
株式会社ハリイは、「病気になっても動けることを当たり前にする」をビジョンに掲げ、医療用ウィッグの開発・製造・販売を行っています。アパレルブランドでの25年以上の商品企画経験を持つ代表取締役の池野順子氏は、自身が脱毛症を経験したことをきっかけに、従来の医療用ウィッグが抱えていた快適性の問題を技術力で解決すべく起業。体温で頭部に吸着する素材や無縫製ベースネットなど、業界初の技術を駆使したプロダクトで、脱毛症や抗がん剤治療中の方々の日常を支えています。今回は、事業の詳細や起業の経緯、そして今後の展望についてお聞きしました。
弊社は「病気になっても動けることを当たり前にする」というビジョンを掲げ、スポーツでも使用できるような医療用ウィッグ「Sportswig」の開発・製造・販売を行っています。主に脱毛症や抗がん剤治療中の方々に向けたプロダクトです。
従来のウィッグは、ヘアスタイルが美しく見えることに重点が置かれており、主に美容師の方が開発していました。一方、弊社の「Sportswig」は、快適性、機能性を主眼において開発しており、デザイン・パターン・素材・付属品に至るまで徹底的にこだわっています。
ズレにくい、軽い、蒸れにくい、暑くなりにくい、頭が痛くなりにくいといった不快な部分を根本から解消することが最大の目的です。
その実現を支えているのが2つの技術です。
1つ目は、三井化学株式会社が開発した「HUMOFIT®」という素材です。体温でゆっくりと伸び、頭部に吸着する性質を持ちます。この素材をウィッグに採用したのは弊社が世界初です。
従来のウィッグは両面テープやボンドで固定するため、長期使用による頭皮への負担が課題でしたが、「HUMOFIT®」を用いることで固定材を一切使わず、体温だけで安定した装着が叶います。しかも締め付け感もなく、まるでウィッグを被っていないかのような感覚で過ごしていただけます。
2つ目は、株式会社島精機製作所が開発したホールガーメント®を使用し、無縫製のベースネットを独自開発しました従来のウィッグは平面の布を球体に縫い合わせるため、縫い目の重なりが肌への刺激となっていました。
弊社では、形状記憶性のある糸を用いて、頭部の形状そのままに成形できるベースネットを制作するため、縫い目のない快適な着け心地を実現しています。夏に汗をかき、風が吹くと涼しいと感じられるほどの通気性があり、スポーツ中も違和感なく動けるとお客様からもご好評をいただいています。
ウィッグはオーダーメイドで製作しています。まずは東京・吉祥寺の店舗か提携美容院で無料でご試着いただき、頭部の3Dスキャンで型を取り頭部模型を作成。そこから3ヶ月~4ヶ月でオーダーメイドのウィッグが完成し、試着場所でカット・納品という流れです。
医療美容師の資格を持つスタッフが担当し、髪の素材(人毛・人工毛・ミックス)や色、スタイルはお客様のご希望に合わせて幅広く対応しております。ウィッグカット特有の技術と、患者さんの心に寄り添う姿勢を兼ね備えたプロが、お一人おひとりに合わせた仕上がりをお届けします。

ウィッグの開発を始めたのは、自身の病気の経験がきっかけでした。2018年、突然の汎発性脱毛症によって髪が失われ、長年楽しんできたヨガやサーフィンがしにくくなってしまったのです。どうしてももう一度やりたいという思いで、ウィッグを作ることを考えたのが始まりです。
フリーランスでデザイナーをしながら、
その構造は「これは30年前のものなのではないか」と思うほどで、25年以上にわたりアパレル分野でもの作りに携わってきた自分だからこそ、その技術をウィッグに活かせると確信し起業しました。
最大のこだわりは、自分自身が当事者として常に使い、試し続けることです。快適性が高いのか低いのかを感覚として研究しながら作っているからこそ、改善のサイクルが早く回ります。
さらに、弊社には脱毛症を抱える美容師もスタッフとして在籍しており、美容師視点でもプロダクトを磨ける体制を整えています。他社ではなかなか見られない強みだと自負しています。
もう一つのこだわりは「美しさ」です。私自身、既存の医療用ウィッグを購入した際、選択肢の少なさと、服を選ぶような楽しさがないことに強い違和感を覚えました。
弊社ではパッケージのデザインから細部に至るまで、すべてにおいて美しさを妥協なく追求しています。「自分が大好きなものを作る」という信念のもと、ウィッグを「医療器具」ではなく「自分らしさを表現するもの」として届けることを目指しています。

最大の壁は、創業初期の資金難でした。フリーランスのデザイナーとして生計を立てながら開発を続けていましたが、プロトタイプが完成してもなお、このままでは続けられないという状況に追い詰められました。
100社以上のVCの方々と会話を重ね、イベントへも積極的に参加しましたが、なかなか資金調達には繋がらない日々を過ごしていました。
しかし、大きな転機となったのは富山県に移住し、富山県主催のスタートアップ支援プログラム「T-Startup」へ採択されたことでした。そこでたくさんの出会いがあり、志に共感してくださる投資家の方とお会いすることができたのです。
ずっと捨て身の気持ちで投資家の方々と壁打ちしてきたことが、この出会いに繋がったと今になって感じています。
当初は自分自身のために作り始めたウィッグでしたが、お店をオープンし、クラウドファンディングを行う中で、お客様からの声がモチベーションへと変わっていきました。
「ウィッグをつけながら大会で優勝できました」「このウィッグで思いっきり子どもと遊べました」という喜びの声が届くようになり、ハリイを続ける大きな力になっています。なかでも深く心に刺さったのは、お客様から「お嬢様が90歳になるまでにかかるウィッグの費用を計算してほしい」という言葉です。
その言葉を聞いた時に、この事業は終わらせてはいけない、継続させなければならないと強く感じ、お客様の人生に寄り添い続けるために、どうすれば続けていけるかを真剣に考えるようになりました。

国内での事業基盤を固めながら、「Sportswig®」を世界へ届けることが大きな目標です。世界のウィッグ市場は約2兆4,030億円規模で、そのうち北米のシェアだけで37%を占めると言われています。
巨大なグローバル市場を攻略するには、戦略的パートナーシップの構築が重要です。ハリイ独自の知財と、医療用かつ「スポーツウィッグ」という新カテゴリーの優位性を武器に、化粧品メーカー大手へのM&Aを一つのマイルストーンとして捉えています。
弊社が採用するベースネットやHUMOFIT®はいずれも日本国内で開発された技術です。これらを世界に広めることは、日本の誇る技術を海外に発信する役割も担うことだと考えています。
また、ウィッグにとどまらず、病気や手術による身体的な不便を解消するプロダクトを幅広く開発していきたいという思いもあります。長年のアパレル経験で培った知見を活かし、医療と日常生活の接点となるプロダクトを広く手がけていくことが長期的なビジョンです。
アイデアだけでなく、手を動かすことがとても大事だと思っています。
私も構想期間が1年以上ありましたが、いざ作り始めてみると、考えていたこととのズレがたくさんありました。やはり手を動かして作り始めたからこそ、物になっていったと感じています。まずその一歩を踏み出すことが大切だと思います。
以前は他のウィッグを使っていたんですが、好きな髪型にできないのが一番辛かったです。女性として綺麗でいたいのに、ヘアアレンジもできないし、夏は暑くて被るのが苦痛でした。
ハリイのウィッグにしてからは、蒸れも不快感もなくなって、バレッタを使うようなヘアアレンジもできるようになりました。普通の医療用ウィッグだと襟足が浮いてしまって、髪を上げたスタイルが絶対にできなかったんです。それも解消されたのが本当に嬉しかったです。
密着感も全然違います。地下鉄のホームに立っていると来る突風にも耐えるほどです。
脱毛症になってから、色々なウィッグを調べたり買ったりして、「これじゃない」を繰り返しましたが、ハリイのウィッグに出会った時に、「これだ」と感じました。まず最初にハリイのウィッグを使ってみてほしいです。
起業家データ:池野順子 氏
アパレル企業にて25年以上にわたり商品企画・デザイナーとして活躍。2018年に汎発性脱毛症を発症したことを機に、自らの経験と技術をもとに医療用スポーツウィッグの開発を開始。2023年2月に株式会社ハリイを設立し、代表取締役に就任。脱毛症・抗がん剤治療中の方々が快適に動き続けられる社会の実現を目指している。
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法人名 |
株式会社ハリイ |
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HP |
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設立 |
2023年2月6日 |
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事業内容 |
ウィッグの開発・製造販売・メンテナンス |
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