株式会社Bashow 代表取締役役 程塚正史

株式会社Bashowは、車載アプリの先駆けとなるスマホアプリを開発・運用し、「新たな移動文化」をつくることを目指しています。移動しながら地域の魅力や物語に出会えるトピック案内サービスを皮切りに、移動体験そのものを変えるサービスを展開中。将来的には、誰もが車載アプリを自由につくり、利用できる基盤システムの構築も視野に入れています。
今回は代表の程塚氏に、事業を立ち上げた経緯やモチベーション、自動車やモビリティ産業の未来にかける思いを伺いました。

 

車の中から体験を届ける。車載アプリの可能性

事業の内容をお聞かせください

私たちは車載アプリ市場の基盤システムをつくることを中長期の目標に掲げ、スマホアプリを提供しています。車載アプリとは、車そのものに直接インストールされるアプリケーションのことです。将来的にはその市場規模が20兆円に達すると言われており、私たちはその土台となるシステムづくりを目指しています。

 

しかし現時点では、車メーカー以外のプレイヤーが自由に車載アプリを開発、提供できる環境が整っていないため、まずはスマホアプリとして運用をスタートしています。これからの車載アプリには、移動に付加価値を生み出すことができるようになります。私たちが移動する目的や動機は、一般的には目的地に到達することが基本としてありますが、実際にはそれだけではありません。

 

移動は、家族や恋人との時間を共有し、関係を深める機会でもあり、あるいは気分転換やリフレッシュの手段でもあります。私たちのサービスに特に関係する観点としては、移動中にその周辺の地域やお店の魅力に出会いたいと考える人も多いでしょう。こうした「関係を深める」「気分が変わる」「何かに出会う」体験を支えることが、これからの車載アプリに期待される役割だと捉えています。

 

さらに、私たちの事業は、アプリの運用そのものだけでなく、アプリから得られる利用データをAIの学習に活用し、車載アプリを支える基盤システムの構築を目指しています。

 

まず私たちは、車載アプリの先駆けとして、移動中に地域やお店などの魅力を音声で案内するトピック案内サービスを提供しています。今後は、移動中の人数や気分、場所や時間や天気などに応じて、最適なタイミング・頻度で情報を届けられるよう学習をさせていきます。

 

現在は、さいたま市や横浜市などで自治体からの支援を受け、先行的に展開しています。これは、全国展開の前にユーザーの反応や運用コストを検証するフェーズでもあったためです。今後は、こうした実績をもとに日本の都市部、そして海外へと広げていく計画です。

 

こうした車載アプリは、エンタメ性や柔軟性が求められるため、車メーカーが自社で開発するには難しさがあります。私たちは、車メーカーとアプリを作るエンタメ企業やクリエイターとの中立的な立場を取り、両者をつなぐ役割を担うことで、自由に車載アプリを開発できる環境を整えていきたいと考えています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

これからの車には車載アプリが必要不可欠になると強く感じたことがきっかけです。どんなアプリを使えるかが移動体験の質を決め、その体験が車の価値そのものに直結すると考えています。

 

前職では、日本総研でモビリティ領域のリサーチや実証に携わり、これからの自動車産業についての論文も執筆していました。また、新たな事業の創出も主要な業務のひとつとして、小型EVメーカーや車載システムメーカーの立ち上げにも携わってきました。

 

そうした取り組みの延長線上に、自ら立ち上げたのが、現在の株式会社Bashowです。車載アプリをつくる事業は、今後ますます社会に求められていくと感じています。これまであまり価値のない時間と見なされてきた移動時間を、豊かで価値あるものに変える役割を車載アプリが担います。その実現のためには、開発基盤となるシステムが不可欠です。

 

最終的な後押しになったのが、生成AIの普及でした。2023年ごろから、生成AIが一般的に使われるようになり、ビジョン実現への道のりが明確に見えるようになりました。そこから、現在の事業立ち上げを本格的に検討し、今に至ります。

常識を変え、わくわくすること

仕事におけるこだわりを教えてください。

既存の常識を変え、ワクワクするものをつくることです。20代の頃、当時は野党だった衆議院議員秘書として働いていました。2009年の政権交代を機に退職しましたが、変化を起こす立場に身を置くことが心地よく、性に合っていたと感じています。

 

それは、いま自動車産業という大きな産業構造のなかで、当たり前と言われているものに対して新しい視点を投げかける現在のスタンスにもつながっていると思います。平たく言えば、チャレンジャーポジションが好きです。現状を是認するのではなく、新しい何かを模索し続けていたいと考えています。

 

車載アプリの分野は、中国、ヨーロッパ、アメリカと海外ではすでに常識となりつつある一方で、日本ではまだ慎重な姿勢も見られます。ただ、国内にもこの領域に大きな可能性を感じている方々は少なからずおり、現在、そうした方々との対話や連携に向けた動きも進めているところです。

 

常識を変えるだけでなく、その先にワクワクする取り組みができるか。その視点も大切にしながら、今の仕事に取り組んでいます。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

正直に言えば、現時点で「これが最大の壁だ」と言えるものはまだないような気がします。もちろん、ユーザーの獲得やシステムの安定運用など、難しい課題は多々ありました。しかし、創業からまだ約1年ですし、そうした課題を大きな壁と捉えてしまうのはまだ早いと思っています。

 

むしろ、本当に大きな壁は、まだまだこれから現れるように思いますし、いつまで経ってもそう言っていたいと思います。たとえ80歳になっても、「最大の壁はこれからだ」と言い続けられるような、挑戦を続ける姿勢でいたいと考えています。

新たな移動文化。ご機嫌な組織が体験を変えていく

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

モチベーションは、ひとつに絞らず複数持つことが大切だと考えています。利用者の皆さんに楽しくサービスを使ってほしいとの気持ちも主な原動力の一つです。実際にサービスを使った方から楽しかったと言っていただけると、やはりすごく嬉しいです。

 

しかしそれだけではなく、もう少し抽象的に、車載アプリの普及や、デジタルコンテンツによる移動体験の付加価値化など、自分が描いてきたビジョンを実現したい想いも、常に根底にあります。

 

ときには車載アプリの可能性について、否定的な声をいただくこともあります。そうした意見に接すると、むしろ「よっしゃ、もっとがんばって見返してやろう」という気持ちになりますし、それも推進力になっています。

 

複数のモチベーションの源泉があることが大事で、もちろんスタートアップとして成功すれば経済的なリターンもありますし、「かっこいい父親でいたい」というのも大事な要素です。

 

大変なときこそ「今日はこれが原動力だ」と、そのときの気持ちに合ったモチベーションを頼りに進むことができるので、複数のやる気の源泉を持つことが大切だと思っています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

まずは、現在運用しているサービスをさらに多くの方に届けていきたいと考えています。

 

ありがたいことに、すでに約1,000人以上の方々にご利用いただいており、手応えも感じています。自分で言うのもなんですが、本当に良いサービスだと思っています。だからこそ、もっと多くの人にその価値を知ってもらい、将来的には世界中で活用されるサービスへと成長させていきたいと考えています。

 

私たちのビジョンは、新たな移動文化をつくることです。移動中に目的地へ向かうだけでなく、周囲の魅力を感じながら移動することが当たり前になるような文化を創りたいです。

 

その実現のためにも、まずは今のサービスをしっかり拡大していくことが、最も注力していることです。さらにその先には、サービスを通じて蓄積されるデータを学習セットとして活用し、新たな基盤システムを構築したいとの展望があります。その基盤を使い、これから登場してくる車載アプリ開発者の方々に使ってもらえる環境を整えていきます。

 

中長期的には、車載アプリ市場の立ち上げに貢献し、この市場は我々が立ち上げたと胸を張れる存在になりたいと考えています。

 

そして組織づくりにも力を入れていきたいです。間もなく次の資金調達イベントがあり、組織の規模も拡大していく段階です。そんな中で目指しているのは、ご機嫌な組織をつくることです。

 

以前、他の経営者の方から聞いた「月曜日に会社へ行くのがワクワクする組織にしたい」という言葉がすごく印象に残っていて、まさにそうした場を実現したいと考えています。楽しく、ポジティブな空気のなかで、新しい移動文化を一緒に創っていける仲間が集まる会社を目指します。

最悪は準備しておくもの、最善は目指すもの

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

創業前からずっと感じていたことですが、新しいプロジェクトや仕事を始めると、毎回のように思っていた以上に大変だと感じます。実際に手を動かしてみて初めて、面倒なことや想定外の苦労が見えてきます。しかし、たいていのことは実際に取り組むと何とかなったりします。

 

始める前から考えすぎないようにするのも大切だと思います。確かに不安や迷いはつきものですが、あまり深く思い悩まず、まずは一歩を踏み出してみることが何より重要だと思います。

 

一方で、何かを始めるときには最悪の事態も考えておくべきだと思っています。起業の際も、成功する自信はありますが、絶対にうまくいくわけではないという認識もあります。それでも、最悪のことを考えておくと、むしろ気持ちが軽くなる気がします。最悪の事態が起きたとしてもだいたいのことは何とかなるという気持ちになれます。

 

最善のシナリオと最悪のシナリオの両方を事前にシミュレーションしておくことで、いざというときも落ち着いて対処できますし、前向きに物事を進められるようになるのではないかと思っています。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:程塚正史

Bashow設立直前の2024年3月末まで10年ほどシンクタンクの日本総研にて自動車/モビリティ領域の研究員を務め、中国市場の動向分析を得意としつつ4つの新事業創出を主導するとともに、車載アプリの普及によるモビリティ産業の変化の蓋然性や方向性に関して論文や書籍等で繰り返し情報発信。その内容を自ら実現するため、2024年4月に株式会社Bashowを設立、代表取締役に就任。東京大学法学部卒、同大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。衆院議員秘書、戦略コンサル、シンクタンクを経て現職

企業情報

法人名

株式会社Bashow

HP

https://bashow.co.jp/

設立

2024年4月

事業内容

移動体験を豊かにするサービスの開発・運営、およびその関連コンサルティング事業

送る 送る

関連記事