2024年にかけては人的資本経営等の重要政策の徹底や、少子高齢化への対応・グローバル雇用市場への対応等を軸としたさまざまな雇用政策や法改正が予定されています。こうした様々な政策は、起業にとってまたとないチャンスになります。

 

前回から続いた記事となるため、まずは前編からお読みください

 

政策が動くところでは必ず変化が起き、また社会の変化に合わせた様々な企業の動きがあり、また公的な補助金・助成金などの直接な投資は必ず政策との連動において行われます。2024年にかけての政策には下記のようなものがあると発表されています。

 

1 多様な働き方の進展 働き方改革系

  ・賃上げの促進と税制関連の改正

  ・社会保険対象者の拡大

  ・建設・運送業・医師等の働き方改革の実施 ~2024年問題関連

  ・多様な正社員制度の普及促進

 

2 多様な働き方の進展 ダイバーシティ系

  ・上場企業の役員比率の目標設定

  ・男女賃金の差の開示対象の拡大

  ・こども未来戦略方針の実施

 

3 多様な働き方の進展 リスキリング系

  ・リスキリングの強化の新制度

  ・雇用調整助成金の見直し

  ・専門実践教育訓練の拡充

  ・労働条件通知書の要件変更

  ・三位一体の労働市場改革

 

4 グローバル化や新技術対応など

  ・高度人材の政策

  ・技能実習制度等の見直し

  ・スタートアップ5か年計画

  ・女性起業家支援

  ・AI利用の加速化

  ・グローバル雇用政策

 

後編では「3 多様な働き方の進展 リスキリング系」「4 グローバル化や新技術対応など」について概要を解説し、さらにこうした大きな機会を「起業家はどうすればいいか」ということについて解説をして参ります。

3 多様な働き方の進展 リスキリング系について

 

(概略)

2024年までに実施予定の政策は、瞬く間に変化するテクノロジーと国際経済の波に柔軟に対応できるよう、労働環境を一新する狙いがあります。その背景には、産業の変化と国内の事業環境の変化があります。産業の変化は、主にはAIや自動化の進展で多くの職が消失する一方で、新しい専門職が生まれ、それに対応するリスキリングが急募されている状況があります。国内の事業環境の変化とは、少子高齢化により生産年齢が伸びることが確実視されていることが背景にあります。そういう中で、何歳になっても元気なうちは働ける状態を目指し、様々な生き方や技術を身に着け、様々な仕事に前向きに取り組んでいくような職業人としてのキャリア観が求められています。

 

 ・リスキリングの強化の新制度

 ・雇用調整助成金の見直し

 ・専門実践教育訓練の拡充

 ・労働条件通知書の要件変更

 ・三位一体の労働市場改革

 

リスキリングの新制度は、既存の職業訓練とは一線を画し、業種を問わずに広く様々な職種技能や知見を磨けるプログラムを提供することで、人々が多様な職に対応できるようにする制度です。様々な提供事業者が参入しており、バリエーションが広い学びの機会となっています。また、雇用調整助成金の見直しはこうしたリスキリングにも対応できる助成金とすべく、企業の主体的な研修等の機会において支援ができるように助成金の趣旨を付加するような運用変更を行うことを指します。

 

専門実践教育訓練の拡充は、特定のスキルセットや知識が必要な業界で、即戦力となる人材を供給するプログラムです。また、労働条件通知書の要件変更は、特に有期雇用の方にとって企業における契約の透明性を高め、労働者が自分の働き方を選ぶ際の情報を豊富にする目的があります。職種や職場の異動、無期雇用への転換について明示することを義務化する変更が行われます。そして、三位一体の労働市場改革では、政府・労働者・企業が協力して、雇用の安定と労働生産性の向上を図る形で、ジョブ型の人事制度への転換等を中心とした多くの施策を進めていくことを指します。

 

このような制度改革が進むことで、労働者は自らのキャリアを積極的に形成でき、企業はより柔軟な労働力の調整が可能になると考えられます。

 

(起業家はどのように生かせばよいか)

 

起業家にとって、上述の政策は新しいビジネスチャンスを多く提供するものだと言えます。例えば、リスキリングや専門実践教育訓練のニーズが政策を背景として高まっていますので、これらの教育・訓練プログラムの提供などは最も典型的な事業であると言えます。それぞれの制度での指定事業者となることを目指すという道筋もありますし、こうした教育機会を提供するためには、様々なプログラムや技能を持った人材の供給やツール等が必要であり、そういったプロダクトを創出していくことも考えられるでしょう。

 

また、全般的な労働移動の促進が行われる中で労働条件の明示の度合いを高める法改正が行われますが、こうした労働者が自分に合った働き方を見つけられるような、新しい形のマッチングサービスも考えられます。スキルのマッチングプラットフォームや一定の業職種間の移動に特化する人材ビジネスなど、付加価値のある新しい労働移動や転職サービスなどを開発することも考えられるでしょう。

 

また、三位一体の労働市場改革に着目し、その一環となる人事関係の制度に関するコンサルティングサービスを提供することも今後の市場の変化を事業機会と捉えた場合に考えられるモデルです。政策をうまく活用しビジネスモデルを設計することで成功へと繋げていく機会が豊富に創出できるものと考えられます。

 

こうした政策の事業活用においては、ターゲットの明確化が最も重要なことであると考えられます。例えば、起業家が新たにリスキリングを目的としたオンラインプラットフォームを立ち上げる場合、たとえば一例として以下のような基礎的な設計が考えられます。

 

ターゲット層の明確化: 既存の業界で働いているが、新しいスキルが必要な中高年層をターゲットにする。

カリキュラム設計: AI、データ分析、プログラミングなど、ターゲットの惹きが強い、将来性のある内容に特化したカリキュラムを提供。

メンター採用: 各業界の専門家でターゲット層に最も合うようなメンターを採用し、実践的なスキルを教えたり活用を指導したりする体制を整える。

政府助成金活用: リスキリングの新制度に基づく助成金を活用して、コストを抑える。

 

このようにまず概要を考えた上でさらに詳細に内容を設計する上で、対象業界・職種・年齢区分・状態・志向などを一定のはっきりしたターゲットを定め、ターゲットの志向や関連する事業者・場などを強く想定してビジネス創造をし、行政の施策をさらに利用してコストや展開の優位性を創り出していくことが効果的であると考えられます。

 

4 グローバル化や新技術対応など

 

(概略)

2024年までに予定されている「グローバル高度人材の政策」、「技能実習制度等の見直し」、「スタートアップ5か年計画」、「女性起業家支援」、「AI利用の加速化」、「グローバル雇用政策」等の政策は、極めて多面的であり、それぞれが国内外の労働市場やビジネス環境に大きな影響を与えることが予想されます。

 

 ・グローバル高度人材の政策

 ・技能実習制度等の見直し

 ・スタートアップ5か年計画

 ・女性起業家支援

 ・AI利用の加速化

 

 

先進的な雇用課題やグローバルを見据えた雇用政策として、これらの制度の推進が図られています。なお、スタートアップ関係やAI利用等については各省庁で個別性の高い施策として行われるものが多く、横断して捉えることには難しさがありますが全体として雇用への影響が大きく、今後の経済的な影響が大きいものも多くなっています。また、特にグローバル関連では高度人財についての政策と技能実習制度の見直しが行われており、今後の雇用の方向性に大きく関わるものとして注目されます。個別に概略を示します。

 

「グローバル高度人材の政策」は、国外の知識労働者や専門職に焦点を当て、その活躍の場を国内で拡大することを目的としています。これは、国際競争力の向上だけでなく、高度な技術や知識を持つ人材が国内で働きやすい環境を作ることで、国内産業全体のレベルアップを図る狙いがあります。

 

「技能実習制度等の見直し」は、従来の制度で問題が多かった、労働移動のない低賃金の状態での弊害を打破することを目指して進められており、労働者特に国際的な労働力の活躍・活用と流動性を高めることが目的です。海外からの労働者が国内で働きやすい環境を整えることを目指し、制度の一新が進められています。

 

「スタートアップ5か年計画」は、国内でのスタートアップ企業の育成を促進する方針です。直接のスタートアップ施設の国内外での創設や、補助金、税制優遇、融資制度など、多角的な支援が行われています。これにより、新しいビジネスモデルや革新的なサービス、製品を生み出す力が増強されます。また、「女性起業家支援」では、女性がビジネスを始めやすい環境を整えるとともに、女性特有の視点や能力を生かしたビジネスが期待されます。

 

AI利用の加速化」は、産業全体でのAI技術の活用を促進することで、生産性向上や新しいビジネスモデルの創出を目指します。これにより、データ解析、自動化、最適化など、多くの分野で革新が進むと考えられます。

 

以上のような多様な政策が連動して進められることで、国内外でのビジネス環境は大きく変貌を遂げるでしょう。企業や個人にとって、これらの政策は多くのビジネスチャンスを生み出す可能性がありますが、その活用方法や戦略によって、その効果は大きく変わると言えるでしょう。このような変化の中で、如何にして新たなビジネスチャンスを捉え、競争力を高めるかが問われる時代となると考えられます。

 

(起業家はどのように生かせばよいか)

2024年までの予定されているスタートアップやグローバル関連、AI関連など最新技術に関する政策が実施されることで、起業家にとっては新たなビジネスチャンスが広がります。具体的には、資金調達から人材育成、テクノロジーの活用まで多岐にわたります。この節では、これらの政策がもたらす機会をどのように捉え、具体的なアクションをどう展開していくかを一体的な視点で説明します。

 

最初に考慮すべきは、政府が推進している「スタートアップ5か年計画」により資金調達や人材確保といった面で有用な施策が多くなっているということです。政府の補助金や低利の融資制度などの直接の活用が考えられます。たとえば初期のキャッシュフローの確保など、現実的な資金的なメリットもあるでしょう。さらに、スタートアップ関連の人材政策や様々なマッチングの場を活用して、専門スキルを持つ人材を確保または育成することも視野に入れたりすることができます。プロフェッショナルの副業兼業人材のマッチング等も豊富に行われるようになってきています。

 

こうした直接の制度利用でないとしても、かなり大きな施策が様々に行われ報道発表も順次されている状態ですので、たとえば連動した関連性のある事業リリース等の効果が向上することが考えられます。また、許認可の規制緩和等で積極的なスタートアップが関与している事例も増えており、こうした社会の動きに自社も関与しているということで広報やブランディング、取引増大に活用することもできるでしょう。こうした、スタートアップ関係の場や情報を直接・間接に活用することが様々に考えられます。

 

次に「AI利用の加速化」の政策により、AIと連携した新たなビジネスモデルの採用が促進されます。具体例として、製造業であればAIを用いて生産効率を高めることができますし、サービス業であれば顧客データを分析してニーズに応じたサービスを提供することが可能になります。こうした促進を行う支援事業や関連事業を様々に考案することが可能でしょう。さらには、AIを活用した新規事業も考えられます。例えば、雇用関連では健康診断や治療のアドバイスをAIで行うスタートアップ企業が出てくるなど、今までに高度専門的な判断が必要な領域のセカンドオピニオンや補助情報としての支援に関する事業が広がっています。

 

グローバル関係の「技能実習制度等の見直し」や「グローバル雇用政策」も見逃せません。これにより、海外関係での人材ビジネスの展開がしやすくなるでしょう。国内での新制度はビジネスチャンスになるため、直接の参入でなくても、情報発信や制度転換に伴う支援のコンサルティングなど、周辺領域のビジネスの機会も大きく広がっていくものと考えられます。また、これらのビジネスに関係してできた海外の人脈等で、新興国やグローバル市場とのコネクションを利用した様々なビジネスが考えられます。

 

また、女性起業家に対する支援も充実してきています。特に女性が多く関わる健康・美容・教育といった分野で、女性ならではの視点を活かしたビジネスが期待されます。具体的には、女性の働きやすい環境を作るためのコンサルティングサービスや、女性向けのウェルネスプロダクトなどが考えられます。

 

以上のように、多くの政策が進行中であり、これらを総合的に活用することで多角的なビジネス展開が可能です。政策の詳細を理解し、自社のビジネスモデルにどのように組み込むかを戦略的に考えることが重要です。このようにして、多くの政策が提供するビジネスチャンスをしっかりと掴み、事業を成功に導いていくことができるでしょう。

ライター紹介
松井勇策

フォレストコンサルティング経営人事フォーラム代表 社会保険労務士・公認心理師

情報経営イノベーション専門職大学 客員教授(専門:人的資本経営・AI等先進雇用対応)

 

時代に応じた先進的な雇用のあり方について、企業向けのコンサルティングや情報発信などを多数行っている。人的資本経営の導入コンサルティング・先進的なAIDX対応の雇用環境整備・国内の上場やM&Aに対応した人事労務デューデリジェンスなどに多くの実績がある。ほか伝統思想と、現代の経営・雇用・キャリアの融合知見を大学院等で研究中。

 

著書「現代の人事の最新課題」「人的資本経営と開示実務の教科書」シリーズほか。

東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議  議長・責任者、人的資本経営検定 監修・試験委員長。

 

フォレストコンサルティング経営人事フォーラム https://forestconsulting1.jpn.org/

人的資本経営検定

https://www.kaiketsu-j.com/index.php/toolbox/11588-human-capital-basic

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