株式会社ピックルボールワン COO/Co-founder 堀内 厚佑

ピックルボールは、テニス・卓球・バドミントンの要素を持つラケットスポーツです。小さなコートでプレーでき、初心者でも始めやすいことが特徴です。ただ簡単なだけでなく、上級者になるほど駆け引きの奥深さが増していきます。さらに、初対面の人同士が同じコートでプレーする「オープンプレイ」の文化があり、人と人をつなぐスポーツとしても注目されています。

 

株式会社ピックルボールワンは、このピックルボールを日本の日常に広げるべく、直営コート、オンラインストア、大会・イベント運営、専門メディアなどを展開するスタートアップです。同社は「ピックルボール産業のEnablerになる」というビジョンを掲げ、単に競技を広めるだけでなく、プレイヤー、施設、企業、コミュニティを支える産業の土台づくりに挑んでいます。今回は、共同創業者でCOOを務める堀内厚佑氏に、ピックルボールの魅力、事業立ち上げの背景、そして日本における市場づくりの現在地についてお聞きしました。

「リアル版SNS」で人と人を繋ぐ、ピックルボール産業の創造

事業の内容をお聞かせください

当社は、ピックルボールを日本で普及させるために様々な事業活動を行っている企業です。

 

ピックルボールは現在アメリカで最も成長しているスポーツと言われており、国内にはメジャーリーグが存在するほか、世界規模のツアー大会も開催されています。

 

その他の地域としては、東南アジアでの発展も顕著で、特にベトナムではマクドナルドの店舗数よりもピックルボール施設の方が多いと言われています。

 

それに対して、日本では認知もプレイヤー人口も毎年急速に広がっているものの、他国と比較するとまだ成長の余地が大きい状況にあります。現在は連盟をはじめ、事業者、サークル長、プレイヤー、全員がピックルボールを広めていこうと業界全体で頑張っているという状況です。

 

その中で、私たちは、大きく4つの事業を行っています。

 

1つ目は直営の店舗事業で、業界のフラッグシップとなるインドアコートを東京都の新橋駅の駅直結という立地でオープンし、運営をしています。

 

ショップも併設しており、日本唯一のコートで試打ができるショップとして、国内外のあらゆるプレイヤーたちがパドルを購入しに当施設を訪れてくださいます。また、コートの稼働率は9割を超えており、この施設をきっかけに都内各所にも徐々にコートが増え始めています。

 

2つ目はオンラインストア事業です。全国のプレイヤーが競技を続けるうえで必要となるパドルや関連用品を販売しています。 

 

3つ目は大会・イベント・施設支援事業です。世界的なプロツアーの日本大会運営、企業向けチームビルディングイベント、大型商業施設でのポップアップ、コートの運営代行などを手がけています。 

 

4つ目は、メディア事業です。ピックルボール専門のウェブメディア、YouTube、SNS各種を通じて、ルールや施設情報、競技の魅力を発信しています。 月間4〜5万アクセスを集める情報発信の場となっています。

 

いずれの事業も単体で完結するものではありません。情報がない、場所がない、道具が買えない、イベントがない。そうした市場の不足を一つずつ埋めることで、ピックルボールを始める人、続ける人、広げる人を増やしていく。それが私たちの事業の考え方です。 

 

こうした事業を通じて私たちが目指しているのは「ピックルボール産業のEnablerになる」ことです。“Enabler”とは、人やサービスを支える基盤や必要不可欠な存在を意味します。

 

メーカーとして前面に立つというより、ピックルボールに関わるさまざまなプレイヤーを裏側から支える“土台”のような存在でありたいと考えています。将来的には、自動車産業や人材産業のように、「ピックルボール産業」と呼ばれる市場そのものを日本で形成していきたいと思っています。

 

また、世界的にピックルボールが急成長している背景には、主に3つの魅力があると考えています。

 

1つ目は、誰でも始めやすいことです。コートが小さく、ルールもシンプルなので、初めての方でもすぐにラリーや得点の楽しさを味わえます。

 

2つ目は、続けるほど奥深いことです。体格差やパワーだけでは点が決まりにくいため、相手をどう崩すか、どこに打つかという駆け引きが重要になります。初心者には始めやすく、上級者には戦略性がある点が競技として面白いところです。

 

3つ目は、人と人をつなぐ力です。ピックルボールには、初対面の人同士がその場で一緒にプレーする「オープンプレイ」の文化があります。年齢、性別、職業、肩書きに関係なく、同じコートに立てば自然と会話が生まれます。そのため、私たちはピックルボールを「リアル版SNS」と呼んでいます。

 

他のスポーツは自分の仲間内だけでプレーすることが多いですが、ピックルボールは、友人と行っても、一人で来ている近所の方もたまたま出会って、混ざってプレーするといったことが当たり前に受け入れられる文化です。

 

社交的な人向けのスポーツに見られることもありますが、実際には、その場で会った人がどんなタイプの人であっても、一緒にプレーをしたら関係が自然と深まるというのがピックルボールの醍醐味です。

 

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

共同創業者の熊倉とはグロービス経営大学院の同期です。「何をするか」よりも先に「誰とするか」を決め、2人で起業しようと動き始めました。

 

起業してから、いくつかの事業に取り組む中でピックルボールに出会い、実際に体験した瞬間に、競技としての面白さだけでなく人と人をつなぐ力があると、大きな可能性を感じました。

 

日本中にこのスポーツが広がれば、コミュニケーションから生じる様々な社会課題の解決にも寄与し、日本全体が今以上に豊かになると本気で思い、そこから事業の軸をピックルボールへと移しました。 

 

当初ルールを調べるところから始めましたが、日本にはほとんど情報がなかったことから、まずは専門メディアを立ち上げました。すると「ルールは分かったがやる場所がない」という声が寄せられ、体育館を借りて体験会を開催し、そこからレッスンや大会運営へと発展していきました。

 

さらに、ハマっていくとグッズが買えるところがないということで、パドルのオンラインストア事業を始めました。

 

ただ、やはりプレーする人が増えなければ買う人もいないという当然の課題に気づき、業界のシンボルとなるフラッグシップコートの開設を決断しました。マーケットに求められるものを一つずつ形にしてきた結果、現在の4つの事業に至っています。

 

トレードオフを意識したバリューで、市場を1秒でも早く前へ

仕事におけるこだわりを教えてください。

こだわりは、バリューを作る際にトレードオフを意識することです。当社には「爆速実行」というバリューがあり、「その検討で世界は1ミリでも動いたか。アウトプットできていないなら、それはやっていないのと同じ。」というステートメントを掲げています。

 

現在のピックルボール市場は、テニスやサッカーのように「生まれたときからあるスポーツ」になる100年に一度の瞬間に立ち会えていると考えています。だからこそ、まずはアウトプットを最速で出し、間違っていたら改善するという姿勢を大切にしています。

 

一方で、スピードを優先する以上、一定のミスは許容するという考え方もセットです。半年かけて100点の計画を練るよりも、1日で60点のプロトタイプを市場に放り込み、10回改善を回す方が遥かに価値が高い。そのため、チャレンジにおけるミスを許容しながら、改善を繰り返すことを推奨しています。

 

さらに、もう一つのバリュー「プロの自由、プロの責任」では、ルールで行動を縛るのではなく、自分の領域で成果を出すことで自由が与えられるという仕組みにしています。自由と成果のトレードオフを明確にすることで、一人ひとりが主体的に動ける文化を作っています。

 

強いコミットメントには何かを捨てる覚悟が必要です。一つひとつの行動がピックルボール市場そのものを形作っているという意識を持ちながら、失うものを受け入れてでも、世の中を前に進めることにこだわっています。

 

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

正直、壁は常にあります。通常のスタートアップであれば、一つのプロダクトを作り、市場に届け、改善していくことに集中できます。 ただ、私たちはEnablerなので(笑) 、複数の事業を同時並行で進めながら、それぞれが大きな課題にぶつかります。

 

しかし、一つの事業だけを伸ばせば解決するわけではなく、市場全体をどう前に進めるかを常に考えて、全ての課題を一つ一つ解決していく必要があります。 こういった壁が常に立ちはだかりながら、そこに当たりにいくことがスタンダードであり、壁があること自体が日常です。

 

社内には「今マーケットが成長していないのは僕らが動いていないからだ」という言葉があります。世の中の成長は自分たちの責任であると、本気で考えるメンバーしかいません。

 

その点で、自社への利益視点を持ちながら、さらにもう数段視座を上げて、マーケット全体を見渡す視点を持つことが求められる環境です。そのような経験は、ほかの業界ではなかなかできないからこそ、メンバーはいつもどんな壁があっても目を輝かせています。

 

100年に一度のスポーツ市場づくりに立ち会う喜び

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

もし将来ピックルボールがサッカー、バスケットボール、テニスに並ぶような多くの人に親しまれるスポーツになったとしたら、その教科書の1ページ目に載るようなことを、私たちは今やっていると思っています。

 

私たちは今まさに歴史をつくっている、こんなに面白いことがあるのかという感覚です。今まさに人生をかけて世の中に新たな価値と文化を生み出せる可能性のあることに取り組めていると常に実感しながら、市場の目まぐるしく発展していく様子を体感しています。

 

自分たちの施策によってコートが増え、メディアに取り上げられ、プレイヤーが増えていく。その反応を日々感じられることが、何よりのモチベーションです。

 

今ピックルボール界のこのポジションにいられることへの使命感と、ピックルボールを広めることで社会にインパクトを与えられるという確信が走り続ける原動力になっています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください

現在の日本のピックルボール競技人口は、一度でもプレーしたことがある方が約33万人、週に一回以上プレーする方が約15万人です。2030年までにこれを300万人に増やし、テニスと同じ規模に成長させることを目指しています。

 

そのために、まずは場所を増やすことが最重要課題です。ただし、自社で全国200店舗を作るのではなく、自分たちが主要な拠点を作ることで、他社も含めて1000店舗が生まれるような戦略を取っています。

 

直近では20面以上の大型フラッグシップコートの開設を計画しており、国際大会の誘致やフードコート併設による交流の場づくりも構想しています。

 

事業としては、ピックルボーラーのライフタイムバリューを高めることを目指しています。

 

初めてピックルボールをやるときにメディアを見て、ハマったらパドルを買い、大会に出る。顧客データを活用して実力の近い人とマッチングするなど、ピックルボーラーの人生のあらゆるフェーズに寄り添える会社でありたいと考えています。

 

究極の野望で言えば、「ピックルボールシティ」、つまりピックルボーラーのための街を作ってみたいです。

 

アイデアに価値なし。やるやつがやる、それだけ

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

まずやることです。アイデアに価値はありません。

 

起業したいと相談に来る方は増えましたが、いいアイデアを聞いて「やります」と言っても、99%の方は実行に移しません。やる人はやって、失敗して、次はこうしようと動き続けます。いずれ何かを成すのは、そうやって動き続けた人だけです。

 

もう一つ大事なのは「誰とやるか」です。私自身、最初は「起業したい」という漠然とした気持ちだけでした。でもそれでいいと思っています。言語化できないことは悪いことではなく、やっていくうちにだんだん磨かれて語れるようになります。

 

大切なのは、この人となら失敗できる、チャレンジし続けられると思える仲間を見つけることです。共同創業者の熊倉とは、まさにそういう関係だったからこそ一歩を踏み出せました。

 

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:堀内 厚佑 氏

WEBマーケティング領域の新規事業からキャリアをスタートし、新規営業、カスタマーサクセス、インサイドセールスの立ち上げ、新規事業開発などに従事。グロービス経営大学院修了。熊倉とともに創業。現在はCOOとして事業統括を担い、採用・広報を通じた組織づくりにも従事。

 

企業情報

法人名

株式会社ピックルボールワン

HP

https://company.pickle-one.com/

設立

2023年7月

事業内容

  • コート運営 
  •  イベント運営 
  • 商品販売 
  • メディア運営
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