株式会社SOXAI 渡邉 達彦氏
世界最小となる指輪型の健康管理機器「SOXAI RING 1」を自社開発している株式会社SOXAI。「ヘルスケアをライフスタイルに」というビジョンを掲げ、日常生活の中で自然と健康増進に取り組むことができる世界の実現を目指しています。今回はそんな株式会社SOXAIの代表である渡邉 達彦氏に、具体的な事業内容や強み、今後の展望について伺いました。
「SOXAI RING 1」という指輪型の健康管理機器を提供
さっそくですが、事業内容をお聞かせください。
当社は、「SOXAI RING 1」という指輪型の健康管理機器を提供しています。最近の言葉でいうと、ヘルストラッカーです。指輪型の健康管理機器にはセンサーが搭載されており、生体信号を取得・分析して、可視化されたものをユーザーが確認して健康管理を実施する仕組みになっています。
他社と比較したときの強みはありますか?
他社製品だとOura Ringなど、世界中で多くの企業が指輪型の健康管理機器を提供し始めています。そのなかで自社製品の強みは3つあります。
1つ目は、センサー設計の最適化に関しては他社よりも優れていているという点です。具体的には、弊社では、指輪型の健康管理機器に高額式センサーを使用していますが、前職でも研究開発を行っていたバックグラウンドがあります。
2つ目は、現時点で自社製品のサイズが世界最小という点です。これからさらに小さいものが登場するとは思うのですが、着けていることを忘れてしまうくらいの装着感を目指しています。
3つ目は、日本製である点です。日本が世界に誇るシチズン時計さんとコラボをして、高級時計のような硬度になり傷に強くなりました。水やホコリなどが入り込まないよう特殊な製造方法を採用しているため、防水性や防塵性に優れています。サウナでも使用できますし、間違って洗濯機で洗ってしまっても問題ありません。
スマートウォッチのように不規則な心拍を通知してくれる機能はついていますか?
医療の知識がない方でも体に不具合が見られたときに通知がいく機能は、現状でいうとありません。しかし、技術的・外部環境的なハードルはありますが、将来的には実装していく予定です。
指輪型のほうが生体計測に適している
現在の事業を始めた経緯を教えてください。
私は前職のファーウェイで、光センシングや光の技術に関する研究開発を行っていました。実際に、ファーウェイのウォッチに使用する光センサーやアルゴリズムの研究開発をしていましたが、そこでヘルスケアのノウハウを習得していくうちに、指輪型のほうが生体計測に適しているのではないかと思いました。当時は指輪型デバイスがあまり認知されていなかったので、「自分で事業を始めるのがいいかもしれない」と強く思い、起業に至っています。
前職での経験が生きている部分はありますか?
そもそも当社が提供している指輪型の健康管理機器や事業自体が、前職の知識や経験に基づいています。また、健康に関わる研究には信頼性の高いデータが必要になりますし、自分たちだけで進めるよりも効率が良いという理由もあって、大学の教授や専門家などにも協力してもらいながら研究開発を進めています。
仕事におけるこだわりや譲れない軸を教えてください。
研究開発では、原理を理解することが重要です。教科書レベルのことから最先端の学術分野の論文の内容まで、これらをしっかりと理解したうえで研究開発を進めることがスピード感にもつながります。
研究開発では最初から完璧を求めるのではなく、「まずはやってみて試行錯誤をする」、「できるだけ早く失敗する原因を見つける」ことが大事なので、そういった理由からも原理を知ることは欠かせません。
スピード感を大事にしている理由はありますか?
エンジニアリングにもとづきますが、「やってみなければ分からないことが多い」ので、先に問題点がどこにあるのかを早く見つける必要があります。まだ市場規模も小さいため、少しでも早く製品を提供したい思いもあります。スピード感を大事にしているのはそういった理由からです。
SOXAIの由来は「無病息災」
「SOXAI」という社名には、どのような由来がありますか?
日本には「無病息災」といって「病気をせずに元気であること」という言葉がありますが、それが由来になっています。健康状態を分析するアルゴリズムを通じて多くの方々に健康を届けたいですし、もっと具体的にいえば病気にならない体をつくったり、病気になりそうな状態を早く見つけてあげたりするようなサービスを提供したいと思っています。
起業から今までの最大の壁を教えてください。
新しい製品を扱っている分データがないので、今後市場がどのように伸びていくのかが分かりません。また、資金調達をするうえでも自社製品の理解を得なければならないので、そういった面でも大変です。これから市場をつくっていく身としては、壁になる点だと思います。
スマートリング市場は今後どうなると予想していますか?
個人的には、今後拡大していくと考えています。スマートウォッチにおいては、日本国内でも年間1,000万台ほどの市場規模があるといわれており、使用者の7〜8割の方が健康管理を目的に購入しているようです。私は健康管理をするなら指輪のほうが適していると信じているので、時計が指輪に置き換わることで伸びていくと予想しています。
1個目のスマートリングが売上に計上されたのは起業してどのくらいですか?
1年くらいです。研究開発を行って、新しいプロダクトを売るという観点でみれば、早いほうだと思います。
資材の調達や機器の組み立てなどは前職からのつながりで、もともと依頼先を決めていたのですか?
起業後に色々と情報収集をしながら、半導体のサプライヤーや部材の供給元、工場さんなどを1つひとつ見つけていきました。
特に、小さいサイズのリングに使用する半導体を調達するのはとても大変でした。起業して1、2年目のときは、半導体商社に欲しいと伝えても全く相手にされませんでした。しかし、そのような状況でも試作品をつくってプレゼンしたり、将来性を理解してもらったりすることで、徐々に半導体の商社やメーカーさんが相手にしてくれるようになり、関係性を築きながら供給してもらえるまでに至りました。
他社製品よりも安く提供できている理由はありますか?
自社で設計や開発に関わること全てを行っているのが大きいと思います。ハードウェア事業を行うと、自社で設計から製造管理まで行うのは容易ではありません。一般的には外部の設計会社に依頼するのですが、当社では全て自社で完結しているので、安く提供できています。
進み続けるモチベーションはありますか?
指輪にかぎらず健康データを日々継続的に取得していくことが、健康管理に寄与すると信じています。そのうえで何が最適解かというと指輪なのです。将来的にさまざまな技術が発展していけば、指輪よりも最適な形が出てくるかもしれません。ただ、我々がやろうとしていることは日々の健康データをとって、健康管理の実現に活かすことです。そこを実現していきたいですし、その最適解を常に提供できている自信があるため、モチベーションにつながっています。
本当に価値のあるデバイスを目指して
今後の展望をお聞かせください。
スマートリングで病気になる前の状態をみつけたり、病気にならないような生活を実現できるサービスを提供したりするのが、今後の目標です。目標が達成できれば、様々な病気に事前に気付けます。例えば、スマートリングを使って日常のデータを計測することで、うつ病になる前の症状が分かったり、糖尿病や脳卒中などの重い病気にも気づけたりすることが可能だと思っています。そこまで実現できれば、本当に価値のあるデバイスといえるでしょう。
起業しようとしている方へのメッセージをお願いします。
私のバックグラウンドが研究開発なので、それに特化したメッセージになってしまいますが、研究開発型のスタートアップとはいっても商売には変わりないので、しっかりマネタイズできるかどうかは重要だと考えています。そこを重視したうえで起業を検討すると良いと思います。研究開発をしている方は研究に重きを置いてしまいがちですが、同時にマネタイズできる部分を早く見つけて頑張ってください。私もバランス感覚を持ってさらに頑張っていきたいと考えています。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:渡邉 達彦 氏
スイス連邦工科大学(ETH Zurich)にてETH Fellowsとして研究に従事後、Huaweiの戦略研究院R&Dプロジェクトマネージャーを経て創業。横浜国立大学物理情報工学専攻、工学博士。日本学術振興会特別研究員。専門分野は、マイクロ・ナノフォトニクス、非侵襲センシングデバイス、ヘルスケアIoTデバイス
【企業情報】
法人名 |
株式会社SOXAI |
HP |
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設立 |
2021年2月 |
事業内容 |
・ヘルスケア、IoT、ウエラブル等の電子部品および電子機器システムの開発・製造・販売・知的財産管理業務 ・ヘルスケア等のモバイル/ウェブアプリケーションの開発・提供業務 ・ヘルスケア等の電子機器システムから生じるデータの分析、管理及びそれらに関する業務 |