株式会社アカリク 代表取締役社長 山田 諒
株式会社アカリクは「知恵の流通の最適化」を理念に掲げ、主に大学院生(修士・博士)を中心とする高度専門人材の就職およびキャリア支援を行っています。2代目社長として経営を引き継いだ山田 諒氏は、前職にてITエンジニアに特化した人材紹介事業を立ち上げ、事業部長として採用領域を統括した経歴を持ちます。今回は、アカリクの事業内容や山田氏が経営を引き継いだ経緯、そして今後の展望について伺いました。
三つのサービスでシナジーを生み出しながら、高度専門人材の就職を支援
事業の内容をお聞かせください
我々は理系学生・大学院生やポストドクター(博士研究員)などを中心に、高度専門人材を対象にした採用およびキャリア支援を行っています。提供しているサービスは主に三つです。
一つ目は、ダイレクトリクルーティングサービスです。大学院生が研究の合間にプロフィールや研究概要、研究を通じて得られたスキル・経験、希望するキャリアを登録し、それをもとに企業からスカウトを受けられる機会を提供しています。このサービスの特徴は、大学院生が研究を優先しながら就職活動を進められる点です。また、当社のデータベースには旧帝国大学や早慶上智などの上位校の学生が多く登録しており、ハイグレードな学生が多いことが企業にとって大きなメリットとなっています。
二つ目は、ITエンジニアイベント、理系女性イベント、半導体業界イベントなど、専門特化した採用イベントの開催です。年間約100回以上開催し、専門性の高い分野での採用支援を行っています。企業にとっては、特定のカテゴリの学生50~100名へ一度にアプローチできるため、求める人材にマッチした母集団形成に最適です。また、学生にとっても、就職活動を始めたばかりの段階で企業や業界をリサーチする絶好の機会となっています。
三つ目は、人材紹介サービスです。大学院生は研究に没頭するあまり、就職活動のタイミングが大幅に遅れてしまうことが少なくありません。また、自身のキャリア選択や就活の進め方に迷う学生も多くいます。このサービスでは、キャリアアドバイザーが学生と二人三脚で伴走し、希望に沿った求人を紹介しています。たとえ就活のタイミングが遅れてしまった場合でも、手厚いサポートを受けられることが学生にとって大きな安心材料となっています。企業側にとっても、採用の駆け込み需要に対応できる点が大きなメリットです。
三つのサービスは、それぞれが独立して機能するだけでなく、相互にシナジーを生み出すことで、大学院生やポストドクター、そして企業に対してより強力なサポートを提供できる体制を築いています。
これらのサービスの他、「Cloud LaTeX(主に理系分野の論文執筆に利用されるツール)」の運営など、採用・就職機会の創出に留まらない、コーポレートミッションをコアとした幅広い事業を展開しています。
会社の創業背景をお伺いできますか?
私は2代目社長としてこの会社を引き継いだため、創業者である林信長がどのような経緯で事業を始めたのかをお話しします。
林は博士課程を終えた後、すぐに起業の道を選びました。彼は博士課程での同級生たちが非常に優秀である一方、民間企業に対する関心やキャリア形成への意識が低いことに気付きました。多くの学生が研究所や大学のつてを頼りに研究機関に進み、民間企業への就職を真剣に考えることは少なかったのです。
当時の民間企業はポテンシャル採用で学部生採用が主流であり、入社後に社内カリキュラムをもとに人材育成をする方針を取っていました。博士課程の学生は非常に優秀なのにもかかわらず、企業側も学生側もお互いに求め合っておらず、採用領域で「ねじれ」が生じていたのです。
林はこの状況を非常にもったいないと感じたのと同時に、博士人材をはじめとする高度専門人材の知識やスキルを社会に還元することで、より良いサービスや技術が生まれ、豊かな社会を築けると考えました。これがコーポレートミッションである「知恵の流通の最適化」の背景であり、創業に至った理由です。
山田さんが代表取締役社長に就任された経緯もお聞かせください
コロナが流行し始めた頃、当時の取締役から「アカリクを手伝ってほしい」と声をかけられたのが始まりでした。最初は「こういう取り組みはどうですか?」といったアドバイスをする形で関わっていましたが、その後「アカリクの代表としてかじ取りをしてほしい」と正式に依頼されました。
ちょうど創業者の林が新たな挑戦を考えていたタイミングでもあり、アカリクの他のメンバーと話し合った結果、自分の価値が生かせると感じたので、ジョインする流れとなりました。
「顧客ファースト」の姿勢で満足度の高いサービスを追求
仕事におけるこだわりを教えてください
一番大切にしているのは、「顧客ファースト」の姿勢を貫くことです。もちろん、売り上げや業績の向上も重要ですが、まずはお客さまに選んでいただき、満足してもらうことが最優先です。お客さまに喜んでいただけなければ、継続的なサービス利用や受注にはつながりませんし、結果として業績にも影響を及ぼします。そのため、この姿勢を貫きながら常に顧客満足度を追求しています。
また、社内Slackには「グッドトピックス」というチャンネルがあり、お客様からいただいたポジティブな声やお褒めの評価を共有し、全員で称賛し合う取り組みを行っています。こうしたお客様の感謝の声を通じて、自分たちの存在価値を改めて感じ、さらに良いサービスを提供できるよう努めています。
会社を引き継いでからこれまでに直面した、最大の壁を教えてください
2021年に社長として参画した際、会社は業績不振に陥っていました。当時はコロナ禍の影響もあり、採用業界全体が厳しい状況でしたが、幸運にも新卒や理系の採用は完全には止まっていませんでした。しかし、多くの企業が採用を見直す中で、従来であれば採用されていたであろう優秀な学生が不採用になるケースが増えていたのです。
また、自社内においても採用と育成のバランスがとれてなく、、会社全体として良い循環が生まれないまま、業績がさらに悪化していきました。当時は資金がショートしかける時もあり、本当に危機的な状況でした。
社長に就任して最初の数か月間は、周囲の様子を見ながら仕事をしていた部分もありましたが、そうした状況に直面し「ここで自分が行動を起こさなければ」と強く感じたことを覚えています。
そこでまず、自分の強みである営業に立ち返り、自ら積極的に営業活動をしました。過去に個人的に繋がりのあったクライアントにも積極的に声をかけ、新たな案件を営業チームに渡していったのです。また、各事業責任者に任せていた部分も積極的に関与し、会社の全側面に関わりながら、具体的な改善策を一緒に議論・行動していきました。
最初は私に対しての警戒心からか、社員たちが本音を隠しているような雰囲気がありましたが、自分ができることに全力で取り組む姿勢を見せることで、徐々に信頼を得ることができました。営業活動のみでなく、過去の成功事例に基づく知見を社内で共有するなどの行動を通じて、お互いの理解が深まっていったと感じています。
そうした取り組みの積み重ねが徐々に業績に良い影響を与え、最悪の状態から脱却できました。入社当時は苦しい時期が続きましたが、現在は順調に事業が伸びています。
目標はIPOへの挑戦と留学生支援の強化
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
私は一人だとダラダラとした生活を送りがちなのですが、周りに慕ってくれる人がいると、自然と前に進む力が湧いてくる性格です。社長に就任してからは、社員、事業パートナー、ユーザーをはじめ、私を信頼してくれている人たちの期待を裏切りたくないという思いが、モチベーションの源泉になっています。
もちろん、お客さまからの感謝の声やお褒めの言葉も大きな励みになりますが、突き詰めて考えると、やはり「期待を裏切りたくない」という責任感が私を突き動かしているのだと思います。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
目下の目標は、3年後にIPOを実現することです。我々はサービスを通じて、理系学生や大学院生、ポストドクターといった方々に光を当てたいと願っています。IPOを実現することで会社の認知度や信頼度が向上し、彼ら・彼女らがより注目され、その価値を社会に広く伝えることができると期待しています。また、IPOによって資金を集め、新たな投資を通じてさらなる価値を提供できると考えています。
もうひとつ力を入れたいのは、留学生のキャリア支援です。留学生のキャリア支援には多くの課題があり、大学からも「留学生のキャリア支援をサポートして欲しい」という声をよくいただいています。そのため、今後は留学生をサポートできる仕組みや体制、サービスの構築にも注力していく計画です。
経営を通じて視座が高まり、自分の成長にもつながる
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
私は2代目社長として経営に携わっているため、起業のアドバイスとは異なるかもしれませんが、経営者になって実感しているのは、自分の視座が圧倒的に高まったことです。
たとえば、事業部長や役員の立場だと、どうしても自分が担当する事業や部門を良くすることにフォーカスしがちです。しかし、社長という立場になると、会社全体をより良くするために全ての部門が連携して機能するためにはどうすればいいか、という視点で物事を考えるようになります。
また、社長になると接する人の範囲も広がり、視野や価値観の幅も広がります。会社を良くしたいという思いは、やがて業界や市場全体を良くしたいという意識に変わり、さらには大学や研究機関まで含めて、より広範囲に影響を与えたいという気持ちが強くなります。
大きな視点で物事を考えるようになったことが、自分自身の成長にもつながっていると感じています。これから起業する方も、経営を通じて得られる成長の機会を大いに活かしていただきたいと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:山田 諒氏
神奈川県相模原市出身。
社員研修や人材育成、転職・就職支援等、HR経歴10年以上。
前職ではITエンジニアに特化した人材紹介事業を立ち上げ、100名規模に成長。自身は事業部長として新卒・転職エージェントとヘッドハンティング領域を管轄。
2021年4月より株式会社アカリク代表取締役社長に就任。
企業情報
事業内容 |
1. 有料職業紹介業 2. 労働者派遣業 3. 教育研修セミナーの企画及び実施 4. 各種宣伝広告の取扱業務 5. 求人・人材の採用に関するコンサルティング 6. 官公庁その他法人による委託事業の請負 7. オンラインLaTeXコンパイルサービスの開発及び運営管理に関する一切の業務 8. 地図情報、建物情報、イベント情報並びに求人等に関するアプリケーション開発及び 運営管理に関する一切の業務 |
沿革 |
2006年11月 株式会社D・F・S創業。博士新卒学生の就業支援事業、求人紹介サービスを開始。 2007年4月 大学院生・研究者のためのフリーペーパー「アカリク」創刊。 2008年3月 大学院生(博士・修士)ポスドクのための就職情報サイト「アカリクWEB」オープン。 2010年5月 社名を株式会社アカリクに変更。 2012年9月 大学院出身者向け転職サポートサービス「アカリクエージェント」開始。 2018年10月 「アカリク就職エージェント」開始、創業時から続く大学院生・研究者向け求人紹介サービスをリニューアル。 11月 「アカリクエージェント」を「アカリク転職エージェント」としてリニューアル。 2021年1月 「アカリクWEB」を全面リニューアル、サービス名称を「アカリク」に変更。 4月 山田 諒が代表取締役社長に就任。 7月 コーポレート・サービスロゴを変更。「アカリク転職エージェント」を「アカリクキャリア」へ名称変更。 9月 文科省が推進する博⼠課程学⽣を対象とした「ジョブ型研究インターンシップ」推進協議会事務局として運営開始。 2022年4月 大学院生・理系学生に特化した少人数制オンライン就活イベント「アカリクイベント」サイトリニューアル。 |
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