IDATEN Ventures 


IDATEN Venturesは独立系VC(ベンチャーキャピタル)であり、1号ファンド・2号ファンドを擁する。投資対象はものづくり・ものはこびを支える技術やサービスを展開するシード期のスタートアップである。同ファンドの投資先は、AIで各種社会課題の解決を進める「エクサウィザーズ」(2021年に上場)、次世代リチウムイオンバッテリーを開発する「TeraWatt Technology」、企業間物流クラウドプラットフォームを展開する「Hacobu」、微生物を起点にバイオものづくりを推進する「bitBiome」、貴金属に依存しないアンモニア合成触媒を開発する「Ammon Fields」、加熱水蒸気技術でかくれフードロスのアップサイクルを手掛ける「ASTRA FOOD PLAN」等であり、文字通り、いずれもものづくり・ものはこびを支える活躍を示している。

 

経営者データ:足立 健太 

早稲田大学理工学部及び同大学院理工学研究科卒業、理学修士。専攻は物理学。大学院在学中にスタートアップ企業の役員を歴任後、㈱リクルートに入社。営業・商品企画・経営企画を経てグローバルM&Aを担当。後、KPMGグループで各種M&A案件等のビジネス・財務会計面での支援を幅広く担当。

その後、再びスタートアップ企業の経営をした後、孫泰蔵氏がけん引するスタートアップ支援スペシャリスト集団Mistletoe㈱でベンチャーキャピタリストとしての経験を経て2017年に独立、IDATEN Venturesを組成。技術的案件を得意とし、財務会計・組織開発・人事制度等にも知見が深い。そうした知見をX(旧Twitter)でも日々、コラムやチェックしておきたい資金調達ニュースといった形で発信している(https://twitter.com/knt137

 

 

まず、IDATEN Ventures社の経営方針、注力していることや、ベンチャーキャピタルの業務と重要な点についてお教えください。

 

IDATEN Venturesでは、製造業、建設業、物流業など、ものを作ったり運んだりする産業を支える技術やサービスを提供するシード期のスタートアップへの投資に力を入れています。この領域に注目しているのは、私たちが生きていく上では欠かせない「もの」をこの世に生み出し、それらを広く届けるということはいつの時代にも必要なものであり、最新技術でそういった「ものづくり・ものはこび」を支えることは、社会に大きく貢献できると考えているからです。

 

加えて、VCのポジショニングとして、特定の分野に特化することで差別化を図っているという側面もあります。今は少し事情が変わってきていますが、IDATEN Venturesを立ち上げた当初、ものづくり・ものはこび関連スタートアップは、特にシードフェーズでのファンドレイズが難しい傾向にありました。ここにあえて意思を持って注力することで、他のVCとは異なるポジショニングを確立してきたという背景があり、見落とされがちながらも将来性のある企業を発掘することに注力する方針です。

 

領域特化をすることで、投資先支援という観点においてもよい点が挙げられます。特定の領域に特化した投資を重ねることで、領域特有の専門性が蓄積されます。結果、関連するスタートアップへより効果的なメンタリングが可能になってきますし、投資先のお客様や必要とする人材要件が重なってくることによる相乗効果も期待されます。

 

 

 

 

 

(ベンチャーキャピタリストの業務)

業務については、まず基本となるのがVCファンドそのものの資金調達です。私たちはリミテッドパートナー(LP)から資金を集めることでファンドを形成します。LPは資金を提供することで投資収益を期待している投資家です。私の役割はこれらのLPに対して、投資リターンをお返ししていくことが大前提となります。

 

次に、ファンド運用の戦略を練ることが重要です。どのような企業に投資し、どのようにリスクを管理するか。また、投資した企業の成長をサポートし、事業価値を高めることも求められます。具体的には、資金を提供した後、投資先が成長軌道に乗るまで、ビジネスモデルの改善や経営戦略の助言を行います。これは、単に資金を提供するだけではなく、パートナーとして企業の成長を共に歩むことを意味します。

 

投資先の選定も重要な仕事です。起業家のアスピレーションや市場のトレンドなど、幅広い要素を複合して、将来性のあるスタートアップを見つけ出すことが求められます。特にシード期の投資においては、技術革新や市場のニーズを見極める洞察力のみならず、人をみる目が問われます。

 

こうした多面的な業務を行うことで、最初にお話ししたような、ものづくり・ものはこびを支えるスタートアップへの投資を通じて社会全体の持続性のある発展を実現することを目指しているのです。

 

 

 

ありがとうございます。IDATEN Ventures社としての戦略がよく理解できました。より具体的に「投資後のフォローアップ」とはどのような業務なのでしょうか?ファンドの戦略との関連性もお教えください。

スタートアップの支援とは単に資金を提供するだけではありません。出資先のスタートアップが日々事業の成長を目指しており、彼らのビジネスモデルの構築から、市場への導入、さらには事業の拡大に至るまで、総合的な支援を行います。こうした内容が全て「投資後のフォローアップ」だと言えますが、大きく4つの支援領域に分かれると思います。この点についてより細かくお話しします。

 

1点目は、ビジネスプランの策定支援です。スタートアップが持つ革新的なアイデアをビジネスプランに落とし込み、実現可能な形にするサポートをします。この段階では、市場調査や競合分析、財務計画の策定などが含まれます。

 

2点目目は、製品開発と市場導入です。製品やサービスの開発段階では、技術的な助言や、市場導入戦略の策定をサポートします。顧客紹介を行うこともあります。また、早期の顧客獲得戦略の立案やマーケティング・広報支援も重要です。

 

3点目は、人材育成と組織構築のサポートです。優秀な人材の確保と育成は、スタートアップの成功に不可欠です。私たちは、経営チームの構築、人材採用戦略の策定、社内研修の提供などを通じて、人材面でのサポートを行います。

 

4点目は、成長段階での戦略的なアドバイスです。事業が軌道に乗った後も、さらなる成長に向けての戦略策定や資金調達のサポート、場合によっては国際展開などを含む経営や事業の中長期の方向性へのアドバイスや、適切な事業パートナーの紹介を行います。

 

 

大きく見るとこの4つの支援領域について、支援先のスタートアップに少しでも有益なアドバイスを行うのが「投資後のフォローアップ」にあたる仕事です。そして、今日の取材の主題として頂いてもいる「組織や人材」は、後半の2つの内容に大きく関連しているのだと思います。事業自体を成功させ持続的な成長を成し遂げる必要があるのですが、そのためには3点目の組織や人材の問題が大きく絡んできます。

 

 

特に今日お聞きしたい、人的資本経営や組織戦略的な内容と、3点目・4点目はまさに関係するものだと思いました。

 

特に私たちが注力している業界では、技術革新が非常に速いペースで進んでいます。こうした流れに対応するために組織や人材の重要性はますます高まっています。自社のサービス開発と事業運営の両者について、革新的な技術の変化に対応しながら、組織や人材の能力を最大限に引き出すことが重要です。30年前には想像もできなかった技術を今日私たちは当たり前のように使用しています。これからもそのような変化は続くでしょうが、その中で組織や人がどう進化していくか、技術革新をサービスと事業に採り入れて活かしていけるかが鍵を握っていると思います。

 

 

また、AIのような技術が急速に発展している中で、それらを活用して持続可能な価値を生み出し、発展させていくことは、非常に重要なことです。スケーラビリティという点で特にその重要性を感じています。AIやロボット技術が人の仕事を代替するという話がありますが、私はそういった技術を「雇う」感覚で採用し、それらを活用して人間のパフォーマンスを向上させることが経営者の役割だと考えています。技術が進化しても、組織や人材の重要性は変わらない。むしろ、AIやロボットを「装備」した人間としての能力をどう引き上げていくかが、昔も今も変わらず、経営で求められるスキルの1つなのではないでしょうか。

 

 

 

このような新しい技術をどうビジネスに活かしていくか、またそのような変化の中で人が価値をどのように発揮していくのかが今後の大きなテーマの一つだと思います。AIを使って煩雑な作業を効率化することで、人間はより創造的な業務に集中できるようになります。

 

しかし、この過程で「アンラーニング」が必要になることが一般的であり、従来の方法を忘れ、新しい技術や方法に適応する柔軟性が求められます。人的資本経営でよく言われるリスキリングとも通ずると思います。このような変化に柔軟に対応し、新しい技術を取り入れていくことで、スタートアップは大きな競争優位を得ることができます。

 

IDATEN Ventures 公式サイト(https://www.idaten.vc/ 2024年2月現在の表示)多くの技術系スタートアップ企業が並ぶ

 

 

いまお話に出た、スタートアップ企業における人的資本経営や組織の重要性について、より詳しくお教えください

 

組織や人材についての考慮は成長するスタートアップ企業で明らかに重要ですし、人的資本経営というコンセプトも明らかにプラスだと思います。特にスタートアップの場合、経営がいくつかのフェーズに分けられることが多いと思いますので、初期段階とその後の段階に分けてお話しします。

 

初期段階のスタートアップでは売上が立つかどうかすらわからない状況にあります。真っ暗闇を突っ込んでいくようなものです。この段階では、組織などという考え方よりも、社長のカリスマやリーダーシップが中心となることが多いですね。組織や事業の信用という面でも、魅力的なリーダーがいると、人々は「この人ならできそう」と感じ、それが大きな影響を与えます。組織のステージで言うと、シリーズAまでは、社長一人のカリスマで引っ張る範囲だと思います。

 

その後、組織が成長するにつれて、「10人の壁」や「30人の壁」といった課題に直面しますが、これらは業種や業態によって異なります。ステージで言うと、シリーズBになるとスケーラビリティが求められると言えます。例えば、売上が3億円から30億円、あるいは100億円に拡大する能力が必要になります。

 

このステージで重要になるのが、組織の力や、まさに持続的に価値を創造していく仕組みだと思うのです。社長が一人で面接したり、全員と1on1でミーティングを行うことが不可能になるため、自律的に組織をドライブできる中間マネージャーを育成し、自分がいなくても機能する組織を作ることです。これが組織についての成功の鍵となることだと思います。

 

 

上場を目指す段階では、さらなるスケーラビリティと再現性が求められます。可視化されたデータに基づいて安心して投資ができるような状態になることが理想的です。この辺りで、人や組織を機能別に捉え、適切な施策を判断したり、何によってその企業が発展しているかということを組織の面でも明確にしていく必要があると言えるのではないでしょうか。人的資本経営というのはその辺りの話だと理解しています。

 

流行りの人事戦略、例えばOKRのような個別の手法も効果がありますが全ての組織に適合するわけではありません。万能なものはないと考え、組織が成長するにつれて、その組織に最適な手法を探し続けることが重要だと思います。これは組織の調査や分析をすることも重要でしょう。

 

組織や人材、そして人的資本経営は非常に重要だと思います。スタートアップの初期段階を超えた後、成長して上場を目指す段階に至るまで、適切な戦略と経営手法の選択が成功の鍵となり、この段階で決定的に重要だと思います。

 

成長するスタートアップや近頃上場した企業にお聞きすると、人的資本経営の中で、一般的な視点よりもずいぶん「パーパス」の重視度が高いなという印象がありました。これについてどう思われますか。

 

 

仰る通り、とても大事だと思います。パーパスの明確化は、社員が迷ったときに方向性を示す「北極星」のような役割を果たします。このパーパスがあることで、社員一人ひとりが企業の大きな目的のもとで働く意義を感じ、モチベーションを保つことができるのです。

 

上場直後の企業においては社長のカリスマだけでなく、組織が大きくなるにつれて、より多くの社員がそのビジョンやミッションに共感し、それに沿って行動することが求められます。これは、社内コミュニケーションが難しくなり、成長のプレッシャーが増大する上場直後のデリケートな時期に特に重要です。社長が直接すべての社員に伝えることが難しいため、パーパスが明確であれば、それを基に社員が自律的に動くことが可能になります。

 

また、パーパスの明確化は、多様な人材が集まる組織において、一定の方向性を持って組織を進めるための重要なツールとなります。異なるバックグラウンドを持つ人々がそれぞれの強みを活かしながらも、共通の目的に向かって努力することが、組織全体のパフォーマンスの向上につながります。この点において、パーパスはただのスローガンではなく、組織の核となる考え方であり、社員の行動指針として機能します。

 

IDATEN Ventures社の注力業界においても同様のことが言えるのでしょうか

製造業を含むすべての業界において、パーパスの重要性は変わりません。例えば、自動車業界のモビリティ開発を行おうとする企業で「信じられないような新技術が採用された高単価のものを作り込む」ということを目的としているのか「なるべく低単価でコンパクトだが戦略的な機能がついた車を量産する」という目的を持っているのかで、事業戦略は全然違いますし、求める組織の体制や、採用するターゲットに至るまで全く変わってきます。さらに、目指す社会像や実現のための戦略も違うものとなるでしょう。

 

パーパスとは企業が持つ世界観・商品・行動指針の全てを含むものだと思うのですが、これが想定できている企業とそうでない企業の差は実に大きいです。共通の目的のもとで、社員一人ひとりが自分の役割を理解し、企業全体としての目的を目指すわけです。パーパスは組織の成長、特に上場直後の企業において、方向性を示し、社員を一つにまとめ上げるために不可欠な要素なのだと思います。

 

特に、企業のパーパスや目指すゴールを初期段階で明確にし、それに基づいた人材採用と組織設計を行うことが長期的な成功への鍵となります。初期の段階でこうした点を十分に考慮しないと、後になって大きな修正が必要になる可能性が高く、その修正過程は非常に手間とコストがかかります。

 

ゴールから逆算して組織を構築することで、将来的に変更が少なく、スムーズに目標に向かって進むことが可能になります。また、企業が大きくなりたいと考えている場合、このような組織と人材戦略の重要性はさらに高まります。経営者がこれらの要素を真剣に考え、適切なアクションを取ることが、企業の成長性やスケーラビリティに直結します。

 

 

しかし、すべての企業が大きくなりたいわけではなく、小規模でも良質な製品やサービスを提供し続けることを目指す場合もあります。このような場合、大規模な組織や複雑な組織設計は必ずしも必要ではないかもしれません。経営者のビジョンや企業の文化に応じて、最適な組織設計や人材戦略を選択することが大切です。

 

企業のパーパスや目指すゴールを明確にし、それに基づいた組織設計と人材戦略を実行することが長期的な成功への道を開く鍵です。この過程で、経営者のアスピレーションや目指す企業像が重要な役割を果たし、企業の将来像に大きな影響を与えます。

 

IDATEN Venturesとしては、こうした支援先の企業の本質的な目標を共に目指し、事業上必要なあらゆる資源やナレッジ、そして今回特にお伝えした組織的な部分に至るまでのご支援をし、技術の発展と素晴らしい未来をご一緒に実現することを目指しているのです。

 

 

企業情報

法人名

IDATEN Ventures

HP

https://www.idaten.vc/

設立

2017年10月10日 ※イ(1)ダ(0)テン(10)の日

団体情報

事業内容
「ものづくり・ものはこび」の変革を支えるテクノロジースタートアップへの投資・支援を専門とするVCファンドの運営。

企業理念
かつて韋駄天は、釈尊のために方々を駆け巡り、食物を集め届けることで釈尊が修行に専念できる環境をつくり、社会へ貢献したと言われています。この食物は感謝を込めて「ご馳走」と呼ばれました。
私たちIDATENは、現代に生きる韋駄天として、釈尊ならぬスタートアップのために方々を駆け巡り、経営資源を集め届けることでスタートアップが事業に専念できる環境をつくり、社会へ貢献します。
これが未来を創る現代の「ご馳走」であり、IDATEN Venturesが掲げる企業理念です。

行動指針
ご:ゴールから考えて
ち:チームで活かし合い
そ:想像を超えた
う:動きを起こそう

※「ゴール」とは自社だけの観点ではなく、社会全体の「ゴール」
※「チーム」とは自社だけではなく、ファンド参画メンバーや投資・支援先スタートアップ、その他、ご支援いただく皆様を含めた「チーム」

企業情報

所在地:東京都港区虎ノ門5-9-1 麻布台ヒルズガーデンプラザB 5
代表者:代表パートナー 足立健太

 

 

ライター紹介
松井勇策

フォレストコンサルティング経営人事フォーラム代表 社会保険労務士・公認心理師

情報経営イノベーション専門職大学 客員教授(専門:人的資本経営・AI等先進雇用対応)

 

時代に応じた先進的な雇用のあり方について、企業向けのコンサルティングや情報発信などを多数行っている。人的資本経営の導入コンサルティング・先進的なAIDX対応の雇用環境整備・国内の上場やM&Aに対応した人事労務デューデリジェンスなどに多くの実績がある。ほか伝統思想と、現代の経営・雇用・キャリアの融合知見を大学院等で研究中。

 

著書「現代の人事の最新課題」「人的資本経営と開示実務の教科書」シリーズほか。

東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議  議長・責任者、人的資本経営検定 監修・試験委員長。

 

フォレストコンサルティング経営人事フォーラム https://forestconsulting1.jpn.org/

人的資本経営検定

https://www.kaiketsu-j.com/index.php/toolbox/11588-human-capital-basic

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