HTC株式会社 代表取締役 臼井 宏太郎

介護業界は「3K」のイメージが根強く、高い離職率や慢性的な人手不足が課題とされています。そんな中、「我が家に関わる全ての人の幸せ」を理念に掲げ、創業以来全店黒字、平均利益率は25〜35%という業界平均(約2.6%)の10倍以上の利益率、そして従業員のエンゲージメント調査で日本一の評価を獲得したHTC株式会社。代表・臼井宏太郎氏に、従業員満足度を高め続ける組織作りの秘訣を伺いました。

「我が家」に宿る、全員参画型経営の原点

事業の内容をお聞かせください。

当社は北海道札幌市を中心に介護事業を展開しており、デイサービス9カ所、看護小規模多機能、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所の計12カ所を運営しています。

 

全ての事業所に「我が家」という名称をつけており、利用者様にもスタッフにとっても「第二の我が家」と思ってもらえるような、アットホームで家庭的な雰囲気を大切にしています。

 

利用者様一人ひとりに寄り添い、本当の家族のように過ごせる環境をつくることが私たちの提供する介護の根幹です。

 

一人ひとりの声に向き合う、ワンオンワンとラフールサーベイの力

御社の離職率の低さの背景には、どのような取り組みがあるのでしょうか。

介護業界は、きつい・汚い・給料が低いというイメージが定着しているのが現状です。介護業界の売上の8~9割は国から支給される「介護報酬」ですが、3年に1回の改定でも物価高などに追いついていません。

 

業務の負担に対して賃金が見合っていないことから、他産業への人材流出が顕著になっています。また、介護・看護・リハビリなど職種間の考え方や価値観の違いから人間関係の衝突が起きやすく、それも離職の大きな要因となっています。

 

そこで弊社は離職を防ぐため、従業員満足度をとにかく高めることを意識しています。具体的には、組織サーベイ「ラフールサーベイ」を導入し、メンタル・フィジカル・エンゲージメントを定点観測しています。毎月のショートサーベイと組み合わせ、スタッフ一人ひとりの状態を数値で把握しています。

 

点数が低いスタッフには優先的に1on1での面談を実施し、不満や悩みの早期察知とフォローに努めています。管理者は面談の着目点とフォローアップ内容を毎月会社に報告する仕組みとしており、PDCAを回しながら全社的に従業員の状況を把握しています。

 

1on1で気を付けていることとしては、まず普段頑張っていることや良いところを褒め、評価し、感謝することから始めるようにすることです。仕事だけでなくプライベートのことにも耳を傾け、スタッフにとっての息抜きの場にもなるよう意識しています。

 

また、当社ではスタッフ一人ひとりと「ライフプラン面談」を行っています。年に1回上司や会社と擦り合わせ、一人ひとりの夢や幸せの定義は異なるため、それを会社や上司が理解して、応援やアドバイスをするようにしています。

 

そして「介護業界で日本一やりがいを感じる会社を作ろう」という目標を掲げて全スタッフに伝えてきましたが、この度ラフール主催のWell-Being Workers® Awards 2025の従業員エンゲージメント部門で最優秀賞をいただきました。

 

エンゲージメントとは、仕事のやりがいや組織との信頼関係のことですので、私たちの掲げた目標が介護業界の枠を超えて全国トップレベルで実現できた証明になったと感じています。

 

介護業界は「3K」というネガティブなイメージがある業界ですが、その業界でも努力すればエンゲージメントで今回のように最優秀賞が取れるということは、業界にとって一つの希望の光になるのではないかと思っています。

「我が家」を体現する、家庭的な空間と助け合いの風土

会社づくりで気をつけていることはありますか。

施設の空間作りでは、「我が家」という名称の通り、家庭的な雰囲気をとても大切にしています。利用者様やご家族、ケアマネジャーさんからも本当に自宅のような雰囲気だと言っていただけることが多いです。

 

特に認知症の利用者様は、環境が変わると症状が進行してしまうことがありますので、極力自宅に近い環境を意識しています。

 

また、もともと一般の戸建てを賃貸で借りて始めた事業所も多く、最初から自宅のような雰囲気がありました。スタッフが自分たちで家具を選び、手作りの装飾を加えたり、利用者様と一緒に作品をつくったりと、みんなで手作りの温かい空間を作り上げています。

 

組織づくりでは「お互い助け合う」という風土を非常に大切にしています。介護の現場で働く方の6割が女性で、その半数以上がお子さんのいる主婦の方です。

 

急なお子さんの発熱や体調不良で休まざるを得ないこともありますが、他の会社では敬遠されたり嫌な顔をされることもあると聞きます。当社ではそういった場面でもお互いに支え合う体制と風土を大切にしています。

 

さらに、トップダウンではなく、「全員参画型経営」として、現場のスタッフも含め全員が経営に主体的に参加する意識を持っています。何のために介護をするのか、理念実現のために自分は何ができるのかというような目的意識を全員で共有し、自分の意見や思いをオープンに話し合える組織作りを徹底しています。

 

創業時から理念や会社の価値観を全員に共有できる組織作りを徹底してきました。入社3カ月経ったスタッフを集め、3カ月に1回、私自ら半日かけて理念研修を行っています。

 

会社の理念や目的、私の生い立ちから起業の経緯、どうやってこの理念が生まれたのかというバックグラウンドまで共有しています。

 

実は私自身、過去の事業失敗という挫折や、コンサルタント時代に介護現場で見た『スタッフも利用者様も誰も幸せそうではない』という不幸の連鎖への衝撃が、この理念の原点にあります。そうした背景まで腹を割って共有することで、自然とその環境に浸透していくのだと感じています。

幸せな従業員こそが、お客様を幸せにする

「幸せ」とはどのようなものでしょうか。

人それぞれ幸せの定義は違うと思っています。お金を稼いで良い車に乗りたいという人もいれば、家族が健康で田舎でのんびり過ごせればいいという人もいます。だからこそ、従業員一人ひとりの夢や人生の目標をライフプランシートに書いてもらい、上司や会社がそれを深く理解し、応援できる環境をつくることが大切だと考えています。

 

私が創業10年経った時に辿り着いた結論があります。それは幸せな従業員こそがお客様を幸せにするということです。幸せな従業員とは、仕事にやりがいを感じて、自分の力が誰かの役に立っていると実感できている状態だと思っています。

 

世の中は「お客様第一」とよく言っていますが、どんなにお客様が幸せでも従業員が犠牲になって成り立つのであれば、それは本当の意味で全ての人の幸せにはならないと私は思います。

 

同時に、この理念を単なる綺麗事で終わらせないためには、顧客の『満足』と会社の『利益』の追求が不可欠です。適切な利益を出してスタッフに還元できなければ、質の高いサービスは継続できません。満足と利益が両輪となって初めて前に進むことができて、理念実現という目的地に到達できるのです。

「我が家」から業界全体へ――理念経営で描く未来

今後の展望をお聞かせください。

社内的には、2030年までに現在の12事業所から20事業所への拡大、年商規模もさらなる成長を目指しています。我が家に関わる全ての人を幸せにできる事業所を増やすことで、地域や介護業界にも貢献したいと考えています。

 

そして、より大きな大義として、私たちの理念経営やエンゲージメントの取り組みを広く世の中に発信していきたいと思っています。これまでは我が家に関わる全ての人の幸せを実現するために15年間全力で走ってきましたが、裏を返せば我が家に関わる人しか幸せにできていなかったのではないかとも感じています。

 

ですので今後は我が家だけでなく、介護業界に関わる全ての人の幸せを実現していきたいと考えています。

 

働く環境作りのアドバイスをお願いします。

組織の中心に、ぶれない軸となるものが必要だと思っています。経営者の悩みは大きく二つ、業績と人・組織の問題です。どんなに利益が出ている経営者でも、必ず人や組織のことで悩まれています。

 

人と人がぶつかるのは、一人ひとりの中心となる軸が違うからだと思います。会社は売上や利益を求め、現場は利用者様やスタッフのことを求めてぶつかってしまいます。

 

だからこそ、組織の中心に理念というぶれない軸が必要なのです。私たちの我が家に関わる全ての人の幸せという理念のもとでは皆が幸せになれるので、そこでぶつかることはなく解決策が見つかります。

 

ソフトバンクの孫正義さんも「志でつながった組織は血のつながりよりも強い」と言っているように、組織の中心に理念を据えてぶらさずにやれば、必ず問題は解決できると思います。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

企業情報

法人名

HTC株式会社

HP

https://www.htc-wgy.co.jp/

設立

2009年5月

事業内容

  • 通所介護事業
  • 看護小規模多機能型居宅介護事業
  • 訪問看護事業
  • 居宅介護支援事業

 

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