株式会社メモアカ 代表取締役CEO 青木 健

株式会社メモアカは、記憶マニアで構成されている会社です。「覚えることが楽しめる世界を創造する」を企業理念に掲げ、記憶に関するスキルや知識を極めたCEOたちが、その知見を活かして脳トレアプリを開発・提供しています。今回は、自身もメモリースポーツのチャンピオンであり、東京大学で記憶に関するアカデミックな学びも習得した代表取締役CEOの青木健氏に、起業までの道のりや事業にかける想いなどをお伺いしました。

 

人の顔と名前を記憶できる脳トレアプリをリリース

事業の内容をお聞かせください

弊社は、「記憶」を軸にサービスを創出する会社です。私自身、「メモリースポーツ」のチャンピオンでありながら、東京大学でアカデミックな面からも記憶について本気で勉強してきました。ほかの取締役の2人も、ルービックキューブの色を暗記し、目隠しで揃えることを得意としているなど、記憶に関する多様なことに取り組んでいる人たちです。そういった知見を活かして、さまざまな記憶に関するサービスを創出していくことを目的にしています。

 

そして、そんな弊社が今一番力を入れてる事業が、人の顔と名前を記憶できる脳トレアプリで、2024年12月30日にβ版をリリースしました。

カオナマエ

▶iosの方はこちら

▶androidの方はこちら

私はこの事業を通して、実際に人の顔と名前を覚えられるようになるところより、その先の「覚えることが苦手」といった感情をなくすところを目指したい想いを強く持っています。実際に覚えられるようになって「覚えることが得意だ」と感じられたら、記憶が苦痛でなくなると思い、この事業に取り組んでいます。

 

「記憶」とひとくくりにいっても、人の顔や名前を覚えるにあたっては、「顔を認知する力」「名前を覚える力」「顔を見て名前を思い出す力」の3つの能力がいかに連動できているかどうかが重要です。

 

わかりやすいのは、次に会ったときに「顔はわかるけど名前がわからない」といった例でしょう。「見たことがある人だ」と判断したのが、顔を認知する力です。ですのでここでは、顔の認知はできており、「顔を見て名前を思い出す力」が不足していることになります。

 

ではなぜ人の顔と名前が一致しにくいのかというと、「そこに理由がないから」です。「この顔だから○○という名前だ」といった根拠や法則はありませんし、結婚したら苗字が変わる場合もあります。明確なルールがないなかで「この顔=○○さん」をどのように長期的に脳内に保存させるかがポイントで、そのためには、連想力を使って名前を覚える方法(例:有名人や身近な友人・物の名前などと結びつけて連想させる)がよく用いられます。

 

つまり、「顔と名前を一致させる」行為自体が複合的な力で構成されており、3つのうちのどの力が欠けても「思い出せない」んです。トレーニングによってそれぞれの力をある程度上げられれば、スムーズに名前を思い出せるようになります。

 

弊社の脳トレアプリには現在6種類のゲームが搭載されており、これらをプレイすれば、足りていない力ややるべきトレーニングが示されます。これは私のアカデミックな研究が活かされており、ほかの脳トレゲームにはない分析機能です。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

この事業の直接のはじまりは、2017年に私が個人事業として始めた記憶術を教えるスクールです。3年ほど副業として行い、ようやく売上が安定しました。コロナ禍でWEBサービスとして提供したいと考えるようになり、手軽な値段でWEBサービスとしての提供し始めたことである程度会員数は増えましたが、ペインが弱いのが悩みでした。

 

そもそも、大枠として「記憶術を学びたい」人自体、予想よりも多くなかったのです。記憶力を高めたい人には、例えば、語学を覚えたい、歴史を覚えたい、など具体的な目標があるため、「何のために覚えるのか」を明確にすることが重要だと気づきました。その点をピボットしようとして着目したのが、「人の顔と名前を覚える」といった方向性です。

 

実は、脳トレのターゲット層を考える際には、かなり悩みました。本来、一番マーケットとして大きいのは、現在75歳前後の団塊の世代でしょう。ただ、基本的にその層の多くは退職していることからtoCがメインとなりますし、デバイスの活用などに苦手意識を持つ方も多いため、我々の提供方式では刺さりづらいと判断しました。

 

であれば今稼いでいる現役世代に焦点を当てたほうがよいと思い、そのなかでもさらに絞り込みをかけるために、さまざまな年齢の方にヒアリングを実施した結果浮かび上がったのが、営業面の課題です。「人の顔と名前を覚えたい」といったニーズが大きいことがわかりました。

 

これには、昔と違ってプライベートな話題を相手に聞きづらくなったことも影響しているように感じます。例えば、リモートで働くことが増え雑談する機会が減ったり、以前は家族の話題や休日の過ごし方なども気軽に話せたりしましたが、今はハラスメントの関係でそういった話題もなかなか出せません。そういったなかで、相手と話したなかで少し出てきた趣味や家族の話題などを記録しておけるアプリがあれば、ちょっとしたコミュニケーションにつながっていくのではないかと思いついたのが始まりでした。

「覚えることが楽しめる世界を創造する」

仕事におけるこだわりを教えてください。

大事にしているのは、「覚えることが楽しめる世界を創造する」ことです。これは、弊社の企業理念にもなっています。ですので、本事業に取り組んでいるあいだは、企業理念につながるサービスであればなんでもやる覚悟でいますし、逆につながらないものは、どんなに利益が出るビジネスでもやらないと決めています。

 

つまりメモアカは全力で「覚えることが楽しめる世界を創造する」に取り組んでいるため、福利厚生もその理念に沿ったものを用意しているんです。例えば、記憶に関する大会で入賞したらボーナスが出たり、大会の参加費を会社が補填したりしています。また今後は、勤務中にも「自由に何かを覚えてよい時間」を設けたいと思っています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

会社員時代からずっと起業したいと思い続けてきたのですが、実際に起業してみると理想とのギャップがたくさんあったのは壁といえるかもしれません。

 

例えば、会社員だとトップにならない限り上司がいるわけで、何かあれば必ず相談して指示を仰げます。ところが今は、事業全体を担っていななければならない上に、法務的なことや税務面でも、専門家たちと対等に話ができる程度の知識は持っておかなければなりません。

 

さらにはアプリを制作・改良していく上での知識ももちろん必要で、常に広範囲の勉強をし続けなければならず、やるべきことが多すぎる点に驚いています。

 

幸い記憶や暗記は得意でしたし、今までやってきた事への自信があったので乗り越えることができました。

 

今後はtoCを見据えて展開

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

この領域で勝負できると確信できていることがモチベーションにつながっています。

 

私は以前から、「記憶」という行為に関しては多くの方が諦めているように感じていました。「人間、どうせ忘れるものだ」「どうせ自分は覚えられない」と世の中の8〜9割の方が自信を持てずにいる気がしていたんです。

 

このように世界中に大きなペインがあるにも関わらず、そこに対する効果的なソリューションがまだ出てきてない点では、社会課題としてもマーケットとしても大きいものがあると思っていました。一方で、これまでの研究や体験から、テクノロジーをうまく活用すれば解決できる可能性があることも知っているため、今は「できる」と確信して実践しています。

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

記憶に関するサービスをいろいろやってみたいと思っています。今は脳トレを作ってますが、今後は高齢者に特化したものや、英単語テストなど、多岐に渡る可能性があると考えていますので、徐々にサービスを出していきたいです。

 

脳トレに関しては、現在はiOS版とAndroid版をリリースし、toCでの展開をメインとしていますが、今後は精度を高めつつ、toBでの展開も想定しています。

 

例えば、大企業で多数の社員を抱え、さらに多様な働き方の方や支社の方の出入りも多いような企業では、社内の人の顔を覚えるだけでも大変でしょう。そこでこのアプリを導入していただくことで、週に2、3日しか出社しない方や、他支社に出張する際などに事前に所属する人を覚えておくことで、社内コミュニケーションを活性化させられると考えています。

 

起業家とは「成功するまで失敗し続けた人」

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

とにかく「小さく始めてみる」ことです。

 

起業に関しては、事前準備はあまり関係ないと感じています。例えば、水泳をしたいのに陸の上でクロールの練習をしてもあまり意味をなさないでしょう。それなら、泳げなくてもいいからプールに通って水に慣れたほうが早いような気がします。

 

私自身も、2017年に個人事業を始める前から、図書館や公民館などで単発の講座を開催していました。ブログやSNSを通して2、3ヶ月に1回ほどのペースで募集し、定例で実施していたんです。はじめは本当に人が集まりませんでしたが、次第に増えていったことで、「これはスクールにできる」と確信できました。

 

今は、副業も学生起業もやりやすい時代になりました。であれば、面白いと思えるものからどんどんやったほうがいいと思います。同じようなことを考えている人が世の中に100人、1,000人いても、実際に実行に移せる人は1人か2人しかいません。起業準備をしているあいだにその枠を取られるくらいなら、失敗してもいいからやってみたほうがよいでしょう。

 

起業家とは、「成功するまで失敗し続けた人」です。有名な起業家の方でも、10個挑戦しても9個は失敗するそうです。私自身もやってみて辞めたサービスはたくさんありますし、思ってもいなかったものが当たるケースも少なくありません。ですので、あまり準備にとらわれすぎず、やれることからやってみることをおすすめします。

 

また、やるなら若いうちにやったほうがよいでしょう。起業はひとえに体力勝負ですので、元気なうちにやるのがベストです。年を重ねてくると家族ができ、より生活コストがかかってきますが、学生のうちなら、食うも寝るも何とかなりますし、起業で失敗してもそれをネタに就活ができるかもしれません。私からすれば、ノーリスクに近い状態です。

 

社会人にしても、サラリーマン時代に起業して赤字を出した場合、その後所得税や住民税などで還付が受けられます。つまり失敗しても戻るお金がありますし、逆に成功したら、それを法人化すれば収入が増えるわけです。ですのでいずれにしても、体力のある若いうちにぜひ起業してみるとよいと思っています。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:青木 健

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修了。記憶力日本チャンピオン。世界記憶力グランドマスター。株式会社福音館書店を経て、株式会社メモアカを創業。

 

企業情報

法人名

株式会社メモアカ

HP

https://corp.memoaca.com/

設立

2022年9月20日

事業内容

脳トレアプリの開発事業、記憶術のオンライン学習サービス事業、記憶術・メモリースポーツのスクール事業、メディア出演企画運営事業

 

送る 送る

関連記事