近年、働き方改革などにより「ウェルビーイング経営」を取り入れる企業が増えています。しかし、ウェルビーイング経営とは具体的にどのような取り組みなのか、どのように促進させていくのか分からないという方も多いのではないでしょうか。
本記事では、ウェルビーイング経営についてやメリット、促進させる取り組みについて紹介します。ウェルビーイング経営を成功させている企業も紹介しますので、自社で取り入れるための参考にしてみてください。
Contents
ウェルビーイング経営とは
そもそもウェルビーイング(Well-being)とは、心身ともに健康であり社会的にも良好な状態を指す言葉です。1947年に導入されたWHO憲章では、「健康」を次のように定義しています。
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」
こうしたウェルビーイングの概念を、ビジネスの場でも活かした経営手法をウェルビーイング経営と言います。社員やステークホルダーなど関わる全ての人が心身ともに満足し、社会的にも幸福な状態を目指す経営を意味します。
ウェルビーイング経営と健康経営の違い
ウェルビーイング経営と健康経営では、考え方が似ているようで異なります。健康経営の目的は「社員の健康を促進させる」のではなく「健康に配慮する」ものとなります。実際に、NPO法人健康経営研究会で健康経営について定義したものが以下の言葉です。
「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても 大きな成果が期待できる」との 基盤に立って、健康を経営的視点から考え、戦略的に実践することを意味しています。
健康経営では従業員の健康保持や増進を経営課題として捉え、マネジメントする経営手法となります。一方、ウェルビーイング経営は従業員目線の手法となるため、企業目線の健康経営とでは明確な違いがあるのです。
ウェルビーイング経営が注目されている理由
近年、世界各国で取り入れられているウェルビーイング経営が、なぜ注目され始めているのでしょうか。注目されている理由としては、主に以下の2つが挙げられます。
- 働き方の多様化に対応するため
- SDGsへの意識が高まっている
1つは、従業員の働き方や価値観の多様化に対応するためです。コロナ禍以前は出社が通常スタイルだったものの、コロナ禍以降、在宅ワークやオンライン会議などの導入が増えています。このように、多様化していく価値観への対応が必要となりました。
実際に「心地良く働けるか」「ワークライフバランスが整っているか」などを会社選びの基準としている人も多いです。優秀な人材を確保するためには、ウェルビーイング経営を導入し健康的に働ける環境づくりが必要となっています。
2つ目の、SDGsへの意識が高まっていることも注目される理由の一つとなります。ウェルビーイング経営は「ポストSDGs」と呼ばれるほど、新時代における価値観の中心に当てはまるのではないかといわれています。
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年の国連サミットで採択された世界をより良くするための目標です。目標の中の3つ目に「すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」とウェルビーイングが言及されています。ウェルビーイングもSDGsも、個人ではなく全体的な幸福を目指すという意味で広く関心を集めているのです。
企業がウェルビーイング経営に取り組むメリット
企業がウェルビーイング経営に取り組む主なメリットには、以下の3つが挙げられます。
- 生産性を向上できる
- 社員満足度を高められる
- 人材を確保しやすくなる
人手不足が顕著になっている近年、ウェルビーイング経営の導入は企業に大きなメリットがあります。
生産性を向上できる
ウェルビーイング経営により、社員が心身ともに健康であることから、欠勤・休職が減り生産性の向上につなげることが可能です。厚生労働省が公表した「アフターコロナに向けたウェルビーイングと⽣産性の両⽴」従業員のワークエンゲージメントが高いほど企業の利益率が高い傾向にあると検証されています。
ワークエンゲージメントとは、社員のメンタル面や幸福度を示すものであり、仕事に取り組む心理状態を表します。ウェルビーイング経営により社員のワークエンゲージメントが高められると、生産性の向上を期待できます。
社員満足度を高められる
ウェルビーイング経営は、心身ともに健康で幸福度の高い職場環境を作る施策であるため、上手く取り入れられると社員のモチベーションを高められます。
社員のモチベーションアップは、社員の満足度を高めることにもつながります。結果的に、企業への愛着や貢献意欲の向上も期待でき、離職率の低下も抑えることが可能です。
人材を確保しやすくなる
ウェルビーイング経営は、企業のイメージアップにつながるため優秀な人材を確保しやすくなります。ワークエンゲイジメントの高い社員が、自社の魅力を広めることにより、求職者が多く集まるようになります。
そのため、社員が友人や知人などを自ら推薦するリファラル採用も可能です。
ウェルビーイング経営を積極的に実践していくことで、企業のブランドイメージの向上により人材確保の活動においても良い影響をもたらすでしょう。
ウェルビーイング経営の基本的な考え方
ウェルビーイング経営について分かったところで、導入する前に基本的な考え方を理解することが必要です。考え方の基本として、幸福な状態に関する理論の一つに「PREMAモデル」があります。
PREMAモデルとは、以下5つの要素から構成されています。
- Positive emotion(ポジティブ感情)
- Relationship(他者とのよい関係)
- Engagement(物事への積極的な関わり)
- Meaning(人生の意味や意義の自覚)
- Accomplishment(達成感)
引用:PERMA-Profilerの説明|金沢工業大学 心理科学研究所
上記5つの領域を満たした状態が、社員が幸福度を感じている状態となります。PREMAモデルをもとにウェルビーイング経営を行うことで、社員の幸福度・満足度の向上を成功させることができるでしょう。
ウェルビーイング経営を促進させる5つの取り組み
ウェルビーイング経営を促進させる取り組みには、主に以下の5つが挙げられます。
- セルフケア・チェックを促進させる
- コミュニケーションを活性化させる
- 働きやすい制度の導入や環境作りをする
- 納得感のある人事評価制度を導入する
- 福利厚生を充実させる
利益だけを目標に追求していくと、ウェルビーイング経営は難しくなります。そのため、短期的ではなく中期的な視点で取り組むことが大切です。ウェルビーイング経営を、具体的にどのように進めていけば良いのか悩んでいる企業は、参考にしてください。
セルフケア・チェックを促進させる
企業側での従業員の健康管理も重要ですが、従業員自身で意見交換できるようにセルフケアやセルフチェックを促進させることも重要です。具体的な施策としては、残業時間の見える化、社内の健康診断や予防接種の実施、外部の検診費用の補助などが挙げられます。
また、精神面ではストレスチェックとして個別面談やオンライン相談を行うなど、相談しやすい環境を作ることも効果的でしょう。
コミュニケーションを活性化させる
上司や部下の間でコミュニケーションを活性化させることで、心理的安心につながり従業員が業務を主体的に進められるようになります。具体的な取り組みとしては、休憩スペースの設置、ランチミーティング、1on1の導入などが効果的です。誰でも利用できるリフレッシュスペースを作ることで、コミュニケーションの活性化につなげることができます。
コミュニケーションが活性化することで、人間関係などのストレスを軽減しウェルビーイング経営をより効果的に促進させることができます。
働きやすい制度の導入や環境作りをする
働きやすい制度の導入や環境づくりをすることで労働環境が改善され、社員の身体的な健康維持につなげることができます。具体的な施策としては、テレワークやフレックスタイム制の導入、時短勤務の導入、残業削減のためのシステム導入などが挙げられます。
実際に、従業員からどのような環境作りをしていけば良いのか社内アンケートを実施すると良いでしょう。現場の声をアンケートで集計することにより、従業員が幸福度を感じる環境を効果的に作りやすくなります。
納得感のある人事評価制度を導入する
納得感のある人事評価制度を導入することも、ウェルビーイング経営を促進させることができます。従業員がやりがいを感じるためには、企業側からきちんと評価されている実感を持たせることが重要です。
納得感のある人事評価とは、成果による評価や働き方に合わせた評価などが挙げられます。人事評価で納得のいく評価がされないと、従業員はストレスを感じてしまい会社に対する不満や不信感につながる恐れがあります。
一方、納得感のある評価をされた従業員は、次も成果を出そうとモチベーションが向上し、企業への愛着や貢献度も高まるでしょう。
福利厚生を充実させる
福利厚生を充実させ、運動・グルメ・レジャー・旅行などのライフスタイルを豊かにさせるサポートを充実させることも従業員の健康促進につながります。
従業員の健康を増進させる福利厚生としては、健康診断・人間ドックの診療や費用負担、育児、介護支援、入院費補助、保険加入がおすすめです。福利厚生を充実させることで、求職者が増え優秀な人材も確保しやすくなり、企業のイメージアップにもつながります。
ウェルビーイング経営の成功事例3選
近年、注目されているウェルビーイング経営は実際に多くの企業で導入されています。ここでは、ウェルビーイング経営を取り入れ成功している企業について紹介します。3つの成功事例を紹介していきますので、参考にしてみてください。
積水ハウス株式会社
積水ハウスでは「積水ハウスを世界一幸せな会社にする」ため、約27,000人の従業員に幸せ度調査を実施しました。従業員の幸せが企業全体の幸せとなり、そしてお客様、社会の幸せにつなげていくための取り組みを進めています。
ウェルビーイングの状態を達成するためにも、従業員一人ひとりが幸せについて向き合えるよう、調査結果をもとに対話やワークショップを推進しました。コミュニケーションを活性化させ、イノベーションが起きやすい職場環境作りを目標に取り組んでいます。
参照:「積水ハウスを世界一幸せな会社にする」ために、日本企業初の幸せ度調査を実施|積水ハウス株式会社
楽天株式会社
楽天株式会社は、新型コロナウイルスの拡大を機にウェルビーイングについて考えることが増え、楽天ピープル&カルチャー研究所が「コレクティブ・ウェルビーイング」に関するガイドラインを作成しました。
企業と従業員の両側面から、仲間・時間・空間をもとに「三間(さんま)と余白」を設けた取り組みを実施しました。具体的な取り組みとしては、オンラインでのコミュニケーションの活性化や、在宅勤務や時差出勤制度の導入、在宅ワークでの仕事環境整備への支援などをおこなっています。
楽天株式会社はウェルビーイングに「集団的な」という意味のコレクティングを添えた、経営手法を実施していることが特徴です。
参照:ニューノーマル時代に向けて、コレクティブ・ウェルビーイングを考えよう|楽天株式会社
味の素株式会社
味の素株式会社では、「ウェルビーイングのリーディングカンパニーになる」という目標を掲げて会社の定義を決めました。健康宣言も行っており、社員のセルフケアを通した健康維持・促進を支援しています。
具体的な施策として、健康状態を確認できる「My Health」というサイトやアプリを活用し、メンタルヘルスのサポートとして最低1年に1度の全員面談を実施。アプリで健康管理ができることで従業員の健康をサポートし、幸福度の高い職場環境を目指しています。
参照:味の素流「働き方改革」と「健康経営」|味の素株式会社
ウェルビーイング経営は時代に適した経営手法の一つ
働き方が変わりつつある今、ウェルビーイング経営は時代に適した経営手法の一つです。社員の不調や不満は、会社に多くの面で悪影響を与える恐れがあります。
ウェルビーイングは社員の幸福度や満足度を上げるだけでなく、企業の生産性もアップさせ優秀な人材を確保しやすくなるという、さまざまなメリットを持っています。
働き方の変化により、会社の雰囲気も悪く士気が下がっていると悩んでいる企業は、ウェルビーイング経営の導入がおすすめです。本記事を参考に、ぜひウェルビーイング経営の導入を検討してみてください。