Flip株式会社 代表取締役 飯塚 啓介
競争が激しい市場では、新規顧客の獲得が難しくなるため、新規顧客の離脱を防ぎながら既存顧客のLTV(顧客生涯価値)を高める必要があります。その際に、顧客のニーズやサービスの改善点を正確に捉えるための分析が求められます。
今回は、ユーザー中心でデータドリブンな開発に必要不可欠なユーザー行動分析プラットフォームを開発・提供しているFlip株式会社の代表取締役、飯塚啓介氏にお話を伺いました。
テニス選手への夢を諦め、進学した大学で抱いた起業への憧れ
事業の内容をお聞かせください
Flip株式会社では、アプリやウェブサイトなどのグロースに必要な分析が効率的に行えるユーザー行動分析プラットフォーム「Flip」と、関連するコンサルティングを提供しています。
ユーザー行動分析とは、ユーザーの行動や属性についての理解を元に、アプリやウェブサイトの改善と最適化を高速に行うための分析です。
特に私たちが得意としているのは、ユーザーの行動データの分析です。例えば、ユーザーがどの段階で離脱するか、どの機能に価値を感じるかを分析から把握できます。データ分析から得たインサイトを具体的な改善策に活かすことで、施策の成功率を高めることができます。
サービスの利用年数やユースケースなど、さまざまな特徴の組み合わせによってユーザーは細分化(セグメンテーション)できます。そのため、顧客セグメントごとにサービスのユースケースや課題が異なり、セグメント別にユーザーの行動傾向を把握することが重要です。しかし、細かく分析するには技術的な制約が多く、結果として顧客を細分化せずに一まとまりとして分析することになり、各セグメントの課題を十分に把握できない問題が生じます。また、分析を試みたとしても、データを操作するために大量のSQL(データベース言語)を書く必要があり、時間も労力も不足しがちです。
しかし、「Flip」をご利用いただくことで、日々アップデートされ多様化する顧客の属性や行動パターンの分析が可能になり、顧客のニーズを素早く把握できます。「Flip」での分析は全てノーコードで完結するため、全員がデータドリブンな意思決定に関わることができます。
さらにコンサルティングを通して、顧客専属のデータアナリストのように関わらせていただき、確実にグロースの機会を提供しています。
2024年6月にトライアル版をリリースしたばかりですが、すでにいくつかの企業に導入いただいており、サービスのグロースのためのデータ分析を支援しております。
▼Flip株式会社Webページ
▼プレスリリース
「Flip(フリップ)」β版リリースのお知らせ
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000093631.html
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私は、高校生の時にテニス選手を目指していました。しかし当たり前ですが、スポーツ界で選手としてやっていけるのは、たった一握りの厳しい世界です。才能がないことを痛感し、テニス選手になることを諦めました。
そのため、大学に入学したときは、目指すべきものが何もない状態でした。漠然と何かしなければと思い、人生で初めてたくさんの本を読みました。この時期に起業家の自伝に出会い、世の中を変えるために壮大なミッションを持って取り組んでいる方々に憧れを抱きました。
「深層学習」に出会ったのも、その頃です。深層学習は、人工知能(AI)の一分野であり、人間の神経細胞の仕組みを再現したニューラルネットワークを用いたデータから特徴を自動的に学習する技術です。画像認識や音声認識、翻訳などさまざまな分野で、革新的な進展をもたらしています。
世界的に有名なベンチャー・キャピタル(VC)である、シリコンバレーのアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz 、略称a16z)の代表が、大学に戻れるなら「深層学習」と「分散学習」の2つの領域をもっと学びたいと答えている記事を読み、そのようなすごい人が言うのであればと、好奇心の赴くままに独学でこの領域の勉強を始めました。
起業への憧れが大きくなり、自分も何か大きなことをしたいと想うようになりました。
そこで、大学在学中に、興味を深めていた「深層学習」を活用した事業で起業しました。
ユーザーのニーズを大切に進み続ける
仕事におけるこだわりを教えてください。
私の仕事におけるこだわりは、好奇心と自己規律を持つことです。
まず、好奇心がないと、仕事は長続きしません。特に今は創業期で、コーディングも営業もどんなことでもこなさなければならず、仕事内容を選べる時期ではありません。何事に対しても好奇心を持って、色々なことに挑戦しようという姿勢が、モチベーションの維持には大切だと思っています。
また、ユーザーから見られる仕事だけでなく、経理やコードのテストのようにユーザーに見えないような些細な仕事も丁寧に行うことが必要です。そのためには、好奇心に加え、やるべきことを確実にこなしていくための自己規律が欠かせないと思います。
起業から今までの最大の壁を教えてください
起業初期は、深層学習を活用した独自の音声認識モデルの開発など、作ったものを広めようというスタンスで取り組んでいました。
しかし、世の中に出してみたら、全くニーズがありませんでした。私がテクノロジーとものづくりが大好きなエンジニアであるため、技術ドリブンな開発に陥ってしまい、実際にユーザーとなる人の声を取り入れていませんでした。
そこで、本当にニーズがあるものは何か、ユーザーインタビューを約100社に対して行い、課題を見つける作業を始めました。この作業はとても大変なもので、「ユーザー行動分析」の必要性に辿りつくまで長い時間がかかりました。
醍醐味は、困難をクリアし事業が洗練される時に感じる「美しさ」と「楽しさ」
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
次から次に出てくる課題をクリアし、事業がより洗練されていく時に、とても楽しいと感じモチベーションになっています。
私はエンジニアでもあるので、何かを創り出すことが好きで、事業は作品のような存在です。新規事業に取り組むと問題が続出しますが、1つ1つを解決していって洗練されていく事業に「美しさ」を感じるので、その気持ちが大きなモチベーションとなっています。
創業から5年が経ち、試行錯誤がずっと続いていますが、常に楽しく働いています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
今提供できているのは、あくまでも分析の部分で、サービスをグロースさせるために必要なツールの1つにすぎません。今後は、グロースに必要なツール一式を提供し、網羅的なグロース支援を行っていきたいと考えています。
また、蓄積されたグロースのナレッジを元に、サービスの運用を自動化する独自のLLM(大規模言語モデル)を作っていく予定です。現状ですと、マーケターやアナリスト、プロダクトマネージャーなど多くの人が関わる必要がありますが、それを1つのLLMで代替することができれば面白いと思うのです。結局、グロースは「科学」ですので、そういうことも実現できると思います。
「グロースを科学し、世の中を変えるサービスの原動力となる」というミッションのもと、世の中をより良く変える革新的なサービスが、データを活用して着実に成長していけるよう、全力でサポートしていきたいと考えています。
起業は、プロフェッショナルな関係性を築ける仲間と共に
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
起業初期は特に、メンバーと四六時中一緒にいることになります。ですので、共に働く仲間の選択はとても重要になります。
実際、少しでも反りが合わないと、かなり辛いと思います。単に仲が良いだけではなく、「ここは違うよね」などと適切な指摘をしあうことができ、プロフェッショナルなコミュニケーションをとることができる仲間をぜひ見つけてください。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:飯塚啓介 氏
1997年生まれ。幼少期をオーストラリアで過ごす。早稲田大学在学中に独学で深層学習を研究し、独自の音声認識モデルを採用した議事録ツール「Ekaki」を開発。その後、プロダクト開発において経験したデータ分析の課題感から、Flip株式会社を共同創業。
企業情報
法人名 |
Flip株式会社 |
HP |
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設立 |
2019年3月 |
事業内容 |
ユーザー行動分析プラットフォーム「Flip」 の企画・開発・販売 |
沿革 |
2019年03月 創業 2021年12月 Skyland Venturesより出資 2022年01月 音声認識ツール「Ekaki」をリリース 2023年11月 LAUNCHPAD SEEDに出場 2024年06月 ユーザー行動分析プラットフォーム「Flip」をリリース |