
AstroX株式会社 代表取締役 小田 翔武
AstroX株式会社は、日本の宇宙産業に革新をもたらすスタートアップ企業です。独自の打ち上げ方式と先進的なロケット技術を組み合わせることで、従来の小型ロケットより3分の1という低コストでの宇宙輸送を実現しようとしています。福島県南相馬市を拠点に、地域復興にも貢献しながら、急速に技術開発を進めています。IT企業の経営経験を持つ代表取締役の小田 翔武氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。
コスト効率とスピード開発を両立する革新的な宇宙事業
事業の内容をお聞かせください
「宇宙開発で”Japan as No.1″を取り戻す」というビジョンを掲げ、宇宙輸送事業を行っています。現在のメインプロダクトは「ロックーン」という少し変わった方式のロケットの開発です。
ロケット輸送事業というのは、世界的にも事業者が少ない分野です。さらに、私たちが採用している「ロックーン方式」は、世界でも当社を含めて2〜3社しか取り組んでいません。
一般的にロケットというと地上から打ち上げるものをイメージすると思いますが、ロックーン方式は気球でロケットを成層圏まで上げて、成層圏で発射するタイプのロケットです。この方式には大きく2つの利点があります。
1つ目はエネルギー効率です。通常のロケットは、地上から打ち上げる際に、空気がある高度10〜15キロメートルまでを脱出するのに最もエネルギーを使います。一方ロックーン方式では、気球を使ってほとんど空気がないところまでロケットを上げてから発射するため効率よく打ち上げられます。
2つ目は発射場所に依存しない点です。ロケットを打つには通常「スペースポート」と呼ばれる発射場が必要ですが、日本は土地が狭いので作ることができる場所が限られています。さらに、海沿いには飛行機や船が多いため打ち上げるタイミングの確保も大きな課題です。
一方、ロックーン方式では船で海に出て海の上で展開して打ち上げることもできるため、場所に依存せずどこでも打ち上げられるため高頻度での打ち上げが可能になります。
コスト面でも大きな違いがあります。現在、小型ロケットは世界平均で1機あたり約15億円ですが、私たちは3分の1以下の5億円を目指して開発を進めています。これが実現できるのは、ロックーン方式に加えて、「ハイブリッドロケット」というロケットの種類を採用しているからです。当社のCTOを務める和田は大学教授でもあり、日本のハイブリッドロケットの第一人者です。
設立して約3年ですが、ハードテック領域では非常にスピード感を持って成果を出しているとの評価をいただいています。ロックーン方式で重要となる、空中で打ちたい方向に姿勢を静止させて発射する技術も、ミニスケールながら世界で初めて成功させました。
一般的にロケットの最初の打ち上げ成功までには、10年と100億円が必要と言われていますが、私たちは3年で10億円といった目標で取り組んでいます。また打ち上げ頻度についても、年間50機といった目標を設定しています。現在、アメリカのSpaceXは年間100機以上打ち上げていますが、日本全体では年間1〜2機程度なので、かなり高頻度と言えるでしょう。
このようなスピード感で進められている要因は、私がIT系の会社を複数経営してきた経験にあります。そこで培った経営経験とスピード感を大切にする姿勢を当社でも実践しています。また、私自身が宇宙工学出身の技術者ではないため、特定の技術にこだわらず、「目的があって、それに対して何をやれば最短でできるか」を取捨選択できる点も強みになっていると思います。
事業を進める中で印象に残っていることはありますか?
私たちが福島県の南相馬市で事業を展開していることにも大きな意味があります。私たちが活動している場所は、14年前に東日本大震災によって被災した場所です。だからこそ日本の復興のシンボルとして事業を行っているといった側面もあります。
去年は8月と11月に南相馬市でロケット打ち上げを実施し、地元の方々を含め約400人の見学者が来てくださいました。打ち上げ後、震災当時から住んでいる地元の方から「14年前、この場所では全員が下を向いていた。
でも今日はロケットを見るために全員が上を向いていた。こんな日が来るとは思わなかった」という言葉をいただきました。その言葉を聞いて、私たちがいろいろなものを背負って事業を展開していることを改めて実感しました。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
以前は、IT系の会社を経営していました。IT業界で働く中で強く感じていたのは、アメリカ、特にGAFAMがインフラやプラットフォームの大半を握っているということです。何を作っても、何をやっても、彼らのプラットフォーム上で展開することになり、構造的に世界で勝つのは難しいことを痛感していました。
そういった状況の中で、数年前に世界全体の宇宙産業の成長性を知りました。日本は世界一のポテンシャルがあるにもかかわらず、結果が伴っていない状況でした。その課題としてロケットが不足していることに気づきました。「これは何とかしなければ」と思い、それまで経営していた会社を売却して、当社を立ち上げました。
6つのバリューに共感できる仲間と働く
仕事におけるこだわりを教えてください。
当社では明確なバリューを設定しています。「いいやつであろう」「失敗の数は多いほど評価」など全部で6つのバリューを掲げており、非常に大切にしています。
「いいやつであろう」というバリューは、素直で良い人といったニュアンスが強いです。具体的には、悪口を言ったり相手を萎縮させたりするのは論外で、周りのパフォーマンスを上げられる人、一緒に仕事したいと思える人であることが重要です。社内外問わず相手をリスペクトする気持ちがなければ仕事はうまくいかないので、互いにリスペクトできる関係を築くことを大切にしています。
また、「心はホットに。頭はクールに。」というバリューが個人的には好きです。情熱を持つことは大切ですが、冷静な判断力も同時に必要だと考えています。
採用においてもこの価値観は一貫しています。最終面接は私自身が担当していますが、技術評価がいくら高くても、緊急で埋めたいポジションであっても、私たちの価値観と合う人を採用するようにしています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
前職と異なる事業を行うことはさまざまな面で難しさを感じています。
ソフトウェア中心の事業を展開してきた経験からの大きな違いとして、宇宙産業では施設の確保、物資や人員の移動、必要とされる人材の規模など、あらゆる側面で大きなコストがかかります。
また、開発サイクルの長さも大きな違いです。ソフトウェアなら1週間で作ってリリースして改善していくことができますが、ハードウェアの場合は実験計画を立てても、実際の実験が半年後だったり、納品トラブルで「想定より1年遅れます」といったことが日常茶飯事です。そのため、常に複数のプロセスを並行して考える必要があります。
また、ITの時代には主にプロダクトとクライアントの関係が中心でしたが、現在の事業では地元との調整や漁業組合との協議、市役所を巻き込むような行政との連携など、総合力が問われることが多く、常に難しさを感じていますが、同時に面白さも感じられています。
宇宙開発で”Japan as No.1″を取り戻す
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
モチベーションについて、実はあまり深く考えたことはありません。それよりも、「純粋にこの事業に挑戦したい」という強い想いが最初にありました。ただ目の前の課題をどうにかしたいという気持ちで動いていたら、いつの間にか事業になっていた、という感覚です。
解決したい社会的な課題が明確にあって、それに真っすぐ向き合い続けているうちに、自然とその思いに共感してくれる仲間たちが集まり、気づけばチームになっていました。これは幼い時から好奇心が強かったことも影響しているのだと思います。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
当社のビジョンである「宇宙開発で”Japan as No.1″を取り戻す」の実現です。
そこに向けて2025年度中に、宇宙空間到達のロケットである、サブオービタルロケットの打ち上げ成功を目指しています。その先は2028年度中にオービタルロケットの成功を目標にしています。これが私たちのメインプロダクト、いわば最大のキャッシュポイントになるため、2028年度中に必ず成功させるべく日々開発を進めています。
技術開発は現在のところ順調に進んでいますが、人手が足りなかったり、開発を進めるほど解像度が上がって新たな課題が見えてくる状況です。そのため、人材の拡充にも力を入れています。
自分が1番やりたいことに挑戦する
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
自分がやりたいことに挑戦してください。
時々、小学校や中学校から講演を頼まれることがあります。その時に「親や先生など周りの大人の方に『人生で後悔していることはありますか?』と聞いてみてください」と、いつも伝えています。
すると、ほとんどの大人は「やらなかったこと」を後悔していると答えるのです。何かをやって後悔したことは意外と少なく、やらなかったことを後悔していることが多いものです。
だからこそ、とにかく「やってみる」「挑戦する」ことは大事だと伝え続けています。事業計画を立てても、実際には計画通りにいかないことがほとんどです。その時に大切なのは、続けられるかどうかなのです。自分が一番やりたいことでなければ、うまくいかない時に続けることは難しいでしょう。
貴社で働きたい方へメッセージをいただけますか?
宇宙産業は専門性がないと働けないと思われがちですが、そんなことはありません。現在、弊社の社員も非宇宙産業からの転職者が7〜8割を占めています。文系理系問わず、さまざまな業種の人材が必要です。少しでも興味を持っていただければ、カジュアル面談も実施していますので、ご連絡いただけると嬉しいです。
宇宙産業はこれから日本の一大産業に成長していく非常に面白い分野です。しかも、今の手触り感を持って事業拡大できる機会は、なかなかないと思います。興味を持ったらぜひ挑戦してみてください。
▼採用情報の詳細はこちら
https://astrox.jp/recruit/
企業向けに宇宙事業の可能性についてお話いただけますか?
現在、宇宙業界は「1990年代のIT黎明期のようだ」と言われています。かつて「IT×〇〇」があらゆる領域で展開されたように、今後5年、10年、20年で「宇宙×〇〇」が全領域に広がっていくと考えられているからです。
どの業種の方も、「宇宙」へのアンテナは張っておいた方が良いでしょう。今のうちに取り組んでおくと、ポジションを取れる領域がかなりあります。実際、多くの大企業はすでにその可能性に気づいて参入してきています。
少しでも興味を持っていただけた企業の方がいらっしゃれば、私たちと何か始めていただくのも良いですし、まずは宇宙ビジネスについてキャッチアップしていただくだけでも構いません。興味があればぜひご連絡ください。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:小田 翔武氏
関西大学環境都市工学部卒業。アーティスト活動も行いながら、IT企業など複数の企業を創業・経営し、売却を経験。2022年、幼少期からの夢だった宇宙産業に挑戦すべく、民間宇宙ベンチャー「AstroX株式会社」を設立。日本の宇宙開発における衛星打ち上げロケットの不足解消を目指し、小型ロケット開発を進めている。
企業情報
法人名 |
AstroX株式会社 |
HP |
|
設立 |
2022年5月20日 |
事業内容 |
宇宙輸送事業 |
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