
コロリドージャパン合同会社は、カラフルな粘土のようにこねて好きな形を作り、トースターで焼くとそのまま食べられるクッキー生地「Coloridoh」を開発・製造・販売しています。アレルギー特定原材料等フリー・ヴィーガン対応・グルテンフリーの生地を世界で初めて常温保存できるようにし、国際特許を出願している点が特長です。今回は、CEOである竹内 ひとみ氏に、シリコンバレーでの起業に至った経緯や、開発への徹底したこだわりについて伺いました。
当社が手がける「Coloridoh」は、色とりどりの生地を自由な形に整え、トースターで5〜10分焼くと、そのままクッキーとして食べられるプロダクトです。
単なるお菓子ではなく、作る過程で自然な会話が生まれるコミュニケーションツールとして開発しました。主なユーザーは小さなお子さんのいる家庭で、ギフトとして利用されるほか、ホテルや住宅展示場、自動車ディーラーなどのファミリー向けイベント、企業研修、IPとのコラボレーションなどにも活用されています。
特徴は、大人や子どもを問わず、誰でも同じ目線で楽しめることです。正解や完成見本を設けていないため、親が子どもに作り方を教えるのではなく、「何を作る?」という会話から始まります。色を混ぜたり、形や味について話したりする中で、自然とコミュニケーションが生まれるため、老人ホームや企業のチームビルディングなど、世代や立場を超えて使える点も魅力です。
現在は6色展開としており、混ぜ合わせて幅広い色を作ることができます。緑色は株式会社ユーグレナとのコラボレーションによる、ユーグレナ入りの生地となっています。アレルギー対応、ヴィーガン対応、グルテンフリーを実現しているほか、常温保存を可能にした点も大きな特徴で、国際特許を出願しています。
イベントでの使われ方は、先方のご要望によってさまざまです。たとえばチームビルディングでは、会社のその年のテーマに合わせて、それぞれがイメージしたものを形にするグループワークに活用されています。
実際に作ってみると、普段は仕事のできる人が意外と不器用だったり、いつもとは違う一面が見えたりします。完成後に、「一見するとただの丸に見えるけれど、実はこの形にはこういう意味がある」と作品について語ってもらうことで、その人の内面や考え方が可視化されます。飲み会とは異なる形で、メンバー同士の理解が深まることも特徴です。
また、アレルギー対応のため、子どもが集まる場でも誰かを参加対象から外す必要がありません。こうした点は、企業のブランドイメージ向上にもつながっています。
一般的な知育菓子のキットとは異なり、当社は完成品よりも、作る過程そのものを重視しています。お菓子作りキットには「これを作りましょう」という正解や見本があり、親が子どもに「水を入れて」と教える構図になりがちです。
当社の商品では、親も子どもも同じスタートラインに立ち、「何を作る?」という正解のない問いからコミュニケーションが始まります。色や香り、味の違い、混ぜるとどうなるか、食べるとどのような味になるかといった体験を通じて、自然に会話が生まれるよう設計しています。
こうした商品の特徴や使い方は、実際に体験してもらうことで伝わりやすいため、現在はオンライン販売を中心に展開しています。まだ商品を見ただけでは用途や魅力が伝わりにくいことから、まずは認知を広げ、将来的には小売店での販売も強化していきたいと考えています。

起点となったのは、40歳頃です。私は4人の子どもがおり、30代の10年間は妊娠や子育てが続いたため、働きたいと思っても本格的に仕事へ復帰することが難しい状況でした。
40歳頃、夫の仕事が思うように進んでいなかったこともあり、私も働こうと求人を探し始めました。しかし、若い頃にソフトウェア営業の経験があっても、10年間のブランクがあると、履歴書上では「主婦」としか見てもらえませんでした。
営業が好きで、働く意欲もあるのに、そうした力を伝える欄がなく、限られた物差しだけで判断されることに強い違和感を覚えました。そこで、 少し大げさかもしれませんが「この社会を変えなければ」と思い、起業して発信力を持ちたいと考えるようになったのです。
その後、2014年に夫と4人の子どもとともにシリコンバレーへ移住し、 現地で起業家向けのシェアハウスを運営することになりました。私は起業のアイデアを探りつつも、まずは家族を何とかしなければと、シェアハウスの寮母として22人分の食事を1日3食作り、シーツを洗う日々を送っていました。
そこで実感したのが、「食」が持つ力です。食卓を囲むと、初対面の人同士でも緊張がほぐれ、家族のように仲良くなっていきます。食は国や言語を超えて人をつなぐ、非常に強いコミュニケーションツールだと気づきました。
当時のアメリカでは、焼くだけのクッキードウ市場が伸びていました。友人の「クッキーを作りたいけれど、上手に作れない」という言葉もヒントになり、誰でも手軽に楽しめ、世界中で親しまれるクッキーなら、グローバルに展開できるのではないかと考えました。
シェアハウスでは、ゲストを迎えるたびに、アレルギーや宗教上食べられないもの、好き嫌いを確認し、全員が一緒に食べられるメニューを考えていました。誰かに対して「あなたは食べられません」と言いたくなかったからです。
その経験から、商品を作るなら、できる限り多くの人が一緒に楽しめるインクルーシブなものにしたいと考えました。調べてみると、私が構想していた商品はまだ誰も手がけていないことが分かりました。世界初のプロダクトとしてグローバルに広げられる可能性を感じ、自分にも挑戦できると考えて起業を決意しました。
シェアハウスで築いた人間関係は、その後の事業にも大きく生きています。コロナ禍を機に日本へ帰国した後、当時のゲストたちが紹介やサポートを通じて力を貸してくれました。シリコンバレーで得た「食が人をつなぐ」という気づきと、そこで生まれたご縁の両方が、現在の事業の土台になっています。
本質を見極め、原理原則を大切にすることには強くこだわっています。目先の出来事や周囲との比較にとらわれるのではなく、自分たちの会社がどう成長していくかに集中しています。
起業家仲間が増えると、周囲の状況を見て焦る方もいると思います。ただ、私は50歳を過ぎ、人生経験を重ねる中で、「人間万事塞翁が馬」という言葉のとおり、そのときに良いと思ったことが後の正解になるとは限らず、つらい経験が将来につながることもあると分かってきました。そのため、周囲の状況に左右されて軸がぶれることは、ほとんどありません。
もちろん、投資家の皆さまから資金をお預かりしている以上、期待に応え、きちんとお返ししたいという責任を持って事業に取り組んでいます。それでも、本質を重視する基本的な姿勢は変わりません。
プロダクト開発でも、同じ考え方を大切にしています。開発では一切妥協せず、自分自身が本当に欲しいと思えるものを作りました。
世の中には子ども向けのおもちゃが数多くありますが、親が一緒に遊んでいるうちに飽きてしまうものも少なくありません。そこで、親が子どもに「付き合ってあげる」のではなく、大人も素直に楽しいと感じながら、一緒に夢中になれるものを目指しました。
料理教室の講師をしていた経験から、食は大人も子どもも関心を持ちやすく、クッキー作りを単なる調理ではなく、一つの体験にできると考えたのです。
また、できるだけ多くの人に楽しんでもらいたいという思いから、アレルギーにも配慮した設計にしています。生地の素材や扱いやすさにもこだわりました。
米粉をベースにしているため、小麦のようにこねてもグルテンが発生せず、長時間触っていても硬くなりにくく、味も落ちません。油には、バターやサラダ油ではなく、食品グレードでコレステロールゼロのパーム油を使用しています。長く触っても手がべたつきにくく、大人も子どもも快適に楽しめるよう工夫しています。

お金の苦労は起業につきものですし、当社にも資金面で厳しい時期は何度もありました。ただ、私にとっては、起業後よりも子育てに専念していた時期のほうが、はるかにつらいものでした。
当時は、羽をもがれて籠に入れられているような感覚で、自分で物事を判断したり、自由に動いたりすることができませんでした。「良い母親」「良い妻」であることが優先され、自分のやりたいことや意思とは関係のないところで生活していた10年間が、精神的には最も苦しい時期だったと思います。
それに比べれば、今は自分で判断し、選択し、失敗しても自分で巻き返すことができます。自分の意思で動けるだけで十分に楽しいため、起業してから辛いと感じたことはほとんどありません。トラブルが起きることも起業の一部だと考えていますし、起業家である夫の苦労も間近で見てきたため、何かあっても慌てることはありません。
一方で、プロダクトの開発には合計で5〜6年ほどかかりました。私は研究者ではなく、開発そのものが好きで続けていたわけでもありません。それでも、「使う人に喜んでほしい」という思いと、応援してくださる方々の期待に応えたいという気持ちで、改良を重ねてきました。
特に苦労したのが、常温保存の実現です。日本以外では、冷蔵便やクール宅急便のようなBtoC向けの配送網が十分に整っていない国も多くあります。冷蔵での保管や配送、売り場の管理にコストがかかれば利益率が下がり、グローバルなビジネスとして成立しにくくなるため、常温で保存できることは欠かせない条件でした。
開発は、インターネットで仕組みを調べるところから始めました。菌の繁殖を防ぐには水分活性値を下げる必要がありますが、水分を減らしすぎると生地になりません。油や水飴など、常温保存できる材料を加えると、今度は焼いた際に生地が広がり、ハート形に作っても丸くなってしまいます。
そこで、生地を補強できる材料を探して取り寄せ、配合を1グラム単位で変えながら実験を繰り返しました。そうした試行錯誤の末、ある日ようやく現在の生地が完成しました。
味の素株式会社のアクセラレータープログラムに採択された際には、同社のサイエンティストの方からも、実現が難しいと言われました。現在の委託先も、もともとは一般的なクッキーを製造する工場だったため、通常の製法ではうまくいかないこともありました。
それでも、「どうしてもこの商品を作りたい」という思いで向き合い続け、販売しながら少しずつ改良を重ねてきました。初期の頃と比べると、よくここまで形にできたと感じています。
また、「食べ物で遊ぶこと」に抵抗を持たれるのではないかと心配されることもあります。しかし、日本には昔から、キャラ弁や和菓子のように、食べ物を楽しく作って味わう文化があります。当社のものは作った後にきちんと食べるため無駄にもならず、意外なほど自然に受け入れられています。
走り続けてこられた一番の原動力は、応援してくださる方々の存在です。
自己資金で事業を進めるのが一番だと考える方も多いと思いますが、私は自己資金がなかったこともあり、投資家の皆さまから資金をお預かりしています。正直に言えば、自分のお金だけで取り組んでいたら、途中で面倒になり、「もうやめてしまおう」と投げ出していたかもしれません。
しかし、人のお金を預かり、応援してくださる方が増えるほど、「きちんと形にしなければ」と身が引き締まります。その責任感が、事業を前に進める大きな力になっています。
商品が受け入れられている手応えも、大きな励みです。実際に作った作品の写真を送っていただいたり、Instagramで「楽しかった」とコメントをいただいたりすると、続けてきてよかったと感じます。
当社の商品は、色や香り、手触り、味など五感を使い、最後には食べるところまで体験がつながっています。だからこそ、記憶に残りやすいのではないかと思います。
ポップアップをしていると「昔ママとクッキーを作った思い出がある」と話してくれる方もいます。当社の商品が、家族や大切な人との良い思い出をつくるきっかけになれたら、とてもうれしいです。
当社の商品は、実際に作って体験していただくことで、その魅力が伝わりやすいプロダクトです。そのため、今後も企業の集客イベントをはじめ、さまざまな場で活用していただきながら、認知を広げていきたいと考えています。中でも、企業やIPとの協業を積極的に進めていきたいという思いがあります。
当社は、ビジネスモデルを説明する際に、食品メーカーというよりも「LEGOのような存在を目指している」とお伝えしています。LEGOは、シンプルなプラスチックブロックを軸に、IPとのコラボレーションやレゴランド、映画、アートなど、多彩な事業へと展開しています。
当社も、いわば「食べられるLEGO」のように、クッキー生地を軸として、さまざまな体験やコンテンツへ展開していきたいと考えています。
現在は、株式会社バンダイナムコエンターテインメントと連携し、「PAC-MAN」とのコラボレーションパッケージを販売しています。今後も、さまざまなIPとのコラボレーションやイベントを進めていく方針です。
グローバル展開では、まずアメリカをメインマーケットとして事業を広げ、そこから世界へ展開していきたいと考えています。クッキーは国や文化を問わず親しまれているからこそ、世界中の人が共通して楽しめるプロダクトへと育てていきたいです。

もちろん結婚も辞めることはできますが、実際にはそう簡単ではありません。それに比べれば、起業はもっと気軽に挑戦していいものだと思っています。
私自身、起業に対してそれほど高いハードルを感じたことはありませんでした。大切なのは、自分が起業している姿をイメージできるかどうかだと思います。
私の場合は、ITベンチャーで働いた経験があり、夫や周囲にも起業家がいたため、起業が特別なものには見えていませんでした。
イメージできるかどうかはとても大切で、自分がITベンチャーにいたことや、夫や周囲の起業家たちの姿があったからこそ、自然に一歩を踏み出せたのだと思います。
ドットコムバブル期にソフトウェアベンチャーの営業職に従事。2003年、結婚・長男妊娠を機に退職後、大手料理教室の講師、雑誌のフードコーディネーター、ITメディアのライターなどを経験。
2014年、家族でシリコンバレーに移住し、到着から1か月後に起業家向けのハッカーハウス(シェアハウス)を立ち上げる。7年間で60か国・6,000人以上のゲストを迎え「Big Mommy」として親しまれた。
2019年、アレルギーを持つ子のママ友へのクッキー開発をきっかけにColoridohを着想。2020年、米国でColoridoh Inc.を設立(国際特許出願中)。
2021年にコロナ禍で帰国し、同年、味の素株式会社や株式会社小学館のアクセラレータープログラムに採択され、Dell TechnologiesとEY(Ernst & Young)のデモデーで最優秀賞を受賞。2022年1月に日本法人を設立し、同年9月に正式ローンチした。
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法人名 |
Coloridoh Inc.(コロリド)/コロリドージャパン合同会社(日本法人) |
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HP |
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設立 |
米国本社:2020年(サンノゼ/San Jose, CA)/日本法人:2022年1月 |
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事業内容 |
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