株式会社ウェルネス 代表取締役医師 中田 航太郎 

株式会社ウェルネスは、健康状態をデータで管理し、パーソナルドクターが個々の状態を分析することで予防ケアを目指す会社です。体調が悪くなってから医療機関を受診するのではなく、日常的な医師とのやり取りを通して、何ものにも代え難い健康という資産を守り、予防医学の力で防ぐことのできた後悔をなくそうと取り組む同社代表取締役医師の中田氏にお話を伺いました。

 

パーソナルドクターが健康を管理し、予防医療を実現

事業の内容をお聞かせください

専任のドクター「パーソナルドクター」と共に、データに基づいた健康管理を実践できる予防ケアサービス「Wellness Membership」を提供しています。

 

医者というと、病気になった時に受診し治療を受ける存在だと考えがちです。しかし、パーソナルドクターは、これまでの医者のように病気を治すことをゴールにするのではなく、特に多忙な人たちに伴走し、体のケアをすることで、健康な時間を長くすることを目的にしています。

 

具体的には、あらゆる医療情報を集約・統合・分析できるパーソナライズ予防アプリを用いて、分散しがちな健康データを1つの場所にまとめて管理します。集約されたデータをパーソナルドクターが統合的に分析し、生活習慣のアドバイスやオーダーメイドの人間ドックなどを提案します。また、必要に応じて医療機関の紹介も行います。

 

さらに、チャット機能を活用し、365日体制で健康相談に応じます。気になる症状や悩み、食事、運動、サプリメントのことまで、パーソナルドクターに気軽に相談することが可能です。

 

近年、例えばスマートウォッチなどで生活習慣を測定したり、遺伝子検査ができたりと、自分の体を可視化できるようになりました。こうして集まったデータを活用し、従来型の全員が同じ検査を受けて健康診断を行うというようなマスアプローチではなく、個々に最適化した予防医療を提供することで、病気の早期発見とそのリスクを最小化し、健康長寿の延伸を実現しようとしています。

 

現段階でのサービスの利用者の中心は、経営者の方々です。スタートアップの限られたリソースで最も速く効果的に拡散するために、まず経営者向けに展開しています。経営者に提供すると交流のある周りの経営者に広がるスピードも速く、従業員にも広がり、さらに従業員の家族にも浸透していきます。この戦略をシャンパンタワー戦略と呼び、一番上のシャンパングラスに注ぐことで連続的な広がりを実現し、実際のところマーケティングコストをかけずに展開できています。

 

企業経営では、顧問弁護士や税理士など各分野の専門家がサポートし、将来予測を立てながら問題を予防し、早めに手を打ちますが、自分の体はプロに頼らず自己流で管理し、赤字になってから手をつける方が多いです。このままの生活を続けていたら今後どうなるかを予測し、早めのリスクヘッジを行うことが中長期の繁栄につながる、つまり、経営も体も一緒なのではないかと経営者の方々に伝えています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

今の医療モデルが古すぎると思ったからです。

 

医者として救急総合診療を行う中で、病状が進行した症例を沢山診てきました。患者さんはその状態になって初めて自分の体の大事さに気づき、費用はかかっても良いので助けてほしいという話が出てきます。しかし、どんな名医に診てもらっても、進行した病気は治りません。「事件は病院の外で起こっている」と感じ、予防医療に着目しました。

 

現在の根本的な医療の仕組みは江戸時代から変わっておらず、患者が体調が悪いと感じてから、病院やクリニックにいる医者のところへ行くというモデルです。結核など感染症で人が亡くなっていた時代は、その仕組みで良かったのでしょう。しかし現代は、癌や心疾患など、初期段階で症状が出にくく、自分で体調の変化に気づくことが難しい病気が増えています。

 

ですので、体調が悪くなってから医師の診察を受けるという現在の医療モデル自体に問題があるのです。

 

現状、医師は目の前の患者をいかに治すかという点に全ての技術やリソースに集中させていますが、医療モデル全体の最適化を行い、予防医療に注力した方が、より多くの人を助けることができると考えました。

 

エシカルにゼロベースで検討し、課題から学ぶことでより良いプロダクトを追求

仕事におけるこだわりを教えてください。

プロフェッショナルに、きちんと確立されたものを出していくというエシカルさ:「倫理性」を意識して取り組んでいます。

 

例えば、私が「このサプリメントを飲んだら寿命が5年延びます」と自信満々に言ったとします。そうするとおそらく、その商品は売れてしまうと思います。しかし、このような根拠のないものを、医療に関して幅広い知見を持っている私が売ることは、人の命を奪いうる行為ですし、持続的な経営は難しいでしょう。

 

そうではなく、情報を非対称的に持っている医者だからこそエシカルに、中長期で生き残る経営を行い、会社のミッションでもある「すべての人に、豊かな人生を。」を達成したいと考えています。

 

そのために、ゼロベースで考えることも重要視しています。

 

結局、目の前の患者さんをどれだけ多く助けるかということだけを考えて事業を進めると、既存の医療モデルから変化しません。「そもそもなぜこういう仕組みが出来上がったのか」や、「現状の仕組みは今の世の中において本当に最適であるのか」という問いを立て続けたことで、起業につながる気づきが生まれました。社内の仕組みとしても、私自身の仕事への取り組み方としても、常に「本当にそうなのか?」と問うようにしています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

そもそも「予防医療を広めていくことはそう簡単なことではない」と考え、取り組み始めました。そのため、事業を進める中で直面する日々の課題を、越えられない壁と感じたことはほとんどありません。

 

もちろん、最初から今のプロダクトに行き着いたわけではなく、ニーズがないプロダクトを世の中に出し、ユーザーの声を日々聞いていく中で、徐々にブラッシュアップされていきました。。このように、まずトライしてみて、PDCAを回しながらより良いプロダクトを作っていけば良いと考えているため、困難な状況でも壁を壁と思わず、むしろ困難な状況からこそ学べると捉えています。

 

本質を求めて腑に落ちたことをやる、そのやりがいこそが継続の原動力

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

「本質的なことをやりたい」ということに尽きます。

 

私は常に、自分が医者として最も世の中にレバレッジを効かせられる方法は何だろうと考えて世の中の課題に向き合ってきました。

 

例えば、ステージが進行してしまったがん患者さんの命を、自らの技術を磨くことで必ず助けられるようになるかというと、難しいのが現実です。

 

そのような現状を日々目の当たりにし、技術を磨いて目の前の患者を1人でも多く助けるという今までの医者のあり方に留まらず、症状を自覚してから病院を訪れるという医療のモデル自体を変えた方がより多くの人を助けることができると考え、起業しました。

 

こういうルールだからその通りにするというのではなく、、「本質的にはこうなっていくべきだよね」と心の底から思えることをひたすらやる、それが大きく持続的なモチベーションにつながります。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

世界的に伸びてくるであろうデータ×ヘルスケアの分野における、アジアのパイオニア的存在になることを目指しています。

 

今は、経営者層を中心にご利用いただいていますが、最終的には“すべての人を救いたい”想いがあります。

 

ただ、より多くのユーザー層に広げていく段階においては、単に予防医療の重要性だけで訴求していくだけでは非常に難しいと考えています。

 

これまで健康は、無形資産という目に見えない資産と言われてきました。しかし技術の進歩によりゲノム情報や生活習慣を含めあらゆる健康状態がデータで可視化できるようになり、健康は目に見える資産へと変化してきています。またAI技術の進歩などにより、健康データを分析することで将来の疾患リスクを予測することも可能になっていくでしょう。そうすると、健康であること自体が、経済的な価値に転換される時代が近々来るのではないでしょうか。

 

そうした時代に向けて健康という資産情報を管理し活用できるプラットフォームを作り、幅広い層の方々、日本だけではなく海外にも展開していきたいと考えています。

 

正しいことをやっている感覚をモチベーションにすることで、継続が可能に

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

スタートアップを始めるのであれば、自分が心から「こうあるべき」と強く思える領域に取り組むことが大切だと思います。

 

正しいことをやっているという感覚が、継続するモチベーションになります。

 

儲かるからやる、今マーケットが熱いからやっている、というような理由で起業をすると、その市場がが衰退したり、強い競合が現れたりすると、事業を辞めてしまおうとすぐに思いがちです。

 

しかし、ビジョナリー経営で、軸をぶれずに持てていれば、困難な場面に直面しても、アプローチの仕方を改善し続けながら事業を継続することができます。

 

事業拡大に向け、どのような人材を求めていますか?

現場で診療にあたり、予防医療の重要性を痛感している先生がいらっしゃいましたら、ぜひ一緒に、新しい持続可能な医療モデルを考えていきたいです。

 

現在、所属しているドクターは、自分の臨床経験を積み上げた上で、病気になった患者を病院で待っているだけでなく、健康な段階から能動的にアプローチをしてクライアントの健康に過ごせる期間を最大化するところに自分の知識や経験を使いたいというマインドを持った人たちです。

 

また、エンジニアも募集しています。パーソナライズされた正しい予防医療を世の中に普及させていく上で、健康データを蓄積・分析できるプラットフォームの開発は不可欠です。磨いたエンジニアリング技術を社会的意義があることに活かしたい方、開発を通して人の命を救うという尊いことに挑戦したい方、ぜひお待ちしています。

 

▼採用情報

https://company.wellness.jp/medical-careers

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:中田 航太郎 氏

1991年生誕。東京医科歯科大学医学部卒業後、東京逓信病院初期研修を経て総合診療医。学生時代は早稲田大学院にてマインドフルネスの研究を行う。医療現場で働く中、予防医療の重要性を認識し、2018年6月にウェルネスを設立。2021年1月に定額制パーソナライズ予防ケアサービス『Wellness Membership』をリリースし、現在500名以上の経営者が利用している。エビデンスに基づく予防ケアの普及を目指し、『Tarzan』『Women’s Health』等メディア記事や、『医師が教える内臓疲労回復』等書籍の監修も行う。

 

企業情報

法人名

株式会社ウェルネス

HP

https://company.wellness.jp/

設立

2018年6月20日

事業内容

予防医学/エンジニアリング/デザイン

沿革

2018年6月 会社設立

2019年8月 シード期第三者割当増資

2021年4月 Wellness Membership正式リリース

2022年1月 プレシリーズA期第三者割当増資

2024年3月 シリーズA期第三者割当増資

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