株式会社 esa 代表取締役社長 黒川周⼦

株式会社 esaは、これまでリサイクルが困難とされてきた複合プラスチックを分離せずに再生する独自技術を開発し、社会実装に取り組むスタートアップです。自動車業界や包装資材業界を中心に、高品質な再生材を提供しています。代表取締役社長の黒川周⼦氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。

 

複合プラスチックを再生し、社会課題の解決に挑む

事業の内容をお聞かせください

私たちは、独自のプラスチック再生技術を活用し、これまでリサイクルが困難だった複合プラスチックを再生する事業を展開しています。

 

複合プラスチックは、機能性を高めるために異なる種類のプラスチックを薄く重ね合わせて作られており、目に見えないほど薄いレイヤーで接着されているため、従来は分離・再資源化が困難でした。

 

私たちは、分離工程を必要としない独自プロセスを開発し、複合プラスチックをそのまま再生材として活用できる(マテリアルリサイクルする)仕組みを構築しています。現在はこの技術を社会実装する段階にあり、実際の製品やサプライチェーンでの活用に取り組んでいます。

 

私たちの事業の目的は、プラスチック使用量の削減とCO2排出量の低減を通じて、循環型経済の実現に貢献することです。私たちは、ビジネスとして成立させながら、社会課題の解決につなげていく事業に育てていきたいと考えています。

 

再生材は用途によってはバージン材と同一ではない側面もありますが、用途に応じた設計を行うことで、十分な実用性を確保できます。再生材を使用することで企業のESGスコア向上につながり、サステナビリティへの取り組みを分かりやすく示すことができます。

 

また、LCA(ライフサイクルアセスメント)の視点でも、再生材はバージン材と比べて製造から廃棄までの環境負荷が小さい素材であることが評価されています。

 

そのため、私たちは「妥協して再生材を使う」のではなく、「再生材を使っているからこそ語れる価値がある」という提案をお客様に行っています。

 

企業としての最終的なメリットを考えると、再生材を使うメリットの方が大きくなると考えています。実際に私たちのお客様は、将来を見越して新しい素材として最先端の取り組みを進めていらっしゃいます。

 

また、一般消費者にとっても、機能が劣らず価格も大きく変わらないのであれば、環境に配慮した商品を選びたいという意識が高まっており、再生材が選ばれる理由の1つになっています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

共同創業者3人でこの事業を立ち上げたのですが、そのうち2人がプラスチック業界出身だったことがきっかけとなりました。

 

もともと3人とも海外で生活しており、出会いもヨーロッパでした。ヨーロッパは環境規制やリサイクルに関する制度が進んでおり、私たちの事業にとって追い風となる地域です。

 

しかし、日本はまだ複合プラスチックのリサイクルが十分に進んでおらず、だからこそチャンスがあると考え、あえて日本での起業を選びました。

 

また、日本企業が排出する製造端材は品質管理が徹底されており、丁寧に処理されているため、質の高い再生樹脂を生み出せる可能性がある点も魅力でした。

 

この会社を立ち上げる前にもいくつか企業を経営していましたが、コロナ禍に入り、共同創業者の間でじっくり話す時間ができました。

 

何度も話し合いを重ねる中で、「リサイクル技術をさらに進化させ、社会に届けたい」という想いが一致し、2022年に株式会社esaを立ち上げました。

 

 

変化を前向きに捉え、柔軟に対応する

仕事におけるこだわりを教えてください。

私が大切にしている考え方の一つは、「何事にもこだわりすぎないこと」です。

 

自分の考えに固執してしまうと、どうしても視野が狭くなり、柔軟な発想ができなくなってしまいます。だからこそ、他者からのアドバイスや助言、環境の変化については、できる限り前向きに受け止めるよう意識しています。

 

この姿勢は、お客様や他の企業様と関わる際にも同じです。たとえ自分たちが良いと考えて開発したものであっても、お客様にとって使いづらければ、価値としては成立しません。

 

これは絶対に良いものですと押し付けるのではなく、お客様と対話を重ねながら、より良い形を一緒に作っていくことを大切にしています。

 

そうした柔軟さと伴走する姿勢こそが、事業を前に進める原動力だと考えています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

新しい技術への理解を得ることの難しさです。

 

再生材を世の中に広めていくのは簡単ではありません。従来はバージン材を使うのが当たり前でしたが、実は再生樹脂自体は既に身近なところで使われています。ペットボトルのような単一素材のリサイクルは、皆さまもご存知だと思います。

 

ただ、私たちが開発したのは、何層にもなった複合プラスチックをリサイクルする技術です。

 

こうした再生樹脂を見たことがない方がほとんどであるため、「どのように使えばよいのかわからない」など活用方法に悩まれるお客様のお声を多くいただきました。

 

そのため、私たち自身で実際に製品を試作するなど、当初は想定していなかったことにも取り組む場面が数多くあり、常に試行錯誤を重ねています。

 

 

支援者への恩返しは成果を出し続けること

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

応援してくださる方々への責任感と、志を同じくする仲間と切磋琢磨できる環境です。

 

資金調達をしており、私たちの技術やビジネスモデルに期待を寄せてくださり、応援してくださる方々がたくさんいらっしゃいます。その方たちに応援していただいている以上、成果をしっかりお見せする必要があると感じています。

 

同時に、スタートアップならではの楽しさもあります。自分たちの好きなことに取り組み、志を共有できる仲間と毎日切磋琢磨しながら働けることは、非常に幸せだと感じています。

 

その中でも最近特に嬉しかったのは、京都大学と約2年間かけて共同研究していた内容が学術的に認められたことです。

 

この研究では、複合プラスチックの再生によって、バージン材と比べてCO2排出量が8割以上削減できることや、環境・健康負荷の低減効果を明らかにすることができました。

 

私たちは専門家ではないため、社会に必要なのではないかと漠然と思っていることを自分たちだけで証明する力はありません。それを京都大学の先生方と一緒に研究し、客観的な評価を得られたことは、企業として大きな意義があったと感じています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

ヨーロッパを中心としたグローバル展開を進めるとともに、一般消費者の皆さまに私たちの再生材を使った製品を手に取っていただける機会を増やしていきたいと考えています。

 

複合材の再生を中心とした私たちの事業は、まだまだ市場が開かれていません。そのために現在は、様々な分野の企業様と協力して様々なプロジェクトを進めており、これらの取り組みを一般の方々にお披露目できる日を楽しみにしています。

 

グローバル展開については、2つの世界基準のアクセラレータープログラムに採択されました。1つは平等や多様性、環境、サステナビリティなど全てを包括するプログラムです。

 

もう1つは欧州気候変動に関するプログラムです。どちらも気候変動やサステナビリティの中心地であるヨーロッパやアメリカで活動されているため、規制面で追い風となるヨーロッパ市場への展開を目指しています。

 

私たちesaは原料メーカーですので、自社で製品を作るのは限られていますが、一般消費者向けの消費財を製造する企業様に原料として採用していただき、再生材が当たり前に選ばれる社会を実現していきたいと思っています。

 

 

不安な要素を1つずつ解消し進んでいく

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

起業には不安がつきものです。今、国の政策としてもスタートアップを応援しようという機運が高まっています。ですが、資金の問題、人材の問題、オフィスをどこに構えるかなど、なかなか起業を思い切れない方もいらっしゃると思います。私自身、同じ悩みを抱えていました。

 

そうした悩みに対し、現在は政府や民間の機関が様々なサポートを提供してくれる環境が整ってきています。支援を活用しながら、何をどのように実行して夢を叶えていくのか、課題を1つずつクリアにしていくことをお勧めします。

 

現実的な話になりますが、起業しても資金や気力が続かないというケースも多いです。

 

だからこそ、最後は「やるかやらないか」の決断になりますが、その前に不安な要素を1つずつ解消しながら着実に進んでいくことが大切だと思います。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:黒川周⼦

ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ 社会人類学部 学士取得。2004年渡米、アパレル企業勤務。2008年独立、くろかわちかこ事務所設立。2011年東日本大震災を契機に、2012年にチームカーネーションズを共同設立。環境保全や教育に注力した活動を行う。2013年株式会社ベイクウェル設立。2022年3月株式会社esa創業、共同代表に就任。2022年より、東京都きらりプロジェクト推進委員。江戸東京の伝統ある技や老舗の産品等を新たな視点で磨きをかけ、その価値と魅力を国内外に発信。伝統の技の継承の実現を目指す。

 

企業情報

法人名

株式会社 esa

HP

https://esa-gl.com/

設立

2022年3⽉

事業内容

  • プラスチック廃棄物のリサイクル
  • プラスチックペレットの加工・販売
  • プラスチック製品の開発・販売
  • リサイクルコンサルティング
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