クロロス株式会社 CEO & Co-Founder 相澤 光俊

農業現場が直面する「人の目」による評価の限界を、画像解析AIの力で解決するクロロス株式会社。食の未来を支える農業を、画像解析AIで革新するというビジョンを胸に、今この瞬間も最前線に立ち続ける相澤光俊氏に、事業の全貌と起業の経緯、農業の未来への展望を伺いました。

作物をデジタルの目で捉える。農業研究に革新をもたらす画像解析AI

事業の内容をお聞かせください

農業分野に特化したスタートアップとして、作物の画像から生育状態を分析するソリューションを提供しています。具体的には、作物の育ち具合、病気のかかり具合、害虫によるダメージの程度など、収穫量に関わる指標だけでなく作物の様々な状態を画像解析によって数値化します。

 

従来、こうした作物の評価は人の目による目視が中心でしたが、目視では評価に時間がかかるうえ、見る人によって判断にばらつきが生じるという課題がありました。そこで画像解析を用いることで、客観的な数値化が可能になり、評価の自動化による省力化と精度の均一化を同時に実現しています。

 

現在は、主に新品種の開発を行う農業試験場や種苗メーカー、肥料・農薬メーカーなどでご活用いただいています。たとえば福岡県の農林業総合試験場では、暑さに強い新品種のイネを開発するため、毎年数多くの交配を行い、それぞれの生育状態を評価しています。

 

従来は一つひとつ目視で確認していたその工程を、画像解析で自動化することで、より多くの品種を効率よく試験できるようになります。品種開発には通常10年ほどかかると言われていますが、評価工程の短縮によって開発期間を大幅に短縮できると期待されています。

 

使用するAIは、汎用的なものではなく、お客様から提供いただいたデータをもとに構築した独自のモデルです。共同創業者でCTOの伊藤も、お客様との対話を重ね、技術と現場の橋渡しをしながら開発を進めています。

 

お客様は顧客でありながら、データや知見を提供してくださる「先生」でもあるため、パートナーシップを核とした事業モデルが特徴です。

 

また、一般の栽培農家向けにもサービスを展開し始めており、イチゴ農園での熟した実の自動カウントや生育予測など、実際の栽培現場での活用も始まっています。さらに、国内だけでなく中国やベトナムといったアジア地域でも導入が進んでいます。

 

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

これまで「社会貢献性の高い事業に関わりたい」という想いのもと、25年以上のキャリアを歩んできました。

 

1社目のNTTドコモでは人のコミュニケーションを支える仕事に携わり、次のオリンパスでは医療やライフサイエンスの分野で、「人の命を支える」という意義の大きさを感じました。

 

そんな中で、「もっと長い期間、健康な時期に貢献できる分野があるのではないか」と考えるようになり、工作機械・製造機械の産業分野を経て、「食を支える農業」という領域にたどり着きました。

 

約3年前、アグリテック系のスタートアップに参画し、新規事業として画像解析事業を立ち上げました。

 

しかし1年目に母体企業の方針転換があり、事業継続が難しい状況に直面。すでにお客様もいる中で、この事業には高い社会的意義があり、まだ十分に伸ばせる可能性があると感じていたため、現在の共同役員とともにスピンアウトし、クロロス株式会社を設立しました。

 

当時を振り返ると、一念発起というよりは「やるしかない」という気持ちも大きくありましたが、その状況が結果的に大きな後押しになったとも感じています。社会貢献と事業を両立させたいという長年の志が、起業という選択につながりました。

 

事業と社会貢献の両立。農業AIが抱える「不確実性」との格闘

仕事におけるこだわりを教えてください。

何より大切にしているのは「事業としての継続性」と「社会貢献性」の両立です。

 

社会インフラである農業分野は、短期的な効率や収益性だけでは測れない領域だと感じています。もし同じ技術を他分野に転用すれば、より早く事業を拡大しやすいのかもしれません。

 

しかし、私たちは、農業・食分野への貢献を軸に事業を立ち上げました。そのため、お客様への貢献、その先にある社会への貢献、そして事業として持続的に成長できる収益性という3つのバランスを大切にしています。

 

こういった想いの延長として、現在は主に農業研究・開発の現場で活用されているこの技術を、今後はより幅広い栽培農家にも展開していきたいと考えています。

 

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

最大の壁は、自然という不確実性に満ちた環境でのプロダクト開発です。

 

AIを用いたデジタル化は、基本的に「こうすれば、こうなる」という明確な法則に基づいて機能します。しかし農業は、同じ温度条件や栽培方法であっても、日照時間、天候、土の状態、水の量によって作物の育ち方は大きく異なり、完全な再現性はありません。

 

さらに屋外環境では、晴れの日と曇りの日で見え方が変わるだけでなく、朝と夕方でも画像データの特性が異なります。そのため、工場内での工業製品検査などと比べても、実環境での活用難易度は格段に高いと感じています。

 

こうした不確実性をどのようにデジタルに落とし込むかが大きな課題でした。農業のエキスパートであるお客様から現場知見をいただきながら、実運用の中で活用できる精度や誤差の範囲を模索し続けています。

 

その中で、すべてを完全に再現・予測しようとするのではなく、「現場でどう使っていただけるか」を起点にプロダクトを設計するという考え方に切り替えたことが、この壁を乗り越える上での重要な鍵になっていると思います。

 

お客様が先生。期待に応えながら、食の未来へ一歩ずつ

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

まだ正解のない領域に、お客様が一緒に挑戦してくださっていることが、今の大きなモチベーションになっています。

 

農業研究開発の現場における画像解析AIの活用は、まだ先駆け的な取り組みです。それでも、この技術の可能性に期待を寄せ、私たちとともに新しい挑戦を進めてくださっています。

 

お客様は単なる顧客ではなく、私たちと一緒に技術を育ててくださる存在でもあります。その期待に応えたいという思いが、日々の推進力になっています。

 

長期的には、「食全体の安定化に貢献したい」という大きなビジョンを持っています。農業だけでなく、食品流通やサプライチェーン全体へと技術を展開し、食の価格安定やフードロス削減、さらには農業に関わる方々が適正な利益を得られる仕組みづくりに貢献していきたいと考えています。

 

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください

近い将来に実現したいのは、「革新的な農業資材の開発への貢献」です。研究開発の現場での評価を自動化することで、農業を根本から変えるイノベーションを生むための一助になりたいと考えています。

 

革新的な品種や農薬・肥料が普及すれば、栽培現場の生産性が向上し、食の安定とともに農業の利益率も改善します。農業人口が減少し続ける中、農業が「魅力的な産業」として若い世代に選ばれるようになることも、私が思い描く未来の一つです。

 

さらに先を見据えると、作物の状態分析から収穫量の予測、そして食品流通・在庫管理への活用へと展開を広げ、食全体のプラットフォームを構築することが最終的な目標です。私たちだけで実現するには難しい部分もありますが、その実現に向けて尽力したいと考えています。

 

起業前に問うべきこと。「本当に必要とされているか」を冷静に見極める

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

起業前と起業後、それぞれで大切なことがあると思っています。

 

起業前に最も重要なのは、自分の事業が本当に社会やお客様に必要とされているかを冷静に見極めることだと思います。どうしても自分の手がけているものには思い入れが入るため、客観性を失いがちになります。

 

そのため一つの基準としてお金を払ってでも使っていただけるか、あるいは共同開発に協力いただけるかどうかを確認することが大切だと考えています。

 

一方で起業後は、他社の5年目・10年目と、自分たちの1年目を比べすぎないことが重要だと感じています。急成長している企業の事例を見ると焦りを感じることもありますが、実際には設立から年数が経っているケースも多くあります。

 

そうした外部のスピード感に引っ張られすぎず、自分たちのフェーズに応じた積み上げを着実に続けていくことが、成長の礎になると考えています。

 

採用について

現在、最も求めているのはプロダクトエンジニアです

 

ただし、単にコードを書くだけの技術者ではなく、お客様のニーズを丁寧に汲み取り、農業研究の現場でどのように使われるかを想像しながら、仮説検証を繰り返し、製品の企画から開発まで一気通貫で担えるような人物を求めています。

 

正解がまだ存在しない領域で、お客様と一緒に試行錯誤しながら製品を作り上げていくことに面白さを感じられる方を歓迎しています。

 

また現在はインドや東南アジアからのインターン生も在籍しており、グローバルな環境での経験も積めます。ベトナム・中国での導入実績を持っており今後さらに海外展開を加速させる予定です。農業の未来を技術で変えていきたいという志を持つ方にとって、最前線で挑戦できる環境が整っています。

 

関心を持っていただけた方はぜひこちらからお問合せください。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:相澤 光俊 氏

モバイル通信、医療、製造、農業といった社会基盤領域で、新規事業の立ち上げと変革を一貫して推進してきた。NTTドコモではi-modeやスマートフォン事業の立ち上げ、海外展開をリード。オリンパスでは医療IoT/AI事業を立ち上げ、グローバル本部長として組織を統括。その後、製造業領域の大手企業でCVCを設立し、ディープテックスタートアップとの連携を通じた新規事業創出を推進。アグリテック領域のスタートアップに参画し、作物の画像解析AI事業を立ち上げる。その後スピンアウトしてクロロスを創業し、農業・食分野における社会貢献と事業成長の両立に取り組んでいる。

企業情報

法人名

クロロス株式会社

HP

https://chloros.ai/

設立

2025年5月

事業内容

植物に関するデジタル情報の解析を目的としたシステム及び機器の企画、開発、販売、保守及びコンサルティング

送る 送る

関連記事

関連記事