【#654】AIロボット科学者で日本の研究開発を加速する。研究・知財・事業化を繋ぐ|代表取締役CEO 牛久 祥孝(株式会社NexaScience)

株式会社NexaScience 代表取締役 牛久 祥孝
株式会社NexaScienceは、AIロボットによる研究開発支援を行う企業です。研究開発と知財、そして事業化を繋ぎ、日本の科学技術イノベーションを加速させることをミッションとしています。今回は代表取締役である牛久祥孝氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。
AIロボット科学者が日本の研究開発を加速する
事業の内容をお聞かせください
一言で言うと、「AIロボット科学者」を作っている会社です。ここで言うAIロボット科学者とは、AIやロボットを研究する人間のことではありません。AI・ロボット自体が新たな研究のアイデアを考えつき、実験を計画・実施し、結果を解析して論文を書くいった研究活動そのものをAIロボットが担う、という意味です。
人間の研究者の大まかな監督のもと、自分で考えて自分の名前で研究を進めていくような存在を目指しています。
当社が目指しているのは、研究開発とその事業化という、日本がかつて得意だったはずなのに、今ちょっと苦しんでいる部分を、AIロボットで助けることです。
この「AIロボット科学者」が最も得意とするのはAI分野の研究です。AI自身がAIを研究するというスタイルで、実験計画の立案からプログラムの実行、結果の解析まで、パソコン上で完結できるため実施しやすいという強みがあります。
一方で、化学・マテリアルズ(材料系)の研究にも取り組んでおり、実際に材料系メーカーや大学の先生方と連携しながら、実験の自動化・AIによる研究加速を推進しています。フラスコを使った繊細な実験操作などはまだロボットにとって難しい部分もありますが、着実に領域を広げています。
また、研究開発にとどまらず、その成果を知財(論文・特許)として整理し、さらに事業化へと繋げるところまでを支援することが当社の使命です。研究成果を特許として書き換える作業はとても専門性が高く、研究者にとっての障壁になりがちですが、AIによってその負荷を下げることができます。
そして最終的には、R&Dの成果が事業として花開き、収益が次の研究に還流するという「循環する技術の社会」を実現したいと考えています。
当社が目指しているのは、研究開発とその事業化という、日本がかつて得意だったはずなのに、今ちょっと苦しんでいる部分を、AIロボットで助けることです。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?
子供の頃から理系少年で、中学・高校時代から物理研究部に入りロボットやプログラムに親しんでいました。ドラえもんのような、コミュニケーションできるロボットや友達のようなAIがいたらいいなという、半ば夢見がちな動機がスタート地点でした。
大学院に進んでAI・ロボットの研究を本格的に始めた頃、ある国際学会に参加する機会がありました。AIのトップ研究者だけが集まる場で、しかも京都開催という非常にレアな機会でしたが、ステージに立って発表しているのは見事に日本以外の研究者ばかりでした。
AIという先進的な分野は得意そうだと当時は思っていましたが、日本の存在感がほとんどなかったことに大きな衝撃を受けたんです。その時から、純粋な夢のほかに「日本のR&Dをどう盛り上げるか」というもう一つのテーマが自分の中に芽生えました。
その後も画像認識AIなど様々な研究を進めるうちに、「AIロボット自身で研究開発を進められるのではないか」という確信が次第に強まっていき、創業に至りました。
研究開発を元気にすることが最大のこだわり
仕事におけるこだわりを教えてください。
こだわりは、常に「R&Dを元気にする」という軸から離れないことです。株式会社として利益を出すことを考えると、AIやロボットには他にもっと儲かる使い道がたくさんあります。ファイナンス向けのAI、セキュリティ・インテリジェンスのためのAI、あるいは物流ロボットなどは投資も集まりやすい領域です。
しかし、そちらに軸足を移してしまうと、元々のモチベーションを見失ってしまいます。研究開発と事業をちゃんとくっつけることで、新たな研究が生まれ、その成果が事業になり、事業から得た知見や予算がまた研究に還流されるといった、循環する社会を作りたいというのが、会社を立ち上げた原点です。
資金調達を進める中でさまざまな提案をいただくこともありますが、R&Dから大きくかけ離れる方向については、冷静に判断するようにしています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
最大のものを一つ挙げるとすれば「コミュニケーション」です。当社の立ち上がりは少し特殊で、国のムーンショットプロジェクトに関わっていた縁もあり、創業時からいきなり大人数のメンバーが集まるかたちになりました。
通常の創業は1〜2人で膝を突き合わせて始めるものですが、私は多くのメンバーと向き合いながら、同時にいくつもの仕事を並行して進めるという状況に置かれました。一人ひとりと丁寧にコミュニケーションを取る時間が確保しにくく、「なんでそうなっちゃったんだっけ」という場面を何度も繰り返してきました。
現在はAIをうまく使いながら、コミュニケーションの質と量を両立させる工夫をしています。

技術循環社会の実現を目指して
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
「日本のR&Dを元気にしたい」というのが根本のモチベーションです。自分はずっと日本の税金を使った研究開発の機会をもらってきました。それに対して恩返しをここでしなかったらどこでするんだ、という気持ちが原動力になっています。
AI・ロボット分野での日本の停滞は、私が研究を始めた2000年代の時点ですでに始まっていました。当時は「アジアでは日本がトップ」という感覚があったのに、今では中国、シンガポール、韓国にも追い越されて、10位前後という状況です。
ロボットも同様で、一時は「シャフト」のような世界的な技術を持つ日本発ベンチャーが存在し、国際コンペで優勝するほどだったのに、今のロボットブームはアメリカと中国だけが先行しています。
化学・材料系はまだ日本が強みを持っている領域ですが、それもAIやロボットを活用しながら大量の資本を投下する海外勢に追い上げられつつあります。だからこそ今、その強い部分をAIロボットと掛け合わせて守り育てていくことが重要だと感じています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
「日本を元気にしたい」です。ただ、日本だけで完結させることは、これだけグローバル化が進んだ時代ではもはや難しいです。だからこそ、海外展開も視野に入れながら、R&Dを起点に事業がどんどん育っていく経済圏をもう一度作りたいと考えています。
2050年には「AIロボットがノーベル賞を獲る」という壮大な目標も掲げています。ノーベル賞を取る研究には、偶然の発見を活かすパターンと、全く異なる学術分野を融合させるパターンの2つがあります。前者は今のAIでも対応できつつありますが、後者は異分野の知識を掛け合わせて全く新しい学問を作るという部分は、まだまだ人間の助けが必要です。
AIと人間が互いに教え合い、一緒に賢くなっていく関係を作ることが、その先の目標です。そのためにも、研究・知財・事業化を自律駆動するプラットフォームの開発を着実に進めていきます。

研究とビジネスの橋渡しに挑戦する
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
最近、研究開発に関わる人が起業するケースが少しずつ増えてきています。その流れ自体はとても良いことだと思っています。ただ、研究室と会社では「物事の進め方」が根本的に違います。
特に基礎研究の世界ではボトムアップが基本で、それぞれのメンバーが「なんでその研究をしたいのか」というモチベーションを大切にしながら、みんなの意見を集めてから方向性を決めるスタイルが染みついています。
でも会社でそれをやると、なかなか前に進みません。私自身、この1年でその違いを痛感しました。会社はトップダウンで意思決定を進め、自分自身がどんどん手を動かしていく姿勢が必要です。
今はAIを活用すれば、サービスのモックアップ一つとっても素早く作れる時代です。アカデミアのノリのまま起業してしまうと失敗しやすいというのが私の経験から言える最大のアドバイスです。
とはいえ、研究者だからこそ持っている「深く考える力」や「本質を見抜く力」は、起業においても必ず武器になります。方法論を切り替えながら、その強みを事業に活かしてほしいと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ: 牛久 祥孝 氏
2014年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了、NTTコミュニケーション科学基礎研究所入所。2016年東京大学情報理工学系研究科講師。2018年よりオムロンサイニックエックス株式会社Principal Investigator。
企業情報
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法人名 |
株式会社NexaScience |
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HP |
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設立 |
2024年10月 |
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事業内容 |
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