企業経営において、運転資金は欠かせないものです。しかし、運転資金を調達する方法は何があるのか、必要な金額をどのように計算すればよいのか、そもそも資金が不足する理由は何なのかなどについて、悩みを抱えている方もいるかもしれません。

 

本記事では、運転資金の基本から調達方法までを詳しく解説していきます。

 

運転資金に対する適切な知識を身につけることで、自社のビジネスをより発展的なものにすることが可能となります。

 

運転資金とは何か?必要性とその役割

 

運転資金は、企業が日々の事業活動を遂行するために必要な資金のことを指します。

 

例えば、製造業においては原材料や資材の仕入れ資金が必要であり、販売業においては商品の仕入れ資金が必要です。また、従業員の給与や事務所の家賃など、事業運営に欠かせない費用も運転資金の一部となります。

 

運転資金が不足すると、企業は仕入れや給与などの支払いができなくなり、事業の継続が危ぶまれます。

 

適切な運転資金の確保により、企業は予算を策定し、事業計画を実行することができます。しかし、運転資金の過剰な確保は、返済する際の利息が増えるなど企業にとってもコストとなる場合があるため、適切な金額を確保することが求められます。

 

運転資金は大きく分けて4つ

 

運転資金の種類は大きく分けて4つあります。

 

  • 経常運転資金
  • 増加運転資金
  • 減少運転資金
  • 季節運転資金

 

企業は、これらの運転資金を適切に見極め、資金調達の計画を立てることが必要となります。

 

経常運転資金

 

経常運転資金とは、ビジネスを維持するために必要な資金のうち、通常のビジネス活動に必要な部分を指します。つまり、ビジネスを通常通りに運営するために必要な資金のことです。

 

経常運転資金には、仕入れ代金や製造原価、従業員の給与、オフィスの家賃、水道光熱費、広告宣伝費など、日々のビジネス活動に必要な支出が含まれます。

 

これらの支出は、ビジネスを維持する限り必ずかかる費用であり、ビジネス運営に必要不可欠な資金です。

 

増加運転資金

 

増加運転資金とは、事業の拡大や成長に伴って必要となる運転資金のことを指します。例えば、売上や事業規模の拡大に対応するため、必要な在庫資金や債権債務の運転資金を含みます。

 

製造業では、原材料の購入や製品の製造、在庫管理に必要な資金が増加し、小売業では商品の仕入れや販売に必要な資金が増加します。また、新規事業の立ち上げや海外展開においても、増加運転資金が必要になる場合があります。

 

運転資金が不足すると、資金繰りが悪化し、最悪の場合は倒産してしまうことがあります。特に、黒字倒産は利益を出しながらも資金繰りが悪化して、借入を重ね返済不能に陥る状態を指します。適切な増加運転資金の確保は、事業の健全な成長に欠かせない重要な課題です。

 

減少運転資金

 

減少運転資金とは、事業が低迷し売上が減少している場合に、経営を支えるために必要な資金のことを指します。つなぎ資金とも呼ばれます。

 

つなぎ資金は、過去に好調だった時期に準備しておいた仕入れ代金などを活用することで、経営を支えるための資金として活用されます。

 

事業が低迷している時には、つなぎ資金を活用して運営を維持することが必要になる場合がありますが、つなぎ資金を使い果たす前に、早期の経営回復を目指す必要があります。具体的には、売上の回復や経費の削減などの施策を行い、運転資金の増加を図ることが重要です。

 

季節運転資金

 

季節運転資金とは、企業が特定の時期や季節に必要となる運転資金を指します。この時期には、通常よりも多くの運転資金が必要となるため、十分な資金を事前に用意しておく必要があります。

 

季節運転資金が不足すると、商品の仕入れや従業員の手当などの支出を賄えず、企業の運営に支障をきたすことがあります。特に、クリスマスや年末年始などのイベントシーズンや、ボーナス月などは、売上高が増加することで収入は増えますが、支出も同様に増加するため、季節運転資金の調達が不可欠となります。

 

事前に必要な資金額を見積もり、適切な資金調達の準備をすることが重要です。具体的には、銀行からの融資やクレジットカードの枠拡大、前払いや売掛金の回収の加速など、さまざまな方法で資金を調達することができます。

 

運転資金計算の基本

 

事業を運営するためには、資金が必要です。企業が必要とする運転資金の金額は、売掛金や在庫などの棚卸資産から、買掛金や未払金などの仕入債務を差し引いた金額で算出されます。

 

例えば、売掛金が500万円、在庫が600万円、買掛金が200万円の場合、運転資金は900万円となります。

 

棚卸資産は、商品を販売するために必要な資産であり、仕入債務は将来支払われるべき金額ですが、現時点では支払いがない金額です。したがって、企業が運営するために必要な資金は、これらの金額を考慮して計算されることになります。

 

それではここからは、運転資金の大まかな内訳として、「変動費」と「固定費」について解説していきましょう。

 

変動費

 

企業が日々運営する上で必要な運転資金の中で、売上高の増減に応じて変動する費用を変動費と呼びます。変動費には、原材料費、仕入れ費、人件費、商品の運搬費などが含まれます。

 

売上高を増やすには、原材料や商品の仕入れ量を増やす必要があります。そのため、必要な資金も増加する傾向があります。そして、売上高が増えると同時に、原材料費や仕入れ費、人件費などの変動費も増加するため、これらは変動費として計算されます。

 

また、人件費に関しては、人材派遣業などの場合、変動費(売上原価)に分類されます。変動費を理解し、適切に計算することで、企業は将来の売上高や利益の見通しを立て、経営戦略を策定することができます。

 

固定費

 

固定費とは、従業員の賃金、家賃、リース料などのように、売上高の増減に関係なく一定の金額がかかる費用のことを指します。つまり、売上がゼロでも発生する費用です。

 

企業は、売上高から変動費を差し引いた金額を売上総利益(粗利)と呼びます。

 

そして、固定費を売上総利益率で割ることで、会社が利益を出すために必要な最低限の売上高である損益分岐売上高を計算することができます。この損益分岐売上高を下回る売上高では、企業は損失を被ることになります。

 

したがって、企業は固定費を抑え、売上高を増やすことで、利益を追求することが求められます。

 

運転資金の調達方法

 

運転資金の調達方法には、以下のようなものがあります。

 

  • 銀行など民間の金融機関からの融資
  • 日本政策金融公庫からの融資
  • ビジネスローン
  • 国や自治体の補助金・助成金

 

審査ハードルが低いものや高いもの、金利が高いものや返済が不要なものなど様々ですが、事業の継続・拡大のためには融資を受けることも必要ですので、これらを覚えておくとよいでしょう。

 

銀行など民間の金融機関からの融資

 

銀行など民間の金融機関からの融資は、運転資金を調達する方法の1つです。

 

銀行融資は、金利が比較的安く、長期的な借り入れにも対応していることが特徴的です。そのため、経営者が安く借入をしたい場合には銀行融資が適しています。

 

ただし、銀行からの借入には、多くの資料が必要であり、審査の難易度が高いというデメリットもあります。

 

銀行は貸し出し先の信用力を確認するために、経営者の個人情報や会社の財務状況、将来の事業計画などについて詳細な情報を求めます。そのため、審査には時間がかかる場合があります。

 

日本政策金融公庫からの融資

 

日本政策金融公庫は、中小企業の経営安定や成長支援を目的として設立された金融機関であり、運転資金の調達に利用することができます。特に、中小企業向けの一般貸付では、最大で4,800万円までの融資が可能であり、返済期間も長めに設定されています。

 

また、日本政策金融公庫では、担保を不要とする融資も行っており、経営者が無担保で借入をしたい場合には、おすすめの選択肢の一つです。ただし、返済能力のあることが前提となり、返済計画などの事業計画書の提出が必要となります。

 

ビジネスローン

 

ビジネスローンは、銀行や金融機関から借り入れる方法の一つで、運転資金調達の手段として利用されることがあります。

 

一般的には、審査が比較的簡単でスピーディーに借り入れが可能なため、急いで資金が必要な場合に選ばれることが多いです。ただし、他の借り入れと比較して金利が高く設定されている場合があり、経済的に運転資金が必要な場合は、利息の支払いに追われることになるため、返済計画をしっかりと立てる必要があります。

 

また、ビジネスローンには多くの種類があり、返済期間や金利、借り入れ限度額などが異なるため、自社に最適な条件のビジネスローンを選ぶことが重要です。

 

国や自治体の補助金・助成金

 

国や自治体が提供する補助金・助成金は、新規事業の立ち上げや事業拡大、環境保全やエネルギー創出などの目的で、多種多様な制度が設けられています。例えば、女性や若年層の起業家を支援する制度、地域活性化のための補助金、省エネ・再生可能エネルギーの導入を促進する補助金などがあります。

 

補助金・助成金を利用する場合、必要書類を提出して審査を受ける必要があります。審査に合格すると、基本的に返済不要の資金を受け取ることができますが、必要書類は多く、手続きも煩雑であり、審査期間も3〜6カ月程度かかることがあります。

 

補助金・助成金を利用する際には、目的や条件、申請期限などを確認して、計画的に申請することが重要です。また、補助金・助成金は予算に限りがあるため、申請者が多い場合は競争率が高く、採択されるまでに時間がかかることがあるため、注意が必要です。

 

資金調達方法について、より詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。

 

関連記事

資金調達方法9選|特徴や注意点を解説

 

運転資金に関するQ&A

 

運転資金に関して、よくあるQ&Aを2つ紹介していきます。

 

  • 運転資金と設備資金は別物?
  • 運転資金の不足が起こる理由は?

 

運転資金と設備資金は別物?

 

「設備資金」と「運転資金」は、企業経営において必要な資金ですが、その目的は異なります。設備資金は、事業の拡大や新規事業を開始するために必要な固定資産の購入に必要な資金であり、運転資金は、日常的な経費や商品を購入するために必要な資金です。

 

設備資金には、事業用機械や設備、事業用車両、土地や建物の購入、増改築などが含まれます。一方、運転資金には、商品の仕入れ代金、従業員の給料、家賃、水道光熱費、広告宣伝費、事務用品や交通費などが含まれます。

 

設備資金を融資で調達する場合、融資を受ける前に見積書を提出することが必要であり、購入予定の設備や機械の種類、金額、必要な台数や規模、納期などが明確に示されていることが求められます。

 

ただし、設備資金を運転資金に流用することは法律違反であり、融資の取消処分を受ける可能性があるため、決して行ってはいけません。設備資金と運転資金は、それぞれ独自の目的があり、明確に使途を区別することが重要です。

 

運転資金の不足が起こる理由は?

 

運転資金の不足が起こる理由は、主に3つあります。

 

  • 売上の増減
  • 急なイベントやプロジェクト等
  • 棚卸資産を長期間保有している

 

売上が増加した場合、人件費や設備費などの費用も増え、運転資金が不足する可能性があります。一方で、売上が減少した場合には固定費を急に減らすことができず、運転資金不足に陥る可能性があります。この場合は、融資の検討や固定費の見直しなどを行うことで解決することができます。

 

急なイベントやプロジェクト等があった場合にも、運転資金の不足するケースが多いです。イベントなどで急に資金が必要になる場合、一時的にキャッシュが減り、運転資金が不足する可能性があります。このような場合は、資金計画を立て、必要に応じて早めに資金調達を行うようにすることが重要です。

 

最後に、棚卸資産を長期間保有しているケースです。棚卸資産を長期間保有していると、商品の出荷が遅れることにより、資金の流れが滞り、運転資金が不足する可能性があります。この場合の対策としては、在庫管理の見直しや、販売計画の見直しなどを行い、適切な棚卸資産の保有期間を設定することが重要です。

 

運転資金の基礎や計算方法を正しく理解し適切な資金繰りを

 

この記事では、運転資金に関する基本的な情報を紹介しました。運転資金は、企業が事業を継続するために必要な資金であり、その管理は経営にとって不可欠です。

 

運転資金の調達方法には、銀行融資やビジネスローンなどがありますが、それぞれにメリット・デメリットがあります。

 

運転資金を調達する前に、まずは売掛金や在庫などを正確に把握し、必要な資金額を算定しましょう。運転資金の不足が起こらないよう、日々の財務管理にも関心を持ち、迅速な対応が求められます。

 

運転資金を管理することは、企業経営において欠かせないスキルであることを忘れずに、正しい知識と意識を持って経営に取り組んでいきましょう。

 

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