株式会社Polyuse 代表取締役 大岡 航

株式会社Polyuseは、建設業界向けに国産の建設用3Dプリンタを開発・提供するディープテック企業です。従来の型枠工法では困難だった複雑なコンクリート構造物を短工期・省人化で実現し、国内の公共工事を中心に90%以上のシェアを実現しています。今回は、事業内容や起業の経緯、今後の展望などを詳しくお聞きしました。

施工現場をテックで置き換え、労働力不足に挑む

事業の内容をお聞かせください

当社は建設業界での人手不足や3Kとも称される労働環境などの課題に対して、建設用3Dプリンタによる施工の新たな選択肢を開発しています。それは単にハード単体を提供するのではなく、それを起点にお客さまとの連携強度を高め、専用のソフトウェアやコンクリート材料の開発・提供まで一気通貫で行っています。

 

これまでの従来工法と比較した代替手法という所にとどまらず、自由度の高いコンクリート構造物が施工可能となり建設現場においての施工の柔軟性や安全性をより高めていくことができると考えています。建設には大きく建築と土木がありますが、当社は道路、河川、山間部、港湾、鉄道、上下水道などの公共インフラを担う土木領域を中心に取り組んでいます。

 

その背景には、人手不足や労働環境の解消を目的としつつ、災害復旧工事などの有事の際での活用も大きな目的としています。と言うのもコンクリート構造物の製造プロセスには、長年積み上がった属人的な工程や工法が蓄積していますが、それゆえに持続可能性には警鐘が鳴らされています。当社は「人とテクノロジーの共存施工」をビジョンに持ち、インフラ維持に重要なコンクリート構造物施工においての持続可能性を強化する支援を進めています。

 

実例として、2025年に京都市西京区の「3・3・5中山石見線道路改築工事」で3Dプリンタが活用された際は、工期は最大85%短縮、省人化も約60%削減という今後に向けて非常に期待が持てる数値を残すことができた。

 

本工事の施工を対応した吉村建設工業様は当社との関係性も長く、建設用3Dプリンタを自社設備として運用しています。導入に向けては研修や専任のサポート体制を通じて、誰でも簡単、かつ短期間で稼働・製造ができる状態を支援します。現時点での全国での稼働台数は35台で、今後1年ほどで100台の設置を目標にしています。これらは世界的に見ても唯一無二の実績となりつつあります。

 

また当社の3Dプリンタでは、従来の工法では作るのが難しかった複雑な形状の構造物にも対応できます。さらに表面模様のテクスチャーに変化をつけるなど、意匠性の高い施工事例も多数創出されています。

 

現在、建設業界はテクノロジーや新技術の活用が進んでおり、設計や施工管理面でのAI技術を活用した効率化、重機の自動化や遠隔操作など多岐に広がりを見せています。当社の3Dプリンタの取り扱いも、今後の建設業界の一端を担うべく社会実装が広がっています。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私は学生起業から始まり、インターネット技術軸に多種多様な開発現場を見てきました。受託開発から自社プロダクト開発まで経験し、純粋に事業をゼロから作ることが好きで、起業選択をしてきました。

 

20代後半になる頃、今後のキャリアを長期的に俯瞰して見るようになりました。元々の軸に「どう生きたいか?」という考えがあり、世界で戦えるリアルなビジネスをやりたい気持ちが芽生えていました。

 

当時、受託開発が売上の半分以上を占める労働集約的なビジネスモデルでしたが、売上や組織を劇的に伸ばすことに苦戦していました。競合との差別化もしにくく、このままAI技術が進んだときに自分たち自身の存在意義をどこまで磨いていけるのか、当時はとても不安を抱えていました。

 

一方で、建設業は今まさに抜本的な改革が始まっています。今まで以上に品質良く安全な施工能力の必要性が求められておりますが、持続可能性の点で強い危機感が生まれています。特に建設現場においてはこれからの10年でこれまでに事例のない規模で大きな変化が起きると予測しています。

 

私は新規事業の立ち上げにおいて、特に資本市場がどのような価値を評価しているのかを定点観測することは極めて重要であると考えています。例えば、直近約10年間に上場したスタートアップ企業のIR資料や有価証券届出書等を継続的に確認するなどしております。

 

当社も同様ですが、業界において根深い構造的な労働力不足という社会課題に対するソリューションを提供している点などがスタートアップ側の共通性として見られます。資本市場の評価軸と、自分自身の問題意識および関心領域を重ね合わせた結果、物理的なサービスを通じて労働力不足の解消に寄与できる領域として建設分野に着目し、起業に至りました。

現場解像度でつくり、現場数で磨く

仕事におけるこだわりを教えてください。

私は、事業を構想・推進するうえで「高い解像度」を持つことを重要視しています。

 

たとえば建設業界も慢性的な人手不足に直面していると言われますが、現在の日本においては多くの産業が同様の構造的課題を抱えています。労働需給ギャップや有効求人倍率、年齢構成の推移などは、AI分析や国土交通省の公開統計を参照すれば定量的に把握できます。しかし、それらはあくまでマクロデータであり、誰でも取得可能な二次情報に過ぎません。

 

私たちはそこから情報の内訳にこだわります。社会課題の存在を認識しつつ、自社プロダクトの必然性との間には、構造的な論理接続が必要です。そこを言語化できなければ、単なるトレンド追随にとどまるという考えです。若手の起業家から相談を受けることもありますが、なぜこの領域で、なぜこの解決手段なのかを高い熱量や原体験と合わせて聞く意識を持っています。

 

社内においても、たとえば新しいプロダクトや機能の構想が出た際には、単なるコンセプト議論にとどめず、形状、寸法、公差、素材、色彩、設置環境、施工動線、安全基準、保守性に至るまで具体的に議論します。つまり、抽象概念を物理空間レベルまで落とし込むプロセスを重視しており、少しでも高い解像度が事業創出における競争優位の源泉だと捉えています。

起業から今までの最大の壁を教えてください

事業には常に「壁」が存在し、その性質は企業のフェーズごとに変化すると考えています。

 

創業期の最大の壁は技術的実証でした。構想ではなく、技術が安全性・再現性などの観点で社会実装に耐えうることを証明する必要があります。物理領域においては、「動くこと」と「成立すること」の間に大きな隔たりがありました。

 

次のフェーズでは、技術をスケール可能な事業へ転換できるかが核心でした。経営資源の最適配分からボトルネックとレバレッジポイントを特定する必要があります。同時に、実案件を通じてさらに解像度を高め、顧客との共創モデルを確立することが不可欠でした。

 

そして現在は、次を見据えた経営基盤の構築が最大のテーマです。組織拡大に伴う役割定義や評価制度の設計に加え、内部統制体制の整備、ガバナンスの高度化、KPIマネジメントの精緻化など、企業としてさらなる成長性が問われています。

 

このようにフェーズが進むごとに問いの質は変わります。その都度、解像度を上げ続けること自体が壁を乗り換えていけるあるべき姿だと考えています。

成功体験をつくり、数字で成長を示す

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

日本のインフラを守ること、そして当社のパートナー企業への貢献です。大袈裟かもしれませんが、自分たちが業界の役に立っている、未来を作っている。と少しでも感じられた時はとても嬉しいです。そこから1人でも多くの人が安心して暮らし続けられる社会の構築に寄与したいと考えています。

 

そしてそこには当社を信じていただけるパートナー企業のみなさんとの共創がとても心強い糧になっています。やはり我々は彼らなくして存在し得ません。とても大切な存在です。依存という関係ではなく、お互いの専門性が重なり合ってこれまでにないシナジー効果を生む。一緒に未来を作っている実感があり、何物にも変え難く強く前進していく意欲が湧いてきます。

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

起業家である以上は引き続き市場価値を作り、事業を伸ばすことです。

 

R&Dが必要なディープテックは再現性のある売上までの過程が長く、数字や成果が曖昧に捉えられがちです。専門性の違いから、投資家側がニュアンスを汲み取りにくい場面もあります。当社は定量的・定性的の両面で可能な限り具体性をあげることを意識し、常に今の状態を感覚的であっても分かりやすく捉えられる努力を心がけています。

 

そして直近で実施した約40億円の追加資金調達を基盤に、成長投資を本格化しています。コア技術の高度化に向けたR&D、機能拡張、人材採用の強化、ならびに戦略的なマーケティング投資に充当し、技術優位性と事業再現性の両立を図っていきます。

 

海外展開も短期的スコープに入り、すでに複数のプロジェクトが始動しています。日本で培った建設用3Dプリンティング技術と施工ノウハウを展開して、グローバル規模でインフラの生産性向上に貢献していきます。

 

加えて、自社単独の成長にとどまらず、M&Aや子会社設立を通じて機能補完や事業領域の拡張も視野に入れています。市場環境や事業フェーズに応じて最適な体制を設計し、成長スピードと戦略柔軟性を高めていきます。

評価軸を知り強みへつなげる

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

起業するにあたって、伝えたいことは主に二つあります。

 

一つ目は、やはり現場に足を運び、一次情報にこだわることです。AIによって情報が簡単に手に入る時代だからこそ表面的かつ抽象的に物事を捉えるのではなく、従事する方々のリアルな声や考え、行動、思想、文化、好みまでよく対話し、圧倒的な当事者意識を持ち続けることです。我々も常にここにはこだわりを持って事業を進めていきます。

 

二つ目は、外部からの資金調達を選択する際は投資家や金融機関が何に期待しつつどういった物差しで会社を見ているのかをよく理解することです。自分たちのどこが評価され、逆にどこが改善点なのか、しっかりと向き合っていくことで会社の基礎が作られていきます。スタートアップ経営は孤独と言いますが、国内外で仲間作りができる貴重な機会でもあります。大前提楽しむことを忘れず、これからもたくさんのスタートアップや挑戦する人材が未来を作っていくことを願っています。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:大岡 航

1994年生まれ、高知県出身。同志社大学卒。

在学中にWEB/システム開発事業を中心としたIT会社を創業。現在まで、スタートアップの創業4社に参画。2019年に株式会社Polyuseを創業し、2025年現在国内最多のシェアを誇る建設用3Dプリンタメーカーとして、「人とテクノロジーの共存施工」による持続可能なインフラ体制構築を目指す。創業後、国土交通省の令和4年度「インフラDX大賞」をはじめ、2023年経済産業省の「J-Startup企業」、東洋経済の「すごいベンチャー100」等に選定。また、米国の経済誌「Forbes」が主催する「Forbes 30 Under 30 ASIA 2024」において、アジア太平洋地域を対象とした30歳未満の世界に影響を与える起業家に選出。

企業情報

法人名

株式会社Polyuse

HP

https://polyuse.xyz/company/ 

設立

2019年6月

事業内容

建設用3Dプリンタを中心とした建設業界特化型の技術開発及びサービス提供

 

 

送る 送る

関連記事