきたいという思いがあります。算数は他教科のなかでも文化や言葉にあまり依存していません。算数・数学は一角を占めるだけではなく、その他の領域にも役立つ学習分野であるため、フラットな教育機会の提供につながると考えています。

 

算数・数学に苦手意識のあった子どもが楽しく学習できるアプリ

算数学習アプリ「Mathmaji」のリリースから1ヶ月経っていますが、アメリカにいるユーザー様の反応はいかがですか?

ユーザー様は千人単位のレベルです。ユーザー様の反応は、当社のアプリを使用したことによってアメリカで苦手意識を持たれている九九が、短期間でできるようになったり、5歳の女の子が二桁の足し算や九九を一人で習得できるようになったりするなど、想像以上の成果を得られていると実感しているところです。アジア地域のEdTechサービスを評価する機関からもGold賞を受賞できたのも、こうした、私たちのアプリの学習効果や革新性などが評価されたからだと考えています

 

算数・数学に苦手意識を持っていた子が、楽しそうに学習しているといったお声をいただいています。Mathmajiにきちんとした解説のセクションがあり、それに子どもたちが取り組んで理解を深められているから、「分かった!できた!」の連鎖で楽しめているのだと思います。

MathmajiをAndroid版で提供していますが、iPhoneよりもAndroidのほうが利用者が多いからですか?

そうですね、アメリカをターゲットにするなかでAndroidのほうが利用者が多かったことが理由の1つです。また、マーケティングテストの実施においてAndroidのみに絞ったほうが、機械学習をGoogleのプラットフォーム上で効果的に行う上でも相性が良かったというのもあります。iOS版も12月にリリースする予定です。

 

他社の算数学習アプリに負けない強みはありますか?

アメリカの算数アプリはゲームが中心で、事前に習っていることが前提になっています。しかし、当社のアプリでは日本のカリキュラムを取り入れアメリカにも適合するように作られている点が他社にはあまり見られない特徴です。

 

また、子どもが1人で学べるように分かりやすい解説もついています。初心者であってもどんどん先取り学習ができる点が強みです。

多くの算数アプリには解説が見られないようですが、なぜMathmajiは解説を取り入れているのでしょうか?

1つ目は、学校の授業についていけない子どもが多いため、改めて学習し直すときに親ではなくアプリで学べるという点がメリットです。2つ目は、ホームスクールという日本にはない文化がアメリカにはあります。これは、義務教育を親が家庭でやる教育方法です。

 

幼稚園から高校生までアメリカでは親が子どもに義務教育を施すので、教える手間がかかります。学習計画をたてるのも、教えるのも、教えた内容と成績を記録するのも親なのです。

 

本当に大変なことだと思いますが、アメリカでは算数の成績が伸びていません。だからこそ、当社はそういった方々をターゲットにして、親ではなくアプリから教わる形を作ろうとしています。

日本の算数教育に課題点はありますか?

算数の学力を世界的に比較するテストとしてOECDのPISAやTIMSSがあるのですが、それらの結果に関して日本は上位にいます。OECD諸国のなかでは2018年に続き、2022年も日本はトップです。

 

北京やシンガポールなど人口の少ない都市や国を含めると、当然そこが上位にランクインしますが、日本のような人口規模で上位を維持する国はほとんどいません。その点から見ても、日本の算数教育は優れていると思います。

 

課題点か、という部分については、計算機の活用は一つ論点になるかと思います。日本の場合は計算機を使いません。しかし、ある程度学力が定着した段階から計算機を使用し、ツールの使い方を学ぶという観点において、日本の算数教育をより良くするために活用してもいいのかもしれません。実際に、計算機を活用して、色々な開放に取り組みやすくなるというメリットもあります。

昨今はAIがより進歩していますが、AIを活用する予定はありますか?

そうですね、すでに解説のなかにAIを取り入れているのですが、より子どもたちの学習体験や効果を改善するために、さらなる活用に向けた議論を重ねているところです。

なるべく早く失敗して改善策を見つけるほうが、考えすぎるよりも良い

仕事におけるこだわりや譲れない軸を教えてください。

意識しているのは、スピード感とPDCAを回すことです。私が資産運用会社に勤めていたときは投資関連業務に携わっていたので、自分の判断が良かった、悪かったかが、いやでも見えました。そこから学んで、できないことをいかにできるようにするかがアウトプットの量や質に関係すると考えています。

 

その意味ではなるべく早く失敗して改善策を見つけるほうが、考えすぎるよりも良いと思っています。また、失敗しても死ぬわけではないため不可逆でないものに対してはすぐに結論を出すようにしています。

譲れない軸は3つあります。1つ目は、やらなくていいこととやるべきことに区切りをつけて徹底することです。時間とお金は有限なので、優先順位をつけ、そこに従うようにしています。

 

2つ目は、オーナーシップです。誰かが何とかするよね、ではなく、自分が何とかする気持ちを持って取り組む。場合によっては人の仕事も含めてオーナーシップを持ってしまったら良いかなと思います。

 

3つ目は、ダブルスタンダードにならないようにすることです。全員にも同じ基準を適用し判断するように意識しています。

生まれた環境に左右されずに教育機会を得られる社会づくりに貢献したい

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

「誰もがフラットに教育機会を得られる社会をつくる」というビジョンの実現を、何よりも意識しています。私自身が幼い頃に家庭環境で苦労しているのですが、運良く今の人生があります。

 

その経験のなかで、私と似たような境遇で生き延びられなかったり、生き延びられても前に進めずにいたりする人もいることを認識しているので、自分としても生まれた環境に左右されずに教育機会を得られる社会づくりに貢献したいと常々思っています。

 

今はこのビジョンの実現に向けてユーザー様と近い距離で展開していきたいので、せっかくやるならインパクトを残すためにも、やれることはやりたいと思っています。

今後は算数だけでなく他の教育にも事業を広げていくのでしょうか?

そうですね、中期的には、まず提供する学年やコンテンツ(難易度・コース)、地域なども拡大していくと思います。長期的な観点では、算数以外にも今後は科学系の科目など、提供する教科も増やしていく余地があります。また、教育関連の新規事業であたためているものがありますが、当面はMathmajiを、現地の小学校分まで提供していく予定です。

 

こちらはまもなく実装するのですが、さらには中学校や高校までで扱う問題も提供し、最終的にはアメリカの大学数学までカバーできればと考えています。

 

現状、地域に関してはどのくらいカバーしているのでしょうか?

地域はアプリストアからリリースしているため、この瞬間からどこにでも提供できるのですが、現在はアメリカに絞っています。その中でも、私たちが注力しているのは、のテキサスとカリフォルニアです。理由としては、ホームスクール市場として、同州が、足元や将来的な面から最も魅力的だからです。

 

今後、Mathmajiを利用する方々へのメッセージがあればお願いします

日本のユーザー様はかなり限られていると思いますが、提供したばかりなので改善できる箇所をなるべく早いスピードで見つけだし、より良いアプリにしたいと思っています。そのため、アプリを触っていただいた方にはフィードバックなどをいただけると嬉しいですね。

当社のビジョンに共感できる方と一緒に世界で戦いたい

最後に、一緒に働きたい人材などがいらっしゃったらお聞かせください

日本人はあまり気づいていないかもしれませんが、日本の算数・数学は優れているので、この素晴らしい算数・数学を世界に出していきたいと考えています。いまは、教育で大きな売上を作ったり、アメリカで成功したりするのはハードルの高いこととされていますが、日本の算数なら、世界でも戦えると思っています。このチャレンジに共感してもらって、一緒に事業を成功させたいと思っていただける方にご連絡いただけたらうれしいです。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:大隅 文貴氏

2008年東京大学卒業後、ドイツ銀行グループの運用部で株式投資関連業務に従事。

2011年教育系NPO Teach for Japanの立ち上げに参画。

2014年ソーシャルセクターの経営について研究するため、フルブライト奨学生としてイェール大学経営大学院に留学。

2016年Cogent Labsに入社。資金調達・IR業務を担当し、同社の40億円超の資金調達や管理部門の立ち上げに貢献し、執行役員を務める。

 

【企業情報】

 

法人名

株式会社Mathmaji

HP

https://www.mathmaji.com/

設立

2021年8月12日

事業内容

日本式グローバル向け算数学習アプリ「Mathmaji」開発・運営

沿革

2021年8月 株式会社アストランティアを設立

2023年6月 株式会社Mathmajiへ社名を変更

2023年8月 テキサス州ダラスに米国法人を設立

2023年9月 日本式算数教育を取り入れた、グローバル向け算数学習アプリ「Mathmaji(マスマジ)」のAndroid版を、アメリカ向けに配信開始

 

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