アーリーステージとは、起業してから間もなく、実績や業績がない時期を指します。スタートアップステージと呼ぶこともあり、これからビジネスモデルを確立させていく段階です。アーリーステージでは設備投資や研究開発、人材採用などで多額の資金が必要になります。
本記事では、アーリーステージで直面する課題や資金調達方法などについて詳しく解説します。これから自社がアーリーステージに入る起業家や既に入っている起業家は、ぜひ参考にしてください。
Contents
スタートアップ企業におけるアーリーステージとは
スタートアップ企業におけるアーリーステージとは、前述した通り起業した直後の時期を指します。シードステージの後の段階で、スタートアップステージと呼ぶこともあります。
アーリーステージの定義
アーリーステージとは事業を開始したものの、創業して間もないため実績や業績がない時期のことを意味します。PMFの達成を通じて収益化を目指している段階です。なお、PMFとは「Product Market Fit」の略で、顧客の課題を解決できる製品を提供し、適切な市場に受け入れられている状態を指します。
軌道に乗るまでの間は、赤字を計上する企業が多いです。しかし、経営を続けるためには、設備投資や研究開発、人材採用、販売促進などさまざまなコストがかかります。そのため、アーリーステージでは資金繰りに悩む企業が多いです。
なお、従業員の規模は5〜20人が一般的で、製品を市場に届けるためのエンジニアや営業スタッフなどが必要になります。
アーリーステージの目的
アーリーステージでは、PMFの達成に向けた事業を目指すことが目的です。自社で提供する製品やサービスのプロトタイプが完成している場合がほとんどで、それを市場に投入し、改善を繰り返し行います。
アーリーステージの課題
アーリーステージでは、資金繰りが最大の課題となります。この時期は、設備投資や研究開発、人材採用、販売促進などさまざまなコストがかかるためです。マーケティングや営業に力を入れると、さらにコストがかかります。赤字になることも多く、いかに事業を継続させるかを考えることが重要です。
シードステージと同様に、事業の魅力や今後の目標をできるだけ多くの人たちに知ってもらい、自社に協力してくれる人を増やしていく必要があります。
成長フェーズと投資ラウンドの関係
投資ラウンドとは、スタートアップ企業の事業段階を投資家の立場で区別したものです。スタートアップの成長フェーズによって、投資ラウンドも変化していきます。
ラウンド |
調達費用の相場 |
特徴 |
プロダクト |
チームの 有無 |
トラクション |
調達期間 |
エンジェル |
数百万円〜数千万円 |
アイデアを出す段階 |
無し |
△ |
無し |
数日〜1ヶ月 |
シード |
数千万円〜数億円 |
大枠のビジネスが決まっている段階 |
プロトタイプ有 |
〇 |
無し |
数ヶ月 |
プレ シリーズA |
数億円 |
プロダクトを検証している段階 |
α/βリリース |
〇 |
発生 |
数ヶ月 |
シリーズA |
数億円 |
事業が スタート した段階 |
正式リリース |
〇 |
出てきている |
半年間 |
シリーズB |
数億円 |
ビジネスが軌道に乗り始めた段階 |
機能拡充 |
〇 |
継続して出ている |
半年以上 |
シリーズC~ |
数億円〜数十億円 |
上場やM&Aをする段階 |
新規事業開発 |
〇 |
堅調な拡大 |
半年以上 |
エンジェルラウンド
エンジェルラウンドとは、製品やサービスのアイデアのみがある状態です。起業前で、ビジネスを始める段階を指します。資金調達は数百万円〜数千万円が相場となっています。メンバーや顧客はほとんど抱えていません。
調達した資金は、製品やサービスの開発体制を構築するための人材を確保するのに使用されます。
シード
シードとは、大枠のビジネスが決まっている状態です。ただし、製品やサービスの詳細や販売方法までは決まっておらず、プロトタイプを開発しているケースが多いです。資金調達は数千万円〜数億円が相場となっています。
シードの段階で資金調達する際は、投資家だけでなくクラウドファンディングや日本政策金融金庫などの方法も検討するとよいでしょう。調達した資金は、市場調査や会社設立、人材採用などに使用されます。
シリーズA
シリーズAとは、ビジネスを開始した直後の段階です。投資家に対して発行する優先株式を指す場合もあります。この株式はシリーズA優先株式と呼ばれ、ほとんどがイグジットの際に普通株式に転換されます。
シリーズAの段階ではプロトタイプは完成しており、製品やサービスの提供も開始している状態です。資金調達は数億円〜数十億円が相場となります。調達した資金は、売上を拡大させるために、設備投資やマーケティングなどに使用されます。
シリーズB
シリーズBとは、製品やサービスが評価され、ビジネスが軌道に乗り始めた段階です。イグジットの時期が近づくため、黒字化が求められます。資金調達は、十数億円〜数十億円が相場となります。
設備投資や販売促進、新規顧客の開拓、人材採用など、資金が使用される場面はさまざまです。
シリーズC
シリーズCとは、黒字経営が安定化し始めた段階です。IPOやM&Aを通じたイグジットを意識しており、自社に適したイグジット手段を見極める必要があります。資金調達が不要なスタートアップ企業も多いですが、ニーズの変化や市場の動向などの影響によって収益が激減するリスクもあるため、資金調達の重要性は変わりません。
全国展開や海外展開を進める場合は、数十億円程度の資金調達を行うケースが多いです。
アーリーステージの資金調達方法
アーリーステージの資金調達方法は、以下の5つです。
- ベンチャーキャピタル
- クラウドファンディング
- エンジェル投資家
- 日本政策金融公庫
- 補助金・助成金
方法によってメリットとデメリットが異なります。そのため、自社に合った方法を選ぶことが大切です。
ベンチャーキャピタル
ベンチャーキャピタルとは、創業して間もないスタートアップ企業へ投資する組織のことです。最終的には、キャピタルゲインを得ることを目的としています。投資する資金は、自己資金か投資ファンドを設立して投資家から集めた資金のどちらかです。
メリット
ベンチャーキャピタルから出資を受けるメリットは、以下の通りです。
- 返済する義務がない
- 経営スキルやノウハウを学ぶことができる
- 金融機関からの融資が受けやすくなる
- 取引先を紹介してもらえることがある
ベンチャーキャピタルから資金調達する場合、返済する義務がないため毎月の返済負担がなくなります。また、経営アドバイスを受けられたり、取引先を紹介してもらえたりすることもあるので、創業して間もないスタートアップ企業にとって心強い存在です。
デメリット
ベンチャーキャピタルから出資を受けるデメリットは、以下の通りです。
- 将来性がないと判断されると、資金が早期に回収される
- 経営権が握られる恐れがある
- 持ち株を失う場合がある
- 経営に干渉される場合がある
ベンチャーキャピタルの中には、経営に干渉してくるところも存在します。株式や企業自体を売却された場合、持ち株を失うことがあります。経営権が握られると起業家の意思が通らなくなるため、注意が必要です。
クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、インターネットを通じて自社を応援したい人から資金を調達する方法です。企業は事業の魅力をサイト内でアピールします。近年、インターネットの普及により、利用者が増えています。
メリット
クラウドファンディングで資金調達するメリットは、以下の通りです。
- 返済する義務がない
- 審査がない
- 資金調達できるまでの期間が短い
企業を応援したい人が寄付という形で企業に資金を渡すため、返済する義務がありません。
また、出資や融資とは異なり審査がなく、資金調達できるまでの期間も短いです。
デメリット
クラウドファンディングで資金調達するデメリットは、以下の通りです。
- 目標額まで調達できない場合がある
- 他の方法に比べると少額になりがち
自社の事業に魅力を感じてくれる人が少なければ、目標額まで資金を調達できない場合もあります。また、少額になりがちなので、より多くの資金を調達したいときは他の方法も検討することをおすすめします。
エンジェル投資家
エンジェル投資家とは、ベンチャーやスタートアップ企業へ投資する個人投資家のことです。キャピタルゲインを得ることを目的としていますが、純粋に応援したいという気持ちで出資してくれることもあります。
メリット
エンジェル投資家から出資を受けるメリットは、以下の通りです。
- 返済の義務がない
- 経営アドバイスをもらえることがある
- 実績や業績がなくても資金調達できる場合がある
エンジェル投資家は実績ではなく、将来性や市場規模、起業家の人間性などで出資するかどうか判断します。そのため、実績や業績がなくても資金調達できる場合があります。
デメリット
エンジェル投資家から出資してもらうデメリットは、以下の通りです。
- 経営権を握られるリスクがある
- 経営に干渉される場合がある
- エンジェル投資家が必ず見つかるとは限らない
エンジェル投資家の中には、経営に干渉してくる人もいます。そのため、出資してもらう前に、どのような人なのか情報を確認することが大切です。また、自社に出資してくれるエンジェル投資家が必ず見つかるとは限りません。
効率的に見つけたい場合は、起業家が集まるセミナーや交流会、ピッチコンテストなどに参加するとよいです。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫とは、政府が100%出資している金融機関のことです。さまざまな融資制度を設けているため、自社に合ったものを選ぶ必要があります。
融資制度 |
対象者 |
融資額 |
利率 |
融資期間 |
新事業育成資金 |
・新事業が事業化されて7年以内の方 ・成長新事業育成審査会から事業の新規性・成長性の認定を受けた方 ・継続的に経営指導を行い円滑な事業の遂行が可能と認められる方 |
6億円 |
0.3%〜3% |
設備資金:20年以内(うち据置期間5年以内) 運転資金:7年以内(うち据置期間2年以内) |
新株予約権付融資 |
・株式公開を目指している方 |
2億5千万円 |
1.11~3% |
7年以内 |
挑戦支援資本強化特例制度 (資本性ローン) |
・新規開業資金や新事業活動促進資金等の融資制度の対象となる方 ・地域経済活性化のために |
3億円 |
0.45~5.5% |
7年、10年、15年、5年1ヵ月(期限一括償還) |
出典:日本政策金融公庫|新たな事業に挑戦する中小企業、ベンチャー企業向け融資制度
メリット
日本政策金融公庫から融資を受けるメリットは、以下の通りです。
- 金利が低い
- 無担保・無保証で借りられる
- 創業前でも申請できる
日本政策金融公庫は国からの出資を受けて設立され、日本の中小企業や個人事業主の資金調達を支援しています。そのため、市場金利よりも低い金利で融資を提供しているのが特徴です。融資期間も比較的長いので、毎月の返済負担を抑えられます。
デメリット
日本政策金融公庫のデメリットは、以下の通りです。
- ある程度の自己資金が必要
- 創業計画書の作成が必要
- 融資制度ごとに条件がある
日本政策金融公庫の融資を受けるためには、融資全額の約20〜30%程度の自己資金が必要になる場合が多いです。また、特定の事業や目的に合わせて最適なサポートを提供するため、融資制度ごとに条件を設けています。自社が条件を満たしているのか、しっかり確認することが大切です。
補助金・助成金
国や地方自治体が提供している補助金や助成金を活用する方法もあります。起業家を支援したり、新規事業を促進させたりする制度も多いです。主な助成金・補助金として、「地域中小企業応援ファンド」「地域創造的起業補助金」「小規模事業者持続化補助金」「キャリアアップ助成金」の4つが挙げられます。
メリット
補助金・助成金を活用するメリットは、以下の通りです。
補助金・助成金 |
メリット |
地域中小企業応援ファンド |
|
地域創造的起業補助金 |
|
小規模事業者持続化補助金 |
|
キャリアアップ助成金 |
|
デメリット
補助金・助成金を活用するデメリットは、以下の通りです。
補助金・助成金 |
デメリット |
地域中小企業応援ファンド |
|
地域創造的起業補助金 |
|
小規模事業者持続化補助金 |
|
キャリアアップ助成金 |
|
アーリーステージの資金調達を成功させるポイント
アーリーステージの資金調達を成功させるポイントは、以下の通りです。
- 事業計画に合わせて資金調達方法を考える
- 持ち株を譲渡しすぎない
- 償還期限を確認しておく
アーリーステージでは資金調達が課題となるため、あらかじめポイントを押さえておくことが大切です。
事業計画に合わせて資金調達方法を考える
事業計画とは、事業の目標を達成するために必要な行動のことです。目標や戦略などを具体的に記載します。
事業計画が曖昧のまま資金調達の方法を選ぶと、市場のニーズを捉えないまま事業を進めてしまったり、経営権が握られてしまったりなど、失敗につながる可能性が高いです。このような失敗を防ぐためにも、事業計画に沿って資金調達の方法を選ぶ必要があります。
持ち株を譲渡しすぎない
アーリーステージで株を多く発行すると、その分投資家に渡る株式も多くなります。自社の持ち株比率が減ると、投資家に経営権を奪われかねません。
スタートアップ企業では素早い経営判断が必要になるため、株式総会の特別決議を通せるように3分の2以上の持ち株比率を維持しておくことが大切です。
償還期限を確認しておく
ベンチャーキャピタルからの出資によって資金を調達する場合、償還期限の確認が不可欠です。基本的に10年の償還期限を設け、元本と利益をつけて投資家に返す必要があります。
償還期限までに利益を得られない場合は、保有する株主を処分して換金を求められるケースも多いです。
自社に合った方法で資金を調達しよう
アーリーステージは起業直後の段階で、実績や業績がない時期を指します。これからビジネスモデルを確立させていきますが、設備投資や研究開発、人材採用など、さまざまな場面で資金が必要になります。
そのため、アーリーステージでは資金調達が大きな課題となるケースが多いです。金融機関で融資を受けるのは難しく、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの出資などで資金調達するのが一般的です。
ただし、投資家の持ち株比率が増えると経営権を握られる可能性があります。スタートアップ企業では素早い経営判断が求められるため、特別決議を通せる3分の2以上は維持しておくことが大切です。
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