2013年に公認会計士としてのキャリアをスタートして以来、著しく成⻑していく企業と、残念ながら縮小していく企業をいくつも見届けてきました。

その違いについて一概に申し上げることはできませんが、ガバナンスが不十分な企業が、成⻑の過程で苦労することが多いというのは、監査法人や税理士法人での経験を通して実感しています。

ガバナンスとは、健全な企業経営をしていくための管理体制の整備です。健全に経営を行い、持続的に成⻑を続けるためのガバナンス構築について、詳しく解説します。

 

 

売上げさえ上げれば企業は成⻑できるという思考の落とし穴

当然ですが、企業は成⻑と足踏みを波のようにくり返しながらその価値を高めていきます。一度の問題もなく、順風満帆にIPOまでたどり着いたという事例は聞いたことがありません。

 

経営に浮き沈みがあることを前提として、それに耐えうる経営基盤の整備が必要不可欠です。ガバナンスを構築することで強化される経営基盤には、次のようなものが含まれます。

 

  • 企業活動を支える人材
  • 安定した財務状況
  • 魅力ある商品、サービス
  • 顧客
  • 企業文化

 

これらは、当たり前のように企業に備わっていると思われがちですが、特に急成⻑中のスタートアップでは、知らない間にリスクを抱えている場合があります。

 

企業規模が大きくなってから仕組み化や組織整備に取りかかろうとすると、その力は計り知れません。創業初期からガバナンスの醸成を目指して少しずつ着手し、全社に浸透させていくことを目指しましょう。

 

経営のヒヤリ。こんな経験はありませんか?

財務の知識不足や管理体制の未整備によるヒヤリ

技術や営業力がある企業は、その売上げを早くから伸ばしていくことができるでしょう。

 

しかし、そればかりを優先して人材の採用や組織整備を進めた結果、財務管理体制が脆弱になっているケースが散見されます。財務状況が正確に把握できないと、経営の判断や資金調達のタイミングを見誤ってしまうような重大な事態につながる可能性があります。

 

また、予想外の法的な問題の発覚や不正の動機が生じてしまうことも考えられます。

安心して事業を拡大し、売上げを伸ばすための土台として、早期に管理体制を整えることをおすすめします。不正のトライアングルの要素が介在しない環境づくりについて、理想的なフローは次のようになります。

 

企業文化が浸透していないことによるヒヤリ

企業文化や理念等を組織全体に浸透させる仕組みや運用‧監視体制は整っていますか?

 

カルチャー、バリューという表現も見かけます。不正や企業の評判を下げる行為を起こす人が現れないよう、全社の倫理基準に落とし込むことで、やっていいことと悪いことをしっかりと区別しましょう。

 

これは、コーポレートガバナンス‧コード基本原則2にも記載されているものです。

 

「取締役会‧経営陣は、ステークホルダーの権利‧立場や健全な事業活動倫理を尊
重する企業文化‧風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。」

 

とあります。

 

企業の信用につながる部分であり、社内の雰囲気や従業員のモチベーションにも影響します。業績や人材の定着にも関わる重要なものです。

 

売上げを上げることと同じくらい大切な要素として、経営陣‧管理部を中心として
取り組むことをおすすめします。

 

人材の採用‧定着が進まないヒヤリ

人的資本経営とは、人材を重要な「経営資源」と捉え、企業の持続的な成⻑に不可欠な存在として、戦略的に育成‧活用していく経営手法です。企業価値を高めていくための取り組みとして、近年注目度が増しています。

 

単に利益を追求するだけではなく、ガバナンスに配慮した企業活動が求められているという背景があります。人的資本経営の取り組みは株主や投資家からもチェックされると同時に、求職者や従業員からも厳しく見られています。

 

人事労務の管理体制はもちろんのこと、業務プロセスのルール化やキャリア形成支援など、優秀な人材を獲得し企業成⻑に貢献してもらうための整備を進めていきましょう。

 

ガバナンス構築は関わるすべての人のため

ガバナンス構築は一体誰のために行うのでしょうか。

従業員やステークホルダーも含め、その企業に関わるすべての人を守り、一緒に成⻑するために行うのです。

 

それぞれの視点で見てみましょう。

 

代表取締役CEO

営業戦略をどんなに頑張っても、業績を下げるリスクは至るところに潜んでいます。

 

人事労務管理が未熟であることが原因で、突然大量の人材が退職して組織崩壊が起きるかもしれません。組織の未整備が不正の動機となり、日頃の鬱憤を横領という形で晴らそうとするかもしれません。

 

想像するだけで恐ろしいことですが、これは実際に企業で起こっていることなのです。事業の成⻑に集中したいからこそ、管理部の人材採用を後回しにせず、ガバナンス構築を早期に進めていきましょう。

 

管理部‧CXO

CEOが事業に集中できる環境をつくると同時に、毎月の業務をスムーズに遂行していく責務があります。毎月滞りなく業務が行えるフローの設計や、企業のフェーズに合わせた規程類の整備を進めていきます。これらはすべてガバナンス構築の一環であり、働きやすさを向上することにもつながります。

 

働きやすい企業では、人材の採用や定着が促進され、さらなる経営基盤の強化が実現します。株主株主にとって、その企業が利益を上げて成⻑を続けていけるかは大変重要な問題です。そのために透明性と公平性をもった健全な経営基盤があるかどうか、つまりガバナンスが構築されているかを厳しく見ています。

 

従業員

ガバナンスが構築されているかは、就業先を選ぶ上で大変重要な基準になります。スタートアップはまだまだ制度が未完成な部分もあるものですが、企業文化や経営理念など、カルチャーフィットの程度を重視する傾向は企業側にだけに見られるものではありません。

 

最近では、大企業からスタートアップへの転職ハードルも下がっていますが、制度面ではどうしても見劣りしてしまうでしょう。スタートアップならではの柔軟な対応ができる体制があれば、働きやすいと感じられるでしょう。

 

その他の全ステークホルダー

世界的な傾向として、企業に対して社会貢献性を求める声は強くなっています。ESG(環境‧社会‧ガバナンス)などが代表的です。社会問題の解決に取り組む一員であるという姿勢が、関係者のモチベーションや顧客のロイヤリティを向上させると考えられます。

 

また、思わぬ批判に晒されないよう、ガバナンスの構築‧醸成に取り組み、経営リスクを回避することを求めています。

 

売上を上げることと、上げた売上を下げないこと

経営基盤を整える重要性

インターネットの普及により、世間が企業に求めるコンプライアンス遵守の目は、より厳しくなっています。素晴らしい技術と営業力で躍進してる企業が、ある日突然その信用を失ってしまうかもしれません。企業が成⻑するには、売上を上げ続けていくことはもちろん大切です。

 

しかしそれと当時に、せっかく上げた売上や積み上げてきた利益を下げない対策も必要となります。ガバナンスを構築し、経営基盤を整えることが、さらなる企業の成⻑につながっていきます。

 

IT x コンサルティングを駆使した経営基盤の整備

便利なクラウドサービスがたくさんありますが、ガバナンス構築を主目的に据えているものはまだあまり多くありません。私が経営するUniforce株式会社では「IPO準備クラウド」というBPaaSを提供しています。

 

IPO準備に特化して開発しているものの、実はIPOを目指していない企業がガバナンス構築のために導入する事例も増えてきました。IPOの審査基準をクリアすることは、ガバナンスが構築されている目安にもなります。機能面では、人事労務体制のセルフチェックができたり、資本政策表の作成ができたりと、実務の効率化を実現しています。

一方で、ガバナンス構築経験がない人にも使ってもらえるように、相談窓口を用意しました。会計士や社労士、監査法人など11の専門家に気軽に相談できる設計です。

 

経験豊富な専門家でも、ガバナンス構築に必要なものを全て把握していることは稀です。なぜなら、その構築の過程は煩雑で企業のフェーズによっても異なるためです。

 

今の成⻑の勢いを止めず、さらに加速させていくためにも、管理体制‧バックオフィス体制を整えるべきということは、ぜひ念頭においていただければと思います。

 

 

ライター紹介
村松 麻衣子(むらまつ まいこ)

村松 麻衣子(むらまつ まいこ)

株式会社IFA Leading  ウェルスマネジメント戦略部マネージャー。

2014年に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社後、資産運用コンサルティング営業に従事。その後米国モルガン・スタンレーNY本社へ出向し、米国における超富裕層向け営業や営業員育成に関する知見を習得。帰国後は超富裕層向け営業サポート部署に所属し、米国で主流のアドバイザリービジネス推進や非運用(相続・事業承継)領域含む総合ソリューション提案に従事。2024年、日本の金融サービスの変革を目指す姿に魅力を感じIFA Leadingに入社。

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