株式会社Malme 代表取締役 高取 佑
株式会社Malmeは、土木業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する企業です。土木業界が抱える深刻な人材不足・技術継承問題の解決を目指します。
日本全国のインフラの多くは老朽化が進み、皆さんが普段使用している道路、橋は崩壊の危機にあります。しかし、土木業界の下請け層に勤める人の平均年齢は65歳となり、匠の技を持つベテランが相次いで引退するという状況に加えて、圧倒的に若手の土木技術者が不足しています。
Malmeはこの問題を解決するために、技術者の専門知識とAI技術を融合して、クラウド型webアプリケーションを開発し、誰でも正確な設計を実現できる未来を目指しています。
「日本の土木技術の素晴らしさを、もう一度世界に広めたい」と語る代表取締役の高取 佑氏に事業内容や今後の展望なども含めて、詳しくお聞きしました。
年齢層が高い土木業界で現場に浸透するDX化を実現
事業の内容をお聞かせください
「土木業界をアップデートする」というミッションを掲げ、当社を創業しました。私自身、元々土木業界の出身です。
土木は、建設業界の中でも主に橋や道路などの公共インフラをつくる領域なのですが、かなりレガシーな業界で、なかなか変わらないといった課題がありました。そこで、一度建設業界から出てベンチャー企業を経験した後、この会社を立ち上げました。
具体的な事業内容としては、紙やエクセルといった古いワークフローが当たり前になっている業界を、デジタルトランスフォーメーション(DX)で効率化していくことです。例えば、2次元の図面を3D化したり、設計プロセスを自動化したりしています。
特に力を入れているのが、技術継承です。土木業界は近年人手不足が深刻で、ベテランが引退していく中、次世代への技術伝承が課題になっています。そこで、当社では次世代の人たちに技術を渡せるソリューションやサービスを提供しているのです。
私たちが目指しているのは、年齢が高い方でも簡単に使えて、同時に若手も使えるインターフェースです。そして、効率化の目標は「10倍以上」です。なぜなら、ちょっとした効率化ではお客様に使ってもらえないからです。既存のワークフローを変えてもらうには、大きなインパクトが必要になってきます。
土木業界のDX化は、業界全体の長年の夢でもあります。ただ、新しい技術やITを使える人材が少ないのが現状です。特に平均年齢が高い業界なので、DXと言われてもなかなか難しいです。だからこそ、現場に浸透できるDX技術をつくることを重要視しています。
貴社の技術がどのように活用されているのでしょうか?
具体例として、橋の撤去工事での活用をお話しします。
古い橋の撤去工事は、安全上の理由から一晩で終わらせる必要があることが多いです。これは道路規制による、住民への影響を最小限に抑えるためです。工事は分刻みのスケジュールで進行し、約100人もの職人さんが関わりますが、日雇いのため作業に詳しくない人が大半を占めています。
従来は、大量の紙資料をみんなで見ながら自分の役割を確認していました。しかし、当社の3次元技術を使えば、「いつ、どこで、何をするか」が視覚的に一目でわかるのです。これにより、タイトなスケジュールを守りつつ工事を無事完了させた事例があります。結果として、お客様に非常に喜んでいただきました。
この技術は安全面においても優れています。前提として、道路やトンネルは絶対に壊れてはいけません。しかし、実際にはベテランの技術者の不足もあってミスが増えているのです。当社のプロダクトで、こういった課題も改善できると考えています。
現在、他のプロダクトを2〜3個開発中です。これにより、現場が楽になったり、ミスが減ったり、若手でも自信を持って作業できるようになるでしょう。一つひとつの現場を変えていくことで、業界全体を変革していきたいと我々は考えています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
事業の原点は、新卒で土木業界に入った頃の経験にあります。当時、海外の途上国でインフラ開発のコンサルティングを行っており、主に外務省やJICAの仕事を担当していました。
2012年頃、海外で仕事をしている中でとあることに気づきました。インドネシアのジャカルタでは、日系の白物家電が主流だったのが、徐々に中国や韓国の商品に変わっていったのです。
日本の存在感が薄れていくのを目の当たりにして、「日本はこのままでは危険なのでは」と強く感じました。そこから、日本のためになる事業、海外に対して日本の強みを活かせる事業をやりたいと思うようになりました。
その後、スウェーデンへの視察旅行が大きな転機になりました。日本の土木業界の最前線で活躍されていた視察団長との交流を通じて、日本の土木技術の歴史的価値に気づかされたのです。
今は衰退産業に見えるかもしれませんが、数十年前は世界的に高く評価されていた時期があったのです。その頃の素晴らしさを呼び覚ませば、日本の強みになるのではと考えたのが今の事業につながっています。
土木業界を深く理解したIT技術を提供する
仕事におけるこだわりを教えてください。
「どこまでもお客様に寄り添う」ことです。
この考えは、前職のITベンチャーでの経験が影響しています。建設や医療、介護などのレガシーな領域にITサービスを提供するときに、IT担当者と現場間でコミュニケーションがうまくとれず、結果的に良いサービスやプロダクトがつくれないことが非常に多くありました。
だからこそ、当社を立ち上げたときも、ITベンチャーではありますが、創業初期から土木業界出身者を集めることにこだわりました。土木のバックグラウンドを持つメンバー皆でITを勉強して、お客様と同じ目線でサービスを提供することをコンセプトにしたのです。
IT技術を一方的に持ち込むだけではなく、お客様の仕事や課題を本当に理解した上でサービスを提供することが、当社の強みでありこだわりです。
起業から今までの最大の壁を教えてください
私が身を置いている土木業界は、スタートアップの世界とは正反対と言っていいほど異なる業界です。この業界とスタートアップ文化の融合が、当社にとって最大の壁だと感じています。
スタートアップの価値は、従来にない新しいものをつくることにあると思います。一方、土木業界は、私たちの街にある道路や橋などのインフラを守り続けることに価値や使命があります。ひたすら守り続けてきた業界と、新しいものをつくるためなら既存のものを壊す業界、このカルチャーの違いはとても大きく、働く人の価値観にも大きく影響すると思います。
私たちスタートアップが土木業界に受け入れられるかどうかは、本当に大変なところがあり、最大の壁と言えるでしょう。
ただ、最近は状況も少し変わってきています。業界全体で人手不足が深刻化していて「あと5年で自分は業界からいなくなるけれど、今後若い世代は食っていけるのか」と心配する年配の方々が増えてきました。
これらを受けて我々は、業界の未来を案じる先進的な考えを持ったお客様と接点を持ち、タッグを組んで一緒に業界を変えていくことを強く意識しています。そのような理解者とどう出会うかという点は、日々の営業活動の中で力を入れているところです。
このままでは崩壊する日本の美しい田舎を守る
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
私が会社を立ち上げDXを推進していきたいというモチベーションは、新卒時代の仲間たちのへの思いにあります。
当時の同期や同僚との絆は今でも強く、大切にしています。彼らが困っている状況を見ることが辛く、何とかしたいとの思いが原動力になっています。
私は今30代後半ですが、土木業界にいる同世代の仲間たちは、ベテランの技術者が退職した後、彼らに負担が集中して本当に大変な思いをしています。心身ともに限界に達して、メンタルを壊す人が増えているのが現状です。
だからこそ、1日も早く現場を楽にする技術を開発して提供しなければという思いが、モチベーションにつながっています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
大切な日本の田舎を守ることです。
私自身も田舎の出身なのですが、地方の景観には特別な価値があると感じています。限界集落と呼ばれる場所でも、丁寧に整備された道路や、コンクリートで舗装された安全な歩道など、美しい町並みが風景とともに残っています。
しかし、人手不足や財政難であるため、これらの景観を維持することはより難しくなるでしょう。日本の大切な田舎の風景をどう守るか、そこに私たちのビジネスのほとんどを費やすことができれば、これ以上ない意義を得られるのではと考えています。
具体的には、私たちが直接地方にアプローチするか、あるいは私たちと同じ考えを持った方々に地元を守ってもらうかなど、さまざまな方法が考えられます。我々の目標は、人口減少が進み、町がインフラとして維持できなくなってしまうであろう次の数十年間を支える人材や事業、インフラをつくり出すことにあります。
最近では災害も頻発していて、インフラの崩壊も大きな問題になっています。能登半島地震の復旧工事では当社の技術が一部活用されており、貢献の余地は大きいと感じています。今後は、災害復旧や防災の分野でも、行政と連携しながら、技術を活かした解決策を提供していきたいと考えています。
幸いなことに、私たちには理解ある投資家の方々がついてくださっています。日本の社会のためになるビジョンを描けば、すぐには収益に結びつかなくても、協力してくださる方々がいます。このチャンスを活かして、社会貢献に繋がる事業を展開していきたいです。
社会貢献をビジョンに置いた起業を
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
起業にはさまざまな形があります。お金を儲けたい、社会的地位を得たいといった思いは自然なことでしょう。しかし、どのような目的であっても、社会貢献に真正面から向き合うことが非常に重要だと私は考えています。
最近では、社会に対して価値を提供する行為そのものを誰かが見てくれて、応援してくれる環境が整ってきました。つまり、その応援によって事業の成立につながるチャンスが、以前に比べてずっと増えているのです。
起業の目的が何であれ、「世の中のどこをどう良くしたいか」というビジョンに常に目を向け続けることをおすすめします。
採用を強化されているそうですね。どのような人材が理想でしょうか?
2つポイントがあります。
1つ目は、当社のミッションへの共感です。今、大ピンチな日本の土木業界を立て直すことに全力を尽くしてくれる方を求めています。
2つ目は、ベンチャーのシード・アーリーフェーズを楽しみながら、一緒に事業成長できる人です。当社は急成長の段階にあり、毎月違う会社になるようなスピード感があります。そのような環境で、会社の成長にコミットし、土木業界にインパクトを与えるといった気概を持っている人を探しています。
この2つの条件さえ満たせば、バックグラウンドは問いません。創業当初は土木業界出身者が中心でしたが、今は異なる背景を持つ人材の方が増えています。
▼採用情報の詳細はこちら
https://malme-doboku.studio.site/recruit
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:高取 佑氏
株式会社Malme代表。九州大学大学院修了後、建設コンサルタントとしてODA(政府開発援助)や地球温暖化対策支援、日系企業の海外進出支援に従事。その後ドローンベンチャーに参画し、土木施工現場におけるICT技術の利活用を推進。2021年2月にMalmeを設立。
企業情報
法人名 |
株式会社Malme |
HP |
|
設立 |
2021年2月 |
事業内容 |
土木業界向け建設DXサービスの提供 |
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