シリーズA

スタートアップ企業が次に進むには、資金調達が欠かせません。その中でも「シリーズA」と呼ばれる投資ラウンドは初めての本格的な調達となり、スタートアップにとって大きな試練となります。

 

本記事では「シリーズA」とは何か、その後の投資フェーズについても解説しつつ、VCからの資金調達と金融機関からの融資についてメリット・デメリットから、シリーズAでの資金調達の成功ポイントまでを詳細に解説します。

 

スタートアップ企業と投資家、お互いの視点から理解を深め、成功に必要な要素を把握しましょう。

「シリーズA」とは何か?

シリーズAは、スタートアップ企業が成長と拡大を目指す上で、主要な投資ラウンドの1つであり、通常はシードラウンドの後に行われます。この段階では、スタートアップ企業がプロトタイプや初期の製品を開発し、市場における需要や成長機会を探求することが求められます。

 

シリーズAの調達資金の額は、スタートアップ企業によって異なりますが、一般的に数千万円〜十数億円の範囲内で行われます。調達期間は数か月から約半年ほどかかることが一般的であり、投資家と交渉し合いながらニーズにあった投資先を見つけ出す必要があります。

 

シリーズAの成功は、スタートアップ企業が成長に必要な資金調達を実現することができることだけでなく、市場競争力を高めるための基盤を築くことも可能です。そして、次のラウンドであるシリーズBやシリーズCに向けた投資家やパートナーとの信頼関係構築にも非常に重要な役割を果たすことが期待されます。

 

 投資ラウンドの前提知識

シリーズAでの投資の仕組みについて説明する前に、各ラウンドの前提知識を表にまとめています。

 

ラウンド

調達費用の相場

特徴

プロダクト

チームの

有無

トラクション

調達期間

エンジェル

100~1,000万円

起業する前

無し

無し

数日~1ヶ月間

シード

500~5,000万円

起業の直後

α版プロトタイプ有り

無し

数か月間

プレ

シリーズA

5,000~1億円

PMFの達成を目罪している段階

α/β版リリース

発生

数か月間

シリーズA

数億円

事業が

スタート

した段階

正式リリース

出てきている

半年間

シリーズB

数億~数十億円

マネタイズ検証済み

機能拡充

継続的に出ている

半年以上

シリーズC~

数十億~数百億円

上場・M&Aの直前

新規開発

堅調な拡大

半年以上

 

シリーズB、シリーズCでの資金調達方法については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、ぜひ参考にしてみてください。

 

関連記事:「シリーズB」とは?資金調達の成功ポイントや投資ラウンドの解説

関連記事:「シリーズC」とは?A・Bにはない資金調達方法やイグジットの種類を解説

 

シリーズA以降の投資の仕組み

シリーズA以降の資金調達では、スタートアップ企業の経営陣は、普通株式の代わりに種類株式を発行することが一般的です。種類株式は、日本の会社法で定められた権利や条件を持ち、投資家に特典を提供する役割を果たします。

 

種類株式の中でも、優先株は配当金や清算時に優先的に受け取る権利を持ち、投資家に有利な条件を提供します。また、一部の種類株式には転換請求権があり、将来的に普通株式に転換できる場合もあります。このような特典付きの種類株式は、投資家に有利な条件で株式を発行し、リスクの高いスタートアップへの投資のインセンティブを高めることができます。

 

スタートアップ企業にとっては、新たな投資家が参加することで資金調達の幅を広げることができます。これにより、事業拡大や開発費用を捻出することが可能となり、スタートアップ企業にとって必要不可欠な成長の糧となっています。

 

シリーズAでの資金調達先

シリーズAでの資金調達先には以下のようなものがあります。

 

  • VC・CVCからの投資
  • 金融機関の融資

 

この章では、具体的にVC・CVCからの投資と金融機関の融資について解説します。

 

VC・CVCからの投資

VC(ベンチャーキャピタル)は、未上場のベンチャー企業やスタートアップ企業などに投資を行う会社や組織のことです。

 

VCは、成長の高い企業に資金を提供し、その企業の株式を取得することで利益を得ることを目的としています。これは株式の価値が上昇した際に株式を売却することによるキャピタルゲイン(資本利益)を追求するためです。

 

ベンチャーキャピタルは、資金提供だけでなく、経営支援や戦略的なアドバイスも行うこともあり、投資先の企業の成長や成功を促進するために、経営者や経営チームと協力し、ビジネス戦略や市場展開、人材確保などの面で支援を提供します。

 

一方、CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)は、投資とは別に本業を持つ事業会社が自社の事業とのシナジーを期待して投資を行う組織のことです。

 

CVCは、自社の主要な事業と関連するスタートアップ企業に投資することで、新たな技術やビジネスモデルを取り込むことを目的としています。

 

CVCの主な目的は、自社事業とのシナジーの創出です。投資先のスタートアップ企業から得られる技術や知識、市場の洞察を活用することで、自社の競争力を高めることを狙っています。

 

また、CVCはスタートアップ企業の成長を支援することで、将来的に共同事業や提携関係を構築する可能性もあります。

 

日本政策金融公庫の融資

シリーズAの段階では、スタートアップ企業が民間の金融機関から融資を受けることは困難であるため、政府系金融機関である日本政策金融公庫からの融資が一般的です。

 

このように日本政策金融公庫は、スタートアップ企業に対して融資や資金支援を行うことで、成長を支援しているのです。

 

シリーズAはシード段階と比べ、既に一定の製品やサービスが確立されていたり、顧客も獲得できていたりするなど、起業家や投資家によって一定の評価が与えられています。

 

しかし経営が不安定な期間にあるため民間の金融機関から融資を受けることは困難です。そのため多くのスタートアップ企業は日本政策金融公庫からの融資を利用しています。

 

日本政策金融公庫は中小企業・小規模事業者・自営業者向けに、低利息かつ柔軟な返済条件、公正な審査などの特徴を持ち、スタートアップ企業が新しいビジネスモデルを実現するために必要な資金調達を受けられる安定した融資先として注目されています。

 

VCからの資金調達のメリット

シリーズAでのVCからの資金調達は、スタートアップ企業にとって大きなメリットがあります。

 

  • ビジネスに必要な専門知識や人脈を得られる
  • 基本は返済不要である

 

ここからは、これらのメリットについて詳しく説明していきます。

 

ビジネスに必要な専門知識や人脈を得られる

ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達は、スタートアップ企業にとって非常に重要な手段の一つです。その理由の一つが、ビジネスに必要な専門知識や人脈を得られるメリットがあるということです。

 

VCは、スタートアップ企業への出資経験から多くの知見を持ち、特に初めての経営者にとって貴重な情報源となります。

 

多くのVCは自らも起業した経験を持っており、起業家たちと共感し合い、経営相談にも応じます。VCが積み上げた実績を共有することで、起業家たちは失敗を避けることができます。

 

また、VCはビジネス界で活躍する人々や他の投資家と繋がりを持っています。VCに出資してもらうことで、取引先やビジネスパートナーが増える可能性が高くなるため、売上向上につながるメリットがあります。

 

基本は返済不要である

VCは「出資」という形態でお金を提供するため、借入のように返済期限や金利の支払いが必要ありません。このため、経営者にとっては事業失敗時に個人で借金を返済しなければならないというリスクを回避することができます。

 

しかしながら、VCからの資金調達は単純にお金を手に入れる手段ではありません。多くの場合、VCは出資先企業に社外役員やアドバイザーとして参画し、成長をサポートします。そのため、VCからの資金調達は単なる資金調達だけではなく、ビジネスパートナーシップであるとも言えます。

 

VCからの資金調達のデメリット

VCからの資金調達は、スタートアップの成長を加速させるための重要な手段ですが、その一方で以下のようなデメリットも存在します。

 

  • 不利な条件を提示される場合がある
  • 自由な経営ができなくなる

 

これらの問題点を事前に把握し、それに対する対策を立てることでスムーズな出資交渉が行えるでしょう。

 

不利な条件を提示される場合がある

VCからの資金調達にはいくつかのデメリットがありますが、その中でも、不利な条件を提示される可能性があることを解説します。

 

まず1つ目は、出資先が1社のみの場合、競争環境がないため不利な交渉条件が発生する可能性があることです。

 

複数のVCから資金を調達することで、交渉力を高めることができますが、1社のVCからだけ資金を調達する場合、VC側に強い交渉力があります。その結果、保有株式比率などの条件を不利な方向に引き下げられる可能性もあります。

 

2つ目は、不当に低いバリュエーション(企業価値)が提示される可能性があることです。

 

VCからの投資判断は企業価値に基づいて行われますが、バリュエーションは専門家の意見や相場動向次第で大幅に変動するため、現実とかけ離れたバリュエーションが提示される場合があります。このような状況では、将来的に投資家側から企業価値の引き上げを求められることになり、スタートアップ企業にとって負担になる可能性があります。

 

VCと出資契約を結ぶ際は、契約書の内容をよく理解し、必要であれば弁護士などの専門家と相談して十分な検討を行うことが重要です。

 

自由な経営ができなくなる

株主への配慮や優先的な利益配分を求められたり、事業戦略に対して干渉されたりすることで、経営の自由度が減少することがあります。

 

特にVCが株主になった場合は、投資家が事業企画等に参画することが多くあります。経営陣は積極的な意見交換をすることで互いに成長していきますが、逆にビジネスプランを詰まらせてしまい発展の足枷になったりする可能性もありえます。

 

また、シード期よりも多くの資金調達が行われる場合は保有株式比率が下がってしまうため、外部出資比率が50%以上に達してしまい、取締役解任権限を持つ投資家が存在する可能性もあります。このような状況においては、経営者の立場が危うくなることがあります。

 

金融機関から融資を受けるメリット

シリーズAで金融機関から融資を受けることには、以下のようなメリットがあります。

 

  • 株式を付与する必要がない
  • 日本政策金融公庫は融資ハードルやリスクが低い

 

VC・CVCからの投資にはないこれらのメリットについて詳しく説明していきます。

 

株式を付与する必要がない

金融機関から融資を受けるメリットとして、株式を付与する必要がない点があげられます。

 

株式の付与がないため、スタートアップ企業は持株比率を下げずに必要な資金調達が可能になります。これは非常に大きなメリットと言えます。特に今後株価が上昇すれば、その利益を自分たちだけで享受することができます。

 

また、シリーズAでは経営に干渉されるリスクが少なく、経営方針や意思決定において自主性を保つことができます。これは、スタートアップ企業が事業戦略を自由に選択し、イノベーションを起こすために必要な条件です。

 

日本政策金融公庫は融資ハードルやリスクが低い

日本政策金融公庫は融資ハードルが民間銀行よりも低く設定されています。つまり、特に実績や信用力に自信がない場合でも比較的容易に資金調達をすることができます。

 

また、従来の銀行からは借りることの難しい新規事業や不動産開発などの案件に対しても積極的に融資しています。

 

次に、返済の猶予期間が設けられている点も大きな利点です。このため、長期的な視点で事業戦略を立てた上で資金需要を把握し、負担の少ない返済計画を策定することができます。

 

そして、最後に金利が比較的低い点も挙げられます。日本政策金融公庫では、金利が最大限引き下げられるよう配慮された制度や減税措置などが設けられています。これにより、負担の少ない返済計画を立てることができるだけでなく、長期的な経営計画の実現につながります。

 

金融機関から融資を受けるデメリット

資金調達において、金融機関から融資を受ける手段がありますが、この方法には以下のようなデメリットも存在します。

 

  • 審査があり融資を受けられるまでに時間がかかる
  • 返済の義務がある

 

どちらのデメリットもしっかりと考慮する必要がありますので、覚えておきましょう。

 

審査があり融資を受けられるまでに時間がかかる

金融機関から融資を受ける際のデメリットとして、審査によって資金が手元に入るまでに時間がかかることが挙げられます。日本政策金融公庫では約1か月程度、信用金庫では約1~3か月程度、地方自治体の制度融資では約1か月程度のタイムラグが発生するため、注意が必要です。

 

特に、民間銀行の場合は審査基準が厳しく、十分な事業計画と返済計画の作成が不可欠です。そのため、スピーディーな資金調達を必要とする場合や急いでコスト削減を実施したい場合には、別の調達方法も考慮すべきでしょう。

 

返済の義務がある

融資は出資とは異なり、返済することを前提とした提供です。そのため元金と利息を期日までに返済する義務が発生します。

 

金融機関は融資の際に審査を行いますが、この審査では事業者側の返済力が重視されます。つまり、事業者側が返済するだけの能力や信頼性があるかどうかが判断されます。

 

シリーズAでの資金調達の成功ポイント

シリーズAでの資金調達はスタートアップ企業にとって、成長戦略を具体化させるために不可欠なものです。しかし、その実現にはいくつかの成功ポイントが存在します。

 

  • 取り組めないと分かっている事業計画は打ち出さない
  • 複数の投資家の中から比較検討する
  • 自己資金が豊富なうちに交渉する
  • 経営権を譲渡しすぎない

 

投資家に提供価値を見出してもらうためには、的確かつ具体的な事業計画、適切な投資家選定、交渉力と自己資金、そして経営権管理が欠かせません。企業側はこれらを認識し、成功へ向けて取り組む必要があるでしょう。

 

取り組めないと分かっている事業計画は打ち出さない

シリーズAとは、スタートアップ企業が成長するために必要な本格的な資金調達の一つであり、投資家による事業計画への信頼が不可欠です。

 

成功するためには、経営者は投資家を納得させるためにきちんとした事業計画を策定し、コミットする必要があります。特に資金調達目的での事業計画では、投資家が信じられるものであることを示すことが大切です。

 

また、資金調達が完了してからの事業計画への取り組みも重要です。変更がある場合には、合理的な理由を説明することで投資家とコミュニケーションを保ちましょう。

 

複数の投資家の中から比較検討する

シリーズAでの資金調達を成功させるためには、複数の投資家からの出資を受け入れることが非常に重要です。このようなアプローチは、交渉事において複数の観点から意見を聞き集め、有利な条件を得るための方法として一般的なものです。

 

単一の投資家に依存することは、独占的な提案を受け入れることにつながり、結果として出資条件や利益率が低下する可能性があります。一方で、複数の投資家から提示された条件を比較検討することで、最良の選択肢を見つけることができます。

 

さらに、競争環境を作り出すことは、より有利な条件を得られる可能性を高めます。複数の投資家から出資条件を提示してもらい、それらを比較することで、どの投資家が最も優れた提案をしているか判断することができます。

 

自己資金が豊富なうちに交渉する

シリーズAにおいては、タイトな期間での資金調達は不利な条件を招きやすいため、十分余裕を持って資金調達の準備を行う必要があります。具体的には、資金が尽きる半年前には資金調達の準備を始めるべきです。

 

このような余裕をもった資金調達の準備を行うことで、交渉においても有利な条件を引き出すことができます。また、交渉する際にも冷静かつ柔軟な姿勢を保ち、相手と合意点を見つけることが肝心です。

 

経営権を譲渡しすぎない

シリーズAで得た資金は株式を譲渡することで手に入れている場合も多いため、経営権の希薄化が起こることがあります。

 

そのため、シリーズAでの資金調達を成功させるためには、経営権を譲渡しすぎないことが大切です。経営権を過度に譲渡すると、自身の意思決定権が制限されたり、IPO時の創業者利益が制約される可能性があるため、注意が必要です。

 

また、投資契約には取締役の派遣などの条文が含まれる場合があります。契約書の内容が経営にとってどんなリスクを含むかを詳細に確認するために、弁護士の助言を受けることも非常に重要です。

 

特にシリーズAでは初めての投資資金調達であり経験値が不足しているため、的確なアドバイスを受けることができます。

 

シリーズAでの資金調達は余裕をもって冷静に検討しよう

スタートアップにとってシリーズAは重要な局面で、VCからの資金調達や金融機関からの融資など、様々な選択肢があります。

 

また、シリーズAでの資金調達に成功するためには、事業の成長戦略やビジネスモデルの明確化、強いチームの形成などが必要です。

 

しかし、あわてず冷静に検討することが肝心です。シリーズAはスタートアップにとって重要な一歩であり、資金調達の方法や成功ポイントを押さえておくことが何より大切です。

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