【#442】フードロス問題にクラフトビールからアプローチする|代表取締役社長 坂本錦一(株式会社Beer the First) 株式会社Beer the First 代表取締役社長 坂本 錦一

株式会社Beer the First 代表取締役社長 坂本 錦一
捨てられてしまう食材をクラフトビールにアップサイクルする『UTAGE BREWING』を運営する株式会社Beer the First。サステナビリティ経営を意識する企業や自治体と共創し、地域性や独自性あふれた商品を製造・販売しています。社会問題となっている「フードロス」の解決に、大好きなクラフトビールでアプローチする代表取締役社長坂本錦一氏に起業の経緯や今後の展望について伺いました。
廃棄間際の素材をクラフトビールにアップサイクル
事業の内容をお聞かせください
私たちが手がけている『UTAGE BREWING』は、さまざまな企業と連携し、廃棄寸前の素材をクラフトビールとしてアップサイクルする事業です。
麦芽の一部を、廃棄間際の食品に置き換えてビールの原料として活用するのですが、使う素材はパン・米・麺類などの炭水化物やフルーツなどさまざまです。焼肉店からのご依頼で牛骨の旨味成分を加えたビールを製造したこともあります。
味わいに関しては、一般的なクラフトビールと大きくは変わりませんが、たとえば、パンを使用すれば香ばしさが際立ち、米を使用した場合はドライな口当たりに仕上がります。フルーツの場合ですと、風味や色味などがビールに反映されます。こうした素材本来の特性を生かしながら、商品開発を行っています。
さまざまな素材を使ったクラフトビールを製造しているメーカーは他にもありますが、スポット的な取り組みが多いようです。私たちは継続的かつ長期的な視点でのフードロス削減を提案し、製品開発にあたっては、使用する素材の選定や用途や販路、ラベルデザインなど、ご依頼いただいた企業と入念に相談をして商品作りをしています。
さまざまなコンテンツとのコラボも行っていますよね?
『UTAGE BREWING』に加えて、もう一つの取り組みとして、ライセンス商品『UTAGE STUDIO』の運営も行っています。
アップサイクルビールは、どうしても商品化までに時間がかかることが多く、場合によっては開発に2年を要することもあります。その間、売上が発生しないのは、事業運営としてはかなり厳しいことです。
そこで、スピーディかつ、少人数で効率的に進められる商材を社内で検討したところ、「ライセンス商品」のアイデアが出たのです。ライセンス商品であれば、すでに一定のファン層があり、ブランドとしての認知もあるため、マーケティングしやすく導入もスムーズです。
営業してみたところ、日本酒やワインではライセンス商品の事例が多く見られる一方で、ビールに関しては極端に数が少なく、細かな要望に対応できていない実態が見えてきました。
私たちは長年、商品開発をしてきた経験があり、ビール以外の飲料も含めて柔軟に対応できます。最近では、インフルエンサー監修のレモンサワーや人気アニメとのコラボビールなど、幅広いニーズに応じた商品展開を進めています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私が新卒で入社したのは、食品を扱う卸商社でした。初めは海外からフルーツを輸入する部署に所属し、その後は国内の商品を仕入れて百貨店に卸す事業部で働いていました。
国内の農家を訪ねる機会も多く、その中で、大量の食品が廃棄されてしまう現状を目の当たりにしました。たとえば、ぶどうは一粒でも落ちてしまったり、傷があったりするだけで、商品として出荷できないのです。ジュース用に回されることもありますが、その場合は1キロ10円といった極端に安い価格になってしまいます。
手間ひまかけて大切に育てられたものが、ほんの少しの傷で価値を失ってしまうという状況に、何かできることはないかと考えるようになりました。ただ、当時は大きな組織の一員にすぎず、すぐに行動に移すことができませんでした。
そうこうしているうちに、コロナ禍に入りました。もともとクラフトビールが好きだったので、時間がたっぷりあったその時期に「自分でも作ってみよう」と思い立ちました。ただ、情報収集を始めると、個人でお酒を作ることは酒税法に触れてしまうことがわかったのです。
そこで、きちんと法律に則った本格的なビールづくりを始めようと思い立ち、以前から気になっていたフードロス問題を掛け合わせて、商品づくりを始めました。
動き出しは早く。仕事は作っていく
仕事におけるこだわりを教えてください。
アグレッシブに「すぐ動く」ことです。むしろ、行動力だけですべてをカバーしていると言ってもいいほどです。
メンバー全員、何かアイデアが浮かんだらすぐに連絡をしますし、すぐに営業に動きます。もちろん、お問い合わせをいただくケースもあるのですが、それ以上に、自分たちでひたすら電話をかけ、足を動かし、積極的にアプローチをして仕事を作っていくことのほうが多いです。
会社員だった頃は、言ってしまえば「歯車」で、組織の中の一部として与えられた役割を淡々とこなしているような感覚でした。もともとは、じっとしていられずにすぐにアクションに移すタイプなので、今思えば、大きな組織の中にいたからこそ、動き出しが遅くなったのかもしれません。
起業から今までの最大の壁を教えてください
もともと食品業界にいたので、お酒とは近いようでいてジャンルが異なり、知り合いやつながりがまったくない状態からのスタートでした。また、ゼロから自分たちのブランドを立ち上げる経験は初めてだったので、事業を軌道に乗せていく過程はやりがいがある反面、苦労も多かったです。
たとえば、自分たちの商品をいくらで販売すればよいのか、どこで売るのが適しているのかといったことなど、すべて手探りでした。他社の商品価格を参考にしながら、「この価格帯なら百貨店で売れるかもしれない」と仮説を立てて営業をかけていきました。
自社商品の収益性を高めていくために、スーパーやコンビニで広く展開していくにはどうすればいいかを考えたとき、やはりある程度の量を作って、価格を抑えなければ厳しいという現実にも直面しました。
振り返ると、自分たちが作った商品を展示会などで直接見せることが、商談のきっかけになることが多いと気付きました。そこに見合う価格帯の商品を並べることで、スーパーなどからの声もかかるようになったのです。
最近では、クラフトビール市場全体を盛り上げたいと考えている大手メーカーと一緒に、スーパーへプロモーション施策の営業に行くこともあります。大手メーカーは大規模な広告展開など大きなことはできるのですが、逆に小回りを効かせることができません。その部分を担える存在として私たちに声がかかるようになったのです。
自社工場の建設、飲食店の経営。そして世界へ
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
単純に「楽しさ」がモチベーションになっているように思います。ビール関係のイベントは土日が多いですし、それ以外でもメンバーと集まって作業をすることがあります。休みがなくなっても、まったく苦にならないのです。
「やらされている」のではなく、自発的に自分たちの意志で取り組んでいる、という違いが最も大きいと思います。
もちろん、やらなければ「飯が食えない」という切実さもあるわけですが、それ以上に「これをやりきらなくては」というある種の使命感のようなものも原動力になっています。
まだチームの人数は少ないですが、その中で出せる最大の力を目指して、日々活動しています。やるべきことは本当に多いですが、その分、手応えや楽しさも2倍、3倍になって返ってくることを感じています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
私たちは自社工場を持っていません。工場を作るとなると数千万単位での投資が必要となりますし、作業効率のためにタンクのサイズを一定にする必要が出てきて柔軟に対応できなくなってしまいます。そのため、製造は外部に委託をする方法をとっています。
現在は全国に約10か所の提携工場があり、依頼内容に応じてサイズや条件が合う工場で製造をお願いしているのですが、最近、自社工場を開設しようと調整を進めています。
大きな方向転換ですが、工場を持つことで安定供給が可能になり、自社ブランドの展開や地域との連携を広げていくことができます。同時に、ビアバーなど飲食店の経営にもチャレンジしたい。自分たちがつくったビールを、自分たちの空間で提供し、多くの人に味わってもらいたいのです。
そして、最終的には世界に出ていきたいと考えています。クラフトビール自体はもともと海外の文化です。「日本から海外へ」はナンセンスだと思われるかもしれません。
しかし、たとえば、日本の麺を使ったビールやカツサンドの耳を使ったビールなど、日本ならではの食文化と組み合わせた商品を私たちはすでにいくつも持っています。そうしたところに勝ち筋を見いだしながら、海外で勝負していくつもりです。
リスクを抑えながら起業はできる
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
私自身は「失敗したら失敗したで仕方ない」と思って起業したのですが、やはり最初のうちは不安で仕方ありませんでした。
それでも、周囲からサポートを受け、同じように頑張っているスタートアップの仲間たちと情報交換していくなかで、少しずつ気持ちが楽になっていきました。また最近では、行政がスタートアップ支援に積極的で、以前に比べて、起業しやすい環境が整ってきていると思います。
私の場合、サラリーマンとの“二足のわらじ”で起業をしました。リスクを抑えながらチャレンジできる方法も、今はたくさんあります。やってみたい気持ちがあるなら、自信を持って、自分なりのペースで進んでいくといいのではないでしょうか。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:坂本 錦一氏
大学卒業後、食品関係の会社に就職しフードロスの実情を知る。もともとクラフトビールが好きだったこともあり、その後フードロスとビールを掛け合わせた事業を始める。現在は一風堂の麺や乾パンなどを麦芽の一部として代用するクラフトビールの販売やプロデュースを行っている。
企業情報
法人名 |
株式会社Beer the First |
HP |
|
設立 |
2021年3月 |
事業内容 |
アップサイクルビール事業 |
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