ヘレンベルガー・ホーフ株式会社 代表取締役 山野高弘

ヘレンベルガー・ホーフ株式会社は、主にドイツワインの輸入販売卸事業を展開しています。おいしいドイツワインを日本に広めるのはもちろんのこと、生産者の想いや深い背景、触れ合いの中で感じた感動を伝え続けるための様々な活動を行っています。

 

また、代表取締役の山野高弘氏は社員を大切にする取り組みに重点を置き、ドイツへの長期研修をはじめ豊かさを生み出す教育や制度の提供に尽力しています。

 

今回は、そんな山野氏に事業の詳しい内容や今後の展望をお聞きしました。

 

ドイツワインの背景や感動を伝える輸入卸売業

事業の内容をお聞かせください

当社はドイツワインに特化した輸入卸業務を行っています。卸業はあまり馴染みがないかもしれませんが、ワインを作る人と商品を販売する小売店の間に入り、流通を促しているのが私たちの役割です。

 

具体的には、現地であるドイツに行ってワインを購入して日本に輸入し、全国の酒販店や百貨店、ワインショップに卸すという業務を行っています。

 

我々は、日本で一番生産者に近い輸入元だと自負しています。というのも、私も含めてスタッフ全員がドイツ留学に行き、ワインや生産者と触れ合う機会を作っているためです。

 

極端な例では昨年、ドイツに1人、1年間住み込みでワイナリーで働いてもらいました。こうすることにより、ワイン作りの背景や感動を身を持って感じられるため、後々になってから、それぞれの豊かさが追求できます。

 

そうした活動の結果、教科書に書いてあるような「りんごに似た香り」のような簡単な言葉ではなく、心から滲み出る深い言葉でワインを語れるようになるのです。

 

さらに、こうした感動体験は働くことの楽しさに繋がり、仕事をもっとやりたいという意欲を生みだしてくれ、自主的な気持ちでみんなが働けるようになり職場が良い循環へとなっていきます。

 

また、現在はワイン学校の講師としてワインの周知活動も行っています。我々の夢は、ドイツワインの認知度を上げて、皆が飲んだことがあるレベルへと「再興」することです。

 

歴史的に見ると、大阪万博が開催された1970年代はドイツやフランスのワインはとても有名でしたが、現在は認知度が低くなってしまっています。

 

そのため、教育を通して認知を広げることや、SNSやYouTube発信にも力を入れており、毎朝6時半にインスタライブも実施しています。主婦やビジネスマンにもターゲットを広げた発信活動を通して、みんなが楽しくワインを飲める世の中にすることが再興に繋がると思っています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私が就職した時期はちょうど就職氷河期と言われる時期でした。そのような状況で一番最初に内定が出た平和堂というスーパーへ入社することを即決して5年間働きました。

 

5年のうち、後半の3年間は富山県に勤務し、現地の方々の温かさに触れていました。そこでふと、自分が家族と希薄な生活をしていることや自分にバックボーンがないことに気付き、父のことや父の仕事に興味が湧きました。

 

スーパーは転勤が多くずっとは続けられないだろうと思っていたため、ある時突然「オヤジの会社に入れてくれ」と頼みました。父はびっくりしていましたが、喜んでいたのではないかと思います。

 

父の会社に突然入社を決めて働き始めましたが、ワインの販売にはとても苦労しました。居酒屋にアポイントを取って営業に行っても、ドイツワインが知られておらず、その上ワインに興味もなかったことから売れ行きが伸びず、酷い目に遭いました。しかし、いずれ社長になると覚悟は決まっていた私は、ドイツに駐在員として3年間行くことにしました。

 

最初に働いたワイナリーでは、私は掃除しかできず、なかなか重要な仕事を任されることはありませんでしたが、2ヶ所目のワイナリーでは作業長を任され、醸造所や外国人相手のプレゼンテーションさせてもらえるようになりました。

 

更に、ホテルのディナーパーティーでのトークが評価されてホテルから大量の新規注文が入った時は、醸造所の社長にとても喜んでもらえて震えるほど感動したのを覚えています。これが私の原点となり、日本に帰国して私のワイン輸入元としての仕事が再スタートしました。

 

社員の誕生日にはワインで乾杯

仕事におけるこだわりを教えてください

私のこだわりは、「ワイン生産者の思いを届ける」ことと、「社員を幸せにする」ことです。

 

ワインは存在自体が豊かで、ロマンや憧れ、そんな対象だと思うのです。それを嫌々勧めるような会社にはしたくありません。

 

ワイン作りは本当に大変でとても尊い仕事です。1年かけてぶどうを育て、それから製品になるまでは1年半〜2年かかります。この生産者の苦労や思いを疎かにしないよう、情熱も含めて消費者に届けることが私たちの役目だと思っています。

 

そのためにも、働いてくれる社員にはドイツという国やワインにたくさん触れて感動体験をしてもらうことが当社のこだわりです。

 

例えばドイツへの滞在もそうですし、フィリピンへの1か月英語留学、国内での英語学習代の補助、ワイン学校代補助など大胆な教育支援を行っています。また、社員の誕生日にはワインで乾杯し、社員の幸せを願いながらのびのびと働ける会社づくりに努めています。

 

今では社員全員が自主的に働いてくれており、昔は通訳や営業、輸入ワインの決定をするのも全て私の仕事でしたが、現在はそれを皆に任せるようにしました。

 

これからもワインの尊さや生産者の苦労が身に染みた社員の人たちが全員で意思決定をしていきたいと考えています。そのような会社となるよう、これからも社員の人にはドイツ現地で震えるような体験をしてもらおうという方針を貫いていきます。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

2020年のコロナ禍が最大の危機でした。当時はお酒を飲むのが良くないという風潮の影響もあり、売り上げは前年比対比で6〜7割減、つまり昨年の3割くらいしか売れない大赤字でした。

 

父はその時「これは3年続く」と予言し、銀行からお金を借りたり、いつもより輸入を多めにしたりしてすぐに動いてくれたおかげで経営を繋ぎとめることができました。

 

その上で私たちにできることで営業をしようということになり、未知の領域だったSNS発信を始めたのです。暗中模索の中、週に1回生産者に関することを1分にまとめた動画を流すことに決めました。編集など苦労が多く重なりましたが、多くのことを学びました。

 

また、当社は年2回、倉庫を開放して3日間で700人が来場する試飲会を開催するのですが、そのフェスに来場したような感覚を体験できるバーチャル動画を作ろうということになり、これまでの動画作成の経験が活かされました。

 

そして、その動画と一緒にワインリストと注文表を酒屋などに送ったところとても好評で、コロナ禍で7割減だった売り上げが1.5倍増になりました。

 

私たちの頑張りが伝わり、周りからの応援が増え、結果としてそれ以降売り上げが下がることはなくなりました。コロナ禍の壁はYoutubeなどのSNSに注力したことと、お客様とのリアルな繋がりを大切にしてきたという2点があったから乗り越えられたのだと思います。

 

ワインの素晴らしさを学んだ原体験が推進力

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

モチベーションは2つあります。1つは、ワインは素晴らしいなと気付かせてくれたドイツでの体験です。言葉もワインも知らなかった20代の私でしたが、ワインを作る大変さや奥深さに触れることで、身に余るような体験ができ、これが現在の一番のモチベーションになっています。

 

もう1つは社員の頑張りです。この東京事務所もこんなに早くできるとは思っていませんでしたが、これも社員のおかげだと思っています。今後も社員の成長が楽しみであり私の支えです。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください

私は現在51歳なのですが、55歳までにはドイツワインが再興できた状態を作ることを目標にしています。

 

具体的には、ワインが好きな人にドイツやフランスのワインの素晴らしさを知ってもらうこと、それから有名な店には必ずドイツワインが置いてある状態にすること、この2つがあと3年半での目標です。

 

責任の大きさを嘆くより望むことをやり遂げて

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

社長とは、人を雇ったり養ったりすることへの責任が大きいです。しかしその分自分で決断できる裁量も多いため、成功すれば自信に繋がり、やりがいは何倍もあります。

 

たとえうまくいかなくても、自分の思いを遂げることに意味があると思うので、勇気を持ってチャレンジしてみてください。

 

人材を募集中とのことですが、どのような人を求めますか?

当社の経営理念に共感してくれて、モチベーションのある仲間と何かをやりたいと思っている人に是非来てほしいです。ワインに少しでも興味があったりPCのスキルがあったり、熱意に溢れていたりする人を求めています。

 

当社は物を仕入れて売る流通業ですが、物に対する思い入れや熱意を最大限に持てる環境があるため、そこには付加価値がたくさん付けられます。また、毎年誰かがドイツ研修に行くというのも当社ならではの魅力です。

 

ワインは人と人を結びつける面白い飲み物で、人生を豊かにしてくれます。これからの人生を120%楽しみたいという人は、是非お待ちしています。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:山野高弘 氏

ワインインポーター ヘレンベルガー・ホーフ(株) 代表取締役社長。2001年より2年間ドイツ バーデンのベルンハルト・フーバー醸造所にて研修。主に畑作業に従事。2003年より1年間ドイツ ラインガウ地域のゲオルグ・ブロイヤー醸造所にて研修。醸造行程の全てをその手で行う一方、醸造所の営業マンとしてドイツのホテル等にてプレゼンテーション。ヨーロッパ滞在中にはドイツのほぼ全生産地を渡りあるき、見分を広める。ドイツ以外のフランス、イタリア等、西ヨーロッパのワイナリーも積極的に訪門。2004年より帰国。主に東京にてドイツワインの新しいイメージ普及のため、様々なシーンでセミナー等を行う。世界最優秀ソムリエでM.o.W.であるマルクス・デル・モネゴ氏や 来日中のドイツ醸造家の通訳を務める。現在も年に3回ほどはドイツを中心にヨーロッパを訪れ、最新情報を入手。

 

企業情報

法人名

ヘレンベルガー・ホーフ株式会社

HP

https://www.herrenberger-hof.co.jp

設立

1982年10月15日

事業内容

ドイツワインの輸入卸

 

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