株式会社ゼロワンブースター ALL GREEN事業代表 吉原 慶太

株式会社ゼロワンブースターは、企業の新規事業や海外展開、個人の起業などを多面的にサポートしています。同社はサントリーホールディングスの社内ベンチャー制度の支援も手掛けており、その制度を通じて 「新しい緑茶文化」を創ることを目的とした、ALL GREEN事業が生まれました。今回はALL GREEN事業の代表を務める吉原慶太氏に、事業立ち上げのきっかけや今後の展望について伺いました。

 

茶葉を「丸ごと飲める」上質な緑茶を定期便でお届け

早速ですが、事業内容を教えてください 

「ALL GREEN」は、日本茶インストラクターが厳選した「丸ごと飲める」上質なお茶を毎月お客さまにお届けしています。

 

あまり知られていませんが、茶葉には野菜以上に豊富な栄養素が含まれています。たとえば乾燥させた状態で比較すると、「野菜の王様」とも称され、青汁の原料にもなるほど栄養価の高いケールよりも多くのビタミンAやβカロテンが茶葉には含まれています。さらに葉酸は2倍、ビタミンEはおよそ7倍もの量が含まれています。つまり、ケールを上回る栄養価を持つ茶葉をまるごと飲むことで、青汁以上の栄養成分を摂取することができるのです。

 

加えて、野菜には含まれない緑茶ならではの強力な抗酸化物質、カテキンが豊富な点も特徴です。カテキンの持つ抗酸化作用は非常に健康に良く、虫歯や風邪を予防する効果も期待できます。また近年では内臓脂肪の低減・日焼けの炎症の回復時間短縮といった、美容への高栄養も数多く報告されています。

 

しかし、急須で淹れる飲み方では茶葉に含まれた栄養素のほんの一部しか摂れません。というのも、多くの栄養素が茶殻として捨てられてしまうからです。

 

そこで茶葉をまるごと粉末にすることで、本来の栄養素をしっかり摂取できる商品を開発しました。茶葉を粉末状にする技術にも、当社ならではのこだわりを反映させています。通常、茶葉を粉末にするとお湯や水に溶けにくくなり、専用の茶せんが必要になります。一方、熱で溶けやすく加工してしまうと、茶葉の風味が損なわれるという課題がありました。

 

そこで、当社は熱をかけることなく茶葉を溶けやすくする新技術を開発し、約3年の歳月をかけて美味しさと溶けやすさの両立を実現しました。

 

また、当社のもう1つの強みは非常に希少性の高い茶葉を使用している点です。現在市場に流通している緑茶の殆どは数種類の茶葉を組み合わせたブレンド品で、さらに一番茶より質が大きく劣る、二番茶・三番茶を混ぜたものが大勢を占めています。

 

一方で我々が提供しているのは、茶葉をブレンドしない「シングルオリジン」の緑茶だけ。それも最も質の高い一番茶のみです。都心の専門店では100gあたりおよそ3,000~4,000円もする希少性の高い茶葉だけを贅沢に粉末にしています。まるごと飲める緑茶のブランドの中で、原料の質において世界中のどのブランドにも負けない自信があります。

 

社内ベンチャーに参加しようと思われたきっかけや、事業を立ち上げるまでの経緯をお伺いできますか?

 

私は以前、サントリーのエンジニアとして飲料を開発する仕事に携わっていました。

 

嗜好品の中でもコーヒーが好きだったため、コーヒーマイスターとしてコーヒーを専門としていたのですが、途中から日本茶も担当することになりました。そこで、最高に美味しい日本茶を探すために日本各地のお茶を飲んでみることにしたのです。当時は、お茶は少し苦くて渋い飲み物というイメージを持っていたのですが、苦いだけでなく想像以上に幅広い味わいがあることに驚きました。

 

お茶の味を知っていく過程で、花のような香りがするお茶や旨みの強いお茶、中にはポップコーンのような香ばしさがあるお茶があることも知りました。「自分は日本人なのに、どうして今まで知らなかったのだろう」と衝撃を受けると同時に、お茶への興味が湧いてきました。

 

開発者として自分が手掛けた商品を世に出したいという気持ちがありました。しかし飲料や開発の世界では「1,000個の商品のうち、世に出るものは3つのみ」という意味の「千三つ」という言葉があるほど商品化が難しいことも理解しています。

 

そのような思いを抱えている際に社内ベンチャーの公募が始まりました。新規事業の立ち上げに近い仕事にも携わっていたことや、自分のアイデアをスピーディに検証・改善し、商品化まで迅速に実現できる点に魅力を感じて、応募を決意したことが事業を始めたきっかけです。

 

昔ながらの日本茶文化を守り、後世に茶業を残したい

仕事におけるこだわりを教えてください。

1つ目のこだわりは、緑茶を日本中に広め茶業を後世に残す取り組みを続けることです。

 

緑茶と同じく趣味性の高いコーヒーに比べると、日頃から緑茶を飲まれている方の数は圧倒的に少ないと感じています。そこで我々が緑茶の美味しさを改めて広め、コーヒーに勝るとも劣らない日本茶の価値を伝えていきたいと考えています。

 

2つ目のこだわりは、一生懸命お茶を作ってくださる農家さんに利益を正しく還元することです。実は日本茶の農家さんの数が10年前に比べて、約1/5にまで減少してしまっているという現状があります。お茶が以前ほど飲まれなくなったことで農家さんの利益が減り、後継ぎがいなくなってしまっていることが大きな理由のひとつです。

 

また、最近では国内よりも海外でお茶の人気が高まってきていることもあり、抹茶をはじめとする粉末状のお茶は海外に多く輸出されています。海外ではとくに抹茶の人気が高いため、抹茶しか作らない農家さんも増えてきているほどです。徐々に昔ながらの煎茶を作る農家さんがいなくなり、将来は煎茶を飲めなくなってしまうかもしれません。私はそれが非常に残念だと感じています。

 

そこで我々は日本中、さらには世界中に日本茶の素晴らしさを伝え、抹茶だけでなく煎茶を飲む文化も守っていきたいと考えています。そうすることにより農家さんに利益を還元し、茶業を後世に残していくこともできると信じています。

 

日本ではお茶の健康効果や種類の豊富さが十分に浸透していなかった

事業を始められてからこれまでに直面した壁を教えていただけますか?

商品そのものの魅力をお客さまに伝える以前に、緑茶の健康効果や種類の豊富さをしっかりと伝える必要がありました。海外では「緑茶=健康」というイメージが強いのですが、日本ではその付加価値がまだ十分に浸透していません。

 

さらに、緑茶の味が茶葉によって異なることもあまり知られていなかったため、味の違いやその魅力を広める活動も必要でした。最近はお客さまに実際に味の違いを感じていただくために、展示会や試飲会も積極的に開催しています。

 

実際に私自身も、日本茶の仕事に携わるようになってから初めてお茶には多くの種類があることを知りました。たとえば、静岡県の「静7132」という品種は、桜の葉や桜餅のような香りがする茶葉で、女性の間で人気が非常に高いお茶です。「香駿(こうしゅん)」は同じく静岡のお茶ですが、深い苦味と梅の香りが特徴的です。

 

宮崎県の「ゆめかおり」は、逆に苦味が全く無く甘味が強いお茶です。鹿児島の「ゆたかみどり」にはさつまいものような香ばしさが感じられます。マスカットやジャスミンを思わせる香りのある「蒼風(そうふう)」は非常に爽やかで、個人的に一番好きなお茶です。

 

このように味わいだけでなく、香りにもそれぞれの個性が際立っている点がお茶の魅力です。お茶の魅力が十分に浸透していないという点で今も同じ壁はありますが、これからもお客様に実際に味わっていただける展示会や試飲会を増やしていきたいと考えています。

 

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

「茶業界を守りたい」という強い想いが、進み続ける大きな原動力になっています。

 

実際にお茶農家さんたちと交流すると、茶葉の育て方や製法へのこだわりがひしひしと伝わってきます。仕事に誇りを持つ農家さんからポジティブなエネルギーをいただく度に、さらにこの事業に対する思いが強くなっていると感じます。今後もお茶の持つ本質的な価値を広く浸透させ、農家さんたちに正しく還元できるよう事業に取り組んでいきたいと考えています。

 

また、私は自分が良いと思ったものを周りに勧めたくなる性格なことも、原動力の一つになっているかもしれません。お茶の魅力を知れば知るほど「こんなに素晴らしいお茶が知られていないなんて、もったいない!」という気持ちになります。

 

今後の展望をお聞かせください  

今後は販路をさらに広げていきたいと考えています。現在は事業を始めたばかりで、基本的な販売方法はBtoCのみです。しかし、今後はホテルや飲食店、豪華客船などでも「ALL GREEN」のお茶を楽しんでいただける機会を作っていきたいと計画しています。

 

将来的には、海外展開も視野に入れています。とくに、すでに日本茶の人気が高い香港、ドバイ、フランスへの販路拡大を検討中です。パリでは日本茶の大会が開かれているほど日本茶の知名度が高く、展示会でもフランスの方に興味を持っていただけることが多いため、フランスは注力したい国のひとつです。

 

自分で開発したものを自分自身の手で売ってみる経験が大切

今後社内ベンチャーでの新規事業立ち上げを考えている方へのエールやアドバイスをお願いします 

自分がやりたいことを周りの人にしっかりと伝えていくことが大事だと思います。声を上げてみると、実は他にも自分と同じようなことを考えている人がいるかもしれません。

 

私の場合は、実際に自分の意見を発信したことで、同じく「日本茶をなんとかしたい」と感じている人が予想以上に社内にも多くいることに気付きました。起業を考えている人は、引っ込み思案にならずにぜひ挑戦したいことを積極的に人に伝え、行動してみて欲しいと思います。

 

それから、これは私がR&D(研究開発)出身だからこそ感じることですが、開発で満足せずに自分自身で商品を売ってみることが大切だと感じます。開発のみだと「あとは誰かが商品化してくれたら良いな」と、受け身の姿勢になってしまいがちです。しかし、それはとても惜しいことだと思います。

 

自分で開発したものを自分で売ってみるという経験は、何にも代え難いものです。誰かの仕事だと思わず、自分ごととして捉えて行動できればきっと商品化も叶うでしょう。さらに、自分で販売することでお客さまの視点をより深く理解でき、どのような商品が喜ばれるかを実感しやすくなるという利点もあります。

 

私は起業家が増えれば日本はもっと面白くなると思うため、起業を考えている人にはぜひチャレンジして欲しいです。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

起業家データ:吉原 慶太氏

2011年サントリー入社。ブランドエンジニアとして工場立ち上げ、ウォーターサーバー、ビールサーバー、コーヒーサーバー等の飲料家電開発、茶飲料の開発、新技術による事業化企画など、マルチなドリンクエンジニアとしてのキャリアを積む。2021年に社内ベンチャー制度である「FRONTIER DOJO」の第一期プロジェクトに採択され、現在は社内起業家として「ALL GREEN」の代表を務める。コーヒーマイスター兼日本茶インストラクター。

 

企業情報

法人名

株式会社ゼロワンブースター ALL GREEN事業

HP

https://all.green

設立

2022年10月1日

事業内容

シングルオリジン緑茶を「まるごと」楽しむブランド、「ALL GREEN」。スペシャルティコーヒーのような嗜好品としての楽しさと、スムージーのような栄養を兼ね備えた、「SUPER BREW(スーパーブリュー)」としての全く新しい緑茶のスタイルを提案。
まるごと飲む緑茶を日本茶の新しいカルチャーにすべく、toC・toBでの事業拡大に挑戦中。

沿革

2022年10月 ゼロワンブースターにてALL GREEN事業発足
2023年5月 Makuakeにてクラウドファンディング実施
2023年7月 一般販売開始
送る 送る

関連記事