A1A株式会社 代表取締役社長 CEO 松原 脩平 氏

量産製造業の調達部門に特化したデータプラットフォーム「UPCYCLE」を提供するA1A株式会社は、調達活動における意思決定をデータで支え、日本のものづくりを調達力から強くすることを目指しています。今回は代表取締役社長・松原脩平氏に、事業の詳細やキーエンス時代の原体験から起業に至る経緯、そして日本の製造業を調達から変革するという展望についてを伺いました。

1円の重みが違う世界。量産製造業の調達に特化したコストデザインプラットフォーム「UPCYCLE」の仕組み

事業の内容をお聞かせください。

弊社は量産製造業と呼ばれる同じものをたくさん作る企業、具体的には自動車・電気機器・産業機械などの調達部門が抱える課題を解決するITサービスを提供しています。

 

調達部門の俗にバイヤーと呼ばれる方々の仕事は、誰から何をいくらで買うかを決めることです。この意思決定を、データに基づいてより良くできるよう支援するのが弊社で提供している「UPCYCLE」です。

 

この業界では1円のコストダウンが企業利益に直結します。例えば、担当バイヤーが月10万個購入する製品を担当しているなら年間120万個、10年では1,200万個になります。仮に1円コストが下がれば、それだけで1,200万円の差が生まれます。

 

この業界では、調達の意思決定の質が上がることは企業利益に直結するだけでなく、大きく貢献することを意味します。UPCYCLEの特徴の一つが、サプライヤーを巻き込まないという設計です。

 

当初は見積もりをバイヤー側が指定するフォーマットに入力してもらう仕組みを作りましたが、サプライヤーから「なぜ自社の書式があるのにこちらも埋めなければいけないのか」という不満が出ました。

 

嬉しいのはバイヤーだけという状態はフェアではないと気づき、弊社が第三者としてデータの標準化を担う形に方針を変えました。「取引に関わるすべての人が信頼と情熱を持ったものづくりを実現する」という弊社のミッションに照らしたとき、片側だけハッピーな仕組みではいけないと判断したからです。

 

DXの本質は、デジタル化ではなくトランスフォーメーションの方にあります。その一方で、20年来業務で最も使われているのが表計算システムであるため、新しいシステムを導入し実務自体を変えていくということは、非常に難易度の高い取り組みになります。

 

様々なステークホルダーが関わる中で、一緒に課題に向き合い、在りたい姿へ向かってお客様の変革に伴走することも、単なるシステム導入ではない重要な役割だと考えています。

 

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

起業したいという気持ちは、実は中学3年生のときに芽生えていました。もともとサッカー選手を目指していましたが、高校進学のタイミングで同級生に日本選抜クラスの選手が出始め、自分がプロになるのは難しいかもしれないと気づきました。

 

「じゃあ別の世界で何者かになりたい。」そう思ったとき、起業して日本から世界に出ていくことを目標に決めました。

 

事業を始めるきっかけとなったのは、新卒で入社したキーエンスでサプライヤーとして営業をしてた時のことでした。同じ製品を同一企業の複数拠点で営業すると、A拠点では120万円で成約し、B拠点では同じ製品が115万円になるという経験をしました。

 

単純にバイヤー側で拠点間の情報共有がないとわかりました。そうなると機会損失が生じていますし、同じ交渉を何度も繰り返す時間も無駄です。

 

さらに言えば、営業側にはSFAやCRMなどの情報共有ツールがあるのに、バイヤー側には同様のツールがほとんどないことに気づきました。

 

世界的にみると調達支援ツールは一定存在し、アメリカでは経営層にCPO(Chief Procurement Officer)と呼ばれる調達に関わる役職が存在するのが当たり前なくらいなのですが、日本ではあまり聞いたことがないと思います。この日本と世界のギャップに大きなチャンスがあると感じ、いつか調達に追い風が来ると確信して2018年に創業しました。

 

売上100億より、世の中を変える価値提供

仕事におけるこだわりを教えてください。

自分たちがいることで社会が変わったのかどうか、この介在価値に強くこだわっています。会社として売上が100億・200億になっても世の中が何も変わっていなければ意味がないと思っています。

 

だからこそ、市場の1番手をとれる領域で勝負しなければなりません。弊社が量産製造業に特化しているのもそのためです。

 

先日ユーザー交流会を行った際、もちろん「コストダウンに成功しました」というような定量的なお話も多くいただいたのですが、世界の拠点間でデータを共有するようになったら、「この部品をなぜその価格で調達できているのか」と拠点間での対話が生まれるようになったという報告をいただきました。

 

また、他部署から質問されたときに感覚や勘ではなくデータに基づいた根拠ある回答ができるようになり、自己効力感が上がったというフィードバックもありました。こうした変化を聞くと業界に価値を届けられているなと感じます。

 

 

起業から今までの最大の壁を教えてください。

今も現在進行形なのですが、DXを組織全体に広める難しさです。お客様は口では変わりたいと言います。でも実際に変えるのは本当に大変です。弊社のビジネスモデルは顧客数×単価の構造で、単価は何人に使ってもらうかに大きく依存します。

 

2人では小さく、100人・200人に使ってもらうことで事業として成り立ちます。そのために組織全体への展開を支援しなければいけないのですが、社内外の様々なステークホルダーや力関係を超えて変革のビジョンで人を動かすことは、すごく難しいです。

 

しかもその伴走プロセスには大いに改善の余地があると思っています。良い導入プロジェクトをお客様を深く理解し、その立場になりきってリードしていくことが求められます。どうすれば、もっとスマートにスケールできるかを今まさに模索しています。

 

提供しているサービスはデータで効率的かつ効果的に成果をあげていただくことを目指しているものの、導入を広げる過程は非常にウェットなやり取りが続くというギャップ。これが今の取り組みたい課題です。

 

製品の6〜7割は外から調達されている。日本製造業の本当の競争力は、調達力にある

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

業界をかなり絞っているので、お客様一社一社の顔が見えます。その顔が見える人たちが、弊社のサービスによって「仕事の質や成果が変わった。ありがとう。」と言ってくれる。それが素直に嬉しいというのが一番のモチベーションです。

 

もう一つ強く思っているのが、日本の製造業の本当の競争力についてです。日本はものづくりの質が高いと言われますが、製品の6〜7割は外から調達した部品で出来ています。

 

自社で作っている3〜4割だけを強いと言っているのが現状で、外から調達している6〜7割がもっと良くなれば、日本のものづくりはさらに強くなると考えています。弊社がその実現に貢献したいというのが、やり続けられる理由です。

 

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください。

以前「情熱大陸」でファッション業界のバイヤーが特集されているのを見て、製造業のバイヤーは特集されないなと思ったことがあります。日陰部門とも言われてきた調達の担当者が、表舞台で評価される世界を作りたいというのが一つの野望です。

 

弊社のサービスを使っているお客様の決算発表会で、「調達が変わったからこれだけの成果が出た、そのためにこのシステムを使った」と言ってもらえる瞬間を強く目指しています。

 

大きな方向性としては、日本発のB2Bサービスとしてグローバルに展開したいと考えています。ITの世界ではGoogleやNetflixのようなアメリカ企業を参考にしがちですが、製造業ではトヨタ生産方式 のように日本発の仕組みが世界中で模範にされていたりします。

 

弊社の力で、日本の調達システムが世界に認められ、日本発のサービスが国際的に高い競争力を持つ事ができる、そんな世界を夢見て邁進しています。

 

採用を強化されているそうですね。求める人物像を教えてください。

大きく3つあります。

 

1つ目は「自走できる人」です。今はまだ大きな人数がいるわけではないので、手厚くマネジメントや育成ができる環境ではありません。一方で会社の成長を考えると、早く一人前になって成果を出してもらう必要がある。だから、自分が稼ぐために何をすべきかを自分で特定して走れる人はとても嬉しいです。

 

2つ目は「本質的な課題にこだわれる人」です。我々の領域には先行する正解モデルがありません。だからこそ自分たちで正解を考えて提供していくしかないのです。小手先の改善ではなく、本質的な課題や置かれている状況をきちんと理解し、現状分析をしたうえで、ありたい姿に向けて優先順位をつけ、仮説検証を回せる人、本質的に重要なことにこだわれる人を求めています。そして、それを「楽しめる人」であることも大切だと考えています。

 

3つ目は「本音で対話できる人」です。我々は不確実性の高い、難しい問題に向き合っています。そういう問題に、腹に何かを抱えた状態で取り組むと、人間関係の面でもさらに不確実性が増えてしまいます。少なくともチーム内は一枚岩でありたいので、言いたいことをきちんと言い合える、本音で話せるかどうかは、面接で必ず見るようにしています。本音が出るまで話すようにしていますし、そのために私自身が先に自己開示をするようにもしています。

 

 

得意を尖らせ、苦手は人に預ける。自分の強みを知ることが、起業の第一歩

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします。

一番大事なのは、自分の得意と苦手を知ることだと思っています。何でもできるスーパーマンになれるならそれに越したことはないですが、そうでないなら、自分の得意なことを尖らせて、苦手なことは人に任せられる仲間を集めた方がいいと思います。

 

これは私自身が会社をポートフォリオとして捉えているから言えることで、各自の強みの総和が会社の力になるという発想です。

 

平均点が高いよりも、何か一点突出している専門性がある方が、仲間として一緒に働く意味が生まれます。自分はどこで価値を出せるのかを正直に把握できているかどうかが、起業に臨む上で最も重要な問いだと思っています。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:松原 脩平氏

慶應義塾大学卒業後、株式会社キーエンスに入社。営業として主に中部地方の自動車関連メーカーを担当。その後、投資会社に移り、ベンチャーキャピタル業務に従事。設立間もないスタートアップの投資育成を手がける。2018年6月 A1A株式会社を創業

企業情報

法人名

A1A株式会社

HP

https://a1a.co.jp/

設立

2018年6月

事業内容

  • 製造業向けコストデザインプラットフォーム「UPCYCLE」の開発・提供

  • 製造業の購買部門向けに、見積を中心とした購買関連データを活用し「経営に効く、根拠ある調達活動」を実現するSaaS

 

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