
豊洲社中株式会社 Co-Founder CEO 牧内 秀直
「日本の美味いものを共に世界へ」をミッションに掲げる豊洲社中株式会社。2024年11月に新しいコンセプトの日本酒体験施設を浅草にオープンし、目標実現に向けた第一歩を踏み出しています。同社のCo-Founder CEOを務める牧内秀直氏に、現在の事業や起業から1年たっての想いなどを伺いました。
「日本酒×インバウンド×体験」の新施設
現在力を入れている事業をお聞かせください
当社は2024年11月2日、世界に日本酒を広める拠点として新たな体験施設「WASAKE Sake Experience」を浅草にオープンしました。「日本酒の試飲・販売」と「日本酒にまつわる各種体験」を用意しています。
取り扱う銘柄は定番からちょっと珍しい逸品まで、日本全国から取りそろえた約50種類です。当社からほど近い場所にある醸造所で作る銘柄も人気があります。卸業者を通じて仕入れるほか、いくつかの酒蔵とは直接取引もしています。
試飲のやり方は2つあり、コイン式オートサーバーから自分で注ぐ方法と、カウンターで接客を受けた上で試す方法があります。気に入ったものはその場で購入もできます。
日本酒にまつわる各種体験では、米と飯米で作ったおにぎり食べ比べといった「日本酒づくりにまつわる食べ物・飲み物体験」などを常時提供しています。このほか予約制のサービスとして、日本酒についての詳しいレクチャーや、和菓子づくりと日本酒を組み合わせたイベントなど、よりスペシャルな体験も準備しています。
さまざまな国のお客さまが来店していますが、今のところ半分程度はアメリカ人です。オーストラリアやシンガポール、台湾、香港、中国からの観光客もいらっしゃいます。浅草は日本文化を体験したい外国人が多く訪れる場所であるため、選択肢の一つとして日本酒を選んでほしいと考えました。
私がレクチャーを通して外国人のお客さまに日本文化を伝える際に大事にしていることが3つあります。「日本酒と日本の歴史・文化・伝統との関わり」、「日本酒の作り方」、そして「日本酒の種類」です。
その中でも重視しているのは、日本酒が日本の歴史や文化の中で果たしてきた役割を伝えること。
例えば、ヤマタノオロチ退治の神話で知られるスサノオノミコトは大蛇に酒を飲ませて酔わせたところを退治していますが、その酒が日本最古のお酒ともいわれています。このような話を取り上げながら、神話から始まる日本文化の中でお酒は重要な要素の一つなのだと伝えています。
なぜ日本酒に注目したのでしょうか
日本酒だけに限っているわけではありません。2024月1月に創業した当社のミッションは「日本の美味しいものを共に世界へ」であり、将来的には日本の食文化を世界に広めるためのプラットフォームを作りたいと考えています。一口に食文化といっても幅広いですが、まずはその第一歩として、世界中で人気が高まりつつある日本酒に目をつけました。
日本では日本酒の市場は縮小の一途ですが、海外への輸出額はここ10年で5倍も伸びています。和食ブームを背景に、海外の和食レストランや、フレンチレストランでの取り扱いも増えてきました。
この一年でのビジョンや目標に対しての進捗をお伺いできますか?
「WASAKE Sake Experience」がオープンして約3カ月(取材時点)、今はこの事業を軌道に乗せることに全力を尽くしています。もともとお酒好きではありましたが、日本酒の事業を始めると決めてから国際唎酒師(ききさけし)の資格も取りました。
先ほどもお伝えした通り、当社が目指すのは海外展開をする飲食店のためのプラットフォームを作ることです。日本の酒業界の中での当社の認知度は、少しずつ上がってきた感触があります。日本の酒蔵が海外に進出する際に当社がお手伝いできるよう、今後も国内のネットワークづくりを続けていきます。
少しずつ広がるネットワークに手応え
一年前から現在までの期間で感じた困難を教えてください。
やることすべてが初めてづくしでした。もちろん店舗を作ることも初めてなので、思っていたスケジュールよりも数カ月程度遅れてしまいました。
海外旅行で事前に体験ツアーを予約できる海外最大手のOTA(Online Travel Agent)に予約制のプランを載せる際の手続きも、想定以上の時間がかかりました。やっとめどがついたものの、何をやるにも時間がかかることにストレスを感じることも多かったです。
自分がおすすめしたい日本酒とお客さまのニーズにズレがあると感じることもあります。
例えば、海外で大人気の銘柄を目当てに来店され、それだけを試飲して購入して帰る方も少なくありませんが、私としてはあまり知られていないけど美味しい逸品も飲んでもらいたいと考えています。
外国の方のお口に合う合わないの問題もあるため、そこのプロモーションに難しさを感じています。
起業からこれまで最も成功した体験を教えてください
先ほどもお伝えしたように、日本での認知度が少しずつ上がってきていることでしょうか。業界の新聞やテレビで取り上げていただき、酒蔵の方から直接ご連絡をいただくことも増えてきました。
海外で人気の銘柄も扱えるようになってきました。「絶対に店舗に置きたい」と考え、広がりつつあるネットワークを活用して各所にアプローチしてきた結果です。ここは大きな一歩だと思います。
海外進出を視野に、国内の店舗も増やす
企業内の文化や働き方に関する新たな取組みはあるのでしょうか?
「来店してくださったお客さまに満足して帰ってもらいたい」との気持ちは皆が一番に思っていることです。そのためにスタッフが各自で考え、対応してくれています。
当社の従業員は私含めて3人の共同経営者と、パートのスタッフが4人います。スタッフのうちの一人にカナダ人がおり、彼はとても話好きで日本酒以外の話も含めて場を盛り上げてくれます。こうした対応も含めて満足してくださるお客さまも多いため、今後もこの気持ちを大切にしたいと思っています。
この一年で最も成長したことについてお聞かせください
私は元来、足元の細かな課題をコツコツとクリアするよりも、長期的なビジョンを立てて行動することが得意な人間です。そのため施設を切り盛りする今の業務は、正直苦手だと感じることもありました。
それでも日々全力を尽くすうちに、苦手意識も少しずつ克服できたと感じています。もちろんこの業務はいずれ誰かにお任せするものですが、自分自身でが作り上げたものだからこそより良い引き継ぎができると考えています。その意味でも、今はとても良い経験ができています。
今後挑戦していきたいことはあるのでしょうか?
まずは、国内にもう1〜2店舗増やしたいです。数年後には海外に進出し、日本酒を含めたアルコール分野で事業を展開したいと考えています。これもすべて、「食を武器に世界に挑戦する人や会社のためのプラットフォームを作り、日本の食文化を世界に広めたい」との、創業以来の想いを実現するためです。
国内には日本酒の試飲ができる施設はあるものの、「WASAKE Sake Experience」ほど体験にフォーカスしたものはそうないでしょう。唯一無二のコンセプトを持つ日本酒体験施設として確立できればと思います。
Whyを問い、目的を明確に
他の起業家へメッセージをお願いします
私が起業するにあたって大事にしてきたのは、「What」や「How」ではなく、「Why」を問うことです。
「自分は何のために起業したのか」「なぜこの事業を作ったのか」「将来的に何をしたいのか」を考え、言葉や文章で積極的に発信することで、この思いに共感する人たちが周りに集まります。そのような取り組みで従業員はもちろん、取引する会社の方とも思いを共有でき、結果としてビジネスにつながっていくこともあります。このようなつながりが一番大切ではないでしょうか。
せっかく起業するのであれば、単にお金を稼ぐためではなく、自分の中の「why」を大切にしてください。そうすれば世の中にどう貢献すべきかも、おのずと見えてくるでしょう。たとえ起業しなくとも、Whyを実現するためには何をすべきかという視点で物事を逆算して考えることは、その後の人生を考える上で必ず役に立つと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:牧内 秀直氏
東京大学工学部を卒業後第一生命へ入社。理系出身を生かし当初は資産運用に従事。社内留学制度で選抜され米国でMBAを取得したことを機にキャリア転換し、保険事業の海外展開に立ち上げ期から16年にわたって従事。米国大型買収案件(約6千億円)でも全社のプロマネを務める。’19年から第一生命英国法人に勤務し社長にも就任。気候変動分野の国際会議(GFANZ)においてアジア唯一のメンバーとして多くの活動を展開。‘22年に帰国後、同社の国内保障事業部門ヘッドとして保険事業全体の戦略策定に従事。併せて国内スタートアップへのCVC投資を推進し、スタートアップの社外取締役に就任。’23年にPwCサステナビリティに入社。金融業界のサステナビリティに関するコンサル業務に従事。‘24年に共同創業者と共に豊洲社中株式会社を設立しCo-Founder CEOに就任。「日本の美味いものを共に世界へ」をミッションに活動開始。
企業情報
法人名 |
豊洲社中株式会社 |
HP |
|
設立 |
2024年1月22日 |
事業内容 |
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