個人事業主から法人化すれば、社会的信用度や税制面でも様々なメリットを得られます。しかし「なんとなく法人にしたいから」という理由で法人化すると、適切なタイミングがわからず損をしてしまうかもしれません。

 

法人化で大切なのは、法人化にかかる費用を抑えつつ、適切なタイミングで設立することです。法人化を目的にするのではなく、法人化した後の経営までを考えた上で法人化しましょう。

 

今回は、個人事業主から法人化するメリットデメリットやおすすめのタイミングについて解説します。この記事を参考にすれば、法人化にかかる費用を抑えつつ、目的に合わせた法人設立ができるでしょう。

個人事業主と法人の違いは?

 

個人事業主と法人の違いとしては、下記の4つが挙げられます。

 

  • 事業の開始方法
  • 事業開始にかかる費用
  • 課税対象となる税金
  • 社会的信用度

 

上記以外にも、個人事業主と法人には細かな部分で様々な違いがあります。個人事業主から法人化するなら、法人化する目的を明確にすることが大切です。

 

法人化する理由を明確にしていなければ、設立費用や維持費を無駄に支払うことになるため、注意が必要です。

 

個人事業主と法人の掛け持ちはできる?

 

個人事業主と法人の掛け持ちは可能です。しかし、個人事業主と法人の掛け持ちは、同じ事業内容ではできないため注意しましょう。同じ事業で掛け持ちしたいと考えた場合は、個人事業主を廃業しなければいけません。

 

なぜなら、同じ事業内容で掛け持ちしてしまうと、税金負担が少なくなるように調整できてしまうからです。

 

また、自分自身が違う事業だと考えていても、客観的に見た上での明確な違いを示さなければいけません。個人事業主と法人を正しく掛け持ちできれば、様々なメリットを得られます。

 

個人事業主から法人化するメリット・デメリット

個人事業主から法人化することで、税制面や社会信用度の面で様々なメリットを得られます。個人事業主から法人化するメリット・デメリットは、下記表の通りです。

 

メリット

デメリット

社会的信用度が上がる

会社の設立費用がかかる

有限責任となりリスクが軽減する

社会保険に必ず加入しなければいけない

節税効果を高められる

提出書類が複雑になる

事業継承がしやすくなる

役員報酬を途中で変更できない

決算月を自由に定められる

売り上げにかかわらず税金を支払う

 

法人化すれば、社会的信用度が上がるため、他者との取引がしやすくなります。「個人事業主とは取引しない」と考えている企業もあるため、個人事業主の時よりも仕事を獲得しやすくなる可能性は高いです。

 

しかし、法人化することで支出が増えたり個人事業主の時とは違う手続きが必要になります。

 

上記を踏まえた上で、法人化するかどうかを検討することが大切です。また、法人化するためには、設立費用がかかります。法人化する前に、どのぐらいの費用がかかるかを理解しておきましょう。

 

個人事業主から法人化する際にかかる費用

 

個人事業主から法人化する際にかかる費用は、下記の6つです。

 

  • 印紙税
  • 定款認証の手数料
  • 登録免許税
  • 謄本・本人の印鑑証明書費用
  • 実印の作成費用
  • 株主と取締役の印鑑証明書取得費用

 

法人化する前にどのくらいの費用がかかるのかを理解しておきましょう。法人化前に資金を貯めておかなければ、資金が足りずに経営が困難になる恐れがあります。まずは、何にどのくらいの費用がかかるのかを理解しておくことが大切です。 

 

印紙税

 

印紙税とは、定款に貼る印紙にかかる費用のことで、4万円の費用がかかります。定款とは、企業の根本原則が記載された書類のことで、会社設立の際に必要となります。 

 

「4万円の費用を節約したい」と考えているなら、電子定款を利用しましょう。電子定款を利用すれば、印紙税はかかりません。ただ、電子定款を作成するのには特殊な機械が必要です。個人だけで電子定款作成するのは難しいため、専門業者へ依頼することをおすすめします。 

 

定款認証の手数料

 

法人化する際には、定款認証の手数料もかかります。定款認証の手数料とは、定款を公証人に認証してもらうためにかかる費用のことであり、5万円の費用がかかります。 

 

また、定款の謄本手数料としても2,000円かかるため、合計で52,000円かかると考えておきましょう。

 

登録免許税

 

会社設立では、登録免許税もかかります。登録免許税とは、法人登記をしてもらうのにかかる費用のことです。登録免許税は「資本金の0.7%」であり、最低でも「15万円」が必要です。

 

例えば、資本金が1,500万円の会社を設立しようと考えた場合「15,000,000×0.7=10万5千円」隣、最低ラインの15万円となります。

 

ただ、ほとんどの会社では資本金を1,000万円以上かけて設立することはありません。そのため、基本的に登録免許税は、最低ラインの15万円が必要と考えておきましょう。 

 

謄本・本人の印鑑証明書費用

 

会社設立では、謄本・本人の印鑑証明書も必要です。謄本・本人の印鑑証明書費用とは、手続きを行う際に必要な書類にかかる費用のことです。全体的にかかる費用は高くありません。

 

1枚あたりの費用は少ないですが、合計4枚必要です。合計だと、4枚で2,100円が必要となるため、事前に理解しておきましょう。

 

実印の作成費用

 

会社設立の際には、会社用の印鑑を作成する必要があります。法人の印鑑では、下記3種類の印鑑が必要です。

 

  • 法人実印:定款などの書類に必要
  • 銀行用の実印:銀行の手続きに必要
  • 各印:請求書などの書類に必要

 

実印の作成費用は、依頼先や依頼内容によっても様々です。ただ、相場としては合計で8,000〜30,000円程度がかかります。3種類の印鑑をまとめて依頼すると安く依頼できる可能性もあるため、複数の依頼先に依頼するのがおすすめです。

 

個人事業主から法人化する費用を抑える方法

 

個人事業主から法人化する費用を抑える方法としては、下記2つが挙げられます。

 

  • 電子定款を使用する

  • 株式会社ではなく合同会社にする

 

法人化する費用を抑えられれば、経営にかける資金を少しでも増やすことが可能です。スタートアップ企業やベンチャー企業だと、資金調達ができずに倒産してしまうこともあります。資金不足による倒産を避けるためにも、法人化にかかる費用を抑えることが大切です。

 

電子定款を使用する

 

電子定款を使用すれば、印紙代4万円を節約可能です。電子定款とは、紙の書類ではなく電子情報となるため、印紙税法の対象外となります。法人化には、様々な費用がかかります。法人化に関わる費用を少しでも抑えたいなら、電子定款を使用しましょう。

 

また、電子定款を使用することで、法人設立までの時間を節約することにも繋がります。紙で定款を作成しようとすると、公証役場と日程調整をするために何度も訪問しなければいけません。

 

しかし、電子定款ならメールや申請フォームでのやり取りで済むため、効率的に法人設立を進められます。 

 

株式会社ではなく合同会社にする

 

株式会社ではなければいけない理由がないなら、合同会社がおすすめです。合同会社は、株式会社よりも設立費用を抑えられます。株式会社ではなく、合同会社にするメリット・デメリットは、下記表の通りです。

 

メリット デメリット
設立費用を抑えられる 株式会社よりも信用が低い
会社経営に第三者が介入しづらい 出資者が多いと意思決定に時間がかかる
役員の任期が無制限 株式会社よりも資金調達しづらい
決算公告の掲載費がかからない
利益配分を自由に定められる

 

費用以外にも、合同会社では会社経営を進めやすくなったり、決算公告の掲載費を抑えられるのも大きなメリットです。設立にかかる費用面以外にも、合同会社のメリットデメリットを理解した上で、どちらを設立するかを考えましょう。

 

個人事業主から法人化するおすすめのタイミングは?

 

個人事業主から法人化するなら、下記2つのタイミングがおすすめです。

 

  • 利益が約900万円を超えた時

  • 年間売上高が1,000万円を超えた時

 

おすすめのタイミングで法人化することで、通常よりもさらに多くのメリットを得られるでしょう。事前に理解している場合としていない場合で、支払う税金額や手間が大きく異なります。

 

利益が約900万円を超えた時

 

個人事業主から法人化するタイミングは、利益が約900万円を超えた時がおすすめです。利益が約900万円を超えると、法人税の方が税率が安くなるため、法人化するメリットを受けやすくなります。

 

個人事業主にかかる税金は所得税であり、法人にかかる税金は法人税です。所得税と法人税の税率は異なり、法人税率は、23.2%とされています。

 

参考:法人課税に関する基本的な資料 : 財務省

 

一方、所得税率は課税所得金額によって異なります。所得税の税率は、下記表の通りです。

引用:No.2260 所得税の税率|国税庁

 

上記の表からもわかる通り、課税所得金額が900万円を超えると、所得税率が33%となります。つまり、利益が約900万円を超えた時点では、法人化した方が税制面のメリットを受けやすいのが特徴です。

 

年間売上高が1,000万円を超えた時

 

年間売上高が1,000万円を超えた時が、個人事業主から法人化するタイミングとしておすすめです。売上が1000万円を超えた2年後から「消費税課税事業者」となります。消費税課税事業者となると、消費税を納めなければならず、手間が増えてしまいます。

 

ただ、1000万円を超えた翌年に法人化すれば、最低2年は消費税の納税が免除されるため納税や申告の手間を減らすことが可能です。例えば、個人事業主で年間売上1,000万円を超えてから、3年後に法人化すれば、最大4年間消費税の納税が免除されます。

 

個人事業主から法人化するなら、法人化するタイミングを考えることで多くのメリットを得やすくなります。

 

個人事業主から法人化にかかる費用は節約できる

 

個人事業主から法人化を検討している人は多いです。

しかし、法人化することが目的になってしまうと、法人化後の経営が円滑に進められない恐れがあります。

 

会社が倒産してしまう理由の根本的な原因としては「資金不足」が挙げられます。

開業から間もないと、実績が少ないため借入も十分にできません。

少しでも、資金を用意するためには、法人化にかかる費用を節約しましょう。

 

個人事業主から法人化にかかる費用は、工夫次第で節約できます。

法人化にかかる費用を節約し、資金繰りを細かく考えておくことで、経営も円滑に進めやすくなります。

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