スタートアップ企業が資金調達を行う際には、「シリーズA」「シリーズB」など、様々な投資ラウンドがありますが、最も重要なのが「シリーズC」と言われています。
シリーズCは、スタートアップ企業が今後の発展に向け、必要な資金を調達するためのものであり、その成功が、企業の将来に大きく関わってきます。
そこで、本記事では、シリーズCの基本的な知識から、資金調達に成功するためのポイントまで、詳しく解説します。
さらに、シリーズAやBとは異なる資金調達方法や、イグジットの種類など、従来の投資ラウンドとは異なる特徴についても紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
Contents
「シリーズC」とは?
シリーズCは明確な定義や区別はありませんが、一般的には研究開発型のベンチャー企業を除いて黒字経営が安定しており、IPOやM&Aなどのイグジットを意識する段階のスタートアップを指します。
一部のシリーズC企業では収益が安定しており、資金調達を必要としない場合もありますが、市場の動向やニーズの変化による収益減少リスクが存在し、資金調達の重要性が高くなります。また、シリーズC以降も資金調達を行うことで、スケールアップや新規事業展開などに取り組むことができます。
スタートアップにとって主な目的はイグジットの達成です。そのためには、積極的かつ効果的な資金調達を行う必要があります。シリーズCでは、すでに市場への浸透度も高く安定した黒字経営を維持していることから、より多くの投資家層からの出資を見込めることも特徴です。
なお、シリーズCを経てイグジットを果たすためには、IPOやM&Aなどの戦略的な選択が必要になってきます。そのため、スタートアップはシリーズC以前からイグジット戦略を敷き、段階的に実行可能性を確認しながら進めていくことが望まれます。
投資ラウンドの基本知識
シリーズCでの投資の仕組みについて説明する前に、各ラウンドの前提知識を表にまとめています。
ラウンド |
調達費用の相場 |
特徴 |
プロダクト |
チームの 有無 |
トラクション |
調達期間 |
エンジェル |
100~1,000万円 |
起業する前 |
無し |
△ |
無し |
数日~1ヶ月間 |
シード |
500~5,000万円 |
起業の直後 |
α版プロトタイプ有り |
〇 |
無し |
数か月間 |
プレ シリーズA |
5,000~1億円 |
PMFの達成を目罪している段階 |
α/β版リリース |
〇 |
発生 |
数か月間 |
シリーズA |
数億円 |
事業が スタート した段階 |
正式リリース |
〇 |
出てきている |
半年間 |
シリーズB |
数億~数十億円 |
マネタイズ検証済み |
機能拡充 |
〇 |
継続的に出ている |
半年以上 |
シリーズC~ |
数十億~数百億円 |
上場・M&Aの直前 |
新規開発 |
〇 |
堅調な拡大 |
半年以上 |
シリーズA、シリーズBでの資金調達方法については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:「シリーズA」とは?スタートアップの資金調達方法と投資ラウンドの基本
関連記事:「シリーズB」とは?資金調達の成功ポイントや投資ラウンドの解説
シリーズCでの資金調達できる相場
シリーズCは、スタートアップ企業が最終段階に到達し、安定した黒字経営を継続している時期です。そのため、この時期には、事業拡大や合併・買収などの動きを考慮する企業が多くなります。
シリーズCでの資金調達額は数十億から数百億円程度と言われており、さらなる資金を必要とする企業もあるでしょう。例えば、新規事業の開発や海外展開が必要な場合などです。
一方で、経営が安定し、現状の事業が必要十分であるという判断がある場合には、資金調達を行わなくても良い可能性もあります。
ただし、突然の収益低下や赤字経営リスクを回避するためにも、資金調達が必要になることもあります。投資家側から見ると、シリーズCの企業は既に成功事例を残しており、一定の安心感があるため投資意欲も高まる傾向にあるようです。
シリーズCでの資金調達期間の目安
通常、シリーズCでは数十億円程度の資金調達が必要とされます。このため多くの場合、複数のVC・CVCから出資を受ける手法が採用されます。また、一部の企業ではPEファンドから出資を受けることもあります。
さらに、金融機関からの融資も有効な手段です。この場合は社会的信用や従業員数、売り上げ高など企業規模を考慮して判断されます。多くの場合、担保が必要となるため、事前に準備が必要です。
シリーズCでの資金調達期間は、1年以上を要する場合もあれば数か月で済む場合もあります。ただし、スピーディな資金調達方法や大規模な調達方法を備えておくことで、柔軟に対応することができます。
イグジットの種類
イグジットとは、ビジネスにおける投資資本を回収するための出口戦略のことで、主に以下の2つの手法があります。
- M&A
- IPO
どちらも経営者なら一度は耳にしたことがあると思いますが、それぞれどのような戦略であるか、メリットやデメリットを含めて紹介していきますね。
M&A
M&Aとは、企業の合併と買収を指し、他社の経営資源を活用して課題解決を図る取り組みです。この手法は、イグジットを図るために採用されます。一般的に使用される手法には、株式譲渡や事業譲渡などがあります。
M&Aにおいては、多くの場合、買収側の企業が高い評価を行い、適切な金額を提示します。そして売却側も同じように評価を行い、条件面について合意が成立します。その後、法律や税務問題などに対応するための専門家チームが関与し、トランザクションが完了します。
以下ではM&Aを行う際のメリットやデメリットについて解説していきますので、覚えておいてください。
M&Aのメリット
まず、手続きが比較的簡単であることが挙げられます。IPOでは、各種証券取引所や監督機関の審査が必要ですが、M&Aでは非公開で取引が行われるため手続きが迅速に進められます。
次に、従業員やクライアントとの契約を維持しやすい点です。IPOでは株式上場するため株主の利益優先化が必要ですが、M&Aでは合併・買収する企業同士が同じビジョンを共有しているため、その企業文化や従業員・クライアントとの関係性を大切にできます。
最後にシナジー効果が得られやすいという点です。異なる企業同士が協力することで、コスト削減や市場シェアの拡大など多くのメリットを生み出すことができます。
M&Aのデメリット
一番大きなデメリットは、経営権を失うことです。M&Aの場合、売却される会社が買収会社に吸収されます。自分の会社を手放すことで多くの財産や株式を得られますが、経営権である「最高意思決定権」を失ってしまいます。
また、IPOと比較してもM&Aは創業者や出資者双方が得られる利益が少ない傾向にあります。IPOでは新規株式公開価格から一度でも売買されると資産価値が変動する一方で、M&Aでは出資者双方の利益が決まっているため、将来の株価上昇分は得られません。
IPO
IPOとは、企業が初めて株式を証券取引所に上場し、一般投資家に株式を提供することを指します。IPOの主な目的は、企業に必要な資金調達や資金ストックの増加、経営者や既存の株主の資産流動化などが挙げられます。
また、IPOのメリットやデメリットについては以下の通りです。
IPOのメリット
IPOのメリットは、M&Aと比較して、創業者と出資者の双方が得られる利益が大きいことです。M&Aは企業を買収するために資金が必要であり、そのために多くの場合、創業者が自身の株式を売却する必要があります。しかし、IPOでは、新たな株式を発行することで資金を調達し、既存の出資者も含めて誰も売却する必要はありません。これにより、創業者や出資者は自分たちが持っている株式の価値を維持できます。
また、IPOにより企業の信頼度や認知度が向上します。証券取引所に上場することで、企業は公的な監査や作成された財務報告書などから透明性を確保し、投資家だけでなく一般消費者からも信頼を得られるようになります。
さらにIPOでは、新たな人材や取引先の確保がしやすくなります。上場企業は従業員や取引先からの信頼を得られるため、新しい人材やパートナーも集めやすくなります。
IPOのデメリット
IPOは、上場企業にとって大きなメリットがある一方で、重要なデメリットも存在します。
まず、IPO前の準備には多大なコストや手間がかかります。上場するためには業績や財務面を徹底的にチェックする必要があります。財務諸表の作成や監査法人との連携など、多くの時間とリソースを必要とします。
さらに、IPO後は投資家だけでなく株主への説明責任が求められ、経営陣は経営透明性を確保する必要があります。不正会計や不祥事等が発覚すると企業信頼度が失われるため、自己整理能力や経営品質向上能力が非常に重要です。
シリーズCでの資金調達先
シリーズCでの資金調達先は複数ありますが、主に以下の3つに分類されます。
- VC・CVC
- PEファンド
- 金融機関
以下では、これらの特徴について詳しく説明していきます。
特に、金融機関ではファクタリングやシンジケート・ローンなど、さらに4つの調達方法に分けて解説していきますので、しっかりと覚えておきましょう。
VC・CVC
シリーズCラウンドでは、数十億円規模の資金調達を行うことになるため、複数の投資家から出資を受けることが一般的です。
このような場合、どのVCやCVCに出資してもらうかを決める際には、単に出資額だけでなく、それぞれが提供する価値が重要です。
具体的には、自社の事業拡大に関するノウハウやアドバイスを提供してもらえるかどうか、必要な人材の提供やビジネスネットワークの提供を受けられるかどうかという点が考慮されます。
PEファンド
PEファンドは、投資ファンドの一種であり、VCと類似した特徴を持ちます。具体的には、成長余地はあるが何らかの要因で潜在的な成長力を活かしきれていない企業に投資することが大きな特徴です。
PEファンドは通常、投資先企業の株式を過半数取得し、企業価値を高めた後にイグジットしてリターンを獲得することを目指します。このため、投資期間が比較的短く設定されており、3年から5年程度が一般的ですが、稀に10年近く株主として株を持ち続ける場合もあります。
金融機関
金融機関からの資金調達は、企業にとって欠かせないものです。しかし、一つの金融機関に頼り切ってしまうと、リスク分散ができずに資金繰りが危うくなる場合もあります。
そこで、金融機関からの資金調達の方法として、以下の4つについて、メリットや注意点を紹介していきます。
ファクタリング
ファクタリングは、企業が保有する売掛債権を金融機関などに買い取ってもらい、早期に現金化する方法です。この手法は銀行融資と比較して、いくつかのメリットやデメリットがあります。
まず、メリットとしては、資金調達が容易である点が挙げられます。通常の銀行融資では、担保の用意や多岐にわたる審査プロセスが必要とされます。一方で、ファクタリングでは既存の債権を買い取る形で資金調達が可能となります。
また、ファクタリングでは差し押さえや破産などの法的手続きをせずに売掛債権を現金化するため、早期仕入れなどにより生じる資金不足に対処することが比較的容易となります。
ただし、ファクタリングにもデメリットが存在します。最大の問題点は利息率の高さです。売掛債権を買い取る際には、それ相応の料金が必要となります。また、売掛債権によって異なるものの、いくつかの手数料が引かれることにも注意が必要です。
シンジケート・ローン
シンジケート・ローンは、複数の金融機関が協調して同一条件で融資を行う資金調達手法です。この形態のローンは、企業や事業体の大規模な資金調達によく使われています。一つの融資契約書に各金融機関が署名するため、できるだけ少ない手続きでより大きな資金を借りることができます。
シンジケート・ローンのメリットには、まず低コストで資金を借りやすい点が挙げられます。各金融機関はリスク分散を図りながら融資額を担保するため、高額で長期間の借入でも利子率が下がります。
さらに、追加融資がしやすく、フレキシブルに対応できる点も魅力です。通常の銀行貸付では限度額内でしか借りることができませんが、シンジケート・ローンでは複数の金融機関からの資金源を確保するために、本来の限度額よりも高額な借入枠であっても承認しやすい状態にあります。
また、融資先企業にとっては長期間の返済プランが事前に設定されているため、安定した経営計画が可能となります。
一方で、シンジケート・ローンにはデメリットも存在します。第1に、手数料が非常に高額であることです。アレンジメントフィーやエージェントフィー等の手数料は金利とは別に支払う必要があります。
また、投資家側もリスク分散を図らざるを得ないため、他の取引よりも高い評価基準を要求される場合があります。
制度融資
制度融資は、地方自治体、金融機関、信用保証協会が協力して企業に融資を行う仕組みであり、中小企業や小規模事業者にとって比較的審査が通りやすく、起業資金や新規事業の拡大に役立てることができます。
制度融資のメリットとしては、低い利率で借りられることや長い返済期間があります。また、手数料も安価であり、借入額に対する負担が少ないという利点があります。さらに、信用保証協会の保証があるため、返済能力に不安がある場合でも金融機関が審査を通しやすくなることもメリットとして挙げられます。
ただし、制度融資には留意すべき点もあります。提供元の金融機関によって条件が異なる場合や、取り扱いがない場合があるため、事前に各都道府県や市町村の窓口に確認することが重要です。また、返済期間が長いため、返済能力や経営状況が悪化した場合でも借金を抱え込むリスクがあることにも留意する必要があります。
プロパー融資
プロパー融資は、金融機関から直接的に融資を受けることを指します。信用保証協会を通さないため、実績の乏しい中小企業などにとっては受けやすくなります。通常、銀行が直接的に融資を行う場合が多いです。
プロパー融資のメリットとしては、事業計画や返済計画が明確であれば、比較的容易に融資を受けることができる可能性があります。また、信用保証協会の保証料や手数料なども抑えられるため、コスト面でメリットがあります。
一方、プロパー融資のデメリットとしては、金利が高く設定されたり、支払い期間が長くなるとさらに利息が負担されることがあります。また、実績の乏しい企業や個人事業主、ベンチャー企業の場合、銀行側もリスクを抱えるため融資が断られる可能性もあります。そのため、十分な創業計画や返済計画の策定が必要となります。
シリーズCでの資金調達の成功ポイント
シリーズCでの資金調達は、新しい製品やサービスを開発するスタートアップ企業にとって重要な一歩です。しかし、資金を調達するだけでは成功には至らず、その後の事業戦略を決定する上でもっとも重要なポイントに位置します。ここでは、シリーズCでの資金調達が成功するためのポイントについて説明していきます。
- PMFに到達する
- 将来性を向上させる
PMFに到達する
PMFは、企業が提供するサービスや商品が市場の需要と完全に一致している状態を指します。つまり、顧客がそのサービスや商品を必要とし、購入してくれる状態です。
シリーズCのラウンドでは、PMFを達成していることが期待されます。これは、既に商品やサービスが市場でニーズに合致して普及している状態を意味し、それによって収益も相応のものが得られるでしょう。
PMFを達成したスタートアップは、市場投入時期や開発初期ではなく、むしろ「提供」の段階にあり、IPOやM&Aなどのイグジット戦略も考えられます。
PMFの達成は、成功したスタートアップにとって不可欠な重要な要素です。市場やニーズに対して誤った方向性でサービスや商品を提供してしまうと、売上不振や資金不足などのリスクが生じます。実際、スタートアップの破綻の主要な原因として、PMFを達成できなかったことが挙げられています。
将来性を向上させる
シリーズCでの資金調達を成功させるためには、企業の将来性を高めることが重要です。将来性を向上させるとは、市場からの評価を高め、投資家や金融機関との議論を質の高いものにすることを意味します。
これにより、投資家や金融機関がリスクを受け入れて投資する可能性が高まり、シリーズCでの資金調達が成功しやすくなるでしょう。
高い将来性を持つ企業は、市場との関係を重視しています。正確な市場動向の情報を把握することによって、企業は市場からの評価を向上させることができます。
また、投資家や金融機関との議論においても、市場動向や競合状況、戦略などについて的確に説明できる企業は高い評価を得ることができます。
シリーズCでは資金調達方法の幅を広げよう
シリーズCでの資金調達の成功ポイントとして、自社の価値を正確に伝えること、十分な準備をして投資家との交渉に臨むこと、また、投資家や株主との良好な関係を維持することが挙げられます。
シリーズCでは、シンジケー・トローンや投資家以外からの資金調達方法を活用することで、幅広い資金調達が可能となります。
イグジットについては、M&AやIPOなどの方法があり、シリーズCに進むことでその可能性が高まることも紹介しました。
シリーズCでの資金調達には、シリーズAやBと同様に多くの時間と労力が必要ですが、適切に準備をすることで、良い結果を得ることができるでしょう。