株式会社e-moer 代表 金本 晃司朗

「日本のいいものを世界に広める仕事をしろ」——DIESEL JAPANの創業者である父から受け継いだその言葉が、金本晃司朗氏の起業の原点です。株式会社e-moerは、300年以上の歴史を持つ東京の伝統工芸「東京銀器」の職人と共に、貴金属加工・ブランド事業・ローカライズ事業を展開しています。伝統と革新を軸に、日本の工芸技術で世界市場に挑む25歳の起業家に、事業への思いと展望を伺いました。

伝統工芸の技を現代に活かし、世界へ届けるものづくり

事業の内容をお聞かせください

弊社は金属加工をベースにしたものづくりの会社で、主に伝統工芸の工房と連携しながら3つの事業を展開しています。

 

1つ目は自社ブランド「JOEKR」によるアクセサリーの販売です。職人が持つ伝統の技術を活かしたシルバーアクセサリーを、国内外に展開しています。

 

2つ目はOEM・ODM事業で、インフルエンサーや新興ブランドの商品企画・デザイン・製造を裏側から支援しています。デザインの初期提案から3Dデータの作成、職人への発注まで一貫して担うことで、クライアントが「作りたいもの」を確実な形にするお手伝いをしています。

 

3つ目のローカライズ事業では、主に日本発祥のブランドの魅力を海外に伝えるという思いでやっています。弊社が海外のブランドにコネクションを持っているため、アパレルで言われる3億円の壁を突破するために海外向けのブランディングを提供しています。

 

また、弊社が掲げる「JOEKRモデル」も特徴の一つです。アパレルと異なり、貴金属は売れ残っても溶かして新しいデザインに作り直すことができます。最低ロットを少なく抑えられるうえ、在庫が発生しても経済的・環境的なロスを少なくできます。

これにより、大量生産・大量廃棄が課題のファッション・宝飾業界において、持続可能なものづくりの在り方を提案しています。

 

そして、最近力を入れているのが、シーシャ(水タバコ)のマウスピースの製作です。中東など海外の伝統文化と日本の伝統工芸を掛け合わせることで、アクセサリーとは異なる切り口から海外市場に入り込む戦略です。日本の職人が手がけた銀製のマウスピースは、高価なものでは10万円を超えますが、中東圏からの問い合わせも増えています。これは、職人の他のプロダクトへの興味につなげる「一点突破」の役割を担っています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

起業の原点は、父の言葉にあります。父はイタリアのブランド「DIESEL」を日本に初めて持ち込み、DIESEL JAPANのオーナー社長として20年近く経営を続けた人物です。父には「お前は何でもいいから日本のいいものを世界に広める仕事をしろ」と幼い頃から繰り返し言われてきました。この言葉が、気づかないうちに私の中に刷り込まれていたのだと思います。

 

起業を目指して大阪から上京した私は、東京銀器の職人・上川善嗣氏と出会います。共同創業者から「すごい職人と出会ったから紹介したい」と言われ訪ねたところ「後継者がいないんです」という衝撃の言葉を耳にしました。

 

その瞬間、父に言われ続けた言葉がフラッシュバックし、『あ、この仕事をするために自分は生まれてきたのかもしれない』と感じました。何の根拠もない直感でしたが、その感覚があまりにも強く、気づいたら「一緒にやらせてください」と口にしていました。当時21歳、ノウハウも人脈も資本も、何もない状態でのスタートでした。

 

 

仏教の哲学が生む、脈絡ある挑戦とこだわり

仕事におけるこだわりを教えてください。

私が仕事の軸に置いているのは「中道」という哲学です。もともとは仏教用語で、父の実家がお寺ということもあり、幼い頃から仏教の考え方が身近にありました。私の解釈では、「極端な思想や発想に偏らず、できるだけ真ん中の道を、遠くまで歩き続けること」です。

 

これを事業に落とし込むと、「脈絡のある振れ幅をどう作るか」というこだわりになります。たとえばシーシャのマウスピースと東京銀器の組み合わせは、一見すると無関係に見えます。でも「日本の伝統工芸×中東の伝統文化」という掛け合わせには、「どちらも何百年も続いてきた文化である」という共通点があります。「共通点を土台にした上での振れ幅が驚きと納得を同時に生む」というのが私のこだわりです。

 

もう一つ大切にしているのが、毎週必ず工房に足を運ぶことです。往復2時間かけて対面で打ち合わせをするのは、今の時代では非効率に見えるかもしれません。でも、パソコンと向き合えば事業ができる時代だからこそ、現場に行くことが他社との差別化になると信じています。その積み重ねのおかげで、81歳になる11代目の職人の方から「おかえり」「いってらっしゃい」と声をかけていただけるような関係性が生まれました。この関係性は、数字には表れないけれど、確実に事業の根幹になっています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

「壁しかない」というのが正直なところですが、創業初期に特に難しかったのは、資金と実績のなさでした。

 

アクセサリーのサンプルを1点作るだけでも数万円かかる貴金属の商売では、資本金があっという間になくなっていきました。実績がないので提案できる資料もない。「職人のウェブサイトを見てもらったほうが早い」という状況の中で、自社の価値を証明することの難しさに何度も直面しました。SNSやITで起業した同世代が、最小限のコストで事業を立ち上げていくのを横目に、もの作りの世界ではそうはいかない現実がありました。

 

それでも諦めなかったのは、「ブランドとは止まないこと」という確信があったからです。バズって一気に大きくなるビジネスは、収束も早い。私たちはじわじわと弱火で熱を積み上げていく。ホームページを整え、少しずつ実績を積み、良い案件につなげ、その地道な積み重ねが今の基盤になっています。急成長は一切ありませんでしたが、じわじわと育ってきた確かな手応えがあります。

 

 

父の夢と日本の未来を背負い、世界へ踏み出す

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

モチベーションは大きく2つあります。一つは個人的な思い、もう一つは社会への使命感です。

 

個人的な部分では、父への思いが大きいです。父はDIESEL JAPANを成功させた人物ですが、あくまでも既存のブランドを日本に広めた立場でした。「0から自分のブランドを作りたかった」という無念もあったと感じています。その夢を自分の手で叶えて、厳しい父に「よく頑張った」と褒めてもらいたい欲望が、正直なところ大きな燃料になっています。

 

もう一つは、日本の未来への危機感と使命感です。世界の工芸品市場は現在約180兆円規模で、2033年には400兆円規模まで成長するという試算があります。日本の伝統工芸は、需要の取り込みに失敗しているだけで、確実にアプローチできれば、外貨を稼げる産業に再生できます。人口が減り続ける日本において、輸出を通じて外貨を稼ぐことは、次の世代が今と同じ生活水準を維持するためにも必要なことだと思っています。「日本版LVMHを作る」という夢は壮大に聞こえるかもしれませんが、それは本気の目標です。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

自社ブランドを丁寧に育てながら、世界の伝統文化との新しいコラボレーションを広げていきたいと思っています。頭が柔らかく好奇心旺盛な12代目の職人と共に、まだ誰もやっていない組み合わせに挑戦していきます。シーシャの次も、すでにいくつかのアイデアがあります。

 

ブランド戦略としては、「ピラミッドの上流から広げる」ことを意識しています。大衆から火がついたトレンドは短命ですが、王族や貴族、文化的影響力のある人々から広がったものは長く続く傾向があると感じています。そのため、世界的な著名人や文化的な影響力を持つ方々にプロダクトを届けることで、ブランド価値を長期的に積み上げていく戦略を取っています。すでにアリアナ・グランデさんへのアプローチなど、その取り組みを始めています。

 

また、伝統工芸が抱える構造的な課題である職人育成には10年かかるため、需要が伸びても供給が追いつかず負の循環に陥ります。この問題に対して、省庁や公的機関と連携しながら解決策を探る動きも始まっています。市場性があるからこそ民間の力だけでなく、国レベルで正の循環に向けた仕組みを作っていきたいと思っています。

 

 

思いの純度が、実力のなさを超えていく

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

「起業することが目的になっている起業は良くない」というのが、私の正直な思いです。私自身もそうでしたが、20代前半のほとんどは実力がない。社会経験も、業界知識も、人脈も、まだ十分ではないはずです。その状態で勢いだけで起業しても、うまくいく可能性は低いです。これは現実として受け止めてほしいと思います。

 

でも、それを変えられるのが「思いの純度」だと信じています。起業したいからするのではなく、「この問題を解決したい」「この世界を作りたい」という純粋な思いがある子は、実績がなくても人を引きつける。失礼でも、不格好でも、応援してもらえます。その純度が強ければ強いほど、「面白い」と思ってもらえます。

 

サラリーマンを経験してから起業しても全然遅くない。いろいろな経験を積む中で、「これをどうにかしたい」という思いと出会えたときに踏み出せばいいと思います。ただ、もし今その思いが抑えきれないほど強いなら、迷わず始めてください。確信があるなら、エゴでもいい、欲望でもいい。それが純粋な動機であれば、きっと誰かが背中を押してくれます。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:金本 晃司朗 氏

2001年大阪市生まれ。DIESEL JAPAN創業者・金本哲佑の一人息子として、幼少期からアパレル・ブランド業界に親しむ。父の言葉をきっかけに銀師・上川宗光と出会い協業を開始。「日本の伝統技術で世界に誇れるブランドを作る」ことを掲げ、国内外にプロダクトを展開している。

 

企業情報

法人名

株式会社e-moer

HP

https://www.joekrjewelry.com/

設立

2022年6月11日

事業内容

  • 貴金属加工事業
  • ブランド事業
  • ローカライズ事業

 

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