
株式会社KenRiは、企業の法務業務を代行するアウトソーシングと、法務に特化したAIエージェントを提供する会社です。弁護士が実務でチェックしながらAIを運用し、成果物として届けることで、企業がAIに任せきれない不安を解消できる点が強みです。今回は、代表取締役社長である西田燎平氏に、AIが変える法務の未来や、業界の常識を作り直そうとする起業の経緯について伺いました。
当社は、法務にまつわるサービスを企業向けと弁護士向けの2つの領域で提供しています。企業向けの中心となるのが、法務のアウトソーシングを担う「Houmu BPO」です。単に業務を巻き取るのではなく、内部でAIを活用しながら効率よく処理する点に特徴があります。
もう1つが、このBPOで得た知見を活かし、各社ごとにカスタマイズした法務AIエージェント「Houmu AI」です。弁護士向けには、同じくAIエージェントである「Houmu AI Pro」を提供しています。
「Houmu BPO」は、企業の法務業務をAIと弁護士の力で効率化し、アウトソーシングするサービスです。単に業務を巻き取るのではなく、AIを活用して業務を処理し、その結果を弁護士が確認したうえで成果物として企業に提供します。
法務は間違いが許されない領域であるため、AIを導入しても、最終的に社内の担当者がすべて確認しなければならず、十分な効率化にはつながりません。
そこで当社では、AIによる処理と弁護士による確認を組み合わせ、企業側が個別に確認する負担まで含めて軽減します。AIの活用に不安がある企業に対しても、AIを直接提供するのではなく、弁護士が確認した成果物を提供することで、効率化と信頼性を両立しています。
このHoumu BPOをもとに運用しているのがHoumu AIです。従来の契約書レビューサービスのようにリーガルテックベンダーが設定した一般的な基準だけで契約書を判断するのではなく、企業がどのようなポジションで契約書を見るべきかという実務上の判断基準をAIに反映することを特徴としています。
また、法務部門だけを対象とするのではなく、営業部門などの事業部門まで含め、案件が発生してから法務に相談するまでのプロセスそのものを自動化することを目指しています。
企業ごとの判断基準をAIに反映する際には、「プレイブック」と呼ばれる基準を作ります。例えば秘密保持契約では、書面にした情報だけを秘密情報として扱う企業もあれば、口頭で開示した情報まで含める企業もあります。当社では、こうした企業ごとの細かな判断を整理し、AIに落とし込んでいきます。
こうした事業を通じて解決したい課題の一つが、法務人材の不足です。企業に求められるガバナンスやコンプライアンスなどの法務に関連する業務が広がる一方で、それらを担う企業内の法務人材は十分に増えていません。そこで当社は、AIによって法務業務を効率化し、人が担うべき判断に法務人材が集中できる環境をつくろうとしています。

もともと私は弁護士として働いており、弁護士になる前にはリーガルテックベンダーで長期インターンを経験しました。ベンダー側から見たリーガルテックの世界と、実際にそれを使う弁護士側の世界の両方を見たとき、両者がなかなか近づいていかないと感じたのです。
そこで感じたのが、リーガルテックによって効率化された企業法務の姿と、実際の弁護士の働き方との間に大きな隔たりがあることでした。リーガルテックを活用して業務を効率化できれば、本来は浮いた時間をより付加価値の高い業務に充て、お客様への価値提供を広げられるはずです。
しかし、弁護士業界では「タイムチャージ」と呼ばれる、働いた時間に応じて報酬を請求する仕組みが一般的です。そのため、テクノロジーによって業務を効率化すると、弁護士側の報酬が減ってしまうという構造がありました。
例えば、これまで1時間かかっていた業務をAIによって20分で終えられるようになったとしても、単純に考えれば請求できる時間も20分になります。もちろん単価を上げるという方法もありますが、業務によって効率化できる幅は異なり、すべてを単価の問題として解決できるわけではありません。
効率化によって弁護士側の利益が減るのであれば、テクノロジーを積極的に活用するインセンティブも生まれにくくなります。この構造では、弁護士と顧客が必ずしも同じ方向を向けないのではないかと考えました。お客様はできるだけ効率よく、早く業務を終えてほしい。一方で弁護士側は、効率化すると報酬が減ってしまう。
この関係を変えるには、既存の仕組みの中で効率化を進めるだけではなく、報酬のあり方から変えていく必要があると考え、起業を決めました。
そこで当社では、時間に対して報酬をいただくのではなく、案件の成果物や成果に対して固定報酬をいただく形を採用しています。これであれば、当社としてもAIなどを活用してできるだけ効率化したいですし、お客様にとっても早く、効率よく業務を進めてもらうメリットがあります。双方のインセンティブが一致する仕組みをつくることで、法務業界そのものを変えていきたいと考えています。
もともと起業したいという思いは強く、弁護士としてのキャリアを続けるよりも、早く起業しなければ時間が足りないという感覚もありました。その中で、AIが大きく進化し始めた今だからこそ、これまでテクノロジーによる変革が進みにくかった法務という領域をAIによって変えていくことには、大きな挑戦価値があると考え、現在の事業を始めました。
仕事におけるこだわりは、実はそれほど多くありません。ただ、ロジカルであることには、これからもこだわり続けると思います。前職の法律事務所では、なんとなくではなく、「なぜそうなるのか」という前提や理由を明確にしたうえで仕事をすることを求められてきました。その経験もあり、勢いだけで進めるスタートアップと比べると、理屈にはうるさいほうかもしれません。
採用では、自分より優秀であることを基準にしています。AIの時代であれば、自分より優秀でない人を採用しても、私がAIに指示を出すことである程度の仕事は進められてしまいます。だからこそ、自分では指示すら出せないような領域で力を発揮できる人を採用したいと考えています。
実際に、現在のメンバーもそれぞれ異なる強みを持っています。プロダクトマネジメントに長けた人、飛び抜けて優秀なエンジニア、ロースクール時代にクラスで一番の秀才だった弁護士、私の成果物を真っ赤になるまで添削してくれた前職の先輩、そして人の懐に入るのが上手く、既存のお客様との関係を維持することに長けた営業担当者などです。
自分に足りない能力を持つ人を集めることで、一人ではできないことをチームとして実現していきたいと考えています。

最大の壁と言えるほど大げさなものではありませんが、創業間もない時期に、事業が思うように進まず資金も厳しくなったことがありました。
当社はこれまで何度もピボットしてきましたが、なかでも苦労したのが、以前取り組んでいたADRの特定領域です。この事業は、候補となる5社ほどの企業のうち、どこかと組むことができなければ先に進められないものでした。
しかし、創業間もないうえに実績もなかったため、いくら声をかけてもなかなか相手にしてもらえず、事業が進まない状態が続きました。その間も会社の資金は出ていくため、結果的に資金をかなり使ってしまい、ショートしかけるところまで追い込まれました。
そこで、これ以上は難しいと判断した時点で、その事業はいったん停止することにしました。ただ、完全に諦めたわけではなく、「今はタイミングではない」と考えたのです。事業はすべてタイミングだと思っているので、無理に一つの事業に固執するのではなく、できるだけ早く次のキャッシュポイントをつくることを優先しました。
同時に、前職時代のつながりやスタートアップのイベントなどで知り合った投資家や金融機関の方々のもとを駆け回り、資金調達をお願いしました。事業を切り替えながら次のキャッシュポイントをつくり、資金面の危機を乗り越えていきました。
私自身のモチベーションは、35歳までに成し遂げておきたいことを明確に決めていることだと思います。
就職活動をしていた大学院生の頃、ある外資系コンサルティングファームのパートナーの方に「35歳までに成し遂げていない者に、それ以降に新しくチャレンジする権利を社会は与えてくれない」と言われたのです。そのうえで、10年後になっているべき姿から逆算し、7年後、5年後、3年後、1年後を全部きちんと定義して、そこに沿えているかを確認し続けなさいとも言われました。
私は今30歳で、ちょうどその5年目に当たります。10年目のタイミングでは一度上場していることを目標に置き、時価総額や個人資産といった数値も定めて逆算しています。うまくいかないからと立ち止まっていては達成できないため、とにかく早く売上を立てるしかありませんでした。
もちろん、自分自身の目標だけが原動力ではありません。すでに外部から資本を受けている以上、投資家の方々に対しても結果を出していく責任があります。また、売上がほとんどない頃から会社に加わってくれたメンバーもいます。
会社の口座残高がゼロになったとしても、メンバーへの給与は支払わなければなりません。そうした人たちの生活も背負っているからこそ、何とか会社を維持し、事業を前に進めなければならないという気持ちがあります。

会社としては、これから中小企業向けのサービスを本格的に展開していきたいと考えています。これまでは大企業を中心にサービスを提供してきましたが、中小企業向けの事業については、社内にもう1社立ち上げるくらいの気持ちで、切り離して取り組むつもりです。
その背景には、企業間の法務交渉が必ずしも対等ではないという課題があります。きちんとした法務体制を持つ大企業と、法務に詳しい人材がいない地方の企業が契約を結ぶ場合、明らかに中小企業側に不利な内容も含め、一方的に大企業側の要望が通ってしまうことがあります。
その原因の一つは、中小企業に十分なリーガルサービスが届いていないことです。日本の中小企業の7割には顧問弁護士がいないと言われていますし、地方に企業法務を専門とする弁護士が多くいるわけでもありません。
そこで、東京で企業法務を経験してきた当社がAIを活用することで、地方を含めた何万社もの企業にも対応できる体制をつくり、これまで培ってきた知見をより多くの企業が使えるナレッジとして共有していきたいと考えています。
一方、大企業に対しては、日常的な法務業務だけではなく、「予防法務」の完全な形をつくることを目指しています。ハラスメントやガバナンスの問題は大企業でも起きていますが、法的な知識を持つ人が社内にいても、すべての業務に目を行き届かせることは難しいものです。
AIを活用することで、社内の基準や法令から逸脱する案件を事前に検知し、問題が起きる前に防ぐ仕組みを、より広い範囲で実現できると考えています。
起業を考えているのであれば、準備に時間をかけすぎないほうがいいと思います。準備した通りに進むことはほとんどありませんし、悩み続けるくらいなら、やらないという選択をしたほうがいい。
逆に、どうしてもやりたい、普通の人生とは違うことをやってみたいという気持ちがあるのであれば、今すぐ一歩を踏み出してみてほしいと思います。
一度起業してしまえば、あとはその時々で起きる問題に対応しながら進んでいくしかありません。もちろん、中長期的な目線を持つことも必要ですが、すべてを事前に準備することはできないからです。
特に私たちのような若い世代であれば、既存のキャリアや肩書きが大きな武器になるわけでもありません。そうであれば、起業したいと思った時点で、少しでも早く始めるほうがいいと考えています。
そして、企業の経営者の方々には、社内の法務体制に少しでも不安があれば、ぜひ一度相談していただきたいと思っています。例えば、現在はChatGPTやClaudeを使って契約書を確認するだけで終わっているのであれば、そこにはまだ改善できる余地があります。
法務や契約の問題は、その場ですぐに問題になるというより、後になってリスクとして表面化するケースも多いため、将来的な不安を少しでも感じているのであれば、早い段階で対策しておくことが重要です。
当社では、AIを導入することに抵抗がある企業に対しても、弁護士が成果物を確認して提供するBPOから始めることができます。顧問契約のような形だけではなく、必要な業務に応じて従量課金で利用できるプランも用意していますので、まずは小さく始めたいという企業にも利用していただければと思っています。
弁護士(第二東京弁護士会所属)。京都大学法科大学院を修了後、法律事務所ZeLo・外国法共同事業に入所。2024年4月に株式会社KenRiを創業し、法律事務所KenRiを開設。
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法人名 |
株式会社KenRi |
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設立 |
2024年4月 |
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事業内容 |
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