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株式会社LIFE FAB 代表取締役 石川 泰
「日本社会全体に漂う、将来への経済的な不安を解決したい」、その思いから資産を統合管理するプラットフォーム「L-FAB」を開発した株式会社LIFE FAB。今回は同社の代表取締役を務める石川 泰氏に起業の経緯や今後の展望、さらに仕事におけるこだわりなどをお聞きしました。
公的年金や企業年金退職金を統合管理し、将来資産を可視化
事業の内容をお聞かせください
弊社は公的年金から私的年金、退職一時金を統合管理し、会社ごとの賃金モデルを統計解析することで、将来の資産を可視化し、1人ひとりの人生に最適化したNISAや保険、iDeCoなどの制度活用を管理、支援するプラットフォーム「L-FAB」を提供しています。
近年、ファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-being)、つまり経済的に安心して生活できる幸福という概念が、米国を中心として関心が高まっています。特に日本ではこの経済的な安心が得られていない人が多いのではないかと考え、社会的な課題を解決する基盤を目指して「L-FAB」を開発しました。
「L-FAB」の特徴は、①企業に属した際の昇給モデルを解析することでの資産形成の意思決定をサポートすることと➁公的年金から私的年金、退職一時金、NISAなどの各制度のロケーションを統合管理できることです。
①については、各企業様に導入させていただくことで、従業員の方は「自分が求める生活を実現するには、どのようなキャリア形成を目指し、どの制度を活用して将来に備えればよいのか」を一目で理解することができます。
具体的には、各企業の人事制度や報酬体系、個人の退職一時金の情報も取り込むことで、「このままのキャリアコースを歩んでいけば、将来の資産が幾らになるのか」といった問いにも答えることができます。求める生活水準を手に入れるためにキャリアアップを望む人にとっては、具体的にどの役職を目指すべきかの指標にもなります。
②については、従来の資産管理だと、一旦NISAを始めると決めたなら、金融機関の担当者はその中でどの商品が適しているかをアドバイスしてくれます。また数ある保険商品の中で自分に合ったものがどれかは、保険会社の担当者が教えてくれるでしょう。
しかし、各個人の将来的な年金額や退職金などの情報をすべて把握したうえで、「あなたはこの制度に幾ら加入しておけば安心です」と答えてくれる人はこれまでいませんでした。「L-FAB」であれば、いくつかの簡単な質問に回答していくだけで、自分にとって最適な資産管理の方法を示してくれるのです。
さらに、企業の健康保険組合や公的保障のデータを組み合わせて、病気や災害のときに必要なお金までを1つのプラットフォーム上でフォローができるようになります※。
※現在開発中
このように「L-FAB」は、現在のお金と将来のお金、そして万が一のときのお金という3つの軸で、ユーザーのファイナンシャル・ウェルビーイングを実現できるプロダクトになっています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
「日本人が抱える老後への不安を解消する」というミッションを実現するには起業の道しかなかったというのが、事業を立ち上げた理由です。
スウェーデンやオランダなどの先進諸外国では、将来の年金を可視化するシステムは国主導で開発・提供を行っています。
しかし、公的年金だけでなくNISAを始めとした投資商品や、労使合意で決まる退職一時金、確定拠出年金など、あらゆる選択肢をすべて国がカバーするのは法的に難しいのが現実です。
そこで、社内で企画書を上げて上司に相談したのですが、すぐには判断ができないと難色を示されました。結果として「もう起業して自分の会社でやるしかない」という結論に至りました。
ですから、私自身には本来「起業したい」「経営者になりたい」といった個人的な野心は全くありません。ただ、このビジネスプランを世に広めるためにはどうすればよいか追求した結果、この道しか残されていなかっただけなのです。
前職では特に不満はありませんでしたが、社会的意義という基準における仕事の重要度を考えたときに、フラットに判断して現在の事業を優先しました。今も自分の決断に後悔はありません。
絶対にぶれない、「中立」の姿勢
仕事におけるこだわりを教えてください。
初心を忘れないことは、常に意識しています。
我々の場合の初心とは、中立の立場で事業を運営することです。商品やサービスを売ることで報酬を得るのではなく、社会に必要なインフラを整備するという志で事業を立ち上げおり、その軸は絶対にぶらさないようにしています。
実際、より収益性の高いビジネスモデルにシフトするのであれば出資したいと言ってくださった投資家の方もいましたが、そうしたお話はすべてお断りさせていただきました。
物を売るビジネス形態のほうが利益が上がりやすいことはもちろん私自身理解してはいますが、我々の目的は「老後の不安がない日本社会を実現すること」です。そのためには自社の利益を追求したビジネスモデルではなく、あくまでも顧客本位で中立な立場を守らなくてはなりません。
これからもこの前提を崩すことはありませんし、弊社のそうした姿勢が顧客からの信頼に繋がっているのだと考えています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
もっとも苦労をしたのは、やはり開発の部分です。ニーズの高いプロダクトであるにも関わらず、年金などを可視化するシステムがこれまで存在しなかった理由は、やはり開発が困難だからでしょう。
特に我々の場合、「老後の不安のない日本社会の実現」をミッションとして掲げていますが、この内容に終始したプロダクトを提示しても、企業側にはメリットを感じてもらえません。そこから発展させて、従業員のキャリア形成など、いかに人事の領域で有益なプロダクトにするかを考えていく必要があったのです。
そのため着手する前には「開発期間は2年くらいだろう」と予想していましたが、実際に取り掛かってみると、企業の人事やユーザーの意見を落とし込んでいく作業に膨大な時間と労力がかかり、予想を遥かに上回る期間を要してしまいました。
さらに企業側の意見を反映して開発したはずのプロダクトが、いざ導入検討へ進めようとすると、そこで話がうやむやになってしてしまうケースもあります。「こんなシステムがあれば便利だな」という理想と、実際に予算をかけられるかどうかは別問題なのでしょう。
また、何か月もかけて開発してきたプロダクトの行き場が無くなって脱力することもありますが、私は開発にかけた時間と労力が無駄になったとは決して思っていません。
試行錯誤を重ねてすでに200を超すバージョンを製作した実績があるため、今ではリクエストをいただいてから1週間程で、顧客の要望にシステムをアジャストさせるだけのノウハウが蓄積されています。
これまで開発で苦労してきた分、今後に向けてスピード感を持って動ける体制が整ったと考えています。
やると決めたなら、後は行動するだけ
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
実のところ、私にはモチベーションという概念はありません。「年金を可視化したプロダクトを、日本のインフラにする」というのは、自分の中ですでに決まったことですから、あとはただ粛々と行動するだけです。
朝、目が覚めてすぐに仕事のことを考え、起きている間は全ての時間と労力を仕事に費やし、夜寝るときには支えてくれる人たちや、今この仕事ができていることに感謝して眠りにつく。この4年間はただひたすら、そのライフサイクルの繰り返しです。
前職に留まっていたら相応の報酬が得られていたでしょうし、プライベートでもより充実した時間が過ごせていた可能性はありますが、今の私にとっては、このビジネスプランをいかに世に送りだすかがすべてなのです。
この事業はモチベーションがあるから頑張れるという類のことではなく、全てを捧げても必ず実現しなくてはならない使命だと認識しています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
大きな枠組みで語るなら、「見通しが立つ日本社会の実現」のために、私は金融の視点から自分ができることをやりたいと考えています。
「L-FAB」の普及もその一環で、このプロダクトによって1人でも多くの人の将来への不安が解消できればと願って、この事業に注力しています。具体的な数値としては、2025年4月から複数の企業での導入開始を見込んでおりまして、今期は導入企業を500社獲得、来期で3,000社、さらに次は5,000社といった目標も打ち立て、現在励んでいる最中です。
ただ、そういった会社の事業としての展望とは別に、できるだけ多くの人に「生きていく上での本来の目的を見失ってはいけない」というお話を伝えていきたいという、個人的な想いがあります。
特に現代においては、もはや資産形成そのものが目的になってしまっている人が多いと感じるのですが、本来であればお金やプライベートのあり方も、すべて最上位概念である「幸せに生きること」の構成要素の1つに過ぎないはずなのです。
お金の不安の解消については弊社のプロダクトを役立ててもらって、どの人にも「幸せとは何か」を見失わずにいて欲しいと願っています。
起業家が「やる」と決めたなら、その考えは絶対に正しい
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
起業家が何かをやると決めたら、その考えは絶対に正しいということを忘れないで欲しいです。
アイデアの実現に対して、色々と否定的な意見を言う人もいるでしょう。しかし、そんな言葉に耳を貸す必要はありません。起業家が考えるべきなのは、自分が決めた目標をいかに達成するのかということだけで、ネガティブな意見など気に留める必要はないのです。
もちろん、他の人からのアドバイスは大切ですし、私も有難く受け取っています。しかしそれは事業を成功させるために有益なものに限っていて、やらない理由を押し付けるような意見は一顧だにしません。
自分がやろうとしていることは絶対に正しいと、すべての起業家に自信を持って進んでいって欲しいと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:石川 泰氏
東京理科大学を卒業後、年金業務の政令指定法人であるIICパートナーズへ入社。アクチュアリー候補として年金数理業務に従事した後、野村證券、SBIベネフィット・システムズなどで一貫して年金関連業務に従事。先進諸外国同様に将来のお金が見え、老後のお金の不安を感じない日本社会を創りたいと考え、当社を設立。その他、SBI大学院大学経営管理研究科(MBA)を卒業しており、元プロボクサー(1戦1勝1KO)。
企業情報
法人名 |
株式会社LIFE FAB |
HP |
|
設立 |
2021年1月7日 |
事業内容 |
法人向け福利厚生・金融教育サービスの開発 |
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