株式会社ぴんぴんきらり 代表取締役CEO 喜多尾 衣利子(通称:小日向えり)

株式会社ぴんぴんきらりは「シニアの生きがい創出」をミッションに掲げ、60〜70代のアクティブシニアが子育て世代の家庭に伺い、家事・育児・ペットのお世話まで幅広くサポートする「きらりライフサポート」を展開しています。家事代行でも保育サービスでもない、「第二のお母さん」として家族のような関係を築く独自のサービスモデルが、共働き世帯を中心に支持を広げています。今回は、シニアの力で社会課題の解決に挑む代表取締役CEOの喜多尾衣利子氏に、事業の内容から起業の経緯、そして困難を乗り越えてきた原動力まで、詳しくお話を伺いました。

家事も育児も同じ「きらりさん」が担う。シニアが届ける第二のお母さんサービス

事業の内容をお聞かせください

当社は「きらりライフサポート」という、子育て世代のご家庭に60〜70代のアクティブシニアが伺い、家事や育児、ペットのお世話まで幅広くサポートするサービスを展開しています。家事代行でもベビーシッターでもない、「ご家庭サポートサービス」と呼んでいるもので、他社にはあまりない業態です。

 

ご利用にあたっては、まずウェブからお申し込みいただき、ご希望のサポート内容やご自宅の間取り、住所などの条件を入力していただきます。その後、運営側で条件にぴったりと合う「きらりさん(シニアスタッフの愛称)」をマッチングしてご紹介する流れです。

 

2026年8月からは、サービスをより安心して始めていただけるよう、まずは実際の雰囲気を体験できる「トライアル」を新たに設けます。

 

基本的には1回きりの単発利用ではなく、半年や1年といった長期利用を前提としており、料金体系はご利用時間に応じたコース制を採用しています。1回あたりの利用時間が長くなるほど、1時間あたりの料金がお得になるような設計です。

 

最大の特徴は、同じ「きらりさん」が毎週継続的にご家庭に伺う点です。一般的な家事代行サービスでは、清掃や料理など分野ごとに担当者が分けられることが多い中、当社では同じスタッフが家事全般を担います。プロフェッショナルとして100点の仕事を追求するよりも、一人ひとりが持つ熟練した主婦の経験を活かして、「普段の家事の延長」として70〜80点の質で幅広くカバーすることを大切にしています。

 

毎週同じ「きらりさん」が家事を担当することで、依頼主との間に本当の家族のような関係が育まれていきます。たとえば、実家が遠くにあって両親に頼れない共働き世帯にとって、「実のお母さんでも義理のお母さんでもない、甘えていい東京のお母さん」のような存在として受け入れていただいています。現在、一都三県で展開しており、3,000人以上の「きらりさん」にご登録いただいています。

 

サポート領域が多岐にわたる分、条件に合うスタッフとご家庭をマッチングする難易度は上がりますが、ここにも独自の工夫があります。実際に担当を振り分ける前に、「きらりさん」には体力測定を受けていただいているのです。

 

この体力測定の結果をもとに、「チャイルドケアや送迎は可能か」「お掃除はどこまで対応できるか」といったサポートごとの可否を細かく判定しています。スタッフそれぞれの体力や得意分野を正確に把握することで、ご家庭には確かな安心を届け、サポーターのきらりさんには無理のない範囲で生き生きと働いていただける、安全でミスマッチのない仕組みを実現しています。

 

また、地方でも同様のサービスを展開したいという企業へのコンサルティングも行っており、システムのOEM提供やノウハウ提供を通じて、全国への普及を支援するプロジェクトもスタート予定です。

 

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私は事業家家系に生まれ、子どもの頃から漠然と「いつかビジネスをしたい」という気持ちを持っていました。

 

一方で、中学生の頃から芸能活動も続けており、横浜国立大学卒業後の2012年に歴史アイドルの活動をしながらできるビジネスとして、まずは歴史グッズの通販サイト運営を手がける株式会社カステイラを起業しました。その後スタートアップの創業メンバーとして執行役員を務めるなど、試行錯誤しながら自分の本当にやりたいことを探していました。

 

現在の事業を始めようと思ったきっかけは、祖母が80歳を手前にお仕事を辞めてから元気をなくしていく姿を目の当たりにしたことです。社会との関わりがなくなることで、こんなにも人は輝きを失ってしまうのかと衝撃を受け、シニアの方の生きがい創出を事業にしたいという思いが芽生えました。

 

同時に、核家族化が進む中で子育てに孤軍奮闘する若い世代の姿も目に入り、両者をつなぐサービスとして「きらりライフサポート(旧:東京かあさん)」を2019年に立ち上げました。最初は知人の友人声をかけ、数組からスタートした小さな概念実証でしたが、そこから着実に規模を拡大してきました。

 

「道徳なき経済は罪悪」社会意義と収益の両立が、ぶれない経営軸

仕事におけるこだわりを教えてください。

私が大切にしているのは、社会意義と利益を両立させるという信念です。当社は単に利益を追求する会社ではなく、シニアの生きがい創出という社会的使命を持っています。二宮尊徳の言葉に「道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である」というものがあります。この言葉がとても好きで、社会に良いことをするためにこそ、経済的にしっかり成立させなければならないという意識を常に持っています。

 

そのため、例えば家事代行業界では外国人材の活用が広まりつつある中でも、当社は65〜75歳のアクティブシニアにフォーカスすることを貫いています。コストの安さではなく、「誰のために届けたいか」を軸に意思決定してきました。一番幸せにしたいのはシニアの方々であり、そのミッションからはブレないようにしています。

 

もうひとつのこだわりは「自分でなんでもやろうとしない」ことです。芸能活動と事業を並行して続けてきたこともあり、自分がいなくても組織が回る仕組みを作ることが自然と得意になりました。自分より優秀な人材を採用して権限を委譲し、それぞれが才能を発揮できる環境を整えることを大切にしています。関わるすべての人を少しでも幸せにしたい、という思いが仕事の根底にあります。

 

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

スタートアップとして短期的な成長を求められる中で、社会意義を保ちながら収益を伸ばすバランスを取ることに常に葛藤があります。外部資本を入れると5〜10年での成長と返済が求められますが、社会課題の解決には時間がかかります。ここで急成長を優先し「シニアの生きがい創出」という会社のポリシーを無視してしまっては本末転倒です。理念を守りながら成長する道を模索し続けることが、経営者としての最大の挑戦です。

 

一方で、仕事という枠を超えた人生最大の壁といえる体験もしました。2年ほど前、不妊治療の末に3度目の流産を経験し、その後処置の過程で感染症を起こして敗血症性ショックに陥りました。ICUに緊急搬送され、3〜4日間、命が危険な状態が続いたのです。医師から「この数値で生きている方は見たことがない」と言われるほどの状況でしたが、幸いにも回復することができました。

 

この経験から、私の人生観と経営観は大きく変わることになりました。まず、自分が2ヶ月間仕事を離れても組織が回っていたことで、仕組みを作るという自分の経営スタイルへの自信が深まりました。そして何より、オフィスに出社して仲間と働けることや、普段の定食屋さんでのランチさえ「また来られた」と嬉しくて涙が出るほど、日常の些細な喜びの大切さを実感しました。

 

シニアの方が「今日も生きることができてよかった」と感じるような生活の彩りを届けたいという会社のミッションが、まさに自分自身のミッションでもあると、改めて心から思えました。今は「人生のボーナスタイム」という感覚で、仕事に向き合っています。

 

シニアの喜びが、そのまま自分の喜び

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

モチベーションをどうやって保っているのか?と聞かれることがあるのですが、正直に言うと、モチベーションを上げようとか、保とうと考えたことはあまりありません。シニアの方々に喜んでいただけることが、自分自身の喜びそのものだからです。誰かのためというよりかは、自分が楽しくて嬉しいからやっている、という感覚が近いです。

 

もちろん仕事ですから、難しい局面にぶつかることもあります。ただ、それは難易度の高いゲームに挑んでいるような感覚です。手強いステージに出会ったとき、じっと考えているだけではクリアできません。とにかく手を動かし、何度も試行錯誤しながら進む中でこそ道が開けていく。そうしたプロセス自体を楽しんでいます。

 

もし事業の方向性が変わって「シニア以外の層を対象にしよう」となれば、私はこの場所から退くと思います。シニアの方々を元気にしたいという夢と理念がブレないからこそ、どんな壁も楽しんで乗り越えられています。

 

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください

現在3,000人以上のアクティブシニアにご登録いただいていますが、きらりライフサポートだけでは、まだほんの一部のシニアにしかリーチできていないと感じています。もっと多くのシニアの方に生きる喜びを届けるために、今後は仕事の種類を増やすだけでなく、学びや趣味、社会とのつながりを生み出すサービスも展開していきたいと考えています。

 

「働く」というのはあくまで手段のひとつです。シニアの方が心身ともに健康で、社会との関わりを持ち、生きがいを感じられるなら、就業支援にこだわる必要はありません。そうした幅広い視点から、新しい事業の展開も構想しています。まだ具体的な形は見えていませんが、1人でも多くのシニアを元気にするために、これからもさまざまな形を模索し続けていきます。

 

「行動あるのみ」頭で考えるより、まず一皿のカレーを売ってみる

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

とにかく行動することに尽きます。私自身、特別に頭が良いわけでも、ずば抜けた専門知識があるわけでもありません。それでもここまで来られたのは、行動量があったからだと思っています。上場している経営者の方々を見ていても、共通しているのは行動力の高さです。

 

よく「カレー屋さんをやりたいなら、まず物件を探すより先に、キッチンカーでもいいから1皿売ってみろ」という話があります。まさにその通りで、頭の中で計画を立てたり知識を蓄えたりするよりも、まず小さくやってみることの方が圧倒的に多くを学べます。私も最初は数人の知り合いのシニアと少数の利用者でサービスを試してみるところから始めました。

 

もちろん壁にもぶつかります。でも壁に当たったときも、やはり考えながら手を動かすしかありません。眺めているだけでは何も解決しないのです。手探りで進んでいくうちに、道はいずれ開きます。

 

事業を成功させるには運も大事な要素となりますが、私は運とは「機会×準備」の掛け算だと思っています。家の中でじっとしていてもチャンスは巡ってきません。どんどん行動して、機会を増やしてください。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:喜多尾 衣利子(通称:小日向えり) 氏

事業家家系に生まれる。横浜国立大学卒業後、2012年に株式会社カステイラを起業し、幕末グッズのECや旅館業を運営。2014年にスタートアップ創業メンバーとして執行役員を務める。2017年、祖母が仕事を辞めてから元気をなくした姿を目の当たりにし、株式会社ぴんぴんきらり(旧:ぴんぴんころり)を設立。「きらりライフサポート」(旧:東京かあさん)を主軸に、シニア世代の生きがい創出をミッションとしたサービス展開を行っている。

企業情報

法人名

株式会社ぴんぴんきらり

HP

https://corp.kirari.co.jp/

設立

2017年7月

事業内容

  • シニアの就業支援
  • シニアの健康及び生きがいの創出に関する事業
  • きらりライフサポート(旧:東京かあさん):家事代行・ベビーシッターの枠を超えたご家庭サポートサービス
  • 新規事業コンサルティング

 

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