株式会社アシロ 代表取締役 中山 博登
株式会社アシロは、悩みや課題を抱えるユーザーがその分野に詳しい弁護士とワンストップで繋がれるメディアの運営を主軸としています。ビジョンには「アシロに関わる人を誰よりも深く幸せにすることでよりよい社会の実現に貢献する」を掲げ、主軸事業以外にも転職支援や保険など幅広い事業を展開しています。今回は、代表取締役の中山 博登氏に事業の詳細や起業の経緯などを伺いました。
メディア運営、転職支援、保険の3つの軸で事業を展開
早速ですが、事業内容を教えてください
当社は主に3つの事業を軸に展開しています。
1つ目はリーガル領域を軸にしたメディア事業です。当社のサイトを通じて、法律関係のトラブルで困っている方々と弁護士をマッチングできる仕組みを提供しています。これらのメディアは「ベンナビ」というブランドで統一されており、離婚、相続、労働問題など幅広い領域をカバーしています。
当社のメディアの特長は、単なる情報提供にとどまらず、掲載されている弁護士の情報自体がコンテンツであり、広告としても機能している点です。このようにして、困っているユーザーが必要な司法サービスを迅速に得られる環境を整えています。
また、「ベンナビ労働問題」で退職を伴うような相談をされた方の転職ニーズにも応えたいと考え、転職エージェントをまとめた「キャリズム」というメディアを立ち上げるといったように、「ベンナビ」から派生するメディアも立ち上げました。
以前は「ベンナビ」から「キャリズム」を知り、活用していただくケースが多かったのですが、今では「キャリズム」単体で利用するユーザーの方が多くなり、売上も「ベンナビ」を超えつつあります。
メディア事業に派生し、2つ目の事業として開始したのが、転職・採用支援を行うHR事業です。
法律事務所へ「ベンナビ」への掲載を提案するにあたり、弁護士人材が不足しているというお声をいただくことがありました。法律事務所の人材不足を解消するために、弁護士専門の転職エージェントサービス「NO-LIMIT」を開始。また、法律事務所だけではなく企業の法務部やインハウスローヤーへの転職支援も展開しています。さらに、公認会計士や税理士といった士業の採用支援も開始し、現在では企業の管理部門に特化した転職支援サービス「BEET」も展開するに至りました。
3つ目の事業は、個人向けの弁護士保険サービスです。弁護士保険とは、何らかの事件やトラブルに巻き込まれて弁護士に相談した際に発生する費用の一部、または全部を補償する保険です。ユーザーが離婚、相続、交通事故、労働問題などに直面したとき、「ベンナビ」が司法サービスへのアクセスとなる一方で、「ベンナビ弁護士保険」は弁護士費用がそのハードルとならないためのサービスといえます。
3つの事業は一見バラバラに見えるかもしれませんが、全てを相互に連携し、シナジーを生み出しながら展開しています。
会社員として働かれた後に起業されたそうですね。起業に至った経緯をお伺いできますか?
起業したのは25歳の時です。何か決定的なきっかけがあったわけではなく、さまざまな要因が重なって起業することになりました。しかし、一つ大きな理由として、父親の影響があります。我が家は商売をする家系で、父方も母方もサラリーマンが一人もいない家庭でした。
父親はまさに「昭和の頑固親父」のような人で、「自分で商売できない人間は認めない」といった考え方を持っていました。そのため、学生時代の私は父と話しても全く相手にされませんでした。父にとって、商売をしていない人間は会話する価値がない存在だったのです。そうした家庭で育ったこともあり、父親を見返すために自分で事業を興すことにしました。
起業した当初は現在の事業ではなく、会社員時代に培った営業力を活かして、営業代行の仕事をしていました。当時は貯金が10万円しかなく、しかも結婚したばかりで翌年には子どもが生まれるという状況にもかかわらず、妻にも内緒で起業したのです。
営業代行を2年ほどやっていましたが、次第にこの事業ではスケールしないと感じるようになりました。時代の流れもあり、いずれはインターネットを活用した事業に移行しなければと考えていた矢先、相続に特化した税理士・司法書士・弁護士を探せるポータルサイトの営業代行をしている中で、あることに気付きました。相続の手続きには税理士、司法書士、弁護士が必要ですが、この3つの中でも特に弁護士の集客ニーズが一段と高かったのです。
そのうち弁護士から「相続以外に特化したサイトも作れないか」という相談を受けるようになりました。素人の私が真っ先に思いつく法律トラブルといえば「離婚」でした。そこで支援していた相続関連サイトの運営企業からも了承を得て、離婚に特化したリーガルサイトを作ったのです。それが、今のメディア事業の原点になっています。
時間のコストを意識しつつ、意思決定のスピードを早くする
仕事における譲れない軸やこだわりを教えてください
まず大切にしているのが、猛烈なスピード感です。人より早く決断することによる結果の差は、非常に大きいと感じています。「やるか、やらないか」を考えることに時間を費やすのではなく、まずはやってみて上手くいかなかった場合「辞めるか、続けるか」を素早く判断する方が、結果的に仕事を早く進められます。
次に大切にしているのが、時間のコスト感覚です。私は人間にとって一番大事なのは、「時間」だと思っています。そのため、時間にもコストが存在するということを日頃から意識しています。たとえば、高級焼肉を食べた時の飲食代(コスト)は多くの人が覚えている一方、無駄に過ごした1日のコストを意識する人は少ないのではないでしょうか。しかし、何かを得られたかもしれない時間を無駄に過ごしたことにもコストが生じているのです。スピード感を意識すると同時に、そうしたコスト意識も高く持つようにしています。
その考えから、当社では不必要なミーティングを徹底的に排除しています。チャットで済む内容をわざわざ対面で話す必要はありません。不必要なミーティングや会議を設定していないか、一言も話さない人を会議に招集していないかなど、目に見えないコストにも注意を払うようにしています。
経営全体に関しては、アセットアロケーションを意識しています。具体的に言うと、経営資源である、「ヒト・モノ・カネ・情報」が最適に配置されてる状態かどうかに常に気を配っています。レストランを例に挙げると、キッチンでは多くのスタッフが働いていて美味しい料理が出てきそうなものの、ホールスタッフは極端に少なく、誰も注文を取りに来ない状態です。こうした状況は明らかに、人材の配置に問題があります。しかし意識していないと、企業でもこういったことが起こりやすいのです。
したがって、限られたリソースの中でも高いパフォーマンスを全体で発揮できるよう、適切なリソース配置を常にチェックしています。
起業してからこれまでの最大の壁を教えていただけますか?
起業してから数々の大変な経験をしてきましたが、私はそれを「壁」だとは捉えていません。困難や苦しいことを「壁」だと感じる人は、起業に向いていないかもしれません。起業に限らず、人生には「楽しいこと」と「つらいこと」があり、それらを味にたとえるなら「甘み」と「苦み」です。苦みは甘みがあるからこそ感じられるもので、どちらか一方しかないと、人生はつまらなくなると思います。
私はその苦みを感じるために、起業したという面もあります。苦みがあるからこそ、日常が面白くなるのではないでしょうか。もちろん私にも「つらい」という感情はありますが、それは単に日常にエッセンスを与えてくれる苦みだと考えています。
たとえば2019年の上場準備時には、大きな苦みを味わいました。上場に向け順調に進捗していると思っていたのですが、最終審査が通らずに予定は延期することになりました。この経験は確かに苦いものでしたが、2021年には無事に上場を果たすことができました。
私は、命を落とすこと以外はトラブルでも困難でもないと思っています。そうした楽観的な性格もあり、困難を「壁」と感じないのかもしれません。
「面白きこともなき世を面白く」一日一日を後悔なく過ごす
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
モチベーションとは少し違いますが、毎日を一生懸命生きることを意識しています。私の好きな言葉に、高杉晋作の「面白き こともなき世を 面白く」という言葉があります。
日常生活は決して、面白いことの連続ではありません。しかし、そんな中でも一日一日をベストな状態で過ごし、後悔しない時間を送ることを大切にしています。
私自身のパフォーマンスを考えると、今後10年で筋力が増え、集中力が上がり、潜在能力が向上するという可能性は低いです。これからパフォーマンスが下がることを考えると、今日がベストパフォーマンスを出せる日なのです。一生懸命生きて、世間の常識や価値観に囚われず、いま自分がやりたいと思うことをやらないと、人生がもったいないと感じます。
父や身近な人を亡くした経験から、「自分が死ぬ時に後悔しない人生を送ろう」という想いが一層強くなりました。
今後も、新たな可能性を追求するためにさらに会社を成長させていく計画で、経営者としてもプライベートでも、自分がどこまで高みに行けるのか、自分自身に期待している側面もあります。
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
やりたいと思ったらすぐに挑戦してみてください。私は決して、すべての人に起業を勧めるわけではありませんが、もし本人がやりたいと思うなら挑戦する価値はあります。
また、起業家にはある意味で鈍感力が大切です。私自身、大変なことが起こっても落ち込まず、その状況を笑い飛ばせる性格です。周りが落ち込んだり慌てたりする状況でも、私は平常心を保っているため、他の人から見たら鈍感だと思われているかもしれません。しかし、物事を敏感に感じ取り過ぎないことや、困難を「面白い」と思える素質は、起業家にとって非常に重要だと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:中山博登 氏
1983年京都府生まれ。2006年日本大学法学部卒業後、転職支援のワークポート、「ベンチャー通信」などの自社メディアの企画・運営をする幕末(現イシン)を経て、09年にアシロ設立。21年7月に東証マザーズ(現グロース)上場。
企業情報:
法人名 |
株式会社アシロ |
HP |
|
設立 |
2016年4月 |
事業内容 |
リーガルメディア運営・HR事業 |
沿革 |
・2009年11月 ㈱アシロを設立 ・2016年10月 LBOに伴い、2016年4月に設立された現㈱アシロによる旧㈱アシロの吸収合併を実施 ・2019年 12月 ㈱trientを子会社として設立 ・2021年7月 東京証券取引所マザーズ市場に上場 ・2021年12月 ㈱trientの吸収合併を実施 ・2023年 2月 「弁護士ナビ」を「ベンナビ」にリブランディング |
【株式会社アシロ 提供メディア一覧】
■ リーガルメディア事業
ベンナビ離婚 https://ricon-pro.com/
ベンナビ交通事故 https://jico-pro.com/
ベンナビ相続 https://souzoku-pro.info/
ベンナビ労働問題 https://roudou-pro.com/
ベンナビ刑事事件 https://keiji-pro.com/
ベンナビ債権回収 https://saiken-pro.com/
ベンナビ債務整理 https://saimuseiri-pro.com/
ベンナビIT https://itbengo-pro.com/
■ 派生メディア事業
キャリズム:https://tenshokuagent-pro.com/
CAREER UP STAGE https://asiro.co.jp/media-career/
■ HR事業
NO-LIMIT HR事業 https://no-limit.careers/
BEET HR事業 https://beet-agent.com/
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