サニーズ株式会社 代表取締役 中澤 望氏

サニーズ株式会社は、パスワードやアカウント情報を安全に管理するサービス「Privaco(プライバコ)」を提供しています。個人向けと法人向けの両方に対応し、マイナンバーカードによる本人確認で万一の際にも情報を復旧できる、国産サービスならではの安心感が強みです。今回は、代表取締役である中澤望氏に、家族へのデジタル遺産の引き継ぎや、法人のセキュリティ・ガバナンス強化について伺いました。

デジタル遺産と組織のアカウントを守る国産パスワード管理「Privaco」

事業の内容をお聞かせください

当社が提供しているのは、パスワード管理サービス「Privaco(プライバコ)」です。プライバシーを保管する箱のようなイメージで、個人向けと法人向けの両方に展開しています。

 

個人向けでは1人でも利用できますが、1人で使う場合はAppleやGoogleが提供しているパスワードマネージャーで足りることも多いため、特に家族での利用をおすすめしています。その中でも大きな特徴が、万が一の際にデジタル上の情報を家族へ引き継げる機能です。

 

例えば、本人しか知らないネット銀行やネット証券の口座、サブスクリプション、SNSなどが残されたままになると、家族が資産の存在に気づけなかったり、不要な料金が引き落とされ続けたりする可能性があります。高齢化やスマートフォンの普及が進む中で、こうしたデジタル遺産の問題は今後さらに大きくなると考えています。

 

Privacoでは、普段は自分だけで情報を管理しながら、万一に備えて「この情報は配偶者に」「これは子どもに」「これは引き継がない」といった形で、情報ごとに引き継ぎ先を設定できます。引き継ぎを受ける方がリクエストを送り、本人が承認するか、本人が対応できない場合には、事前に設定した猶予期間を経て引き継がれる仕組みです。イメージとしては、デジタル上の遺言書に近いものです。

 

法人向けでは、チームで利用するIDやパスワードを安全に管理できます。スプレッドシートやチャットツールで共有すると、本来見る必要のない人まで情報を確認できたり、退職者が情報を持ったままになったりするリスクがあります。Privacoでは、誰がどの情報にアクセスできるかをリアルタイムで管理でき、誰がIDやパスワードを確認したかという履歴も追えるため、組織のセキュリティやガバナンス向上につなげられます。

 

また、国産サービスであることも特徴です。海外製のサービスでは、サポートが海外だったり、UIが英語表記になったりすることもあり、全社で導入する際のハードルになる場合があります。Privacoは情報を保管するサーバーが国内にあるため、国内企業にも安心して導入いただきやすい環境を整えています。

 

さらに、通常はマスターパスワードやパスキーでログインしますが、万が一それらを忘れたりログインできなくなった場合には、マイナンバーカードを使って本人確認を行い、Privacoにログインできる仕組みも用意しています。マイナンバーカードを、大切な情報を守るための最後の鍵として活用しています。

 

今後は、パスワードだけでなくAIエージェントの権限管理にも対応していく予定です。例えば、「このAIエージェントはNotionを閲覧できるが、削除はできない」といった形で、アクセスできる情報や操作権限を細かく設定できるようにします。

 

人であってもAIエージェントであっても、「誰が、どの情報にアクセスできて、何ができるのか」をPrivaco上で一元管理できるプラットフォームを目指しています。

 

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

起業を考えるようになったきっかけは、大きく2つあります。

 

1つ目は、これまで2社のスタートアップで働く中で、創業者である経営者の姿を間近で見てきたことです。もともとスタートアップに入った時点では起業を考えていたわけではなく、いろいろなことができそうで面白そうだと感じたことがきっかけでした。

 

ただ、厳しい状況でも現実と向き合いながら、前向きに会社を引っ張る経営者の姿を見て、純粋にかっこいいと感じました。そうした環境で働くうちに、徐々に自分でもやってみたいと思うようになり、起業を意識するようになりました。

 

2つ目は、前職のフィンテック企業で、不正利用の問題を身近に感じたことです。業界ではフィッシングなどによる不正利用が多く発生しており、その対策には大きなコストがかかります。証券口座の乗っ取りなどでは、事業者側が被害を補償するケースもあり、企業と個人の双方でセキュリティを高めていく必要性を強く感じていました。

 

そこで、BtoCとBtoBの両面からセキュリティの水準を高められるサービスをつくりたいと考え、国産のサービスとしてしっかり取り組んでいこうと思ったことが、現在の事業につながっています。

 

こだわりを持たないという、時代に取り残されないためのこだわり

仕事におけるこだわりを教えてください

私が大切にしているのは、一つのことにこだわりすぎないことです。いわば、こだわりを持たないことがこだわりだと思っています。

 

AIの登場などによって、今は世の中が大きく変化しています。そうした中で、自分の考えやこれまでのやり方にこだわりすぎると、時代の変化に取り残されてしまうと思っています。そのため、世の中の流れをしっかり捉えながら、新しいものも柔軟に取り入れていくことを意識しています。

 

私自身、今は30代後半なので、学生起業家のような若い世代と比べると、新しい情報をキャッチアップすることが難しくなっているかもしれません。その分、これまでの経験はありますが、過去の経験にこだわりすぎないことも大切です。新しいことに積極的に挑戦していく姿勢も、仕事をする上での一つのこだわりだと思っています。

 

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

大きく2つあります。

 

1つ目は、創業当初の約1年間をほぼ1人で進めていたことです。出資いただいているVCの方に相談したり、元同僚に業務委託で関わってもらったりしていましたが、フルコミットしているのは自分1人でした。何をやるべきなのか、今の方向性で合っているのかをすべて自分で判断しなければならず、迷いながら進めていた時期は大変でした。

 

2つ目は、事業面です。当初はBtoCからスタートしましたが、Googleのパスワードマネージャーなど既存のサービスもある中で、想定していたほど利用が伸びませんでした。BtoBももともと展開する予定ではありましたが、もっと早く進めなければならないと感じ、事業の難しさを実感しました。

 

現在は、私とエンジニアの2人がフルコミットし、加えて業務委託のエンジニアが5名ほど関わっています。人数が増えればまた別の悩みも出てくると思いますが、創業当初のような模索の時期は一段落したと感じています。

 

先に諦めるわけにはいかない。信頼と責任が前へ進ませる

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

モチベーションは大きく2つあります。

 

1つ目は、これまで在籍していたスタートアップの経営者たちが、今も事業を続けていることです。外から見ても厳しい状況だと感じる時があっても、諦めずに戦い続けている姿を見てきました。だからこそ、後から起業した自分が先に諦めるわけにはいかないという思いがあります。どんな状況でも、まずは続けていくことが大切だと感じています。

 

また、セキュリティサービスを提供している以上、会社そのものの信頼性も問われます。お客様から、スタートアップである当社に何かあった場合、預けているパスワードはどうなるのかと聞かれることもあります。これについては、実績を積み重ねながら事業を継続し、少しずつ信頼を築いていくしかありません。そうした意味でも、続けること自体がモチベーションになっています。

 

2つ目は、子どもにかっこいい姿を見せたいという思いです。経営者であること自体が大切なのではなく、何かにしっかり取り組み、苦しいことも楽しいことも含めて、自分自身の経験として語れる父親でいたいと思っています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください

今後は、AIエージェントの管理も含め、時代に合ったセキュリティやガバナンスのプロダクトを提供し、サイバーインシデントを少しでも減らしていきたいと考えています。AIの登場によって攻撃する側の手法も巧妙になっており、セキュリティ対策は常にいたちごっこの状態です。そうした中で、企業の対策を支えられる存在になりたいと思っています。

 

まだPrivacoを知らない方も多いため、さまざまな企業とのパートナーシップを広げ、より多くの場所で使っていただけるようにしていきたいです。直近ではHENNGE株式会社と連携し、HENNGEのアカウントでPrivacoにログインできるようになりました。今後もこうした国産サービス同士の連携を進めていきたいと考えています。

 

さらに、会社として信頼していただくための手段の一つとして、IPOも目指していきたいです。ただ、今のフェーズではまだやるべきことが多いため、まずは目の前の事業をしっかり進めていきたいと考えています。

 

 

「なぜ起業するのか」に立ち返ることの大切さ

起業しようとしている方へアドバイスをお願いします

私自身、まだアドバイスできる立場ではありませんが、起業を考えるうえでは、本当に起業が最適な選択なのかを一度考えることが大切だと思っています。無理に起業する必要はありませんし、起業そのものをゴールにするべきでもないと考えています。

 

例えば、新しい決済サービスをつくりたいのであれば、自分で会社を立ち上げるよりも、大手企業の中で新規事業として取り組んだ方が、より多くの人に使ってもらえる場合もあります。実現したいことによっては、起業以外の方法が適していることもあります。

 

そのうえで、それでも起業を選ぶのであれば、なぜ自分は起業するのかをしっかり考えておくことが重要です。実際に起業してからも、その原点に立ち返る場面は多くあります。だからこそ、自分なりの理由を深く考えたうえで起業するのが良いと思います。

本日は貴重なお話ありがとうございました。

起業家データ:中澤 望 氏

早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、アフラック生命保険株式会社に入社。株式会社スマートリンクネットワーク(現SP.Links株式会社)を経て入社した株式会社Kyashでは、事業開発として金融機関や国際ブランドとのアライアンス、新規事業の立ち上げに従事。その後株式会社エンペイ(現GMOエンペイ株式会社)で、国の許認可登録を含む新規事業企画や立ち上げ、事業責任者等を担当。2024年5月、サニーズ株式会社を創業。

企業情報

法人名

サニーズ株式会社

HP

https://sunnies.co.jp/

設立

2024年5月2日

事業内容

  • プライバシー・アカウント情報を管理するサービスの企画・運営

 

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