
株式会社イエローブルーは、翻訳AIエージェント「Blue One」を開発・運営し、企業の翻訳業務をまるっと解決することを目指すスタートアップです。AIエージェントの仕組みによって、単なる翻訳にとどまらず翻訳業務そのものをまるごと支援し、特許や技術書のような高度な文書から、スライドや画像を含む資料まで、専門性の高い翻訳を高い精度で実現しています。今回は仕事におけるこだわりや今後の展望についてを黒田励氏に伺いました。
私たちは、翻訳AIエージェント「BLUE ONE」の開発・運営を行っています。一般的な翻訳ツールが文章を訳すこと自体に焦点を当てているのに対し、BLUE ONEは翻訳にまつわる業務そのものをまるごと解決することを目指したサービスです。
私たちが掲げているコンセプトは「あなた専属の翻訳家」あるいは「貴社専属のAI翻訳会社」です。
BLUE ONEの大きな特徴は、単なる翻訳精度の向上にとどまらず、翻訳業務そのものを再現し、安定して運用できる点にあります。人間の翻訳家が行うレベルと区別がつかない精度を実現しており、特許や技術書のような高度に専門的な文書にも対応しています。
また、用語の統一や文書全体の整合性といった点にも強みがあります。文書全体から自動的に用語集を生成し、それに基づいて訳語を統一することで、翻訳の揺れを抑えています。さらに、英語に置き換えるとレイアウトが崩れてしまうことがありますが、それを自動で補正する機能も備えています。
こうした取り組みは、翻訳において頻繁に起こる誤訳やニュアンスのズレといった課題を解消したいという思いから生まれています。
現在は主に文章と画像の翻訳に対応していますが、今後は映像や会議の通訳といった領域にも拡張していく予定です。単一の形式に閉じるのではなく、マルチモーダルに翻訳業務全体をカバーすることを目指しています。
具体的な導入事例としては、あるコンサルティング会社での活用があります。この企業では毎週100枚ほどのスライドを日本語から英語へ翻訳する必要がありましたが、従来の汎用ツールでは用語の不統一やレイアウト崩れが頻繁に発生していました。
BLUE ONEを導入したことで、用語の統一から内容理解に基づく翻訳、さらにはレイアウト補正まで一貫して行えるようになり、これまで1日かかっていた作業が約10分で完了するようになりました。
また、メーカーや特許関連の企業においても活用が進んでいます。これらの現場では100ページ以上の技術書や特許文書を扱うことが一般的ですが、従来の翻訳ツールや汎用的なAIでは、専門用語の誤りや意図しない要約、さらには原文にない情報が生成されてしまうといった問題がありました。
BLUE ONEでは、文書全体の構造と内容を理解したうえで翻訳プロセスを構築するため、こうした課題を抑えながら高精度な翻訳を実現しています。
開発体制としては、AIエンジニア2名が中心となっており、いずれもデータ分析コンペティション「Kaggle」においてMasterおよびGrandmasterの称号を持つ人材です。翻訳という領域を単なる言語処理ではなく、高度な技術課題として捉え、日々開発を進めています。
また、セキュリティ面にも強いこだわりを持っています。翻訳に使用されたデータは即時に削除され、AIの学習などに二次利用されることはありません。社内においても内容を閲覧できない仕組みを採用しており、現在は第三者認証の取得も進めています。

もともとは、漫画をAIで翻訳するプロジェクトが出発点でした。日本の創作物を世界に届けることにやりがいを感じていましたし、私自身が文学や翻訳書を好み、言葉そのものに強いこだわりを持っていたことが出発点になっています。
また、アメリカに住んでいた経験のあるバイリンガルの帰国子女として、2つの言語の間にいるような感覚を長く抱いてきたことも 背景にあります。
グローバル化が進み、日本の企業やコンテンツが世界に出ていく中で、私はAIの力と、自分がもともと関心を持ってきた「翻訳」や「言葉」という領域を掛け合わせることで、役に立てることがあるのではないかと考えるようになりました。
言葉は単なる情報の置き換えではなく、文化や人柄、そしてコミュニケーションそのものを映し出すものだと感じているため、そのニュアンスまで含めて豊かに伝わることが重要だと思っています。
これまで商社やコンサルティングのグローバルプロジェクト、ベンチャー企業での海外経験を通じて、コミュニケーションこそがビジネスの基盤であることを実感してきました。その中で、言語の壁がもたらす非効率や誤解の大きさも強く感じています。
日本は英語力の国際比較においては世界でも下位に位置し、120カ国中100位前後といわれる一方で、国際貿易額は世界トップクラスにあります。つまり、日本は「課題先進国」として言語の壁に強く向き合わざるを得ない環境にあります。一方で、翻訳業界の世界的なプレイヤーであるDeepLはドイツ発であり、日本でも大きな存在感を持っています。
また、アメリカは英語圏であるため翻訳そのものへの課題意識が比較的薄く、この領域でのスタートアップは多くありません。だからこそ、日本発で世界中の人が使うソフトウェアをつくる余地があると考えました。翻訳はあらゆる業種で必要とされる基盤領域だからです。
起業そのものについては、私にとって特別に劇的なきっかけがあったわけではありません。むしろ、これまでの関心や問題意識、そして言葉へのこだわりといった積み重ねの延長線上にある選択でした。それに加えて、信頼できる共同創業メンバーと一緒に何かを形にしたいという思いが強くあり、自然な流れとして「やってみよう」と踏み出すことになりました。
誠実であることです。私は起業家であると同時に経営者でもあり、従業員、株主、お客様、仕入れ先など、さまざまなステークホルダー、ひいては社会に対する責任を負っています。
だからこそ、ミッションを達成するために誰かを犠牲にしたり、不誠実なやり方で利益を追求したりすることはしたくありません。三方よしの精神を大切にしながら、すべての人に対して誠実であり続けたいと考えています。
その考え方は、日々のお客様との向き合い方にも表れています。翻訳は、一見すると単純な作業に見えても、業界や文書ごとに求められる品質や配慮が大きく異なります。だからこそ、事業を急速に拡大することだけを優先すると、一人ひとりのお客様に十分向き合えなくなってしまう恐れがあります。
私たちは効率だけを追い求めるのではなく、それぞれのお客様の課題に丁寧に向き合い、本当に役立つサービスを提供することを何より大切にしています。
これは、Y Combinatorの共同創業者であるポール・グレアムが提唱した「Do things that don’t scale(スケールしないことをしよう)」という言葉にも通じるものがあります。事業が成長すると、どうしても効率化や拡大を優先したくなります。しかし、目の前のお客様の課題を一つひとつ誠実に解決し、その積み重ねによって信頼を築いていくことこそが、私たちの存在価値だと考えています。
起業は、想像していた以上に大変でした。大企業やコンサルティングファーム、あるいはスタートアップの事業責任者として働いていた経験もありますが、従業員として向き合う責任の重さと、創業者、経営者と向き合う責任の重さは違うものだと感じています。
特に大きな壁だったのは、「いいものを作れば売れるはずだ」と考えてしまっていたことでした。ただ競合と比べて良い品質の製品を作ったとしても、それだけで見つけてもらえるわけではなく、自分たちから積極的に届けにいかなければならないというスタートアップの現実を、甘く見ていました。
実際に展示会で名刺を持って飛び込み営業をしてみると、「ChatGPTと何が違うの?」と言われることもしばしばです。10回提案しても、9回は刺さりません。恥を忍んで友人や親に紹介をお願いすることもありますが、その一つひとつの紹介にも相手の信頼を損なわない責任が伴います。
やりたくないと感じる場面も多い一方で、それでも向き合わなければならないのが創業者、経営者の責任の重さで、今まさに乗り越えようとしているところです。

応援の輪が広がっていくこと、そしてそこに生まれる責任が、私のモチベーションになっています。儲け抜きで「この人にも会ってみなよ」とつないでくれる方が、社内外ともに増えてきました。そうした期待や信頼に支えられていることを日々実感しています。
また、エンジニアにとって、自分たちが作ったものが使われないことは大きな苦しさにつながります。それでも、その現実と向き合いながら、辛抱強くプロダクトを作り続けてくれている仲間がいます。その姿勢に支えられながら、私たち自身も前に進んでいます。
ベンチャーというものは、ある種の共同幻想だと感じています。「こういう未来が来るはずだ」というまだ実在しないビジョンを、関わる人たちが信じ、その輪を広げていく営みです。人類がここまで発展できたのは、実在しないものを信じて集団で突き進める、いわば「嘘をつける」という特性があったからだという話があります。
起業家の語る言葉も、創作物も、最初はある意味で「嘘」かもしれません。それでも、信じてくれる人が増え、行動が連鎖していくことで、少しずつ現実になっていきます。始めたのは自分自身ですから、その責任を持って最後までやり切りたいと考えています。
そして実際に、使ってくださった方から「すごく便利だった」「本当に助かった」と言っていただけた瞬間や、Stripeの決済通知音が鳴った瞬間は、何よりも嬉しい実感があります。
BLUE ONEを、世界中で使ってもらえるプロダクトにしていきたいと考えています。私自身、さまざまな国の人と話すことが好きで、言葉が通じ合うことの楽しさや、人と人が理解し合えることの価値を強く感じてきました。
もし言葉の壁をなくすことができれば、コミュニケーションのすれ違いは減り、結果として不要な衝突も減っていくはずです。また、ビジネスの可能性も広がり、より円滑で開かれた社会につながると信じています。
会社としては、「幸せな社会を生み出す会社」でありたいという思いがあります。世の中全体の幸せの総和を少しでも増やしていくことが、私たちの目指す方向性です。その背景には、新卒で入社した総合商社での経験があります。そこで働く中で、従業員を大切に育て、短期的な利益だけでなく人を成長させようとする日本企業の良さを実感しました。
そうした価値観を大切にしながら、同時にグローバルにも挑戦していきたいと考えています。アメリカ的な経営論に偏るのではなく、バランスの取れた形で、幸せな会社を作っていきたいと思っています。
個人としては、世界中を飛び回りながら仕事をしていきたいという思いがあります。翻訳という世界中で必要とされるドメインを選んだのも、その志向と重なっています。また、AIという技術の面白さや可能性を、より多くの人に広めていきたいと考えています。
まず、一緒に起業してくれる人、つまり共同創業者を探すことが大事だと思います。一人ではあまりに孤独で、なかなか耐えられるものではありません。私には2人の共同創業者がいて、本当に感謝しています。一人での起業は、いわばミュージシャンのソロデビューのようなもので、相応の実力と覚悟が求められるものだと感じています。
次に実感しているのは、「いいものを作れば売れる」という考えは必ずしも成り立たないということです。だからこそ、どうやって届けるか、どう売るかを徹底的に考える必要があります。AIで多くのことができる時代になっても、人に会わなければビジネスは始まりません。名刺を持って、とにかく人に会いにいくことの重要性を痛感しています。
そして、やりたくないことから逃げないことも大切だと思います。途中で投げ出したくなる場面は何度もありますが、それでもやるべきことはやる。その積み重ねが事業を前に進める力になると感じています。
一方で、人生をかけすぎないことも重要だと考えています。すべてを背負いすぎると判断が歪み、結果的に周囲を不幸にしてしまうこともあります。起業は何度でも挑戦できるものであり、セカンドチャンスも十分にあります。日本でもベンチャーエコシステムは徐々に整ってきており、そのうえで、逃げずにやり切るという覚悟は持ち続けています。

慶應義塾大学経済学部を卒業後、住友商事やドリームインキュベータで事業投資・戦略支援に従事。その後、ツクルバで新規事業「ウルカモ」の立ち上げや事業責任者を務める。2025年に株式会社イエローブルーを設立し、現在は代表取締役としてAI翻訳サービスの開発・運営を手がけている。
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法人名 |
株式会社イエローブルー |
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HP |
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設立 |
2025年8月 |
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事業内容 |
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