【#650】マシンピラティスを習慣に。完全個室のパーソナルマシンピラティススタジオ「YUZU」で、誰もが通える環境をつくる|代表 坪井里奈(ESS株式会社)

ESS株式会社 代表 坪井里奈
ESS株式会社は、完全個室のパーソナルマシンピラティススタジオ「YUZU」を全国70店舗運営するマシンピラティススタジオです(※2026年2月時点)。YUZUは2児のママである代表自身の実体験から生まれたスタジオで「どんなライフステージの人にも“自分に戻れる場所”を届けたい」そんな想いから「マシンピラティスを生活の一部に」というコンセプトを掲げ、マシンピラティスをブームではなく文化として根づかせることを目指しています。そのため、YUZUでは通いやすい料金設定と、一人ひとりの気持ちに寄り添うパーソナルな空間づくりを大切にしています。またアカデミー事業を通じて理念に基づく人材育成や女性のキャリア支援にも取り組んでいます。代表の坪井里奈氏に、創業の背景から組織論、失敗談、そして今後の展望などを伺いました。
マシンピラティスを流行から文化に
事業の内容をお聞かせください
私たちは完全個室のパーソナルマシンピラティススタジオ「YUZU」を運営しており、都内および関東近郊を中心に一部関西エリアにも展開し、現在70店舗を運営しています(※2026年2月時点)。
創業当初から掲げているコンセプトは「マシンピラティスを生活の一部に」です。近年ピラティスはブームになっていますが、私たちは一時的な流行ではなく、文化として根づかせたいと考えています。
その実現に向けて、継続しやすい料金体系を整え、渋谷や新宿といったターミナル駅ではなく、三軒茶屋や下北沢など住宅エリアを中心に出店し、習慣化しやすい環境づくりを重視してきました。
また、私たちの強みは「完全個室のスタイル」にあります。これは、性別や年齢、体型、運動経験に関係なく、誰でも安心して通える空間を実現するためのものです。これは私自身が元々運動が大の苦手だということや、毎回子供を預けてレッスンにいくといった負担をなくして一緒に子供を連れていきたいという経験をしたことから生まれたスタイルです。
大勢がいる環境では一目を気にしてしまい私自身が安心できる環境ではなかったため、周囲の視線を気にせず、自分のペースで取り組める環境を整えています。
さらに、どのライフステージの方でもサポートできるよう、例えばキッズスペースを設け、子育て中のママさんにも通いやすい体制を構築しています。
ただ、完全個室やパーソナルの形態自体は、他社にも広がっています。最終的に差が出るのはインストラクターの質だと考えています。
だからこそ私たちは技術力だけでなく、人間力や思いやり、寄り添う姿勢を重視し、研修では「何のためにやるのか」「お客様の課題解決にどうつながるのか」まで深く落としこむことを大切にしています。
未経験の方でも正社員として雇用しており、1か月の研修を経て現場に立ちます。デビュー後も1年をかけて継続的なフォローをおこなっていくため、熱意あるすべての人にプロのインストラクターとして活躍するチャンスが巡るようにしています。
一方、業務委託の場合は資格保有を前提に厳しい審査を行い、即戦力としての質を求めています。
人材不足が課題となる中でもハードルを下げず質を守ることを優先しているのは、ブームが落ち着いたときに最後に選ばれるのは人の質だとこの5年間で強く感じているからです。
YUZUには、18歳から64歳まで極めて多様なバックグラウンドを持つインストラクターが在籍しています。新卒や異業種からの転職者、子育てを終えた主婦、医療従事者、ダンサー、そして50代で第2のキャリアを歩み始めた方など、その経歴はさまざまです。
ピラティスを志したきっかけも「自身の怪我を克服した経験」や「理学療法士・鍼灸師としての知見の活用」など10人10色です。だからこそ、私たちは特定の資格団体に縛られず、個々の背景を「強み」として尊重するスタンスを取っています。
経験が異なれば、同じ学びを得てもお客様へのアウトプットは変わります。それが「セカンドオピニオン」のような多角的なサポートを可能にし、お客様の身体を支える強力な武器になると信じているからです。
実はYUZUのロゴは、見る角度によって「円」にも「柚子の花」にも見えるデザインになっています。これには「身体も見る角度によって様々な見え方がある。だからこそ、多様なバックグラウンドを持つインストラクターがそれぞれの視点からお客様をサポートする」という、私たちの揺るぎないスタンスが込められています。
また、フランチャイズ展開も進めています。独立を志すインストラクターや、女性の働き方支援に関心を持つ経営者の方が加盟しています。直営・FCを問わず理念を共有することを重視し、毎月の理念研修や全社ミーティングを通じて価値観を浸透させています。
創業者としての私の役割は、理念を伝え続けることだと考えています。そして、その思いをメンバーが引き継ぎ、自律的に体現できる組織へ育てていくことが、今の大きなミッションです。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
新卒でIT企業に入社し、IT営業やアパレル通販の担当、ECサイトの立ち上げ、企業のSNSディレクターなど、さまざまな業務を経験してきました。最後に担当していたSNSディレクターの仕事は特にやりがいがあり、残業が続いても苦にならないほど没頭していました。
しかし第一子の出産を機に産休に入り、復帰後は管理部門へ異動したことで転機が訪れます。日々の忙しさは落ち着いたものの、仕事が性分に合わず「時間だけが過ぎていく」感覚に陥り、充実感を得られない日々が続きました。「このままでは子どもに胸を張れない」と自分自身に納得がいかなかったのを覚えています。
ちょうどその頃、通っていた小顔サロンで非常に良い施術を体験して自分の劇的変化に感動したのと同時に、同じように悩んでいる方の力になりたいと考え、セラピストの資格を取り独立しました。それから運営をスタートしたのです。
サロンの経営は順調でしたが、現場で施術を続ける中で「エステだけでは、お客様の慢性的な不調を根本から解決することは難しい」という新たな葛藤が生まれました。そんな折、お客様からマシンピラティスを教わり体験に行ってみたのです。
私自身、産後の身体の変化や気持ちの揺らぎを抱えていましたが、「頑張るための運動」ではなく、呼吸とともに内側から整っていく感覚に感動し、運動嫌いの私が初めて「続けたい」と思える運動に出会いました。
一方で、当時のパーソナルマシンピラティスは1回1万円以上と高額で、気軽に通える価格ではありませんでした。大きなグループレッスンスペースの一角で受ける環境も居心地があまり良いとは言えず、また子どもと一緒に通える場所もほとんどありませんでした。
自分が本当に通いたいと思える求める環境がないなら、自分でつくろうとその決意から、三軒茶屋に1号店をオープンしたことが、「YUZU」の始まりです。

伝え方にこだわり、理念を守り抜く
仕事におけるこだわりを教えてください。
「誠実であること」です。特に、インストラクターとのコミュニケーションを重視しています。
現在、スタッフは数百名規模に拡大し、全員と直接1on1で話すことは物理的に難しくなりました。さらに、完全個室のパーソナルスタジオでは、インストラクターは基本的に一人で現場に立ちます。日々の業務に追われると本質的な目的を見失ったり、壁にぶつかって孤独を感じたりしがちです。
そのため、私が昨年9月に産休から復帰した後は、これまで以上に理念浸透に力を入れてきました。毎月の理念研修に加え、直営スタッフ全体会議「THE YUZU VIEW」をスタートさせました。「なぜ私たちはピラティスを届けるのか」「なぜYUZUにいるのか」という原点の想いをチームで共有し、孤独感を払拭する場を作っています。
また、ルール改訂などの重要な変更がある局面では、「一方的に決まったものとして受け取ってほしくない」という想いから、背景や「なぜやるのか」という目的を、動画配信などを通じて私自身の言葉で直接伝えることにこだわっています。
最近実施した「チケット制からサブスクリプション型への移行」という賛否が想定される大きな制度変更の際も、オンライン説明会を実施し、私自身が直接説明と質疑応答を担当しました。重要な局面こそ、創業者が正面から向き合うことが大切だと考えています。
創業者としての私の役割は、デスクワークだけで経営を終わらせず、現場に足を運んでみんなの想いを感じ取り、私の想いを直接伝え続けること。そして、その想いをメンバーが引き継ぎ、直営・FCを問わず一人ひとりが自律的に理念を体現できる組織へと育てていくことが、今の私の大きなミッションです。
起業から今までの最大の壁を教えてください
フランチャイズ展開における理念の浸透が最大の壁でした。現在、YUZUでは将来独立を志すインストラクターや、女性の働き方支援に関心を持つ経営者の方にFCとしてご加盟いただいています。
ただフランチャイズ店は経営や現場への連絡系統がオーナー様側にあるため、日々のコミュニケーションの取り方もオーナー様の運営に委ねられる部分が大きくあります。
加盟を始めた当初、この構造により私たちの理念を現場の隅々まで十分に落とし込むことができず、各店舗でサービスや方針にばらつきが生じてしまいました。YUZUの理念に共感して入社してくれたインストラクターが、その理念を感じにくい環境で働くことになり、結果として離職が重なってしまった時期がありました。
理念に共感して入ってくれた方が、その理念を感じにくい環境で働くことになれば、続けにくくなるのは当然です。頑張りたいと思ってくれた気持ちを無駄にしないためにも、「YUZUの理念」という共通の軸を決してブラしてはいけないと痛感しました。
インストラクターの質と人間力で差別化している私たちにとって、大切な理念の部分が損なわれると、YUZUとして運営していただく意味が薄れてしまいます。
現在はオーナー様との理念の共有を丁寧に行うとともに、インストラクターが定期的に理念に触れられる場をつくるなど、組織全体の立て直しと改善を強力に進めている最中です。

ライフステージを問わず、通い続けられる選択肢を
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
二つあります。
一つ目は、子どもの存在です。子どもは現在7歳で、「YUZU」は5年目になります。2〜3歳の頃から一緒に店舗を回り、成長するにつれて私の仕事や立場を理解し始め、誇りに思ってくれている様子を感じることもあります。子どもに恥じない働き方をしたいという当初からの思いが私の糧になっています。
二つ目は、インストラクターからの言葉です。「YUZUで働けてよかった」「このスタジオに出会えてよかった」と言ってもらえることが一番嬉しいです。過去には何度も、想定外の出来事が起こることもありましたが、その度に「これは次に同じことが起こらないための糧だ」と考え、気持ちを切り替えるようにしてきました。
本部のメンバーも3名から15名と増えた今は、こうした経験を「メンバー全員がベストな状態で働ける環境づくりのための糧」と捉え、より良い組織作りに繋げています。

今後やりたいことや展望をお聞かせください
短期的には、フランチャイズのインストラクターも含めた理念の浸透に力を入れます。業務委託、正社員、フランチャイズ、直営といった立場の違いを超え、「YUZU」として学びや取り組みを共有できる環境を整えたいと考えています。
中長期的には、子どもに関わる領域にも進出したいです。これまでも自分自身が悩み、それを解決できた経験を起点に新しいことに挑戦してきました。今回7年ぶりに妊娠と出産を経験し、妊娠中や産後の時期に抱える悩みを改めて実感しました。
現在、当社ではマタニティのピラティスは行っていませんが、今後はその分野も含めてお客様をサポートできる形にしていきたいです。
店舗数については、何店舗にしたいという指標はありません。ただ、店舗数を広げることは、悩みを抱える方々をサポートできる範囲が広がることにつながります。また、そのエリアでの雇用にもつながるため、展開は続けていきたいと考えています。

楽しいより、納得できるか
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
仕事を選ぶ際、ただ「楽しいかどうか」だけで判断しなくてもよいと考えています。たとえ仕事そのものが楽しくなくても、その対価や環境に自分が心から「納得」できているなら、それは立派な一つの選択です。
一方で、もし今の働き方に自分が納得できていないなら、納得できる形に近づけるための行動を取ることが大切だと思います。起業はその選択肢の一つに過ぎません。迷ったときは、世間的な評価や外から見た条件よりも、「今の仕事をしている自分に納得できているか」を基準にしてみてください。
私自身、産後に復職した際は、お給料も手堅く外から見れば「安定」した環境でした。しかし、仕事内容にどうしても納得できず、「このままでは子どもに胸を張れない」という葛藤を抱えた状態から独立を選びました。
独立後は想像以上に忙しさが増しましたが、「自分で決めた道を歩んでいる」という納得感とワクワク感が勝っていたため、後悔は全くありません。
大切なのは外側の条件や保証ではなく、「自分で選んだ」という納得感です。その気持ちさえあれば、挑戦の道に不安があっても、力強く進んでいけるはずです。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:坪井里奈 氏
新卒でEC通販会社に入社後、IT企業や広告代理店でのSNSディレクターなどを務める。第一子の出産を機にサロン運営を経てESS株式会社を設立。
企業情報
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法人名 |
ESS株式会社 |
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HP |
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設立 |
2021年 |
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事業内容 |
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