株式会社たびふぁん 代表取締役 西岡 貴史

まだあまり知られていない日本のニッチな部分を発掘・発信し、旅をテーマに面白さや魅力を伝えるサービスを展開する株式会社たびふぁん。日本各地に存在するその地域ならではの魅力に触れることでファンを増やし、地域の活性化や発展、更には旅行業界の市場拡大に寄与する取り組みを行っています。

 

今回は、自身も旅行と温泉巡りが好きだという代表取締役の西岡貴史氏に、事業を始めた経緯や今後の展望などをお聞きしました。

 

「有名」でななく「魅力」に着目した旅を提案

事業の内容をお聞かせください

当社は「旅のロングテール®」という手法を採用しており、いわゆる日本の有名どころではないニッチなところを対象にした観光事業を展開しています。具体例の1つとして、温泉を切り口に、新しい温泉の魅力を発見することをコンセプトにしている「ONtabi」という温泉旅メディアを提供中です。元々、LINEで簡単な質問に答えていただくとおすすめの温泉地が出てくるレコメンドサービス「ONtabi(旧」温泉botくん)」を行っており、それに加えて現在は新規事業として立ち上げたメディアにも力を入れています。

 

ONtabiは、温泉ソムリエが3,000ヶ所ある温泉地の中から厳選し、およそ200ヶ所を掲載しています。LINEと連携していることもあって若者の利用も多く、現在の登録者数12,000人のうち65%が若年層のZ世代になっています。若者というと、可処分時間と可処分所得が少ないため旅行業界ではターゲットにしづらいとされているものの、新しいサービスだからこそ若者が使ってくれるのではないかと考え、あえてアプローチしています。

 

我々の強みは、他の既存メディアではあまり見られない温泉地も掲載しているところにあります。3,000ヶ所ある日本の温泉地の中で皆さんがどれくらい思い浮かべることができるかというと、おそらく100ヶ所ほどだと思います。つまり残りの2,900ヶ所は埋もれているということです。そういったあまり知られていない場所までを発信しているのが当社の特徴になります。

 

また、温泉事業の他に、観光地域(官民連携)プロモーション事業を展開中です。こちらは地方自治体や観光事業者を対象に、観光地でない地域においても観光資源の創出や造り込みによってPRを行っています。例えば、埼玉県横瀬町にあった普通の棚田を活かして、ヨガができるウェルネスツーリズムという企画を出しました。これは日経新聞にも取り上げられ、PRだけでなく企画を含めて地域を売り込む活動を行っています。

 

地方自治体の他に、環境省や観光庁とも取り組みをさせてもらっています。観光や地域連携などのノウハウを基にコンサルティングを行ったり、地方創生、地域活性化、ないしは温泉振興というところの発展に繋げるためのサービスを提供したりと、スタートアップとして外部の我々が積極的に取り組んでいくことが重要だと考えています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私は元々旅行が好きで、よく大阪や名古屋、愛媛、博多など西日本の有名どころばかりを中心に旅していました。大学1年の時、東北に一人旅する機会があり、当時は東北の魅力に気付いていませんでした。しかし行ってみると良いところがたくさんあり、人や物が溢れていないところに魅力を感じました。このような場所が日本には多くありますし、そういうところをさらに発信し、さらに日本の面白さに気付いてほしい、そのような思いがありました。

 

そして、大学3年時に大手旅行会社で自分の思いを形にしたいと思いましたが、有名なところばかりが発信される傾向にある旅行業界では自分自身のやりたいことができないと感じ、就職ではなく自分で会社を創業したという経緯です。

 

「温泉」に注目したのには2つの理由があります。1つ目は、日本のニッチな観光地が流行る共通点は何だろうと考えた時に、温泉は老若男女に愛されているのではないかと考えたためです。元々温泉は旅行の目的の中でも重要性が高く、尚且つ日本特有の文化と言えます。そのため、インバウンドも含めて温泉はとても魅力的なポイントになると思いました。

 

2つ目は、中小の宿泊施設を選んでもらうにあたり、施設の良さを提示するよりも温泉という切り口に少しピボットした方がユーザーや旅行者に伝わりやすいのではないかと思ったからです。やはり旅行業界はユーザーや旅行者ありきで成り立っていると思いますし、万人に浸透しやすい温泉という切り口から観光や旅を発信していこうと思ったのが背景です。

 

自分も旅人であることで生きた情報が得られる

仕事におけるこだわりを教えてください

旅行者ファーストな考え方が重要だと思っています。現代の旅行は有名なところばかりが発信される傾向にありますが、我々はコミュニティから情報を発掘して現地の良いところを見つけることに重きを置いています。我々がニッチな情報発信ができるのは、自分たちも旅人であり、現地の声を聴き続けることを大切にしているからだとも言えます。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

旅行業界におけるロングテールは価値があると思う反面、市場がないところに市場を作るのは非常に難しいと感じたことです。ボリュームゾーンではない市場にあえてチャレンジしているので、ユーザーへの伝え方が難しいのです。

 

最初は旅のロングテールというキャッチーな言葉もなく日本の良いところに光を当てると言っていたのですが、自分でもそれがどう良いのかよく分かっていませんでした。また、当社の事業領域と市場を見極める難しさは今でも感じており、壁となっています。

 

若者に旅の面白さを知ってほしい

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

今後、旅行はもっと面白くできると思っています。現在の旅行雑誌は有名どころばかりを取り上げた、薄いものが多いですが、もっと厚くなったらそれはそれで面白いし選択肢が増えることでワクワクも増えると思っています。日本は田舎と呼ばれる”地方”がほとんどであるからこそ、日本の知られていない部分を取り上げることは選択肢を拡大させ新たな楽しみ方の発掘にも繋がるのです。

 

そして今後は、旅の面白さをもっと若者に伝えていきたいと思っています。Z世代の若者はセレンディピティな体験を求めており、その需要に対して旅がうまくハマると考えました。例えば、Instagramでは投稿画面に小さく位置情報が記されていたり、SNSの誰かの投稿がレコメンドされたりすることが当たり前になっている時代の背景があります。それが若者ならではの価値であり、このような情報を活用することが我々にできることなのかなと思い、その意欲がモチベーションになっています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください

今後の展望としては3つあります。

 

1つ目は、日本ならではのローカルな場所やニッチな場所を広めるために、それに関連する様々な分野に展開させていきたいと思っています。ずっと作りたいと思っているのは「ニッチ×旅」を集めた”OTA”と呼ばれる投稿型プラットフォームです。現在はその1つとして温泉をやっていますが、それ以外にも飲食、文化、土産、自然体験アクティビティなど様々な形態でできると思っています。これらを包括的にプラットフォームで展開することで「地方と言ったらこのサービスだ」と第一想起が取れると同時に、ロングテール経済圏というものが新たに生まれるのではないかと思っており、旅行業界の大きな変革に繋がるものになると期待しています。

 

2つ目は、インバウンドの対応強化です。世界経済フォーラムが発表した2021年の旅行・観光開発指数ランキングでは日本が1位を獲得しており、とりわけ文化資源が大きく評価されています。日本文化が外国から注目されていて、かつ日本には温泉がたくさんある、これはまさしく需要と供給が釣り合っている状況だと言えます。そのため、まだ知られていない日本の魅力をたくさん選定し、挙げていきたいです。それと同時に、LINEのサービスを多言語化し、外国人含め多くの人に使ってもらうことも重要だと思っています。

 

3つ目は、旅行業界のサブスクリプションサービスの展開です。旅行業界は、ユーザーが予約するまでなかなか手数料を取ることができません。そのため、旅行のサブスクリプションビジネスを導入するにはかなり作り込む必要があると思っており、温泉というコンテンツだけでなく温泉やサウナ好きの若者が集まったコミュニティという形にして、最終的にマネー体系化していきたいです。

 

このようにして、今後の当社の全体的なビジネスモデルとしては、旅行会社などに対してのBtoB事業、地方自治体や観光事業者とのBtoG事業、そしてサブスクを展開するBtoC事業、これらを軸に旅行業界の課題を三方よしで解決するべく取り組んでいきたいと思います。

 

「好き」を突き詰めれば「得意」になる

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

起業には人それぞれ理由があると思いますが、私にとって起業は”好き”を突き詰めたような形です。好きという気持ちだけではできませんが、好きはいずれ得意になると思っており意外と重要な要素だと思います。

 

そして、いろいろな人に様々なことを言われても一次情報を大切にしてほしいです。私はこの分野では自分が一番詳しいと信じていますし、皆自分の中の正解があることがほとんどだと思うので、その知見を活かして是非突き詰めてみてください。やりたいことの手段として、起業だったり副業だったり、あるいはイントレプレナーシップやアントレプレナーシップなど人によって様々な方法があって良いと思います。とにかく好きなことをやってみるというのは楽しいですし、非常に大きな原動力になるはずです。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:西岡 貴史 氏

大学在学中に、旅行系のスタートアップの立ち上げに参画し、MDから旅行業責任者まで歴任。大手旅行会社グループの内定を経て、株式会社たびふぁんを2021年02月に創業。

 

日本のニッチな地域を”旅・観光”から盛り上げる「旅のロングテール」という観光産業で新たな取り組みを進める。

 

趣味は国内旅行と温泉巡りで、100軒以上の宿に宿泊をする。

一般社団法人 観光クロスオーバー協会 代表理事

主な資格:国内旅行業務取扱管理者、温泉ソムリエ

会員:温泉学会会員、温泉地域学会会員

 

企業情報

 

法人名

株式会社たびふぁん

HP

https://tabifun.jp/

設立

2021年02月

事業内容

温泉事業「ONtabi」の企画と運営、観光地域プロモーションサービスの企画と運営

 

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