株式会社リモア 代表取締役CEO 橋本 竜

株式会社リモアは、キャラクターとAIを活用し、一人ひとりの生活習慣の改善を支援するヘルスケアサービス「キャラミクス」を開発しています。睡眠スコアを示すだけで終わりがちな従来のスリープテックと異なり、推し活によるエンターテインメントとインセンティブを組み合わせ、健康習慣を無理なく継続できる点が強みです。今回は、代表取締役CEOである橋本竜氏に、事業を始めた経緯や今後の展望について伺いました。

キャラクターが生活に伴走する、新しいヘルスケア

どのような事業をされているのでしょうか。

リモアは、キャラクターとのコミュニケーションを通じて生活全般をサポートする「キャラミクス」を開発しています。AIを活用し、一人ひとりとのやり取りを通じてユーザーの生活リズムや価値観、興味関心を学習し、その人に最適なレコメンドを行います。

 

分かりやすく言えば、Amazon Alexaのような生活アシスタントに、キャラクター性と一人ひとりに寄り添う能動的なコミュニケーションを加えたイメージです。まずはリアルイベントとアプリを軸にサービスを展開し、最初のテーマとして「睡眠」を選びました。

 

キャラクターは「夢の神さまから遣わされた執行代理人」という設定で、眠ることでユーザーとつながります。朝はキャラクターの声で起床し、寝る前には睡眠に関するやり取りを行い、ユーザーは選択式の会話を重ねながら、自然と睡眠に関する知識を身につけ、より良い睡眠習慣へつなげていくことができます。

 

睡眠時間に応じて「スリープポイント」を獲得できるほか、継続して良い睡眠習慣を実践することで、キャラクターとの関係が深まり、限定ストーリーが解放されるほか、イベント限定グッズとの交換に利用できる特典チケットも獲得できます。ゲームを楽しむような感覚で、無理なく睡眠習慣を継続できる設計です。 

 

キャラクターのプロデュースには、著名なマンガ家である矢吹健太朗先生にご参画いただいています。サービス開始当初は、推し活文化に親しみのある10代から30代を主なターゲットとしていますが、将来的には、年齢や性別を問わず、より幅広い層へ利用者を広げていきたいと考えています。

 

私たちの最大の強みは、エンタメを通じて「健康習慣を継続できる仕組み」を実現していることです。睡眠データを計測・可視化するサービスは増えていますが、エンターテインメントを通じて継続を促すサービスは、まだ限られているのが現状です。

 

私たちは、キャラクターへの愛着や応援したいという感情とインセンティブを組み合わせることで、「続けたくなる体験」を提供しています。健康管理を義務や我慢ではなく、キャラクターとのコミュニケーションを楽しみながら続けられる習慣へと変え、最終的には健康改善や予防医療に発展させていくことを目指しています。

 

また、推し活サービスの多くが「1対多」のコミュニケーションであるのに対し、キャラミクスはキャラクターがユーザー一人ひとりの興味関心や行動パターンを学習し、個別最適化されたレコメンドを行う「1対1」の体験を提供します。

 

IPの魅力とAIによる一人ひとりに合わせた体験、そしてヘルスケアを同時に実現できることが、私たちならではの強みだと考えています。

 

 

事業を始めた経緯をお聞かせください。

私のキャリアには、一貫して「社会貢献」というテーマがあります。

 

私は福島県出身で、東日本大震災が発生した当時、フランスで暮らしていました。震災をきっかけに、「地元のために何かできないか」と考え、帰国を決意しました。

 

フランスで生活する中で、日本のアニメやマンガなどのIPが世界中の人々から愛されていることを目の当たりにしました。その経験から、「IPと何かを掛け合わせることで、社会課題の解決や地域活性化につなげられるのではないか」と考えるようになりました。

 

その思いを形にしたのが、前職で手掛けた温泉地のキャラクター化プロジェクトです。スタートから9年間で、全国135か所の温泉地へ展開しました。推し活をきっかけにファンが実際に現地を訪れ、地域に新たな人の流れや交流が生まれることで、エンターテインメントが地域活性化につながる手応えを感じました。

 

また、声優やアイドルのセカンドキャリア支援や、障害のある方の就労支援としてキャラクターグッズの制作を社会福祉施設に委託したりと、エンタメ×社会貢献に長らく取り組んできました。

 

こうした経験を通じて、エンターテインメントには「楽しさ」を提供するだけでなく、人の暮らしや働き方、社会そのものを支える力があることを実感しました。

 

そうした考えを深める中で、次に着目したのが「睡眠」です。

 

推し活を継続して楽しむためには、時間や心身、経済面での余裕が必要です。その土台となるのが、健康と日々の生産性だと考えています。しかし、日本では慢性的な睡眠不足が社会課題となっており、睡眠不足による経済損失は年間約15兆円、GDPの約3%に相当するといわれています。

 

フランスで働いていたとき、同僚の中には昼休みに一度帰宅し、短時間の仮眠を取る人が多くいました。適切な休息を取ることで、午後の仕事のパフォーマンスが高まるという考え方が定着していました。

 

睡眠が改善すれば、仕事や学習のパフォーマンスが高まり、心身や生活に余裕が生まれる。その余裕が、趣味や推し活を楽しむ力にもつながり、結果として消費や経済の活性化にも波及していく可能性があります。そうした一連のつながりを考えたことが、睡眠をテーマに事業を立ち上げた出発点でした。

 

さらに、この事業には私自身の強い原体験もあります。実は私は5年ほど前まで体重が120キログラムありました。しかし、あるダイエットアプリのAIキャラクターに励まされ、寄り添ってもらったことで、40キログラムの減量に成功したのです。

 

人から「頑張って」と言われても続かなかったことが、キャラクターに応援されると不思議と続けられました。この体験を通じて、AIとキャラクターを組み合わせれば、ダイエットだけでなく、睡眠や健康、美容、学習など、生活習慣全般の改善を楽しく継続できるのではないかと確信しました。この実体験こそが、キャラミクスを立ち上げたきっかけになっています。

 

ファンファーストと、マーケットインの視点

仕事におけるこだわりを教えてください。

こだわりは大きく2つあります。1つはファンファーストであることです。私自身がゲームやマンガ、アニメのファンであり、日々推し活を楽しむ側の人間でもあります。

 

作り手であると同時に、いちファンとしての感覚を持っているからこそ、つねにファンの視点に立ち戻り、「これは本当に面白いのか」「自分なら夢中になれるか」「推し続けたいと思うか」を問い続けることを何より大事にしています。

 

提供する側の都合ではなく、受け取るファンがどう感じるかを起点に物事を考えることはこれまで一貫して変わらない私のポリシーのひとつです。

 

もう1つは、プロダクトアウトではなくマーケットインでIPやサービスを作ることです。作り手の情熱を大切にしながらも、「作りたいから作る」という発想だけで突き進むのではなく、マーケットやニーズがあるか、独自性や再現性があるか、そして事業として成功する蓋然性があるかという軸で、一つひとつを客観的に評価しながら形にしていきます。

 

私自身、コンテンツのプロデュースにおいてはある程度の知見を持っていますが、それも独りよがりにならないよう、つねに市場やユーザーの視点を欠かさないようにしています。ファンとしての面白さと、ビジネスにおける客観性をバランスよく維持し続けることを心がけています。

 

 

起業から今までの最大の壁を教えてください。

最大の壁は、前職の観光支援型のコンテンツがコロナ禍に直撃したことです。キャラクターに会うためには、実際に観光地へ足を運ぶ必要がある設計だったため、外出自粛によって来訪そのものが難しくなり、プロジェクトは存続の危機に追い込まれました。

 

それでも私は、プロジェクトを守るため、迷うことなく私財を投じ続けました。そこまでできたのは、作品そのものへの強い愛着があり、応援してくれるファンがいて、何より一緒に取り組んできた観光地の方々のためという思いがあったからにほかなりません。守るべきものがはっきりしていたからこそ、踏み込めたのだと思います。

 

リモアについては、まだ立ち上げて日が浅く、最大の壁と呼べるものはむしろこれから訪れると思っています。特に、IP領域におけるAI活用については、国内でも依然としてネガティブな反応や慎重な意見があります。

 

クリエイターやファンの感情に配慮しながら活用を進めなければ、それこそ炎上を招く可能性も十分にあります。だからこそ、技術ありきで突き進むのではなく、ファンや作り手の気持ちと丁寧に向き合いながら、慎重に事業を育てていきたいと考えています。

 

負け続ける日本を、もう一度強くしたい

進み続けるモチベーションは何でしょうか。

かつては失われた10年、20年と言われていたものが、今や失われ続けて35年が経ちました。先日ハワイに家族旅行に行った際、円安により、日本円の力がかなり低下している現実を強く実感しました。改めて、世界視点で見たときに日本経済が置かれている厳しい状況を突きつけられた思いでした。

 

それでも私は、日本にはまだまだ大きなポテンシャルが眠っていると信じています。世界に誇れる文化やコンテンツがあるのに、それを十分に活かしきれていません。負け続けてきた日本を、もう一度世界の舞台で存在価値を高めたい。その悔しさと希望が入り混じった気持ちが、私を動かし続けています。

 

もう一つ強く抱いているのが、地方と都市の格差を少しでもなくしたいという思いです。私自身、地方で育ったからこそ、生まれ育った環境によって挑戦できる機会や情報量、選択肢に差がある現実を感じてきました。

 

しかし、AIやクリエイティブの力は、そうした地域の壁を越える可能性を持っています。今は、地方に住んでいても世界へ向けて新しい価値や情報を発信し、コンテンツを生み出せる時代です。だからこそ、その力を地域の活性化や新しい産業づくりに活かしたいと考えています。

 

場所に縛られることなく、地方から新しい挑戦が次々と生まれる社会をつくることが、私の目指す未来です。

 

今後の展望をお聞かせください。

まず目指しているのは、キャラクターがユーザーの日常に寄り添うこのキャラミクスを世の中に送り出すことです。最初のテーマは睡眠ですが、この仕組みは健康や美容、学習など、人が「始めたいけれど始められない」「続けたいけれど続けられない」さまざまな領域で、行動変容を支える基盤になると考えています。

 

生成AIの大規模言語モデル(LLM)の基盤開発では、米国や中国が先行しており、日本が同じ土俵だけで競争することは容易ではありません。しかし、日本には世界に誇れるマンガやアニメ、キャラクターといったIP文化があります。

 

私は、この日本ならではの強みとAIを掛け合わせることで、新しい価値を世界へ発信できると信じています。キャラクターが人々の生活に寄り添う世界を実現し、日本発のサービスとして世界へ展開していくことが目標です。

 

今回、Headline Asiaから調達した1億円は、こうしたビジョンを実現するための投資に充て、キャラミクスのシステム開発やコンテンツ開発を進めるとともに、同じ志を持って挑戦してくれる人材の採用にも積極的に取り組んでいく予定です。

 

将来的には睡眠だけでなく、美容、学習、金融などへ領域を広げ、キャラクターが一人ひとりの生活全体に寄り添い、行動を支える「Character OS(キャラクターによる生活OS」の実現を目指しています。

 

 

まずは、スタートラインに立つこと

起業しようとしている方へアドバイスをお願いします。

まずお伝えしたいのは、とにかく会社をつくり、スタートラインに立ってほしいということです。

 

今はAIの進化によって、極端に言えば一人でも起業し、資金調達まで目指せる時代になりました。私自身も、リモアの事業構想を考える際には、目的に応じて4つのAIを使い分けながら、何度も壁打ちを重ねてきました。

 

一人だけで考えていると、どうしても視点が偏ってしまいます。しかし、AIを相棒として活用することで、自分では気づかなかった課題や新たなアイデアを客観的に検証できるようになります。

 

そうした試行錯誤を積み重ねたことが、事業構想の具体化や資金調達にもつながりました。昔と比べれば、起業のスタートラインに立つハードルは間違いなく低くなっています。本当に実現したいことがあるなら、考え続けるよりも、まず一歩踏み出してみてほしいと思います。

 

そして、成功だけでなく、失敗もぜひ経験してほしいと思っています。

 

私自身、これまで複数の事業売却を経験してきましたが、その一方で、それ以上に数え切れないほどの失敗や後悔も重ねてきました。事業が思うようにいかず、投資した全額が損失になったこともあります。決して順風満帆な道のりではありませんでした。

 

それでも挑戦を続けられたのは、成功と失敗の両方を経験してきたからです。失敗は決して終わりではなく、次の成功を生むための大切な経験になります。だからこそ、失敗を恐れて動かないのではなく、まずは挑戦してみることが何より重要だと思っています。起業家にとって、失敗もまた大切な財産なのです。

 

 

本日は貴重なお話ありがとうございました。

起業家データ:橋本 竜 氏

1977年8月、福島県郡山市生まれ。2009年に「美人時計」を立ち上げ、事業売却後に渡仏。東日本大震災を機に帰国し、大手出版社やゲーム会社でIP・コンテンツのプロデュースを経験する。その後、温泉地をキャラクター化した地域活性化プロジェクトを立ち上げ、9年間で全国135か所の温泉地へ展開。運営企業の事業売却を経て、キャラクターとAIを通じて人々の行動変容とウェルビーイングの実現に取り組む株式会社リモアを設立し、代表取締役CEOに就任。2026年6月、Headline Asiaから1億円の資金調達を実施したことを発表。

企業情報

法人名

株式会社リモア(RiMoA)

HP

https://rimoa.jp/

設立

2024年7月

事業内容

  • キャラクターとAIを活用した行動変容プラットフォーム「キャラミクス」の開発・運営
  • IPキャラクターの企画・プロデュースおよびライセンス展開
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