
Mantra株式会社は「世界の言葉で、マンガを届ける。」をミッションに掲げ、マンガ・アニメ・ゲームといったエンターテインメント領域に特化したAI翻訳技術や翻訳サービス、およびマンガを用いた英語学習アプリ「Langaku(ランガク)」を提供しています。今回は、代表取締役の石渡祥之佑氏に、事業の詳細から起業の経緯、今後の展望までお話を伺いました。
当社は大きく分けて、2つの事業を展開しています。1つ目の「Mantra Engine」は、マンガに特化したAI翻訳プラットフォームです。まず日本語版のマンガ画像を読み込むと、画像内のテキストをAIが自動で認識したうえで翻訳や組版(文字のレイアウト)まで行います。
プロの翻訳者が翻訳版を修正するUIも統合し、マンガ翻訳の全てのワークフローをブラウザ上で完結できるサービスです。2026年現在、50以上の言語に対応しており、出版社や翻訳会社など、幅広いお客様にお使いいただいています。
エンタメコンテンツの翻訳が難しいのは、単に「正確に」訳すだけでは不十分だからです。ニュースやビジネス文書とは異なり、漫画やアニメでは、作品の「面白さ」や登場キャラクターの魅力が伝わるように翻訳を行う必要があります。
マンガ翻訳の難しさとしては、たとえば文字だけでなく、絵を考慮しなければならないという点が挙げられます。マンガ吹き出しは会話文が中心です。日本語では主語や目的語が省略されることも多いため、テキストだけでなく、絵や前後の文脈も踏まえて意味を推定し、翻訳に反映する必要があります。さらに週刊連載作品では、日本語版と同じタイミングで海外版を届けるスピードも求められます。
そこで当社では、AIが得意とする作業はAIに任せつつも、キャラクター名や技名、オノマトペの訳し方など、翻訳者の創造性が求められる部分は、マンガ・映画・ゲームの翻訳経験を持つプロの翻訳チームが人手で翻訳しています。AIによって翻訳者の作業を効率化し、その翻訳者のフィードバックによってAIの精度が上がっていく…というループを高速で回し続けていることが、当社の強みです。
2つ目の事業は、マンガで英語を学習できるアプリ「Langaku(ランガク)」です。英語力の向上には大量の英文を読む「多読学習」が有効とされていますが、英語で書かれた本を長期間・大量に読み続けることは、多くの学習者にとって容易ではありません。
その点、マンガであれば楽しみながら自然にたくさんの英文を読み進めることができます。Langakuではマンガのコマをタップするだけでセリフの日本語訳を確認できるため、初学者から中上級者まで幅広い層が英語版マンガを楽しむことができます。2025年にはGoogle Play ベスト オブ 2025 自己成長部門で大賞を受賞しました。
都内の高校で教材として導入いただいた事例では、半年間の使用で偏差値が10上がった生徒さんがいると伺っています。また、小学生の保護者の方から「Langakuを使っている子どもが英語嫌いじゃなくなった」というレビューもあります。このように、マンガを通して英語を好きになり、得意になるまでの道筋を示すことができ始めています。
マンガを使った英語学習は、初心者向けというイメージを持たれやすいかもしれません。しかし実際には、セリフには口語表現が多く含まれており、作品によっては意外と難易度が高かったりもします。そのため、よりネイティブに近い自然な英語を身につけたい上級者の方からも好評をいただいています。

起業の大きなきっかけに繋がったのは自分自身のバックグラウンドです。
私は日本人と中国人のハーフで、幼いころに1年間中国で暮らした経験があります。現地の小学校では外国人が自分1人だけという環境でしたが、日本のマンガ・アニメ・ゲームの話題で現地の子どもたちと自然と仲良くなることができました。
この経験を通じて、エンタメには国や言語の壁を越えて人と人を結びつける力があることを、幼いころから実感してきました。こうした力を増幅させるため、日本のエンタメを世界へ、または海外のエンタメを日本へと行き来させる流れを加速させたいという想いが、起業の根底にあります。
もう1つのきっかけは難しい技術的課題への好奇心です。東京大学大学院では機械翻訳など、AIに複数の言語を扱わせる技術の研究に取り組んでいました。当時、ディープラーニングの導入等により機械翻訳の精度は大きく向上している最中でした。
それでも「正確なだけでは足りない」エンタメ領域で機械翻訳を使う事例はまだ多くありませんでした。だからこそ、エンタメで使える、「面白さ」を伝えられるような翻訳技術を自ら開発するのは難しいけれども非常に面白く、かつ意義のあることだと感じていました。
こうした構想を大学院の同期であり現CTOの日並と語り合い、二人で開発を始め、数週間でマンガ機械翻訳の最初のプロトタイプを完成させました。このプロトタイプをマンガ家さんや出版社の方など業界の方々に見てもらう中で、「これは世の中に求められている技術だ」と確信を持ち、2020年1月に会社を立ち上げました。
創業した年には、集英社や小学館が主催するアクセラレータプログラムに採択いただき、そこから出版社のみなさんとの連携が始まりました。直近数年で、国内出版社が海外向けマンガ配信サービスを運営する動きが活発になってきているなかで、翻訳のコストと品質をいかに両立するかが大きな課題になっています。そうしたニーズと当社の技術がタイミングよくかみ合ったのだろうと思います。
私にとって最も重要なキーワードは「誠実さ」です。嘘をついて得をしようとしないこと、自社にとって不利な情報であっても相手にとって重要なことは正直に伝えることを、忘れないようにしています。
また、会社のバリューとして「Try First」「Learn & Transform」「Climb Together」の3つを定めています。
「Try First」は何が正解かわからないからこそまず試してみるという姿勢、「Learn & Transform」は学び続けて自分自身を変化させていくべし、という考え方です。スタートアップにとって個人や組織の成長が止まることはそのまま会社の死を意味するため、この2つは特に強く意識しています。
「Climb Together」は、チームで高い山に一緒に登っていくことを示しています。スタートアップとしてまだ世の中に存在しない価値を生み出す営みはとても難しく、到底1人でできることではありません。そのため、才能を持った人間が束になってチームで前進することが重要である、というメッセージを込めています。
壁は数えきれないほどありますが、創業初期に乗り越えなければならなかった最大の壁は、「技術起点の発想から顧客課題起点の発想へ」という考え方の転換でした。
大学院で研究者としての訓練を受けた私は、新しくて優れた技術を作れれば、それを核にした素晴らしいプロダクトが生まれ、自然とお客様やお金がついてくると考えていました。しかし実際はそうではありませんでした。
お客様の課題を解決しなければ、対価はいただけません。たとえば言語モデルの技術自体は数十年前から存在していましたが、ChatGPTが登場して初めて多くの人が言語モデルにお金を払うようになりました。このように、顧客が便利さを実感できて初めてお金を払ってもらえるようになります。
創業1年目に大学のインキュベーションプログラムでも同様の指摘を受け、優れた技術だけではビジネスにならないことを知りました。それ以来、まずお客様の話を聞いて「何に困っているか」を学ぶことをプロジェクトのスタート地点とするようになりました。プロダクトはその課題を解決するためのものであり、優れた技術はそのプロダクトに加えられるエッセンス、という順番で考えるようにしています。

この事業には大きな意義があるという強い確信が、私の最大のモチベーションです。エンタメから言語の壁がなくなれば、幼いころ私が中国でマンガの話題でクラスメイトと仲良くなれたように、国や文化・言語を越えて人々の心が繋がる機会が増えていきます。
そうした現象はすでにたくさん起きています。日本のマンガ・アニメやハリウッド映画、K-POPの世界的な広がりも、エンタメが人々をつなぐ力を示す好例です。
自分たちの取り組みがその流れを加速させることに一役買っているという確信があるため、大変なことがあっても立ち止まらずに進み続けることができています。
今年度からは、マンガに続いてゲームのAI翻訳・翻訳サービスに注力しています。家庭用ゲーム機からスマホゲーム、PCのSteamまで幅広く対応し、ゲーム会社のみなさまからも信頼していただけるサービスへと成長させることが直近の目標です。
中長期的には、あらゆるエンタメから言語の壁を完全になくすことを目指しています。世界中のあらゆるコンテンツが、リアルタイムで自身の言語で楽しめる世界を目指し、テキストから音声まで含めた技術領域の拡張も視野に入れています。AI技術の進歩とともに、すべてのエンタメが、すべての言語で楽しめるという世界は確実に近づいてきていると感じています。
もしやりたいことがあるなら、まず挑戦してみてください。
ただ、創業初期の失敗を通じて実感したのは、「お客様の課題からスタートすること」の大切さです。 人の役に立つものを作れば、対価は自然とついてきます。とてもシンプルですが、それがビジネスの核心だと考えています。
もちろん、経営者のスタイルによって正解は異なります。私自身は問題解決型で、課題を見つけて解き方を考えるアプローチの方が得意ですが、まだ誰からも求められていない新しい価値をゼロから生み出すタイプの起業家もいると思います。自分がどのタイプかを理解した上で、自分のスタイルに合ったやり方でチャレンジしてみてください。
Mantraでは「AI × エンタメ x グローバル」に興味のある仲間を積極的に募集しています!まずはカジュアルに話を聞きたい方でも大歓迎!
ぜひ採用HPからご応募ください!
採用情報はこちら。

東京大学情報理工学系研究科修了。博士(情報理工学)。日本学術振興会特別研究員(DC2)、東京大学生産技術研究所特任研究員等を経て、2020年1月にCTOの日並遼太氏とともにMantra株式会社を共同創業。「世界の言葉で、マンガを届ける。」をミッションに、マンガ翻訳プラットフォーム「Mantra Engine」および英語学習アプリ「Langaku」の開発・提供に従事。
|
法人名 |
Mantra株式会社 |
|
HP |
|
|
設立 |
2020年1月 |
|
事業内容 |
|
関連記事
関連記事