2022年4月より東京証券取引所の市場区分が再編され、上場した企業と投資家双方が、市場の本来の機能やメリットを享受しやすくなりました。本記事ではこれから上場を検討している起業家向けに情報を発信していきます。

 

はじめに

昨今上場を狙うスタートアップ企業においてIPOの支障になると危惧され、先行投資やM&Aなどの企業の成長に向けた取り組みを見送る例があります。現状では、本来スタートアップ企業の成長に資するべきIPOの準備が、かえって企業の成長を阻害してしまっています。

実際は上場審査においてそこまで保守的になるような必要はなく、上場に関する理解を深めることが大切です。

赤字上場

グロース市場において上場までに黒字化を求める制度はなく、赤字でも上場は可能です。

実際にグロース市場上場時に上場申請期(上場して最初の決算)が赤字となる業績予想を公表した企業は複数存在します。

しかし、決算が赤字の企業すべてが上場できるわけではなく、自社のビジネスモデルや取り巻く環境などを踏まえ、黒字化の実現に向けた取り組みの成果や実際にかかったコストを事業計画に合理的に反映させることが必要になります。

また、上場することが必ずしも投資家から評価されることに結びつく訳ではありません。

赤字で上場する際は投資家が適切な評価ができるように、事業計画をより丁寧に開示することを心掛けることが大切です。

■参考 最近の赤字上場事例

引用:『上場審査に関するFAQ集』(株式会社東京証券取引所 上場推進部・上場部、日本取引所自主規制法人 上場審査部 2024年5月31日 ver.1.0 p.5より引用

M&A

グロース市場においてM&Aを行った後でも上場することは可能です。また上場準備中にM&Aを実施しないことを求める制度も存在しません。実際にグロース市場上場直前々期・直前期地中にM&Aを行った上でIPOを行った企業は複数存在します。しかし上場準備中にM&Aを行った場合には、その影響を加味した事業計画の策定やM&A対象を含むグループ全体の管理体制の整備を適切に行う必要があります。これらを踏まえてM&Aを行う企業は、IPOの支援を行う関係者とM&Aを実施する場合の影響など事前に十分なコミュニケーションをとることが重要です。

参考 上場準備期間におけるM&A事例

引用:『上場審査に関するFAQ集』(株式会社東京証券取引所 上場推進部・上場部、日本取引所自主規制法人 上場審査部 2024年5月31日 ver.1.0 p.8より引用

予算と実績の乖離

予算と実績の乖離は、上場審査において乖離だけが問題視されることはありません。予算が合理的であれば、予実が乖離したこと自体は問題視されず、乖離が発生した後の対応が重要になります。

実際に予実が乖離した場合にみられるポイントは二つあります。

一つ目は『修正のタイミングが適切かどうか』です。ここでは予算(利益計画等)を含む事業計画を修正するか否かの判断が適切に行われているかどうかが大切になります。合理的な理由がなく事業計画の修正を行っていた場合には問題となることが考えられます。

二つ目は『修正後の予算は原因分析を踏まえて合理的に策定されているかどうか』です。ここでは新たな事業計画が、修正に至った要因を踏まえて適切に策定されているかが大切になります。

これら二つのポイントを満たしているかどうかが上場の審査を突破するには必要になっており、乖離幅がとても大きい場合や予算修正の回数が多い場合は、要因等を踏まえた上で一定の運用期間が求められることがあります。

 

業績予想開示

特定値での開示は一般的ですが、上場後に業績予想を行う際には必ずしも特定値(1本値)で公表する必要はありません。なぜなら特定値での開示を求める制度がないからです。また、特定値での開示がミスリードになるような場合は前提条件を付して一定の範囲で開示したり、非開示にして業績面以外の事業計画や業務の進捗状況を丁寧に開示したりするなど、投資家の理解が進むように業績予想の出し方を工夫をしたりする企業も多くあります。

また、業績予想の内容はIPO時の投資家側の選択肢においても重要な要素となる可能性があるため、開示方針については事前に主幹事証券会社と相談することが必要となります。

 

気を付けること

ここまで様々なケースを紹介してきましたが、前提として上場会社においても売上・利益等の実績値が期初予算通りに着地しないことは多々あることです。そのうえで取引所が重要視することは二つあり、一つ目は『予算を含む事業計画が合理的に策定されているかどうか』、二つ目が『その内容が適切に開示され、その後実績が乖離した場合には適時に修正されるか』です。

これらの観点は実際に投資家もIPOの際に重要視していることで、投資家の評価を得るには必要不可欠なことです。

 

もし困ってしまったら、、、

ここまで上場までの道のりを紹介してきましたが、実際に準備を進める中で疑問・問題が生じることは多少なりとも存在すると思います。上場を進めるうえで疑問・問題が生じた際の相談窓口として、東京証券取引所の「IPOセンター」があります。

「IPOセンター」では成長の実現に向けて上場を行おうとする企業やその関係者のために、IPOに関する疑問を取引所に直接相談することができます。実際にここでは年間200件にも及ぶ相談を受けており、上場審査・手続による質問はもちろん、まだ上場に向けて体制準備を始めていない場合でも上場に関することならなんでも相談することができます。

 

■IPOセンター 問い合わせ先

株式会社東京証券取引所 上場推進部 IPOセンター

ホームページ:https://www.jpx.co.jp/equities/listing-on-tse/ipo-benefits/01.html

メール:ipo@jpx.co.jp

参照:『上場審査に関するFAQ集』(株式会社東京証券取引所 上場推進部・上場部、日本取引所自主規制法人 上場審査部 2024年5月31日 ver.1.0 https://www.jpx.co.jp/news/1020/mklp770000007y8w-att/mklp770000007ybo.pdf?fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTEAAR3oA0m8wf59A0BivtVjo76ii4OEuKDvM9GOeIUrgCvlGW-l0JbHdcxpcZ0_aem_ARFoEyaiVBkkdP5317ykw1hxqDU7qhcvHNOde4EMu4Hx1TfiJk1P7nSjuKjrsr2mcfJ1q_r0mKk2oBXLhDr8V4hv)

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