【#465】「髪が崩れたらもう直せない」から解放する。ヘアアイロンのレンタルスポット「ReCute」が変える日常|代表取締役社長 山下 萌々夏(株式会社ReCute)

株式会社ReCute 代表取締役社長 山下 萌々夏
株式会社ReCuteは、ヘアアイロンのレンタルスポット「ReCute」を展開する企業です。商業施設のお化粧室を中心に、人気ブランドのヘアアイロンを設置し、モバイルアプリで簡単にレンタルできる仕組みを構築。日常動線上で気軽に身だしなみを整えられる環境を提供しています。代表取締役社長の山下 萌々夏氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。
「外出先で髪を直したい」に応えるヘアアイロンのレンタルスポット
事業の内容をお聞かせください
ヘアアイロンのレンタルスポット「ReCute」を展開しています。商業施設の女性用お化粧室を中心に、モバイルアプリを通じて、いつでもどこでもヘアアイロンをレンタルできるサービスです。
イメージとしては、モバイルバッテリーや電動キックボードのシェアサービスのヘアアイロン版だと思っていただければわかりやすいかと思います。
主なターゲット層は20代から30代の女性で、特に都心で働く女性をメインターゲットとしています。
サービスの特徴の一つは、人気ブランドのヘアアイロンを使用していることです。女性に人気の高いメーカーのアイロンを設置しており、普段なかなか試せない高品質なアイロンを体験していただけます。
お試しで使っていただいた後、モバイルアプリで購買できる動線も用意しているため、メーカー様にとっても宣伝効果の高いサービスとして喜んでいただいています。
また、女性の普段の動線上にサービスがあることを重視しています。今までの代替手段としては、持ち運び用の小さなアイロンやネットカフェでの貸し出し、プリクラ専門店での無料貸し出しなどがありました。
ですが、そこまで行くのが面倒だったり、利用しづらい環境だったりといった課題がありました。私たちのサービスは、女性のお化粧室に設置することで、お化粧直しやトイレのついでに気軽に利用していただけるのが最大のポイントです。
利用方法は非常にシンプルです。専用アプリでQRコードを読み取り利用を開始すると、ボックスの鍵が開きレンタルできます。使用後は返却時に写真を撮っていただき、終了です。
決済もアプリ上で完結します。清掃は、週1回または隔週で行なっています。返却時の写真撮影システムによって、利用者の方が綺麗に使ってくださるため、保守運用の負担はそれほど大きくありません。
料金体系については都度払いがメインですが、昨年秋から月額利用サービスも開始しました。将来的には月額サービスにシフトしていきたいと考えており、早めにリリースして検証しているところです。
設置場所は商業施設のお化粧室がメインですが、大学からのご依頼もいただいています。また、商業施設のバックヤードにある従業員向けパウダースペースに福利厚生の一環として導入していただくケースも増えています。
今後の展開として、ヘアオイルやスタイリング剤の取り扱いも検討しています。将来的には自社でのブランド開発も検討していますが、まずは他社ブランドのヘアオイルを併設することで、利用者への利便性を高めつつ、メーカー様に対しても利用者へのマーケティングツールとしてご活用いただきたいと考えております。
実際の利用者の方からはどのような声がありますか?
「もっと設置場所を増やしてほしい」という声が1番多いです。現在の設置台数は60台ですが、この数ではまだまだ足りないといった状況です。
その他のご要望としては、予約機能を希望するお声をいただいているため、今後は事前予約も可能にしたいと考えています。
改善のご要望以外では、「こういうサービスがあったらいいと思っていました」といったお声をいただくことが本当に嬉しいです。実際にお化粧室でご利用いただいている方を見かけるなど、お客様に喜んでいただけている実感が何より励みになっています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私自身が欲しかったサービスを形にしました。中学生の頃から道端で携帯用のヘアアイロンを使うほど、ヘアアイロンが欠かせない生活をしていたのです。
起業前は、NTTコミュニケーションズで勤務し、大手企業同士が共創し新しい事業を生み出す業務に携わっていました。ただ、大手企業同士の新規事業はなかなか進展が難しく、自分自身のスキルアップも図りたいと考えていたところ、社内に新規事業を学ぶプログラムがあることを知りました。
応募したところ想像以上に楽しく、新規事業に没頭していった結果、最終的にスピンアウトに至りました。
事業アイデアを考える過程では何度かピボットも経験しましたが、最終的に行き着いたのがヘアアイロンのレンタルスポットでした。ヘアアイロンのアイデアを起案してからスピンアウトまで約1年2か月という、通常よりもかなり早いペースで進みました。
徹底したお客様ファーストを貫く
仕事におけるこだわりを教えてください。
最も重視しているのはUX、お客様が快適にサービスを利用でき、次の予定に向けて気分を高めていけるかという点です。お客様ファーストの姿勢は譲れません。
リリース初期はアプリケーションのバグやハードウェアの不具合で、鍵がうまく開かないといった問題もありました。お客様からお問い合わせをいただいた際は、なるべくお待たせせずに対応する覚悟で取り組んでいます。
それに加え、女性の心に響くデザインにこだわっています。エンジニアサイドには男性メンバーが多いのですが、デザインは女性の感性で「かわいい」と感じられるものが重要です。そのため、私が最終的な判断を行っています。
組織運営においては、全員が楽しく働ける環境を作ることを心がけています。現在、業務委託を含めて14人ほどのチームですが、私はトップダウンタイプではないため、メンバーに支えられながら、和気あいあいとした雰囲気を大切にしています。
ただし、楽しいだけでは事業は成長しないため、厳しく取り組むべき部分はしっかりと厳しく進めています。それでも一人ひとりとのコミュニケーションは重視しており、業務委託のメンバーとも定期的に1on1を実施し、仕事に対する気持ちや状況も含めて、丁寧にコミュニケーションを取るようにしています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
最大の壁は、起業に至るまでのプロセスにありました。
NTTドコモには、外部VCから資金調達できればスピンアウトを承認し、ドコモもフォローで出資するといった制度がありました。しかし、私たちの事業は検証終了間近で、社外のVCにも評価されていませんでした。
そんな中でもどうしても諦めることができず、何度もVC回りを続けた結果、私たちのビジョンに共感して投資をしてくださる企業が現れました。その結果、最終的にスピンアウトを実現できました。
このスピンアウトが決まるまでの時期が、本当につらかったです。社内からは応援されず、社外の独立系VCからも共感を得られず、共同創業者も心が折れそうになっていました。
最終的に投資してくれた企業は、違った評価をしてくれました。それまでは男性の担当者や投資家が多く、サービスの魅力を理解していただくのが難しかったのですが、その企業では女性が担当してくれたのです。サービスに共感してくれ、ニーズも理解してくれたことが大きかったと思います。
まだシードの段階でプロダクトもなく、会社員という状況でしたが、日々のコミュニケーションを重ねる中で私たちを信頼していただき、投資を決めてくださいました。
自信を持って外出できる女性を増やす
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
モチベーションは2つあります。
1つ目は、純粋に楽しいからです。このサービスを世に出して皆様に喜んでもらえることや、素晴らしいメンバーに恵まれていることが本当に幸せです。新しい市場を作って、サービスを拡大して、仲間と一緒に事業を進めていく、この過程が楽しいので頑張れています。
2つ目は、女性のエンパワーメントに貢献したいという思いです。新規事業に携わりたいと考えていた時、女性という理由で配慮される場面がありました。6年間女子校で過ごしていた私は、社会に出ても当然活躍できるものだと思っていたので、そうした現実に直面して大きなショックを受けました。
一時期は自分の価値を見失いそうになりましたが、現在の共同創業者が背中を押してくれたことで踏みとどまれました。こんな私がM&AやIPOを実現することで、女性であっても努力すれば結果を残せることを証明していきたいです。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
IPOを目指しています。そのためにはトップラインの向上が不可欠です。
現在の事業に加えて、得られたユーザーインサイトをもとにパウダールームという日常導線をビューティープラットフォーム化したり、コスメやセルフケア領域でのブランド開発、施設連携によるマーケティング支援など、複数の事業に積極的に取り組んでいきたいと考えています。
ヘアアイロンの設置スポットについては、3,500台まで拡大する計画です。外出先でも髪を巻いたり身だしなみを整えたりすることが当たり前になるような、美のインフラ作りを目指しています。
その結果として、いつでも自分に自信を持って外出できる女性を増やすことが、私たちの最終的な目標です。
一旦何も考えず挑戦してみる
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
やりたいことがあるなら、すぐに始めてみてください。
「失敗したらどうしよう」と悩んだり、リスクを考え過ぎたりするうちに、先延ばしになってしまいがちです。ですが、失敗するかどうかは、実際にやってみなければわからないものです。
一度挑戦してみて、失敗したら軌道修正してまた挑戦する。そうやって繰り返していけば、最終的にはうまくいくかもしれません。一旦何も考えずに挑戦してみてください。リスクを取ってみても、簡単に人生が終わるわけではありません。
私自身、社内ベンチャーからのスピンアウトの形でしたが、出向の選択肢もある中で、退職を選びました。たとえ失敗したとしても、どこかで生きていけるだろうと思い、決断しました。皆さんも何かあったら、きっと誰かが助けてくれるはずです。ぜひ頑張ってください。
貴社の事業に興味があるVCの方へのメッセージをいただけますか?
私たちのサービスは、CVCの皆様との連携が最適だと考えています。
特に、不動産やデベロッパーなど、実際に場所を所有されているCVCの方々とは、大きなシナジー効果が期待できます。私たちのサービスを通じて集客に繋がり、その結果として現地での購買が促進され、街全体の活性化に貢献できると考えています。
ぜひCVCの皆様にご参画いただき、一緒に新しい価値創造に取り組んでいきたいと思っています。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:山下 萌々夏氏
上智大学総合グローバル学部を卒業後、2021年にNTTコミュニケーションズ株式会社に入社。 SIer/外資企業との共創事業やドコモ顧客データ利活用案件を中心に、共創事業の創出から推進までを担当。2023年5月より「ReCute」の事業案を起案・検証し、ドコモグループ内の新規事業創出コンテストでBRONZE賞を獲得。その後「docomo STARTUP」の第5号案件として、ポーラ・オルビスホールディングスからの出資が決まり、2024年7月にドコモからスピンアウト。
企業情報
法人名 |
株式会社ReCute |
HP |
|
設立 |
2024年4月2日 |
事業内容 |
ヘアアイロンのレンタルスポット「ReCute」の企画運営 |
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