アトピヨ合同会社 代表 赤穂 亮太郎

アトピヨ合同会社は、アトピー性皮膚炎を持つ患者に特化したアプリ開発を行っています。同社の代表である赤穂亮太郎氏は、自身が幼少期からアトピーや喘息、鼻炎などのアレルギー疾患に悩んできた経験から、患者が自身の皮膚の状態を記録し、病状を客観的に管理できるアプリ「アトピヨ」を通じ、アトピー分野での調査・研究に貢献しています。今回は、赤穂氏に事業内容や今後の展望について詳しくお伺いしました。

 

現場の声から生まれたアトピー患者支援アプリ「アトピヨ」の進化と展開

事業の内容をお聞かせください

弊社は、アトピー性皮膚炎を持つ患者向けのアプリ「アトピヨ」の開発および運営をしています。このアプリは、アトピー患者が自身の皮膚の状態を毎日写真で記録することで、症状の経過を確認できるツールです。1年前や数か月前の状態と現在の状態を客観的に比較することで、現在の治療があっているのか、あるいは新たな対策が必要かを見極める手助けになります。患者が主治医に正確な情報を伝えやすくなることも、このアプリの大きな特徴です。

 

また、アトピヨではアトピー性皮膚炎の患者同士が匿名でつながるコミュニティ機能も提供しています。アトピーは、外見に直接影響を及ぼすため、患者が1人で悩みを抱えることが多い病気です。

 

しかし、このアプリを通じて他の患者と症状や経験を共有することで、自分一人で悩んでいるわけではないという安心感を得ることができます。このように、アトピヨのコミュニティ機能は、精神的なサポートとしても大きな役割を果たしています。

 

さらに、私たちはアトピーに関する日本最大級のビッグデータを収集し、医療機関や製薬会社と連携して研究や新薬の調査に役立てています。

 

現在、約6万枚の画像データと約5万件のコメントデータが蓄積されており、このビッグデータは今後のアトピー治療において重要な役割を果たすと考えています。

 

そして、アプリの利用者の声をもとに、今後もサービスの改善を続け、さらなるユーザー体験の向上を目指しています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私自身がアトピー性皮膚炎や喘息、鼻炎などのアレルギー疾患に長年苦しんできたことが、この事業を始めた最大のきっかけです。特にアトピーは、肌に直接影響が出るため、日常生活や社会生活において非常に大きなストレスをもたらします。こうした経験から、アトピー患者の生活を少しでも楽にするサービスを提供したいと考えました。

 

具体的には、2017年に子供が生まれ、育児休暇を取った際に、ペインが深いアトピーに特化したサービスを考えはじめました。そして、アトピー患者さんにヒアリングやアンケートを重ねる中で、日常的に症状管理をしたり、匿名で悩みをシェアできるツールが必要だと感じ、「アトピヨ」を開発することに決めました。

 

アプリを開発する際には、患者自身が症状を写真で記録できる機能を中心に設計しました。アトピーの症状は日によって変動しやすいため、客観的な記録がないと症状の悪化や改善を把握するのが難しいからです。スマホのアプリで写真を撮って記録するだけで、患者自身も症状を把握しやすくなり、適切なタイミングで治療を受ける助けになります。

 

 「患者に寄り添う」サービスへのこだわりと技術的な壁

仕事におけるこだわりを教えてください。

私が最もこだわっているのは、「患者に寄り添うこと」です。アトピー性皮膚炎を持つ患者の多くは、日常的に肌の状態に気を遣いながら生活しており、社会的なストレスを抱え、外見に対するコンプレックスを抱えていることもあります。

 

そこで、アプリのデザインや機能には、患者が安心して使えるような工夫を凝らしています。たとえば、症状の写真を記録する際、顔写真を非公開にするなど、患者のプライバシーに配慮した機能を導入しています。

 

そして、アプリの匿名性を高め、患者同士が気軽に悩みを共有できる場を提供することで、精神的なサポートも機能するようにしています。

 

アトピーに関して必要な情報や治療はそれぞれ異なるため、6万枚の投稿の中から同じ症状を検索したり、患者同士が直接コミュニケーションを取ることで、自分に合った情報を得られることが非常に重要です。

 

さらに、プラットフォームとしての価値を高めるため、医学的なデータや情報提供にも力を入れており、製薬会社や医療機関との連携を積極的に進めています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

これまでに直面した最も大きな壁は、アプリの開発です。アプリの開発に際して外部のプログラマーを探すことに苦労し、最終的には、オンラインスクールでアプリのプログラミングを学びながら、初めてのアプリを自分で開発することにしました。

 

試行錯誤を重ね、最終的に完成まで7ヶ月かかりましたが、開発中は常に『リリースしても使われないのではないか』という不安を抱えていました。

 

また、アプリをリリースした後、個人開発からチーム開発へと移行する際にも大きな壁がありました。具体的には、アンドロイド対応版を開発する必要があったことや、データベースの移行作業に多くの時間と労力を要したことです。

 

特に、アプリに蓄積されたユーザーデータを安全に移行し、かつサービスの品質を保ちながら進めることが大きなプレッシャーでした。しかし、この壁を乗り越えることで、アプリのユーザビリティを向上させ、より多くの患者に利用してもらえるサービスへと成長させることができました。

 

アトピー患者を支える「希望」と未来への挑戦

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

私がこの仕事を続けるモチベーションは、毎日ユーザーが投稿を続けてくれていることです。この結果、2018年のリリースから6年間で、投稿画像は6万枚を超えました。

 

そして、ユーザーから「自分だけではなかった」「他の人の経験を見て励まされた」という声を聞くたびに、このサービスを作って良かったと実感しています。アトピーを持つ方は、日常生活において他者との違いを感じやすく、孤立してしまうこともあります。

 

しかし、アトピヨを通じて他の患者とつながり、自分と同じ悩みを共有できることがわかると、患者は大きな安心感を得ることができます。

 

また、医療機関との共同研究や製薬会社との連携を通じて、アトピーに関するビッグデータやプラットフォームがアトピー患者の実態の把握に貢献していることも私のモチベーションの一つです。

 

ビッグデータは今後のアトピー分野の調査や研究において非常に貴重なリソースであり、患者一人ひとりの症状に合った治療法の開発に役立つことを期待しています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

今後の展望として、まずアトピヨの英語版をリリースし、海外展開を進めていきたいと考えています。

 

特にアメリカではアトピー患者が3,160万人に上ると言われており、日本の120万人と比較すると、その多さが際立っています。2024年10月からカリフォルニア大学バークレー校が実施しているアクセラレーションプログラムSKYDECKに参加し、アメリカ版アトピヨのリリースに向けた準備を進めています。

 

このプログラムを活用して、現地の医師・学生とも協力しながら、アメリカの患者に最適化されたサービスを展開していきます。

 

また、現在、日本の7つの大学病院・国立病院と連携したビックデータ解析を進め、今後、複数の論文発表を予定しています。この研究成果を活用し、アプリの技術面でも大きな進化を目指しています。例えば、患者がスマホアプリで撮った1枚の写真にAI画像解析を活用することで、誰でも簡単に自身の重症度を把握できるようになるかもしれません。

 

こういった技術を活用することで、患者は早期に適切な治療を受けることができ、重症化を防ぐ手助けになると考えています。

 

小さく始め、動き続けること

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

起業を目指している方へのアドバイスとして、「小さく始めること」と「動き続けること」をお勧めします。

 

私自身も最初は個人での開発から始め、ボランティア活動として進めていました。いきなり大きなリスクを取るのではなく、まずは小さなステップを踏んで、実際にプロダクトやサービスが機能するかどうかを確認しながら進めていきました。

 

また、どんなに素晴らしいアイデアがあっても、それを実行に移さなければ何も変わりません。さらに、常に新しいサービスや知識やスキルを積極的に取り入れていくことも起業の手助けになるかもしれません。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:赤穂亮太郎 氏

アトピー、喘息、鼻炎という3つのアレルギー疾患の経験から、患者会でボランティア活動に従事。アトピーの方へのヒアリング、薬剤師である赤穂晶子の見解、プログラマーの指導・監修を受け、自ら本アプリを開発。慶応義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了後、公認会計士試験に合格。EY新日本有限責任監査法人、株式会社レノバを経て、アトピヨ合同会社を設立。

 

企業情報

法人名

アトピヨ合同会社

HP

https://www.atopiyo.com/

設立

2021年3月15日

事業内容

アトピー性皮膚炎分野におけるソフトウェアの開発、情報処理・情報提供サービス、調査・研究・製品開発・疾患啓発の支援

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