株式会社NearMe 代表取締役社長 髙原 幸一郎

株式会社NearMeは、人と地域に寄り添うソーシャルデザインカンパニーです。主力サービスは、空港向けの予約制タクシーシェア乗りサービス『エアポートシャトル』で、手頃な価格でのドア・ツー・ドア移動を実現しています。約100万人が予約する規模に成長し、移動を起点として地域を豊かにするサービス創出を目指しています。​​代表取締役社長の髙原 幸一郎氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。

 

地域課題を解決するタクシーのシェア乗りサービス

事業の内容をお聞かせください

私たちは様々な地域課題に向き合うスタートアップとして会社を立ち上げ、現在はモビリティ分野での課題解決に取り組んでいます。

 

具体的には、予約制のタクシーシェア乗りサービスです。AIを活用して1台に複数人を効率的に乗り合わせる仕組みで、現在は主に空港へのドア・ツー・ドア移動サービス『エアポートシャトル』を展開しています。例えば都内から羽田空港まで約3,000円で、複数人で乗り合いながらドア・ツー・ドアで移動できます。

 

既存のタクシー配車アプリとの違いとしては、解決したい課題が異なります。タクシーの配車アプリは基本的に「今すぐ乗りたい」といったタクシー利用者のニーズに応え、利便性を向上させるサービスです。

 

しかし、移動の課題を見た時に、タクシー利用者は公共交通機関を使う人のうち約4%に過ぎません。残りの96%は電車やバス、地方では自家用車を使う人たちで、移動の課題はそちらの方が大きいと考えています。私たちは基本的にタクシーを普段利用しない層の課題に向き合っており、対象者が大きく違います。

 

他の相違点としては、即時配車ではなく予約制で、空間をシェアして複数人で利用するサービスであることです。1人1台で即時配車するサービスとは、棲み分けをしています。

 

 

法人向けにはどのようなサービスを展開していますか?

法人向けのサービスは、大きく3つのパターンがあります。

 

1つ目が、ホテルや航空会社、旅行代理店を経由したご注文です。現在多くご利用いただいており、今後も拡大していきたいと考えています。

 

2つ目は、空港で働く方々向けのサービスです。客室乗務員やパイロットなど、空港関係者は一般利用者よりも早く出社・遅く帰宅する必要があり、電車やバスがない時間帯はタクシーに頼らざるを得ません。そうした負担を軽減するため、私たちの仕組みを使って効率的な送迎サービスを提供しています。

 

3つ目は、自治体向けのシステム提供です。私たちが空港で構築した仕組みは現在、累積で100万人を超えるご予約をいただくまで成長しており、事前予約でマッチングして乗り合いをする技術が確立されています。この仕組みをOEMでシステム提供することもしています。

 

自治体では最近、バスの減便や廃線が増えており、地域の足の確保が困難になっています。大型バスを運行するのが難しい地域が増える中、車両をダウンサイジングしてオンデマンド化する流れがあります。

 

私たちはコミュニティバスの代替手段として、高齢者が免許返納後も安心して移動できるよう、LINEなど使い慣れたインターフェースで事前予約していただき、交通に空白がある地域でもドア・ツー・ドアで移動できるサービスを自治体向けに提供しています。

 

このように、空港で培った仕組みを様々なユースケースに横展開し、観光向けや自治体での日常の足としてもご利用いただけるよう広げています。

 

また、私は地方と都市部を分けて考えておらず、あくまで「地域」という単位で捉えています。イメージとしては、アメリカ発祥のフードデリバリーサービスに近く、プロダクト自体はグローバルですが、参加しているのは地域の人たちです。

 

そうした地域のアセットをプロダクトを通じて繋げることで、地域に住む方の日常がより豊かになると考えています。地方の方が移動課題は大きいため注目されがちですが、私としては地域軸で仕組みを作っていきたいです。

 

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

この事業は、私の原体験から生まれました。私は東京出身で、緑豊かな環境というよりも都市部で育ったため、地方の自然や緑に憧れがありました。実際に埼玉の郊外に住んだ時、緑も多く空気も良くて気に入っていたのですが、週3回ほど最終バスに乗り遅れていたのです。

 

最終バスは10時台で終わってしまうため、タクシーで帰るしかありません。その時のタクシー待ちの行列が本当に苦痛でした。1人1台ずつ乗っていくのももったいないですし、料金も高いですし、雪が降ったらタクシー待ちをすること自体が絶望的にも思えました。

 

こうした日常生活での不便さは、生活していく上で大きな問題だと感じました。そして、きっと自分だけでなく、多くの人が同じような思いを抱いているのではないかと考えたのです。

 

「乗りたい時に乗れない」という問題は、終電後や最終バス後の移動だけでなく、様々な場面で起こっているのではないかと思った時に、課題の幅広さを実感しました。そこで、事業の可能性を感じ、会社を立ち上げました。

 

地域の移動については、大きな課題のため、誰かが解決しなければならないと思っていました。移動における課題と、私自身の原体験がマッチしていたためこの事業を始めました。

 

「正しいこと」が判断基準

仕事におけるこだわりを教えてください。

「Do the right things(正しいことをちゃんとやる)」ことを非常に大切にしています。

 

「Do the things right(正しくさせる)」といったマネジメント的なアプローチではなく、正しいことに向き合いたいといった姿勢を重視しています。迷った時は何が正しいか自問自答して行動するようにしており、それは自分にとって都合が良いかどうかではなく、向き合っているテーマや課題に対して何が正しいのかを常に考えています。

 

たとえそれが自分にとって不利になることであっても、正しいことなのかという基準で判断するよう心がけています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

壁があるのは当たり前で、それを乗り越えるものだと考えているため、特定の一つを挙げるのは難しいです。ただ、最も緊張感を覚えるのは、資金繰りが厳しくなる瞬間です。これは今も変わりません。

 

会社員時代、事業責任者として損益や成長目標の達成には責任を負っていましたが、資金調達については会社が担ってくれていました。しかし今は、必要な資金を自分で調達しなければ事業を継続できません。

 

投資家への説明や事業の将来性を信じてもらうことなど、すべてが自分の責任です。もちろん乗り越える前提ではありますが、会社員時代の事業責任者やP&L責任者とは比べものにならないプレッシャーを感じています。

 

社会にインパクトを与え続けたい

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

人生は一度きりなので、楽しいことに取り組みたいという思いです。

 

スティーブ・ジョブズの「Follow your heart and intuition(自分の心と直感に従え)」という言葉を大切にしており、論理的に考えることも重要ですが、最終的には自分の直感や気持ちに従うべきだと考えています。実際、これまでワクワクすることを基準に意思決定をしてきました。

 

具体的には、世の中に必要とされていることに向き合っているときにワクワクを感じます。社会に貢献できることに取り組みたいといった思いが強く、キャリアの始まりからずっとインパクトを重視してきました。

 

最初に入社したSAPでは、情報インフラで社会と企業にインパクトを与えたいと思いましたし、楽天では日本企業が世界一を目指す中で、日本と世界をつなぐ役割としてインパクトを出したいと考えました。現在は地域課題の解決でインパクトを出したいと考えています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

社名の「NearMe」には、モビリティやタクシーといった移動に関する言葉を入れていません。それには理由があります。

 

「自分の近くがより良くなる」「自分の近くにいいものを発見しやすい仕組みを作りたい」といったテーマで事業を進めており、第一歩が移動サービスだからです。

 

移動についてのマーケット自体が非常に大きいので、しばらくはこの分野を続けていきますが、私たちのテーマは地域課題に向き合うことです。例えば観光ガイドのマッチングサービスや、地域のコンテンツやサービスをマッチングするプラットフォームなども展開していきたいと考えています。

 

移動に直接関係しないものも含めて、地域が発展し、豊かになるためのサービスを手がけていく予定です。

 

成し遂げたいものがあるなら挑戦すべき

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

起業を目的にするのであれば、やめた方がいいでしょう。起業はあくまで手段であり、目的ではありません。私自身、もともと起業するつもりはなく、実現したいことを叶えるためには起業という選択肢しかなかったというのが正直なところです。

 

成し遂げたい強い思いがあり、起業でしか実現できないものなら、ぜひ挑戦してほしいと思います。事業を進めるのは決して簡単ではありませんが、本当にやりたいことがあるなら、必ず道は見えてくるでしょう。

 

また、日本は起業しやすい環境が整っています。失敗したとしても生活するのに大きく困ることはありません。これまでの経験やキャリアがあれば再就職もできますし、社会保障制度もしっかりしています。世界には失敗が大きなリスクとなる国もありますが、日本はそうではありません。

 

起業でしか成し遂げられないことがあるなら、積極的に挑戦してほしいです。社会にとって必要な課題を解決できれば、収益は後からついてきます。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:髙原 幸一郎

シカゴ大学経営大学院卒。2001年SAPへ新卒入社。国内外の様々な業界の業務改革プロジェクトに従事。2012年楽天に入社。物流事業の新規立ち上げ、日用品EC事業の責任者、米・仏グループ会社の取締役やCEOなどを歴任。日本には豊富な地域資源があるのに「もったいない」ことが多く、今後は日本の地域活性化に貢献したいという思いで日本に帰国。地域課題でも特に深刻なドアツードアの移動問題に取り組むことで「住みたい街に住み続けられる社会の実現」を目指し、2017年株式会社NearMe(ニアミー)を創業。2018年からシェアリングエコノミーのMaaSサービス、AIを活用した「移動のシェア」サービスを複数展開している。

企業情報

法人名

株式会社NearMe

HP

https://nearme.jp/

設立

2017年7月18日

事業内容

リアルタイム位置情報のインターネットサービス

 

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