ベンチャー企業の成長ステージとは、事業を始めてから成長・拡大して軌道に乗るまでに経過する段階のことです。成長ステージは大きく4つに分けられ、そのステージに応じて資金調達や投資評価が行われます。

 

しかし、「各ステージの特徴は?」「ステージごとの資金調達は?」など、疑問に思う方もいるでしょう。本記事では、成長ステージの特徴やエグジットについて詳しく解説しています。ベンチャー企業の創業を検討している方や既に事業を始めている方は、ぜひ参考にしてください。

 

ベンチャー企業の成長ステージ

 

ベンチャー企業の成長ステージは「シード(Seed)」「アーリー(Early)」「ミドル(Middle)」「レイター(Later)」の4つに分類されます。事業を発展させるためには、これらの成長ステージの特徴を理解しておくことが大切です。

 

各ステージで必要な経営資源は異なるので、ベンチャー企業の資金調達や投資評価において重要な指標となります。また、自社の成長ステージを把握することは、企業の継続と発展に不可欠です。

 

シードステージ

 

シードステージとは、起業前の段階です。事業のアイデアやコンセプトの構想段階から、仮説検証の段階まで含まれます。プロダクトのリリースに向けて、市場調査費やプロトタイプ開発費など、最低限のコストがかかります。

 

これらにかかるコストは起業家がまかなうこともありますが、少し大きなビジネスアイデアになると数百万、時には数千万円が必要になるケースも多いです。このような場合は、家族や親族などから投資してもらいます。

 

シードステージでは3〜5人程度の小規模なチームで活動しますが、人件費を抑えるためにパートタイムや業務委託などの形態も積極的に活用されるケースが一般的です。

 

シードステージでの資金調達

 

シードステージでは、主に以下の方法で資金調達を行います。

 

  • 自己資金
  • 投資家からの投資
  • 日本制作金融公庫(政府系金融機関)による創業融資
  • クラウドファンディング
  • 家族や親族などからの借入
  • 地方自治体・信用保証協会・金融機関の連携による制度融資

 

自己資金だけでまかなえるケースは非常に少なく、足りない部分は外部から資金を調達します。近年、資金調達で主流になりつつあるクラウドファンディングとは、Web上で自身の夢や活動内容を発信し、その想いに共感した人やその活動を応援したい人などから資金を募る方法です。

 

あらかじめ目標金額を設定しておき、達成した場合には自社の商品やサービスを見返りとして提供します。また、投資型クラウドファンディングも登場しており、資金調達する際の選択肢が増えています。

 

投資型クラウドファンディングとは、株式との交換を条件に出資する方法です。さまざまな資金調達の方法が存在するため、自社に合ったものを選ぶ必要があります。

 

資金調達できる金額の相場

 

シードステージで資金調達できる相場は、数百万円〜数億円程度です。この段階で多額の資金が求められるケースはほとんどないため、資金調達額の目安も比較的少なくなっています。ただし、エンジェル投資家から出資を受ける際に株式を多く渡すと、経営方針に口出しされる可能性があります。

 

また、将来的に資金調達を行う場合、他の投資家から投資を受けにくくなる恐れもあるため注意が必要です。

 

資金調達にかかる期間

 

シードステージで投資家から資金調達を行う場合は、1日〜半年程度の期間がかかります。各投資ラウンドにおける期間の目安は、エンジェルラウンドが1日〜1ヶ月程度、シードラウンドが数日〜3ヶ月程度、プレシリーズAラウンドが2ヶ月〜半年程度となります。

 

なお、投資ラウンドとは投資家がスタートアップに対して投資を行う段階のことです。一般的に、成長ステージと投資ラウンドは切り分けて考えられます。投資ラウンドは大きく分けると以下の6つです。

 

投資ラウンド

スタートアップの段階

エンジェルラウンド

起業前後のプロダクトやサービスが形になっていないアイデアのみの段階

シード

大枠のビジネスが決まった段階

シリーズA

ビジネスを開始した直後の段階

シリーズB

提供している商品やサービスが評価され、ビジネスが軌道に乗り始めた段階

シリーズC

黒字経営が安定し始めた段階

シリーズD以降

安定的に収益を出せるようになった後の段階

 

アーリーステージ

 

アーリーステージとは、創業から発展するまでの段階です。成長ステージの一つで、シードステージの後に位置します。創業8年、売上高2億円以下、従業員規模が数人のベンチャー企業が代表例です。

 

アーリーステージでは事業を展開するために、PMFの達成と収益化を目指します。赤字を計上することが多く、資金繰りに悩むケースは少なくありません。事業を継続するためには、運転資金や設備投資資金、ライセンス使用料、人件費、販売促進費など、さまざまコストが発生します。

 

なお、この段階になると従業員は5〜20人程度に増加します。このようなメンバーの増員に伴い、アーリーステージのベンチャー企業は追加の資金調達が必要です。

 

アーリーステージでの資金調達

 

アーリーステージでは、主に以下の方法で資金調達を行います。

 

  • 投資家からの投資
  • 日本政策金融金庫(政府系金融機関)による創業融資
  • 補助金・助成金
  • 地方自治体・信用保証協会・金融機関の連携による制度融資

 

その他、ファクタリングやICO、クラウドファンディングによる資金調達もあります。

 

資金調達できる金額の相場

 

アーリーステージで資金調達できる相場は、数億円〜数十億円程度です。シリーズAの段階で数億円〜十数億円程度、シリーズBの段階で十数億円〜数十億円程度となります。

 

アーリーステージでは運転資金や設備投資資金などさまざまなコストが発生するため、シードステージよりも資金調達する金額が高くなります。投資家に投資してもらう場合は、株式を渡しすぎないよう注意が必要です。

 

資金調達にかかる期間

 

アーリーステージで投資家から資金調達を行う場合は、半年程度かそれ以上の期間がかかります。シリーズAは半年程度、シリーズBは半年以上が目安です。金融機関から融資を受ける際は、事業計画書や見積もり書など各種書類の計画性や整合性を細かく確認されるため、審査だけで数ヶ月程度かかります。

 

補助金や助成金を利用する際も、複雑な手続きが発生するケースが多いです。入金までに多くの時間がかかるため、計画的に資金調達を進めることをおすすめします。

 

ミドルステージ

 

ミドルステージとは、事業が拡大し軌道に乗り始めて成長している段階です。エクスパンションステージと呼ばれることもあり、売上高5億円以上、従業員20人以上のベンチャー企業が該当します。赤字を計上している場合もありますが、安定的な利益を生み出しており、事業規模の拡大が期待されます。

 

組織づくりのために人事部や広報部などの増員、商品開発、設備投資に伴い、より多くの資金が必要です。

 

ミドルステージでの資金調達

 

ミドルステージでは、主に以下の方法で資金調達を行います。

 

  • 投資家からの投資
  • 民間の金融機関によるプロパー融資
  • 地方自治体・信用保証協会・金融機関の連携による制度融資
  • 補助金・助成金

 

シードステージやアーリーステージよりも信用度が高まっており、民間の金融機関やベンチャーキャピタルからも資金が調達しやすくなります。

 

資金調達できる金額の相場

 

ミドルステージで資金調達できる相場は数十億円程度です。ミドルステージに該当するベンチャー企業の中には、資金調達が必要ないほど収益が安定するケースもあります。

 

ただし、このような企業でも収益が急激に減少するリスクはあるため、資金調達は常に念頭に置いておくことが大切です。

 

資金調達にかかる期間

 

ミドルステージで投資家から資金を調達する場合、半年以上の期間が必要です。金融機関から融資を受ける際はアーリーステージと同様に、審査だけで数ヶ月程度かかります。補助金や助成金の申請を専門家に相談したうえで行う場合、さらに長期化するため注意が必要です。

 

レイターステージ

 

レイターステージとは、事業が安定し、株式上場やM&Aなどのイグジット戦略の具体的な検討が始まる段階です。売上高は30億円以上、従業員数30〜100人のベンチャー企業が該当します。メイン事業の規模を拡大し、新規事業や関連事業の開発に着手するケースも多いです。

 

このような場合は、さらに増員が行われるため追加の資金調達が必要になります。また、株式上場やM&Aによるイグジットに向けて、さらに利益や売上を出すために追加で資金調達を行う企業も少なくありません。

 

レイターステージでの資金調達

 

レイターステージでは、主に以下の方法で資金調達を行います。

 

  • 投資家からの投資
  • 民間の金融機関によるプロパー投資
  • 地方自治体・信用保証協会・金融機関の連携による制度融資
  • 補助金・助成金

 

ミドルステージと同様に企業の信頼度が高まり、民間の金融機関や地方自治体などから融資を受けられる場合があります。レイターステージでは、金融機関の融資条件を容易に満たせるケースがほとんどです。

 

資金調達できる金額の相場

 

レイターステージで資金調達できる相場は数十億円程度です。レイターステージのベンチャー企業は、黒字が継続して資金調達が不要なケースもあります。しかし、市場動向の変化を考えると、資金調達の重要性は高いです。

 

資金調達にかかる期間

 

レイターステージで投資家から資金を調達する場合、半年以上の期間が必要です。アーリーステージやミドルステージと同様、金融機関の審査は数ヶ月程度かかります。また、補助金や助成金も入金されるまでに多くの時間を要するため、計画的な資金調達が大切です。

 

エグジットの種類

 

エグジットとは、企業や株式を売却し利益を手にすることです。ベンチャー企業の出口戦略であるエグジットは、主に以下の2つに分けられます。

 

  • IPO
  • M&A

 

メリットとデメリットが異なるため、その違いを理解することが大切です。それぞれを比較したうえで、自社に合った方法を選びましょう。

 

IPO

 

IPOとは「Initial Public Offering」の略で、日本語では「新規株式公開」と訳されます。企業が株式市場に上場し、株式を公開・売却することです。IPOは、主に企業の資金調達や認知度アップを目的に行われます。

 

利益が必ず出ている必要はなく、将来の成長に向けた先行投資により赤字を抱えたまま上場にするケースもあります。また、IPOは創業者が保有する株式を売却した後も、その会社の経営権を維持できるのが特徴です。経営権の維持が可能な株式は手元に残したまま売却することで、経営権を維持しながら市場からの資金調達が可能となります。

 

M&A

 

M&Aとは「Merger and Acquisition」の略で、日本語では「合併及び買収」と訳されます。合併や買収によって複数の企業を一つに統合したり、他社を傘下に入れたりする際に利用されるのが一般的です。株式上場以外の手段として、他の企業に事業を売却する方法も挙げられます。

 

事業から完全に退くために株式を全て売却する場合もあれば、売却した企業のグループ内で経営を続けて利益に貢献する場合もあります。「株式上場するのか」「事業売却するか」という重要な決断は、レイターステージで行わなければなりません。

 

自社の状況や将来を見据えたうえで、適切な出口戦略を決めることが重要です。

 

ベンチャー企業は成長ステージごとの特徴を知り事業を成功させよう

 

成長ステージは大きく4つに分けられ、資金調達や投資評価において重要な指標となります。適切なタイミングで経営資源を補充するためにも、起業家は各ステージの特徴を理解することが重要です。

 

ミドルステージやレイターステージになると資金調達が不要となるケースも多いですが、市場動向によって収益が激減する場合があるため、常に資金調達は念頭に置いておきましょう。本記事を参考にして、成長ステージに合わせた資金調達を行ってください。

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