
株式会社RyuLog 代表取締役 平良美奈子
「若者が海外に出なければ、日本は沈むかもしれない」。代表取締役平良美奈子氏はそんな危機感から、留学支援を通じて企業と学生をつなぐ新しい採用の形を実現しました。学生の挑戦を応援する事業を始めたきっかけや、今後の展望について伺いました。
他にない仕組みで学生と新しい接点の構築を
事業の内容をお聞かせください
当社が展開する事業は、留学奨学金支援でつながる新卒採用のプラットフォーム「スカラシップパートナーズ」です。2025年2月にスタートし、国内トップ大学や海外大学へ進学した900名近い学生の方々にご登録いただいています。
従来の新卒採用の分野とは異なり、採用の前段階として、企業さまが学生に対して留学の奨学金を提供する点が大きな特徴です。
企業さまには「海外でビジネスを経験したい学生向け奨学金」や「女子学生向け奨学金」といったオリジナルの奨学金を作成していただき、それに学生が応募します。奨学金に応募することで企業との接点が生まれ、結果的に採用へとつながっていく流れです。
採択された奨学生は寄付企業への就職義務はなく自由ですが、自身のキャリアを支援してくれた企業との長期的な関係性が生まれます。
懸念点として「奨学金を給付するだけで終わってしまうのでは」といった企業の声をいただきますが、当社はこの活動を単なる採用施策だけではなく、第二新卒での転職や、企業の商品・サービス利用者になっていく関係性など、多様な接点を構築するブランディング手段として活用していただきたいと考えています。
単独の企業が奨学金制度を確立するにはさまざまな段取りが必要ですが、煩雑な手続きはすべて当社が代行します。企業さまには、資金を準備いただき、どういった学生を支援するのかの募集要項を、我々のフォーマットに従って作っていただきます。
支払いの方法として「先払い型」と「後払い型」の2種類を用意しており、後払い型では、採用した際の成功報酬の一部を奨学金に充てる形式ですので、初期費用がかからず、導入しやすいとご評価いただいています。1カ月ほどで掲載のご案内が可能です。
留学に行く学生は、日本国内で一番学生にお金を貸しているJASSO(日本学生支援機構)から給付型の奨学金や貸与型奨学金を借りたり、自身でローンを借り入れて費用を工面する人も少なくありません。
我々が2025年5月に実施した調査によると、約8割の学生が「留学に行きたいが、経済的な理由で留学に踏み切れない」と回答しています。こうした背景から、企業が学生を支援することの社会的意義も非常に大きいと考えています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私の出身は沖縄県です。島の中で生活が完結する、いわば外の世界を知る機会が少ない場所で育った中、学生時代に文部科学省主催の「トビタテ!留学JAPAN」の奨学金のチャンスをいただいてシンガポールに。
「こんなに経済成長している国があるのか」「アジアはここまでダイナミックに成長しているのか」と、大きな衝撃を受けました。
それと同時に、「日本は海外から取り残されているのでは」「日本の若者が海外に出て自分たちの立ち位置を正確に理解しないと、日本は沈んでしまうのでは」といった危機感を持つようになりました。22歳で起業し、留学を軸にした活動を約10年間続けてきました。
中学生の頃から漠然と起業に憧れてはいましたが、具体的には考えていませんでした。実際に海外に出た時に「なんとかしたい日本の課題」を感じた経験から、課題解決の手段として起業しようと思ったのです。
世界で学んだ学生が日本に戻り、その知見を還元できる社会になれば、それは大きな国益になる。そういった場をつくりたいとの思いが、この事業を始めたきっかけです。
4回のチーム解散と資金が底をつく苦悩の日々から
仕事におけるこだわりを教えてください。
「学生ファースト」の考え方を非常に大事にしています。
例えば採択した奨学生全員に対する事前・事後研修や丁寧な1on1面談など、直接的には本来必須ではないことも、留学の経験・価値を最大化してほしいので、しっかりと実施していきたいと考えています。
良いものを学生に提供できれば、次の後輩たちが「自分も行きたい」と思い、結果的に事業の良い循環にもつながります。
チームのメンバーにも、その姿勢はしっかり伝えています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
「留学」の軸で事業を始めた21歳から約10年、うまくいかないことの方が圧倒的に多かったです。チームも4回解散しました。それでも乗り越えて、いまこうして事業が展開できているのは、ご縁に恵まれたおかげだと思っています。
起業当初は、現在の「留学×人材」の形ではありませんでした。22歳の頃に沖縄で「RYU×RYUフェスタ」と称した留学イベントを始めたのが始まりです。
その後は「留学前」の段階として情報提供や支援、「留学中」の学生が現地マーケティングリサーチを行って企業とつながる取り組みも構想しました。ただ、すべてを事業としてうまく形にすることはできませんでした。
最大の壁は資金調達でした。私は、2016年に当時決まっていた内定を辞退して、沖縄で留学支援をやることを決めたのですが、コロナの影響もあり事業は思うように進みませんでした。
そんな中で、沖縄に移住された有名な実業家の方々とお会いするタイミングがあり、「留学をやりたいなら東京に行け。出資するから」と背中を押していただき、2021年に上京しました。
そこから事業を立ち上げたものの、1年半で資金が尽きます。チームも解散し、一人になった時期もありました。
留学奨学金のアイデアを引っ提げてVCを回り、ある投資家の方に構想を評価していただくことができました。スピード感を持って資金を提供いただき、その1年後にもほかの投資家の方からご支援をいただき、今に至ります。
正直なところ、砕けては、なんとか立て直し、誰かが拾ってくれてここまで来れた実感があります。
若者全員が留学する社会の実現にむけて
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
「始めたからにはやりきる」との気持ちは常にあります。モチベーションより、使命感の方がしっくりくるかもしれません。自分自身が一番信じている価値を社会に届けるために、との思いがあります。
日本人にとっての留学の意義は、すごく大きいと考えています。単一民族として育ってきた日本人が、外の世界に触れることで得られる価値は、他国の学生が留学することとはまた違う深さがあります。
その経験がこれからの日本にとって必ずプラスになる。今の時代にやらなければ、50年後の日本はどうなってしまうんだろう、との危機感も強くあります。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
国内の求人の数だけ奨学金が存在する、そんな状態を実現します。まずは自信を持って海外に飛び出す若者を一人でも増やし、究極的には「日本人全員が一度は海外に留学する」社会を実現できたら、日本の経済も、もう一度上向きになっていけるのでは、と思っています。
企業にサービスのご案内を始めてまだ数ヶ月ほどですが、すでに「留学経験のある優秀な学生を採用したい」と考える多くの企業さまにご検討いただいています。
学生の母数自体が限られている中で、優秀な人材を巡る競争はどんどん激化しており、従来の採用手法では費用対効果が見合わないと感じておられる企業も少なくありません。そうした企業に向けて、新しい形の採用サービスとしてご提案しています。
起業は目的ではなく成し遂げるための手段
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
自分自身、正直「上手な起業家」だとは思っていません。事業の手段や形ではなく、目の前にある課題にこだわりながら、ここまでやってきたタイプだと思います。
最近は「短期間で成功した起業家」がフォーカスされがちですが、そうした成功がすべてではありません。起業は本来、自分が成し遂げたいことを実現するための手段だと考えています。起業をゴールにせず、やりたいことを達成するための一つの選択肢として捉えてほしいと思います。
それ以上に大事なのは「課題を見つける力」だと思います。今の社会にはどんな違和感があるのか、何が足りていないのか、そこに気づいて問いを持ち続けることが、起業において何より重要な力ではないでしょうか。
御社に関心のある起業に一言お願いします
「奨学金支援」から始めるアプローチによって実現できることはいくつかあります。
1つ目は、学生側への認知が十分でない企業様にとっての新しい接点づくりです。ただ求人情報を掲載して待っているだけでは、なかなか応募に至らないケースもありますが、奨学金支援のアプローチをとることで、学生から前向きに応募してくれます。支援を通じて信頼関係を築くことは、お金の使い方としても大きな意味があると考えています。
2つ目は、海外留学を志望する優秀な学生との出会いの場としての活用です。我々のプラットフォームには、海外への意欲を持った学生が登録しています。将来性のある若者たちと出会いたいと考える企業様にとっては、非常に有益だと考えています。
今の日本において、学生への支援はとても重要なテーマです。国がこうすべき、と声を上げるのは簡単ですが、すぐに制度が変わるわけではありません。
だからこそ、我々が若者たちをスピーディーに支援できる仕組みを用意しています。取り組みに共感いただき、今の学生たちにバトンを渡していける、そんな企業様とご一緒できればと願っています。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:平良美奈子 氏
文部科学省の留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」2期生としてアジアでの留学体験を経て、日本の学生が留学することの重要性と緊急性を認識し、沖縄で起業。以来、多数の留学イベントを開催、累計4,000人を動員した実績を持つ。その後RyuLogを起業し、「誰もが海を超え 世界へ挑める時代を創造する」をミッションに掲げ、奨学金プラットフォーム「スカラシップパートナーズ」と新卒紹介事業を展開。
企業情報
法人名 |
株式会社RyuLog |
HP |
|
設立 |
2021年6月 |
事業内容 |
留学特化の奨学金プラットフォーム「スカラシップパートナーズ」運営 |
沿革 |
2021年6月 株式会社RyuLog設立 2025年1月 初の留学奨学金募集開始 2025年6月 第一期スカラシップ生10名の採択決定 |
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